AIによる天気予報

  1. この本や記事で分かること
  2. ニュースの概要
  3. なぜ、従来よりも高精度での予測が可能なのか
    1. 1. 物理モデルではなく、データ駆動のAIを使用
    2. 2. 並列処理が可能なディープラーニング技術
    3. 3. 特定の気象パターンの学習能力
    4. 従来モデルとの比較:何が変わるのか?
  4. これまで、データ駆動型アプローチはなぜ採用されてこなかったのか
    1. 1. これまでのAI活用の歴史
      1. (1)初期の統計モデル(1980年代~2000年代)
      2. (2)機械学習の導入(2010年代)
      3. (3)ディープラーニングとAIモデルの進化(2020年代)
    2. 2. なぜ今まで本格導入されなかったのか?
      1. (1)AIの計算能力が不十分だった
      2. (2)従来の物理モデルがすでに高精度だった
      3. (3)AIは「ブラックボックス」であるため、説明責任の問題があった
  5. 今後、どのような検討が行われるのか
  6. AIは台風やハリケーンの予測もできるのか?
    1.  1. 台風の進路予測:AIの方が精度が高い場合も
    2. 2. 台風の強度予測はまだ課題あり
    3. 3. AIを活用した台風・ハリケーン予測の実例
      1. ① Pangu-Weather(Huawei)
      2. ② NOAA & MicrosoftのAIモデル(アメリカ)
      3. ③ Google DeepMind「GenCast」
    4. 4. AIは台風予測をどこまで変えるのか?
  7. Google以外の取り組みにはどのようなものがあるのか
    1.  1. Huawei「Pangu-Weather」(中国)
      1. 概要
      2. 特徴
    2. 2. NVIDIA「FourCastNet」(アメリカ)
      1. 概要
      2. 特徴
    3. 3. NOAA & Microsoft「AI Forecasting」(アメリカ)
      1. 概要
      2. 特徴
    4. 4. ECMWF(欧州中期予報センター)のAI活用(ヨーロッパ)
      1. 概要
      2. 特徴
    5. まとめ:Google以外のAI天気予報の動向

この本や記事で分かること

・天気予報にAIを使う理由:データ駆動型の採用などでの精度向上

・なぜ、データ駆動型を実現できたのか:計算能力の不足や説明責任などの観点から

・今後、どのような検討が期待されるか:従来の数値予報とAIモデルを組み合わせたハイブリッド 型による、さらなる精度向上

ニュースの概要

 GoogleのAI部門であるDeepMindは、最新の天気予測モデル「GenCast」を開発したことがニュースになっています。このモデルは、従来の数値予報モデルと比較して、最大15日先の天気や台風などの極端な気象現象を高精度で予測できると報告されています。

GenCastは、1979年から2018年までの40年間の気象データを学習し、従来の物理ベースのモデルよりも迅速かつ効率的に予測を生成します。具体的には、15日間の予測をわずか8分で作成できるとされています。

ただし、現在のところ、GenCastは高解像度の予測において従来のモデルに劣る部分があり、特に局地的な現象の予測には課題が残っています。そのため、AIベースのモデルと従来の物理ベースのモデルを組み合わせたハイブリッドアプローチが、今後の天気予報の主流となる可能性があります。

houstonchronicle.com

GoogleのAI部門DeepMindは、最新の天気予測モデル「GenCast」を開発したことがニュースになっています。

なぜ、従来よりも高精度での予測が可能なのか

 Google DeepMindの「GenCast」が従来の天気予報モデルより効率的なのは、AIを活用したデータ駆動型アプローチを採用しているからです。主な理由は以下の3つです。

1. 物理モデルではなく、データ駆動のAIを使用

 従来の天気予報(数値予報モデル)は、大気の物理法則(流体力学、熱力学など)を計算するために、大規模なスーパーコンピューターを使って複雑な微分方程式を解いていました。しかし、これは計算コストが高く、数時間~数十時間かかることが一般的でした。

