菌根の世界 斎藤雅典 築地書館 要約

概要

 菌根とは菌類が植物の根に共生している現象を示す言葉。様々な種類の菌根菌が存在し、陸上生物の8割の植物と共生関係を結んでいる。

 菌根への興味が高まる中で研究者の視点から菌根について解説する著作になっている。

菌根類が植物へ養分を送り、植物が光合成した有機物を菌根に渡す形で共生している

 菌根は植物の根近辺で植物と共生関係を結んでいる。根の組織に侵入する内生菌根と根の周りに菌糸層を形成する外生菌根に分けられる。
 菌根類が周辺の環境から植物へ養分を送り、植物が光合成した有機物を菌根が利用するかたちで共生している。

 陸上に初めて植物が進出した際、土壌中にはほとんど栄養がなかった。菌類ともに進出することで栄養の少ない土壌でも生息することができた。

植物が生きる上で菌類との共生は非常に重要で、その仕組みを理解することは農業や林業にもいかすことができる

 アーバスキュラー菌根は内生期間を形成するグループで根の外側に菌糸を延ばすことで土壌からリン酸などを吸収し、植物に供給し、植物の作る糖や脂肪などの炭素化合物を受け取っている。アーバスキュラー菌根は脂肪酸の合成ができず植物から得ることでしかこれらの物質を得ることができない。

 アーバスキュラー菌根は共生する相手を選ばす、一部の植物以外とは共生が可能。植物はリン酸の少ない土壌では、植物の根から菌糸の分岐を促す物質を放出し、菌根類を呼び寄せている。
 
 アーバスキュラー菌根との共生は植物の生育促進効果があるため、農業への利用も検討されてきた。
リン吸収を促進するため、リン肥料の削減と収量増加が期待できる。

 
 アーバスキュラー菌根を農地に導入する試みも行われているが、難しいこともある。土着のアーバスキュラー菌根はリンの供給効率は低いが、その土地での生息には適しているため新しいアーバスキュラー菌根が根付くのが難しい場合もある。
 土着のアーバスキュラー菌根を増やすような作物を栽培することでも収量を増加する検討がなされている。農地だけでなく、火山噴火によって受けた環境の改善にも利用されている。

 外生菌根は限られた相手としか共生しないが、森林植物の林冠を形成する種が多く、森林バイオマスの大半を占め、地球環境を考える上では重要度が高い。

 外生菌根は植物の根の周りで共生するため、これらの植物の根は直接養分(水、リン、窒素、カリウム)を吸収せず、外生菌根を経由して吸収している。植物が外生金に供給する炭素は生産した2~3割にもなり、大きな労量を払っている。

 どんな種類の植物とも共生するアーバスキュラー菌根の進化系が特定な植物と共生可能な外生菌根である可能性も有る。

 マツタケもアカマツを始めたした松と外生菌根を形成し共生している。マツタケの量産が難しいのはその生態や遺伝に関する知識が乏しいため。
 

防風林として働く黒松などの育成には菌根菌が不可欠

 海岸部は潮風、飛砂、暑さなど木の成熟に適さない一方、防風、防砂、防潮塩などの利点から海岸林の防災林としての機能に注目が集まっている。
 
 黒松や広葉樹を松海岸に植える試みは行われているが、環境が土壌の栄養状態も悪く樹木の根にはかなりの量の菌根菌との共生が見られる。
 菌根菌の多様性や生態の理解が効果的な海岸林の造成、保全、管理手法のヒントになる。
 
 実際に、菌根菌の存在が植物の成長を促進している例は多いため、塩害に強い菌根菌を利用することで効率的な植林が可能となる。

ランには菌根菌からの栄養に依存するものも存在する

 ランは豪華な花を想像するが、直径1mm程度の小さな花を持つものもあり、地球上に28000種以上ともっとも繁栄している植物群の1つになっている。

 ランの種は風に乗って、たどり着いた先で発芽するが、発芽に必要な栄養分を蓄えておらず、たどり着いた先にいるたまたまいた菌根菌と共生を結ぶことで発芽が可能となる。

 マヤランのように従属的栄養植物で光合成を行わずに、菌根菌からの栄養のみで暮らしている種も存在する。

コケやシダ植物は菌根菌の歴史を紐解く上で重要

 コケ植物やシダ植物は農作物としての利用がなく、商業上に価値がないため、その研究は他の植物に
比べても遅れている。
 しかし、近年では陸上生物で初期に分岐したコケ植物とシダ植物は原子的な菌根共生をとどめている
と考えられ、菌根菌の歴史を紐解く上で興味深い研究対象とされている。

 シダは葉を作り、光合成を始めるまでは菌根菌から栄養をもらうだけだが、光合成を始めると菌に炭素化合物を渡すことが確認されている。ただし、光合成後も炭素化合物を菌根菌からもらっており、
総合的に菌根菌が得をするのか損をするのかはまだはっきりしていない。

菌根菌の研究はまだわからないことも多いが、生物の進化や絶滅種危惧種の保護などに役立つことから研究が進んできた

 菌根菌は単一で成長できない場合もあり、培養し生態などを調査するのが難しい場合がある。近年のDNA解析技術の発展によって、培養しなくてもDNAから様々な研究が可能となった。

 菌根菌と植物の間でどのように化合物が移動しているかは、炭素や窒素の同位体の比率から計算される。それぞれの植物と菌が取りんだり、放出する炭素、窒素の同位体比率は異なるため、そのバランスから化合物の流れを知ることができる。

 光合成を行わず、菌からの炭素化合物で成長を行う植物は菌従属栄養植物と呼ばれる。
 菌従属栄養植物は特定の菌としか共生できないことが多く、環境変化による絶滅の危機に陥りやすく、他の場所への移動も簡単ではない。共生は一般に思われるほど、理想的な生き方ではなく共生=共倒れになることもある。

 菌根菌の研究はまだわからないことも多いが、絶滅危機植物の繁殖の手助けや生物の進化に菌根共生が果たした役割などが明らかになってきている。

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