音楽する脳 大黒達也 朝日新聞出版 3分要約

3分要約

音楽は我々にとってどんな存在なのか

 世代や文化の枠を超え心に働きかけ共に生きてきた最高のパートナー。音楽と脳、音楽と人間の関係を知ることは私たち自身を知ることと同義ともいえる。言語よりも前から存在し、音楽の中の特殊な形が言語とも考えられる。言語化できない心の中でも音楽で表現でき。直感的に人と人を結び付けることができる。

なぜ、音楽を生み出したのか

 人類が神秘的で雄大な自然を前に湧き上がる感動を分かち合うために科学や芸術を利用してきた。音楽は自然美を感性によって理解しようとし手生み出したもの。

古代で音楽はどのような存在だったか

 古代ギリシャでは宇宙が音楽を奏で、世界の調和につながっていると考えられていた。そのため。音楽の理論は数学的に完全に調和したものでなければならなかった。

音楽と脳の関係は

 脳は想像以上に神秘的な計算をしており、解明されていない部分も多く、その機能が音楽に利用されている。

 音楽の発展に脳が適応することもある。古代のリズム中心の音楽しか聞いていないと、複雑なクラシックの価値を理解することは難しい。

 脳は情報の複雑さを下げたい欲求と新しいものずきの両面があり、新規性と不確実性のバランスどりが芸術性には不可欠。

 音楽演奏は脳のあらゆる部分が働き、互いに連携することで可能になっている。演奏家は聴覚野や運動野が大きいだけでなく、脳内の新しい神経ネットワークを形成している。

音楽は最高のパートナーで音楽を知ることは自分たちを知ること

 音楽は目に見えないが、世代や文化の枠を超え心に働きかけ共に生きてきた最高のパートナー。なぜ、音楽が必要で、なぜ音楽に感動するのかに音楽と脳の関係から迫っていく。

 複雑な音楽構造の発見や楽器の発明などの音楽の創造は人間にしか成せない能力である。また人類は文字を生み出すはるか前から、音楽を生み出し、発展させており、音楽と脳、音楽と人間の関係を知ることは私たち自身を知ることと同義ともいえる。

科学も芸術も自然を前にした感動を分かち合うために発展した

 芸術と科学は閑静と論理のように対照的に述べられるが、本来は同一の起源からなっている。人類が神秘的で雄大な自然を前に湧き上がる感動を分かち合うために科学や芸術を利用してきた。

 科学者は自然の振る舞いを物理面から、芸術家は自然美を感性によって理解する違いあるが、根本部分は同じであり、音楽の変化は科学の進歩と密接に関わっている。

 科学の進歩であらゆる音楽を想像することができるようになり、音楽の進歩であらゆる音楽を想像できるように進化してきた。

音楽は数学的に完全に調和しているという考えが理論につながった

 古代ギリシャでは広大な宇宙が音楽を奏でており、宇宙の音楽が発する調和が世界の調和につながっていると考えられていたため、音楽理論は数学的にも完全に調和したものでなくてはならなかった。

 ピタゴラスは音楽と数字の関係性の解明に貢献し、音律と音程を発見している。音楽は時間芸術と空間芸術が混ざり合った生まれる。時間芸術はリズムのことでピタゴラス以前から民族音楽などで広く見られていた。それに対し、空間芸術は音程に相当し様々な音を同時にならしたときに、音と音の間に音程が生じる。ピタゴラスは音程の最も基礎的な数学的理論を発見した。

 その後、ピタゴラスのモデルの不完全な部分を修正した、純正律、平均律が生み出され、現代の音楽はすべて12平均律で演奏されている。

解明されていない脳の無意識な働きに音楽が埋め込まれている

 12平均律では1オクターブを12個の音に均等に分けることで音楽を扱いやすくしているが、実際にはオクターブの中には12個ではなく、無数の音が存在している。現在の人間の聴覚機能も12平均律にそって発達したため12平均律発明前の人間の聴力よりも衰えているとも考えられる。

 私たちの脳は、考えている要も複雑で神秘的な計算をしている。赤ちゃんが持つ最先端AI以上の言語学習能力のメカニズムは解明されていない。解明されていない無意識に行っている数学の機能をもっており、それが音楽などの芸術にも自然と埋め込まれている。