 一方、GenCastは過去40年間の気象データを学習し、パターンを識別して未来の天気を予測します。これにより、計算量を大幅に削減し、より短時間で予測を生成できます。


2. 並列処理が可能なディープラーニング技術

 従来の物理ベースのモデルは、順序立てて計算を進める必要がありました(例:1時間後の状態を計算してから、2時間後を計算する)。しかし、GenCastのニューラルネットワークは、全体の気象データを一度に処理できるため、計算速度が飛躍的に向上しています。

 例えば、従来の数値予報モデルでは15日間の予報を作成するのに数時間以上かかるのに対し、GenCastはわずか8分で同じ予測を出せると報告されています。


3. 特定の気象パターンの学習能力

 GenCastは、大規模な過去データを活用し、台風や暴風雨などの気象パターンを学習することで、従来よりも的確に予測を行います。

 特に、従来のモデルが苦手とする「突発的な気象変化」についても、AIが過去の類似パターンを分析することで、より素早く・正確に予測できるようになっています。


従来モデルとの比較:何が変わるのか?

項目従来の数値予報モデルGenCast(AIモデル)
計算方式物理方程式を解くデータを学習して予測
計算時間数時間~十数時間わずか8分
必要な計算リソーススーパーコンピューターGPU/TPUで並列処理
突発的な天気の予測難しい(時間がかかる)学習データを活用して即座に予測

データ駆動型の採用、ディープラーニングによる並列処理。データの利活用によって精度の高い予測が可能になっています。

これまで、データ駆動型アプローチはなぜ採用されてこなかったのか

 データ駆動のAIを利用した天気予報の研究は以前から存在していましたが、以下のような理由から本格的に実用化できるレベルに達したのは最近のことです。

1. これまでのAI活用の歴史

 天気予報にAIを活用する試みは1980年代から行われていましたが、当時のAI技術(主に統計モデル)は単純な補助的ツールに過ぎませんでした。近年、特に2010年代以降のディープラーニングの進化によって、AIによる天気予報が本格的に検討されるようになりました。

(1)初期の統計モデル(1980年代~2000年代)

  • 気象学者は、回帰分析や統計モデルを使って、気温や降水量のトレンドを予測しようとした。
  • しかし、これらのモデルは非線形な大気現象を正確に予測できず、スーパーコンピューターを使った数値予報(NWP: Numerical Weather Prediction)が主流のままだった。

(2)機械学習の導入(2010年代)

  • 2017年頃から、Google、IBM、Microsoftなどの大手企業が機械学習(ML)を活用した気象モデルの開発を開始。
  • IBMの「Deep Thunder」や、中国の「Huawei Weather AI」などが試験的に導入された。
  • しかし、従来の数値予報に比べて大幅に精度が向上するわけではなく、補助的な役割にとどまっていた。

(3)ディープラーニングとAIモデルの進化(2020年代)

  • 2021年:Google DeepMindが「Nowcasting AI」を発表し、短時間の降水予測(1~2時間先)を高精度で実現。
  • 2022年:HuaweiがAIベースの気象モデル「Pangu-Weather」を開発し、世界初の物理モデルを使わない長期予報を実現
  • 2023年~2024年:Googleの「GenCast」が従来の数値予報より高速かつ高精度な15日間予報を可能に。

 つまり、AIを活用した天気予報は過去にも研究されてきたが、計算能力やデータ量の不足により、実用レベルには達していなかったという背景があります。


2. なぜ今まで本格導入されなかったのか?

