逆転の世界史 玉木俊明 日本経済新聞出版社 まとめ

本の概要

 人類はこれまで3回のグローバリゼーションを経験している

・ホモエレクトスがアフリカからユーラシア大陸に拡散した第1次

・ホモサピエンスがアフリカを出て、世界に広がった第2次

・大航海時代以降現代まで続く、第3次 

 の3つである

 第3次のグローバリゼーションまでヨーロッパはアジアに比べ小さいな経済力しか持たなかったが、経済力を逆転させ優位に立った

 逆転の世界史の一つがこのヨーロッパが優位に立ったこと 本書では、経済史をベースに長期間にわたる世界の変貌をまとめられている

 現在はアメリカが優位に立った世界ではあるが、中国の台頭も大きい 中国はアメリカを超える覇権国家になれるのかについても書かれている

人類の誕生

 人類は700万年前にチンパンジーから分岐しており、遺伝子の相違は2%しかない

 人類の進化は非常に早く、700万年の間に猿人→原人→旧人→新人と進化してきた 脳の大容量化、前頭葉の発展による発話を促し、発話によって仲間に伝えることのできる内容を無限化した

 ホモサピエンスによる2回の出アフリカで人類は世界中に広がった 拡散の過程で人類は環境に応じ、黒人、白人、黄色人種に分離したため、人種の間で遺伝子的な差異はほとんどない 

 ホモサピエンスは一時1万数千人程度まで人口が減少したことがあるため、遺伝的に差異が非常に小さい

 大航海時代のヨーロッパ人は未知の人々と遭遇したのではなく、再発見したに過ぎなかった しかし、当時のヨーロッ人は仲間を再発見したとは考えなかったため、今に続く様々な悲劇を生んでいる

文明の誕生

 世界史の教科書ではエジプト、メソポタミア、インダス、黄河の4大文明と書かれていることが多いが、長江、メソアメリカを含めた6大文明ということもある

 最も早く生まれたメソポタミア文明は豊かな農業収穫が可能だった ヨーロッパでは中世になってもメソポタミアより収穫の効率が低く、貧しい地域だった

 秦時代には通貨や文字の統一、中央集権による管理システムが他に先駆けて始まった 中央集権は単一市場誕生をめざしたもので、EUができるはるか前にその仕組みを利用していた

 中国の経済発展は続き、宋時代には海外との貿易も拡大し同時期のヨーロッパに比べ高い生活水準を持っていた

ヨーロッパ

 ギリシア文明はオリエントから派生したものだが、欧米人はオリエントの要素を無視する傾向が強い

 世紀に入るとイスラームの勢力が強くなり、地中海にも進出してくるようになる 

 それが契機となり、地中海で異文化交易が発展していく

 11から12世紀になるとヨーロッパで大きな経済発展が見られた ヴァイキングの商業活動が内陸通路の発達や都市の発展を促した

 ただし、当時のヨーロッパの経済はそれほど多きくなく、イスラーム勢力の経済圏の一部に過ぎなかった

 また中世ではヨーロッパからアジアに輸出するものは、銀くらいしかなく貿易収支からはアジアのほうが経済力があったと考えられる

ヨーロッパの躍進

 ポルトガル人のバスコダガマが喜望峰を回ってインドに到達するルートを発見したことで変化が起きた 喜望峰ルートの開拓で大西洋、インド洋、東南アジアがつながるようになった

 一方、アジアの商人はヨーロッパや大西洋に進出しなかった これがのちに大きな差となる

 喜望峰ルートは強大なオスマン帝国を通らずにアジアへアクセスすることを可能にし、ヨーロッパ経済に大きなチャンスをもたらした

 アフリカから奴隷をブラジルに運び、サトウキビのプランテーションで働かせるようになった

 イギリスは砂糖以外にも奴隷の育てた綿花を輸入、加工し織物を世界中に輸出するようになった このことでイギリスは世界初の工業国家となった

ヨーロッパ躍進の理由

 それまで、経済規模では小さな存在に過ぎなかった、ヨーロッパ諸国が躍進し、ヘゲモニー国家(覇権国家)を生み出した要因には、以下のようなものがある

 1.情報の非対称性

 商品は情報の非対称性(人によって持つ情報の質が違うこと)を利用して利益を手にする

 しかし、社会全体では情報の非対称を縮小しなければ適切な経済活動ができない

 情報の非対称が小さくなれば、市場への参入が容易になり、経済が活性化される

 ヨーロッパは活版印刷の利用による価格表や手引書などで商業を同質化し、情報の非対称が少ない社会を作り出し、そのシステムを世界に普及させ、ヨーロッパに都合良いものに変化させた

 2.中国の物流軽視

 宋で使用されていた銅貨は、インドから日本まで広い地域で使用されていたことが知られており、この時期アジアが一つの経済圏になっていたことがわかる

 中国では伝統的に朝貢貿易と呼ばれる制度を取っていた この制度は中国の周辺国が中国に貢物を献上し、その見返りに中国が下賜品を送るというもの  中国が隣国よりも圧倒的な経済力があったからできたことだが、物流を軽視することにつながった

 物流をヨーロッパに抑えられたことで、ヨーロッパ製品がアジアに輸送されるようになった これがヨーロッパの勝利につながる

3.工業化

 近世のヨーロッパでは家計で生産、消費されていたものが市場を目指して、生産されるようになった これによって市場経済が大きくなり、工業化の基盤を形成した

 市場経済が発展すると、家庭で作るよりもはるかに多くのモノを手に入れることができるようになった

 綿による織物はそれまでインドで多く作られていたが、イギリスはインドから綿を輸入し、工場制度を発展させ効率を上げ、徐々に生産量を増やしていった

 このようにヨーロッパは原料の供給を、外から行い、完成品をヨーロッパで作るシステムを構築した

4.通信伝達

 経済の一体化には情報、移動のスピードアップが欠かせないが、イギリスは蒸気船を用いることで通信伝達速度を大きく縮めた 世界の多くの地域がイギリス船の定期航路で結ばれるようになるとイギリスは世界中に電信を敷設した

 情報は軍事的にも、商業的にも重要であり、電信の普及は人間を上回る速度での情報伝達を可能にした また電信の独占は情報の集約や送金を始めたとした経済利益を得ることを可能にし

 自国の利益に沿う仕組みを世界中に導入することで、他国が経済成長しても、取引増加=手数料ビジネスで儲けられるという仕組みを作り上げた

アメリカの台頭

 イギリスのヘゲモニーは第一世界大戦を機に崩壊し、アメリカが台頭した 第2次大戦終了後にアメリカがヘゲモニー国家となった

 アメリカは豊富な経済力を用い、多くの国際機関を創設し、世界経済を支配した

 しかし、アメリカの仕組みはイギリスと違い、世界の経済成長=自国の利益ではなかったため徐々にヘゲモニーを失っていく

 一方で、社会主義も資本主義があったからこそ生まれたにすぎず、崩壊が続きヘゲモニー国家が生まれるには至らなかった

アジアの台頭

 現在はアジアの台頭が続いているが、以前はアジアのほうが経済力があったため再興といえる

 欧米の植民地であった地域ではインフラが未整備で、特に物流に問題が多いことや欧米の物流に頼る場面が多いなど、アジアの発展は欧米の仕組みを利用しており、独自の枠組みではない

 中国の一帯一路政策はこれまでの物流システムから脱却する目的が大きい 

 しかし、ヘゲモニー国家に必要な経済面で何が正しいかを決め、自動的に利益を上げる仕組みを作るような政策ではないため、一帯一路によって中国がヘゲモニーを握ることはないと言える

コメント

タイトルとURLをコピーしました