脳は音楽の発展に適応する

 古代の学者は音楽を3つに分類した。

1.器楽の音楽 人間が奏でたり聞いたりすることのできる音楽

2.人間の音楽 人間が発する機関や臓器の音楽、耳で聞くことはできない。

3.宇宙の音楽 天球が発する音楽 最もレベルが高いものとされた

 近代以降、器楽の音楽が重視され、徐々に音楽の中心となる。我々が音楽と非音楽を直感的に聞き分けられるのは、器楽の音楽のみを音楽としているため。

 音楽の表現法を模索してきたことで、音楽は発展し脳がそれに適応してきた。リズム中心音楽を演奏してきた人類の祖先がクラシック音楽を聞いてもその価値を理解することは出来なかったと思われる。音楽と非音楽の境界は聴覚や知性の発達で変わり得るものためいま私たちが非音楽とかんじるものも脳の進化が追いつていないだけかもしれない。

理論的な学習能力の向上は別の学習能力を失わせているかもしれない

 人類は自然美を皆で共有するために音楽を作り上げてきており、自然美を解釈し音楽へと変換することにはその人の感性や知性が宿っている。

 脳は可塑性を持ち、外界の刺激で機能的、構造的に変化することで環境に順応していく。音楽においても脳は順応するため、親がクラシックを聴いていると子供もクラシックが好きになる可能性は高い

 脳には新しい物好きの面もある。新しい情報に触れると中身がわからず、不安になり学習しようとするが、学習が終わると注意を向けなくなる。同じ曲を聴いていると順応し、徐々に飽きて新しい音楽を求めるようになる。

 脳は無意識下で統計学習を行っており、身の回りで起きる現象、事柄の確立を自動的に計算し確率分布を正確に把握しようとしている。音楽を聴いているときに、脳は情報の移り変わり(例えばド音からレ音へうつる確率)である遷移確率やバラつきである不確実性を計算してる。

 統計学習は脳が生得的に保有する能力だが、成長に伴って発達する学習機能に前頭葉がある。前頭葉は理性に関わる意思決定や行動計画をしており、前頭葉が統計学習機能を抑制しているとの研究結果が多く確認されている。前頭葉の未発達な幼児の言語能力の獲得は成人の第2言語取得と比較にならないほど早いことなどからもわかるように、前頭葉の発達で理論的な学習は得意になったが、人本来のもつ学習能力をうしなっているのかもしれない。

新規性と不確実性のバランスどりが芸術性には必要

 音楽理論や曲の構造を意識的に体系づけて学ぶような学習法は主に顕在学習と呼ばれ、第2言語の取得などがその例になる。脳は潜在学習も行っており、学習意図がなくても情報を受けると、勝手に学習を行っている。幼児の母国語の取得は潜在学習でその知識は情報に触れた量に依存する。

 作曲家は顕在、潜在両方の学習を用いることで作曲を行っている。

 統計学習も潜在学習の一つで、感性、直感、思考、創造性などの知性や行動に大きな影響を与えている。作曲家は過去の膨大な曲を統計学習し、音楽の一般的な統計モデルを作り出している。

 一般モデルから外れることで、珍しく不確実性の高い新しい音楽を作り出せるが、新しものばかりでは聞き手も疲れてしまうため、新規性を一般的な織り交ぜることで安心感を与えつつ、曲の個性を印象付けることで素晴らしい芸術作品へと昇華していく。作曲では和音や基本的な組み合わせは変えずに、それらを組み合わせたりすることで新規性を織り交ぜていく。

前頭前野と活動のバランスで自由な創造を作品に落とし込む

 脳は情報に触れると不確実性を下げるて情報を整理しようとし、不確実性の減少が脳への報酬とある。しかし完全に不確実性が下がるとその情報から報酬を望めないため新たな報酬を求めて不確実な情報を求めていく。

 ベートベンは後期に作曲した曲ほど不確実性が高く、フレーズが斬新なだけでなく曲内での複雑性も増加している。芸術性とは単に新しいかではなく、作品に顕在する確実性と非確実性の絶妙なバランスの追及することにある。