従来の天気予報がデータ駆動型AIに完全に置き換わらなかった理由は、主に以下の3つです。

(1)AIの計算能力が不十分だった

  • ディープラーニングが実用化されたのは2010年代後半
  • それ以前は、GPUの性能が低く、AIモデルの学習に時間がかかりすぎた。
  • 特に、全球の天気を予測するには「ペタバイト(PB)級のデータ」と「スーパーコンピューター並みの演算能力」が必要だった。

(2)従来の物理モデルがすでに高精度だった

  • 数値予報モデル(NWP)は、スーパーコンピューターを活用することで、数十年にわたり精度が向上していた。
  • 例えば、米国の「GFS」や欧州の「ECMWF」モデルは、数値シミュレーションによる長期予報で一定の成功を収めていた
  • そのため、AIに完全に置き換える必要がなかった。

(3)AIは「ブラックボックス」であるため、説明責任の問題があった

  • 数値予報モデルは、物理法則(流体力学・熱力学など)に基づいているため、予測結果の根拠が明確だった。
  • 一方、AIは予測結果の根拠を説明しにくい(=ブラックボックス問題)ため、科学的な信頼性を得にくく、AI単独での天気予報は採用されにくかった。

計算能力の不足や説明責任などの観点からこれまでデータ駆動型の天気予報は実現されてきませんでした。

今後、どのような検討が行われるのか

 現在のGenCastは、高解像度の局地的な天気予測(例:狭い地域のゲリラ豪雨)には、従来の物理モデルに劣る部分もあるとされています。そのため、AIモデル単独ではなく、従来の数値予報とAIモデルを組み合わせたハイブリッド型の天気予報が主流になる可能性があります。

・AIは「高速な計算とデータのパターン認識」が得意。

・物理モデルは「科学的根拠に基づいた確実な予測」が得意。

両者を組み合わせることで、より精度の高い予報が可能になる

 実際、GoogleのGenCastも「完全にAIだけでなく、従来の予報と組み合わせることが重要」と述べています。

従来の数値予報とAIモデルを組み合わせたハイブリッド型の天気予報が主流になる可能性があります。

AIは台風やハリケーンの予測もできるのか?

 AIは台風やハリケーンの予測にも活用されており、既に従来の物理モデル(数値予報)と同等、またはそれ以上の精度を示しているケースもあります。特に進路予測では高い精度を実現しつつあるが、強度(勢力)予測はまだ課題も多く残っています。

 1. 台風の進路予測:AIの方が精度が高い場合も

  • **Huaweiの「Pangu-Weather」**は、2023年の台風「Doksuri(トクスリ)」の進路予測で、欧州のECMWF(世界最高レベルの数値予報モデル)よりも正確だったと報告されている。
  • GoogleのGenCastも、大規模な気象パターンを把握するのが得意なため、台風の進路予測に有効と考えられている。

なぜ進路予測が得意なのか?
過去の台風のデータを学習し、類似パターンを見つけやすい
台風の進路は比較的大規模な気象パターン(偏西風や高気圧など)に影響されるため、AIのパターン認識が有効
従来の数値予報よりも高速に計算でき、短時間で複数のシナリオを検討可能


2. 台風の強度予測はまだ課題あり

一方で、台風の強度(風速、気圧、降水量など)の予測は、まだAIが苦手とされている
これは、以下のような理由による。

  • 台風の強度は、雲の微細構造や海面温度、湿度などの影響を受けるため、単純なパターン予測では難しい
  • 急激な勢力変化(爆発的発達など)は過去データからの学習では予測しにくい
  • 物理法則に基づくエネルギー収支の計算が必要なため、完全なデータ駆動型AIでは精度が落ちる

 このため、台風の強度予測は、従来の物理モデルとAIを組み合わせるハイブリッド型のアプローチが有望と考えられている。


3. AIを活用した台風・ハリケーン予測の実例

① Pangu-Weather(Huawei)

  • 2023年の台風「Doksuri」の進路を、従来の数値予報モデル(ECMWF)より正確に予測。
  • 数値予報のシミュレーションに比べて1万倍高速に計算可能。

② NOAA & MicrosoftのAIモデル(アメリカ)

  • アメリカのハリケーン予測にAIを活用し、進路の精度向上を目指す。
  • 既存のHWRF(ハリケーン予報モデル)と組み合わせ、ハイブリッド型の予測システムを構築中。

