鈴木–宮浦クロスカップリング反応について

この本や記事で分かること

・クロスカップリング反応とは何か:2つの異なる有機化合物を金属触媒を用いて結合させ、新しい炭素-炭素結合を形成する反応

・なぜ、クロスカップリング反応は重要なのか:複雑な分子構造の構築、多様な官能基導入、精密な構造制御などの理由で重要な有機合成反応となっています。

・今回の発見はどのようなものか:より穏やかな条件で進行させるための触媒の発見で塩基で不安定になる有機ホウ素化合物もカップリング反応に使用できるようになった。

新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応

 昨年、広島大学から有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発が報告されています。

 https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/86386

 この研究の成果によって、新しい医薬品や機能性材料の開発につながる可能性があります。

クロスカップリング反応とは何か

 クロスカップリング反応とは、有機化学における重要な反応の一つで、2つの異なる有機化合物を金属触媒を用いて結合させ、新しい炭素-炭素結合を形成する反応の総称です。

 医薬品や高分子材料、電子材料、光学材料など、様々な機能性材料、農薬などの合成に利用されています。

クロスカップリング反応の重要性

 目的とする化合物の構造を精密に設計し、効率的に合成可能であり、医薬品、農薬、高機能性材料など、複雑な構造を持つ有機化合物の合成に不可欠な手法です。

代表的なクロスカップリング反応

 根岸クロスカップリング反応


・有機亜鉛化合物と有機ハロゲン化物をニッケルまたはパラジウム触媒で結合させる反応

・反応性が高く、様々な官能基を持つ化合物に適用できる

薗頭クロスカップリング反応

・アルキンを導入する際に有用で、医薬品や材料科学分野で広く利用されています。

・末端アルキンと有機ハロゲン化物をパラジウムと銅の触媒で結合させる反応です。

鈴木-宮浦クロスカップリング反応

・有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化物をパラジウム触媒で結合させる反応です。

・幅広い基質に適用でき、温和な条件下で反応が進行するため、非常に汎用性の高い反応

・2010年に、この反応を開発した鈴木章と宮浦憲夫がノーベル化学賞を受賞しました。

クロスカップリング反応は、現代有機化学において非常に重要な反応であり、様々な分野で革新的な化合物の合成を可能にしています。

なぜ、クロスカップリングは医薬品合成において有用なのか

 鈴木-宮浦クロスカップリング反応が医薬品合成に広く用いられるのは、その反応の特性が医薬品の合成に適しているためです。

クロスカップリング反応が医薬品合成において重要な理由は、以下の点が挙げられます。

  • 複雑な分子構造の構築:
    • 多くの医薬品は複雑な分子構造を有しており、クロスカップリング反応は、このような複雑な構造を効率的に合成するための強力なツールとなります。
  • 多様な官能基の導入:
    • クロスカップリング反応は、多様な官能基を分子内に導入することが可能です。これにより、医薬品の活性や物性を精密に制御することができます。
  • 精密な構造制御:
    • クロスカップリング反応は、特定の結合位置に選択的に炭素-炭素結合を形成することができます。これにより、目的とする医薬品の構造を正確に構築することができます。

 鈴木-宮浦クロスカップリング反応は、有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化合物を反応させる反応ですが、これはあくまでも反応の一例です。他のクロスカップリング反応では、異なる種類の化合物が用いられます。

 医薬品合成においては、目的とする医薬品の構造や性質に応じて、最適な反応が選択されます。様々な反応が組み合わされて、複雑な医薬品が合成されています。

その反応の特性が医薬品の合成に適しているため、鈴木-宮浦クロスカップリング反応が医薬品合成に広く用いられています。

鈴木–宮浦クロスカップリングはどんな医薬品合成に使用されているのか

 鈴木–宮浦クロスカップリング反応は、医薬品の合成において非常に重要な役割を果たしており、実際に多くの医薬品の製造に利用されています。代表的な例として、以下のものがあります。

  • ロサルタン:
    • 高血圧治療薬として広く使用されているアンジオテンシンII受容体拮抗薬の一種です。
    • 鈴木–宮浦クロスカップリング反応が、その複雑な分子構造を構築する上で不可欠な工程となっています。
  • その他:
    • 他にも、がん治療薬、抗炎症薬、抗ウイルス薬など、様々な種類の医薬品の合成に鈴木–宮浦クロスカップリング反応が利用されています。

 鈴木–宮浦クロスカップリング反応は、その高い反応性と多様な適用範囲から、医薬品開発において非常に強力なツールとなっています。この反応のおかげで、従来は合成が困難であった複雑な構造を持つ医薬品も効率的に製造できるようになり、医療分野に大きく貢献しています。

鈴木–宮浦クロスカップリング反応は合成が困難であった複雑な構造を持つ医薬品も効率的に製造できることを可能にしています。

どんな部分が新しいのか

 従来の鈴木–宮浦クロスカップリング反応では、有機ホウ素化合物の反応性を高めるために、塩基を添加する必要がありました。しかし、一部の有機ホウ素化合物は、塩基性条件下では不安定であり、分解してしまうという問題がありました。

 今回の研究では、特定の触媒と反応条件を用いることで、弱塩基条件下でも効率的に反応が進行することが示されました。

 この手法により、従来は反応が困難であった不安定な有機ホウ素化合物も利用できるようになり、合成できる有機化合物の種類が大幅に広がることが期待されます。

今回の研究は、有機ホウ素化合物の安定性と反応性を両立させる新しい手法が開発されたものです。

なぜ、有機ホウ素化合物は塩基で不安定になるのか

 有機ホウ素化合物が塩基によって不安定になる理由は、以下のようないくつかの要因が複雑に絡み合っています。

 ホウ素のルイス酸性

  • ホウ素原子は、電子不足の状態にあり、ルイス酸として働きます。つまり、電子対を受け取る性質があります。
  • 塩基は電子対供与体であるため、ホウ素原子と強く相互作用し、付加反応を起こしやすいです。
  • この付加反応によって、有機ホウ素化合物の構造が変化し、分解反応が進行することがあります。

ホウ素-炭素結合の性質

  • ホウ素-炭素結合は、炭素-炭素結合に比べて極性が高く、塩基による攻撃を受けやすい性質があります。
  • 特に、特定の置換基を持つ有機ホウ素化合物では、塩基による攻撃によってホウ素-炭素結合が切断され、分解が進行しやすくなります。

特定の有機ホウ素化合物の構造的要因

  • これらの化合物は、構造的な特徴から塩基との反応性が高く、分解しやすい傾向があります。
  • 特に、2-ピリジルやペンタフルオロフェニル、チアゾリルのような構造を持つ有機ホウ素化合物は、中性や塩基性条件下で非常に不安定であることが知られています。

ホウ素の酸としての反応性やホウ素‐炭素結合の極性の高さ、構造的な特徴などから塩基に対して不安定になってしまいます。

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