食の歴史 ジャック・アタリ プレジデント社 まとめ

概要 

食事は生命を維持する以上の働きがあるが、その質は世界中で減少している

 食事は他者との理解を深める役割を果たしている。食には生命を維持する以上の役割があるにもかかわらず、ゆっくりと食事をとる機会は世界中で減る傾向にある。

 食は人類の歴史に大きな影響を与え、文化の創造と発展に不可欠で、人類の変化、イノヴェーションの源泉になってきた。

 会話を交わし、社会組織を管理する作業は宗教の戒律や君主によって食事中に行われてきた。

しかし、近代化で孤食と食の効率化が進み、精神面での食事の役割はどんどん小さくなっている。

 我々が何を食べてきたのか、なにを食べるようになるのかという疑問は、自分たちが何者で、人類にどんな脅威があり、克服可能なのかへの答えにもなる。

狩猟採集民の食事 

食物の共有は知能と協力体制を促し、言語と神話を生み出した

 アフリカに住んでいた初期人類は食を求め移動生活を行っていた。300万年ほど前、アフリカ東部で乾燥化が起こると、森林が減少しサバンナが広がった。それに伴いアウストラロピテクスは集団を形成するようになった。食物を共有する行動はアウストラロピテクスの知能と協力体制の発展を促した。

 55万年ほど前、火の利用が始まると消化が容易になると、脳の使うことのできるエネルギーが増加する、病原菌やバクテリアを殺すことで食べることのできるものが増えるなどの変化が起きた。

 一日が長くなり、炉を囲み、会話をする機会が増えた。これにより言語と神話が生み出された。

 3万年前には中央アジアで穀物の栽培と馬の家畜化が始まった。総人口が増えるに従い、自然が作る食料だけでは足りなくなり、自分たちで食料を作る必要が生じ、定住生活を送るようになっていった。

自然を手なずける 

食料増産の要求は定住化につながり、

備蓄は貧富の差を生みだした

 チグリス川、ユーフラテス川の流域は定期的な氾濫で土壌が肥沃であった森林に多くの獲物が住んでいた、河川に多くの魚がいたなどの理由から定住が進み、1万年前には犬の祖先を飼うなど家畜化も始まった。

 農業と牧畜の始まりはイデオロギーの変化をもたらし、大地への感謝、芳醇の女神を崇めるようになっていった。
 過去の情報の重みが増え、年配者は指導者、庇護者、神にまでなった。食料の備蓄が可能となると、貧富の差が生まれる要因にもなった。貧富の差は更なる食糧生産のために新しい政治体制である帝国へとつながっていった。

 食事はおしゃべりの場で食事中の会話は親交の証で、食の分かち合いを拒否することは、敵対の表れとする文化もあった。帝国では親交、政治、支配など様々な目的で宴や饗宴が開かれるようになった。

ヨーロッパの食文化 宗教は食のルールを作り出した

 キリスト教をはじめとする宗教は食に対し、ルールを決めることも多かった。
絶食や節制を求めるものやアルコールや動物など特定の食材を禁止することも多く見られた。食への欲求から新しい農業の手法、風車などが生み出された。

フランスの食

 ヨーロッパの中でもフランスは食に対し特殊な文化を持つ。
 ルイ14世は宗教的な習慣から離れた豪華絢爛な料理の発展を促し、会食を国民との対話ではなく、自身に対する服従の見せ場とした。王への批判もあったが、一部の貴族も王への対向から豪華な食事をまねる動きも出始めた。

 一方で大衆層の食事は質素で、飢饉による食料不足がフランス革命へとつながっていった。

工業化と栄養学 

食のコスト削減と効率化は会話を減らし、栄養の偏りを生んだ

 工業化によって故郷を離れ暮らす人が増えることで徐々に食事が会話の場でなくなっていった。
 大衆層が食事以外の消費財に費やす賃金を増やすため、食品のコスト削減に励むようになる。工業化された食品も多く生み出され、大衆に普及するようになった。

 アメリカの資本主義は人工的で質素な食品を健康的であって、食べる時間は退屈で、食卓で無駄な時間を過ごすべきでないと大衆を説得した。
 味よりも健康と効率を考えた食文化が拡がり、食卓での会話が少なくなるようになった。


 食に対する考え方の変化と冷凍保存や電子レンジ、冷蔵庫など各種調理機器が合わさり、安価で腹を持たすことを目的とした大量生産の調理が増えていった。のちにファーストフードと呼ばれるようになり、脂肪分や塩分、糖分が高いことが特徴である。コカ・コーラ、マクドナルドなどのアメリカの食は世界中に広がっていった。

現代の食 

食の変化は病気の原因を不足から過剰に変え、地球への負担も増やした

 世界中でアメリカ型の暮らしが増え、食卓に着く時間、会話量が減り料理自体も素早く食べることのできるものが好まれるようになった。

 食に関する病気は欠乏が原因だったが、現代では糖分による肥満、加工肉、加工品に含まれる化学物質によるがんなど過剰が原因となるようになった。食文化の変化は食の質の変化で肥満が増加しただけなく、孤独によって食べる量をふやすこととなった。

 経済発展を優先した食文化は食の廃棄量増加、環境破壊、食物の多様性の減少などで地球に負担をかけるようになった。

未来の食 

人口の増大に対応するには、技術革新や食文化の改変が必要

 人口増加は続き、2050年には世界の人口は90億に達する。現代の西欧諸国の食生活と同じ暮らしをするには食料の生産量を70%増加する必要がある
 しかし、家畜の増加は温暖化を招き、多くの国で農産物の生産量減を招くなど、現実的には達成は困難とみられている。
 遺伝子編集による品種改良、効率的な食品の開発、昆虫食によるタンパク質摂取などに期待が集まっている。

食は体だけでなく精神も養う 個食は体も精神も蝕む

 食べる行為は体だけでなく、精神も養う。会食から時間の共有、懇親、意見交換、共通認識の形成の役割が失われ個食が進んでいる。


 家族での食事は子供にとって、大人の意見を聞き、議論し思考力を養う場であり、個食はその場を奪ってしまう。

 孤独を糖分で癒す傾向は加速していくとも考えられる。監視型社会が進めばより沈黙と孤独が増え、肥満も増加するとみられている。

食の重要性を確保するには、農業の効率を上げ、習慣を変え得る必要がある。

 人類が存続し健全な食生活を送りつけるためには食の生産、分配のあり方を一変させる必要がある。各自が健全な食事を送ることが地球の保全にも有効な手段となる。

農業:各農家が知識を得られるように教育し、肥料削減、効率UPを目指す。食品価格は上昇するが、健康的な食事が増えれば医療費の削減も見込める。食品会社への規制を強化し、人々の摂取する栄養を変化させる。包装容器に対する課税、規制で環境保護を進める。少ない肉、多い野菜、少ない糖で健康的かつ環境負荷の少ない食事を推進する。

地産地消:食物の輸送量を少なくし、エネルギーの無駄を減らす。

ゆっくり食べる:時間をかけて噛んで食べることで食べ過ぎを防ぐことができる。
会話することでゆっくり食べることが可能になる。会話は社会の再生にとっても重要になる。

情報:ブロックチェーンを利用し原料の素性を明らかにし、どの段階でも参照できるようにする。

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