③ Google DeepMind「GenCast」

  • まだ台風予測の詳細な研究結果は公開されていないが、大規模な気象パターンを把握できるため、進路予測には有望と考えられる。

4. AIは台風予測をどこまで変えるのか?

・短期(数日先)
→ 進路予測は既存の数値予報と同等以上の精度を実現しつつある
→ 強度予測は物理モデルと組み合わせる方向が有力

・ 長期(10日以上)
→ AIは長期的な天候パターンを把握しやすいため、台風の発生リスクや大まかな進路の傾向を予測するのに有効

計算時間の大幅短縮
従来の数値予報はスーパーコンピューターで数時間~1日かかるが、AIなら数秒~数分で予測可能

今後は、物理モデル+AIのハイブリッド型予報が主流となり、特に進路予測の精度向上と高速化が期待されている。

台風、ハリケーンなどの予測特に、進路予測で高い制度を実現しています。その一方で風の強度(風速、気圧、降水量など)の予測は、まだAIが苦手としています。

Google以外の取り組みにはどのようなものがあるのか

 1. Huawei「Pangu-Weather」(中国)

概要

  • 2023年、中国のHuaweiが発表したAIベースの天気予報モデル
  • 完全に物理方程式を使用しないデータ駆動型AIモデル。
  • 3時間先から7日先までの予報を、高速かつ高精度に計算可能。

特徴

天気予報を数秒で計算(従来の数値予報より10000倍高速)
従来の物理モデル(ECMWF)と同等の精度
・ 台風の進路予測などで物理モデルよりも高精度なケースも報告


2. NVIDIA「FourCastNet」(アメリカ)

概要

  • NVIDIAが2022年に発表した天気予報用AI
  • 従来の数値予報モデルの計算を大幅に高速化することを目的としている。

特徴

従来の数値予報と同じ物理法則を考慮しつつ、計算速度を向上
スーパーコンピューター不要で、GPUを活用して高精度予報を実現
・ 物理モデルとの組み合わせを重視(完全なAIモデルではない)

F ourCastNetは、完全なAIベースではなく、「物理モデル+AIのハイブリッド型」で、計算効率を大幅に向上させる狙いがあります。


3. NOAA & Microsoft「AI Forecasting」(アメリカ)

概要

  • 米国海洋大気庁(NOAA)がMicrosoftと共同で、AIを活用した新しい天気予報モデルを開発中。
  • 2024年に試験運用が開始された。

特徴

・NOAAの数値予報モデル(GFS)にAIを統合し、計算効率を向上
気候変動の影響を考慮しやすい設計
雲の形成や降水の予測精度向上を目指す

 NOAAのAIモデルは、完全なデータ駆動型ではなく、物理モデルにAIを組み合わせて補強するアプローチを採用しています。


4. ECMWF(欧州中期予報センター)のAI活用(ヨーロッパ)

概要

  • ECMWFは、欧州の主要な数値予報機関であり、最も精度の高い気象モデルの1つを運用している。
  • 近年、AIの活用を進め、数値予報と統合するハイブリッド型のアプローチを研究中。

特徴

AIを活用して計算速度を向上(特にアンサンブル予報で有効)
データ駆動型AI単独ではなく、数値予報と組み合わせる方式
Google DeepMindやHuaweiのモデルとも比較しながら研究を進めている

ECMWFは、AI単独のモデルには慎重で、従来の物理モデルを補完する形でAIを活用する方針を取っています。


まとめ:Google以外のAI天気予報の動向

企業・機関モデル名方式特徴
HuaweiPangu-Weather完全AIモデル物理法則を使わずに高精度な予報を実現
NVIDIAFourCastNetハイブリッド型(物理+AI)物理モデルを補助し、計算速度を向上
NOAA & MicrosoftAI Forecastingハイブリッド型気象シミュレーションにAIを統合
ECMWF(欧州)AI気象研究ハイブリッド型既存の数値予報とAIを組み合わせる

Google以外にも多くの企業がデータ駆動型の天気予報の開発を実施しています。

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