化学.35 アルケンのヒドロホウ素化

この本や記事で分かること

・アルケンのヒドロホウ素化の反応機構

・ヒドロホウ素化が立体選択性を持つ理由

・ヒドロホウ素化によるアルコール生成の利点

アルケンとボランを反応させると何が起きるのか 

 アルケンとボラン(BH3)を付加とそれに続く処理を行うことで、有機ボラン中間体を経由し、アルコールを生成することが可能になっています。

 アルケンがボランと反応すると、二重結合への付加が発生します。ボランは水素を3つもっているため、付加は3回起こり、トリアルキルボランを生成します。

 有機ボラン中間体を塩基溶液中で、過酸化水素(H2O2)で処理することで3つのB-H結合が切れOH基が結合し、最終的に、アルコールを生成することができます。

有機ボランはどのように二重結合に付加するのか

 ヒドロホウ素化によるアルケンへのボランの付加ではアルケンの二重結合がBH3と新しい結合を形成しています。

 遷移状態では、アルケンの二重結合の結合とボランのB-H結合が切れかかり、新しいC-H結合とC-BH2結合が生成した状態となります。

 反応が終了するとアルキルボラン化合物が生成することとなります。

二重結合に置換基を持つアルケンとボランの反応は生成物は二つなのか

 1-メチルシクロペンテンのように二重結合を持つ炭素が非対称に置換されたアルケンでは、BH3が付加する際に、二つの遷移状態を持つ可能性があります。

 -BH2がメチル基を持つ側の炭素と結合する場合と水素が結合した側の炭素と結合する二つの可能性があります。

 しかし、実際には新しいC-BH2結合はメチル基のない側の炭素で生成され、メチル基を持つ側の炭素と結合した有機ボラン化合物が生成することはありません。

なぜ、置換基の少ない炭素とホウ素が結合するのか

 -BH2がメチル基を持つ側の炭素と新しい結合を作る遷移状態では、メチル基のない側の炭素がδ+の電荷を帯びることとなります。

 一方で、-BH2がメチル基を持たない側の炭素と新しい結合を作る遷移状態では、メチル基を持つ炭素がδ+の電荷を帯びることとなります。

 この遷移状態のδ+の炭素はカルボカチオンに近い構造となるため、カルボカチオンと同じく、δ+を持つ炭素の置換基の数が多いほど安定となります。

 そのため、-BH2がメチル基を持たない側の炭素と新しい結合を作る遷移状態のほうがより安定となり、こちらの遷移状態のみが生成することとなります。

炭素の電気的な安定以外の要因はあるのか

 -BH2の位置選択性には、立体障害も影響を及ぼしています。

 -BH2がメチル基を持つ炭素と結合を形成しようとするとメチル基は水素よりも嵩高く、立体的な障害が大きくなります。

 遷移状態における立体的な込み合いのなさが少ないほうが、反応がしやすいため、-BH2がメチル基を持たない炭素と結合を形成することとなります。

ヒドロホウ素化によるアルコールの生成はどこが有用なのか

 ヒドロホウ素化によるアルコールの生成が有用であるのは、位置選択性に優れてることに加え、置換基の少ない側にOH基を生成することができるという点にあります。

 オキシ水銀化によるアルケンからのアルコールの生成は置換基の多い側にOH基が結合するMarkovnikov型の反応でした。

 ヒドロホウ素化によるアルコールの生成は置換基の少ない側の炭素にOH基が結合する非Markovnikov型の反応であるため、二つの反応を使い分けることで、目的とするアルコールを得やすくすることが可能です。

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