 前頭前野の働きを抑制すると統計学習のパフォーマンスが上がることから新しいものを作るには有利だが、作ったものを評価する際には前頭前野の機能が活発化する。前頭前野の抑制と活動のバランスが自由な創造とそれを適切に評価し、作品に落とし込むを可能にしている。

音楽の演奏は脳内に新しいネットワークを形成する

 演奏は作られた曲を体を使って表現する行為であり、脳の感覚運動機能のほぼすべてを活動させなくてはならない。

 脳には作業記憶とよばれる様々な情報を並べ替えたり、組み合わせる記憶があり、演奏中は楽譜と指を同時に見ながら、自分の音楽を聞き、感情豊かな表現を行っており、演奏家は作業記憶が発達していることが知られている。

 音楽演奏は脳のあらゆる部分が働き、互いに連携することで可能になっている。演奏家は聴覚野や運動野が大きいだけでなく、脳内の新しい神経ネットワークを形成している。

不確実性を下げたい願望と興味がゆらぎをもたらす

 本来決められた楽譜通りに弾く練習をすれば、全く同じ音楽ができるはずだが、同じ楽譜であっても必ず何かしらの個性が垣間見える。

 脳には不確実性を下げたい願望と不確実な情報への興味という相反する力が、互いに引き合って存在している。相反する力が不確実性にゆらぎをもたらし、ゆらぎが幻術的感性鵜や創造性に多大な影響を与えていると考えられている。予測からずれすぎず、当たり前すぎない微妙なずれに感動を覚えたり、知的好奇心や興味をくすぐられる。

 音楽で揺らぎを感じるにはある程度の予測精度が必要なため、訓練が必要。子供は童謡を好み、徐々に複雑な音楽を好むようになるのは、経験が少なければ単調な音楽でも心地よいずれを感じることができるためで、音楽に限らず脳は経験を経て成長し予測精度を高めるため徐々に複雑なものに興味をしめしたり好むようになっていく。

モーツァルト効果は存在しないが、音楽の効果は様々

 モーツァルトを聴くと頭が良くなるのではというモーツァルト効果が注目されたが、存在しないものと結論されている。しかし、音楽には心が満たされたり、気分を変える効果がある。

 脳内には言語普遍的な文法構造を学習する機能があらかじめ備わっているため、言語を簡単に身に着けることができる。音楽にも普遍的な文法構造を学習する機能があるのではとされている。

 言語の取得に学習が必要なように、生得的に機能や才能を持っていても実際に発揮されるには適切な環境や学習が大切となる。

 音楽を聴くと1000億もの神経細胞が一気に活動し、脳のあらゆる部分を活性化させ、脳自体の能力を促進することもある。音楽や音声の理解に欠かせない聴覚野が音楽で拡大したり、脳の統計学習の機能言語能力、リズム認知能力の向上が可能となるため、音楽家は第2外国語を流暢に話せる人が多い要因ともいわれている。

 音楽や言語をたくさん聞くことでチャンク(情報の塊)を脳内にたくさん作ることができ、情報を階層的にとらえることを可能にする。

 脳卒中、認知症などの脳疾患に音楽が有効であるというデータもある。

言語化できないものも音楽であれば伝えられる

 言語はコミュニケーションのツールとして、自分の気持ちを相手に伝えるもの。音楽も同じで音楽は言語よりもずっと前から存在しており、音楽の中の特殊な形で言語があると考えられる。言語化できない心の中も音楽であれば表現することができる。

 言語化した嬉しいや楽しいという言葉では心の複雑性を完全に表現することは出来ないが、音楽であれば言葉にできない感動を表現できる。

 音楽は脳に影響を与えるが、言語以上に最も根本的なもので人間の本質的な部分が音楽。感情を表現 することは人が生きる上でなくてはならないもの。  

 コロナ禍で音楽を自粛する流れが続いているが、言語ではなく音楽でしかできないことも存在している。言語以上に直感的、本能的に人と人を心から結び付け共感しあうことができるなくてはならないものであることを忘れてはならない。

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