この記事で分かること
・仮眠のサポート方法:眠りの深さに応じて血流速度が変わるため、血流の測定によって、睡眠段階の推定を行うことが可能。自然に目覚めやすいタイミング(血流量が増加し始めたとき)」に起床を促します。
・日本人の睡眠の問題点:日本人の平均睡眠時間は約7時間22分で、調査対象33カ国中最も短いと報告されている。睡眠の質も低く、睡眠不足が労働生産性の低下や経済損失につながっています。
・パワーナップとは:短時間の仮眠」で脳をリフレッシュし、集中力・作業効率を向上させる方法のことです。パワーナップによる認知能力や注意力の向上が報告されています。
仮眠起床AIシステムの開発
京セラ株式会社と筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)は共同研究により、最適な仮眠をサポートする仮眠起床AIシステム「sNAPout®」を開発したことを発表しています。
https://www.kyocera.co.jp/newsroom/news/2025/002701.html?utm_source=chatgpt.com
このシステムは、血流量センサを搭載したイヤホンデバイスとAIを搭載したスマートフォンアプリで構成されています。
開発の背景には、日本人の平均睡眠時間が国際的に見ても短く、睡眠不足が労働生産性の低下や経済損失につながっている現状があります。この課題を解決するため、短時間の仮眠(パワーナップ)を効果的に活用し、日中の生産性向上を支援するシステムとして開発されています。
なぜ、血流量で睡眠の分析ができるのか
末梢血流量(指先や耳たぶなどの血流の変化)は、自律神経の活動や睡眠段階と関連があるため、睡眠状態の推定に活用できます。
血流量と睡眠の関係
- 自律神経の変化
- 眠りにつくと、副交感神経が優位になり、血管が拡張して血流が増加する傾向があります。
- 深い睡眠時(徐波睡眠)には、心拍数と血流が低下します。
- レム睡眠時には、自律神経の変動が大きくなり、血流量も変化します。
- 脈波と血流の測定
- 光電式容積脈波(PPG, Photoplethysmography)
- 指先や耳たぶにLED光を当て、血液の流れを測定する技術です。
- スマートウォッチやイヤホン型センサーにも搭載され、心拍数や血流の変化をモニタリングできます。
- 血流速度の変化
- 眠りの深さに応じて血流速度が変わるため、睡眠段階の推定に使えます。
- 光電式容積脈波(PPG, Photoplethysmography)
- AIとの組み合わせ
- 収集した血流データをAIで解析することで、個人ごとの睡眠パターンを学習し、最適な仮眠時間や起床タイミングを提案できます。
メリットと課題
✅ メリット
- 体動センサー(加速度計)よりも正確に睡眠の質を評価できる可能性がある。
- 非侵襲的に測定でき、耳や指先に装着するだけで計測可能。
⚠ 課題
個人差があるため、大規模なデータでAIを学習させる必要がある。
血流量は外気温や体温の影響を受けやすいため、ノイズ除去の工夫が必要。

眠りの深さに応じて血流速度が変わるため、血流の測定によって、睡眠段階の推定を行うことが可能です。一方で。個人差があるため大規模なデータをAIで学習させる必要があります。
適正な起床時間をどうやって求めるのか
適正な起床時間を求める方法はいくつかありますが、仮眠の最適なタイミングを決めるためには、睡眠の段階や生体リズムを考慮する必要があります。
1. 睡眠サイクルの考慮
人間の睡眠は「ノンレム睡眠(深い眠り)」と「レム睡眠(浅い眠り)」を繰り返します。
- 深い睡眠(徐波睡眠)中に起こされると、強い眠気や疲労感が残る。
- 浅い睡眠(レム睡眠または軽いノンレム睡眠)のときに起きると、スッキリ目覚めやすい。
AIは、センサー(血流量・脈波・加速度センサーなど)から得られたデータを解析し、浅い睡眠のタイミングで起床を促します。
2. 血流量と自律神経の変化から判断
仮眠中の血流量の変化をモニタリングすることで、睡眠段階を推定できます。
- 入眠時 → 副交感神経が優位になり、血流量が増加。
- 深い睡眠時 → 交感神経の活動が抑制され、血流が安定して減少。
- 覚醒に近づくと → 交感神経が活発になり、血流量が増え始める。
AIは、血流量のパターンを学習し、「自然に目覚めやすいタイミング(血流量が増加し始めたとき)」に起床を促します。
3. 仮眠時間の最適化
仮眠の長さによって、適切な起床時間が変わります。
- パワーナップ(10~20分)
- 浅いノンレム睡眠の段階で目覚める。
- 眠気が軽減し、作業効率向上が期待できる。
- 60分仮眠
- 深いノンレム睡眠に入り始めるが、起床タイミングを間違えると眠気が残る可能性あり。
- 90分仮眠
- 1回の睡眠サイクル(約90分)を終えてレム睡眠で目覚めるとスッキリしやすい。
AIは、仮眠の長さとユーザーの睡眠状態を考慮し、最もスムーズに目覚められるタイミングを選びます。
4. ユーザーのデータを学習して最適化
- 個人の睡眠データを蓄積し、最適な起床タイミングをカスタマイズ。
- 体調や日中の活動レベル(スマートウォッチのデータなど)も考慮。

血流量のパターンを学習し、「自然に目覚めやすいタイミング(血流量が増加し始めたとき)」に起床を促します。
日本人の睡眠時間の平均
日本人の平均睡眠時間は、国際的に見て短い傾向があります。
日本人の平均睡眠時間
- OECDの調査:2021年の経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、日本人の平均睡眠時間は約7時間22分で、調査対象33カ国中最も短いと報告されています。
- フィリップスの調査:2023年のフィリップスによる「睡眠に関する調査2023」では、日本人の平均睡眠時間は6.8時間とされています。
他国との比較
OECDの同調査によると、他国の平均睡眠時間は以下の通りです:
- アメリカ:8時間51分
- フランス:8時間32分
- 中国:9時間1分
これらの数値と比較すると、日本人の睡眠時間は他国よりも1時間以上短いことがわかります。
年代別の睡眠時間
日本国内の調査では、特に働き盛りの世代で睡眠時間が短い傾向があります。例えば、40~49歳の平均睡眠時間は5~6時間未満が最も多いと報告されています。
睡眠の質に関する満足度
さらに、睡眠の質に「満足していない」と回答した日本人の割合は40%で、世界ワースト1位とされています。

日本人の平均睡眠時間は約7時間22分で、調査対象33カ国中最も短いと報告されています。今回の開発品は睡眠不足を補う短時間の仮眠(パワーナップ)への適用も期待されています。
パワーナップとは何か
パワーナップ(Power Nap)とは、短時間(10~30分程度)の仮眠を取ることで、脳をリフレッシュし、集中力や作業効率を向上させる睡眠法です。アメリカの心理学者 ジェームス・マース(James Maas) によって提唱されました。
パワーナップの効果
✅ 眠気の軽減 → 午後の眠気を和らげ、作業効率を向上
✅ 集中力アップ → 学習能力や記憶力の向上
✅ ストレス軽減 → 自律神経を整え、リラックス効果
✅ 心身の疲労回復 → 短時間でも脳の疲れが取れ、気分がスッキリ
NASAの研究によると、26分の仮眠で認知能力が34%、注意力が54%向上 することが確認されています。
適切なパワーナップの取り方
- 10~20分程度が理想
- 30分以上眠ると、深い睡眠に入りやすく、起きたときにぼんやり(睡眠慣性)が残る可能性がある。
- 昼食後の13~15時が最適
- 人間の体内リズム(サーカディアンリズム)により、この時間帯は眠気が強くなりやすい。
- 横にならず、椅子で寝る
- ベッドに入ると本格的な睡眠に入ってしまうため、椅子やデスクで軽く寝るのが理想。
- カフェイン+仮眠(コーヒーナップ)を活用
- 仮眠前にコーヒーを飲むと、カフェインが効き始める20~30分後にスッキリ目覚めやすい。
パワーナップの活用例
- Google, Apple, NASA などの企業や組織では、社員のパフォーマンス向上のために仮眠スペースを提供。
- スポーツ選手 も試合前やトレーニングの合間に短い仮眠を取り、集中力を高めている。

パワーナップは「短時間の仮眠」で脳をリフレッシュし、集中力・作業効率を向上させる効果的な方法で、今回の開発品は質の高いパワーナップを実現する助けとなります。
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