国立機関​国立健康危機管理研究機構:JIHS設立 どのような研究機関なのか?どのような研究をしているのか?

  1. この記事で分かること
  2. 国立機関​国立健康危機管理研究機構:JIHS設立
  3. JIHSの役割
    1. 情報収集・分析・リスク評価機能
    2. 研究・開発機能
    3. 臨床機能
    4. 人材育成・国際協力機能
  4. 統合した理由は何か
    1. 1. 新型コロナの教訓:機動的な対応の限界
    2. 2. 情報・研究・臨床の「三位一体化」
    3. 3. 司令塔機能の強化
    4. 4. 人材とノウハウの集約
  5. 国際連携はどのような形になるのか
    1. 1. WHOなど国際機関との連携強化
    2. 2. 国際感染症ネットワークの構築
    3. 3. 技術協力と能力強化支援(キャパシティ・ビルディング)
    4. 4. 国際共同研究の推進
    5. 5. グローバルヘルス人材の育成
  6. 基礎研究にはどんなものがあるか
    1. ◆ 1. 病原体の分子生物学的解析
    2. ◆ 2. ウイルス・細菌の進化と伝播の研究
    3. ◆ 3. 免疫応答・ワクチン研究
    4. ◆ 4. 薬剤耐性(AMR)メカニズムの解明
    5. ◆ 5. 感染モデル・動物実験
    6. ◆ 6. バイオインフォマティクスとAI解析
    7. ◆ 7. ヒト細胞やオルガノイドを使った感染解析
  7. ワクチン開発に向けた基礎研究はどのように行われているか
    1. ◆ ワクチン開発に向けた主な基礎研究分野
        1. 1. 抗原の同定と構造解析
        2. 2. 免疫応答の解析(自然免疫・獲得免疫)
        3. 3. アジュバント(免疫増強剤)の開発
        4. 4. mRNA・DNA・ウイルスベクター型などの次世代ワクチンプラットフォーム研究
        5. 5. 感染動物モデルでのワクチン評価
        6. 6. ワクチンによるブレークスルー感染や免疫逃避のメカニズム研究
    2. ◆ 具体的な対象感染症の例
    3. ◆ 今後の注力ポイント

この記事で分かること

・設立の目的:感染症研究と国際医療の専門性を統合し、科学的知見を政府に提供する専門家組織としてJIHSが創設されました。

・国際的な立ち位置:アジア・世界の健康安全保障を支える国際的なハブ機関としての役割を果たすことが期待されています。

・研究内容:将来の診断・パンデミック時の緊急研究だけでなく、治療・予防に繋がる科学的土台づくりを目的とした研究が多く行われています。

国立機関​国立健康危機管理研究機構:JIHS設立

 2025年4月に国立感染症研究所(NIID)と国立国際医療研究センター(NCGM)が統合し、厚生労働省所管の新たな国立機関​国立健康危機管理研究機構(JIHS:Japan Institute for Health Security)が設立されています。

 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20250411_n01/index.html

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックを契機に、感染症やその他の健康危機への対応力強化が求められました。​

 これを受けて、感染症研究と国際医療の専門性を統合し、科学的知見を政府に提供する専門家組織としてJIHSが創設されました。

JIHSの役割

JIHSは以下の4つの主要機能を担っています。

情報収集・分析・リスク評価機能

​ 感染症のサーベイランスや情報分析を行い、国内外の関係機関と連携して感染症インテリジェンスのハブとして機能します。​

研究・開発機能

​ 基礎研究から臨床試験までを戦略的に進め、感染症危機時には迅速な研究開発対応を行います。​

臨床機能

 高度な臨床能力を備え、国立国際医療研究センターの総合病院機能を継承・強化し、人々の健康を守ります。​

人材育成・国際協力機能

​ 産官学連携や国際的な人事交流を通じて、多様な専門家の育成・確保に努め、グローバルヘルスに貢献する国際協力を推進します。 ​

統合した理由は何か

 国立感染症研究所(NIID)と国立国際医療研究センター(NCGM)を統合して国立健康危機管理研究機構(JIHS)を設立した主な理由は、以下のような「健康危機管理体制の強化」にあります。


1. 新型コロナの教訓:機動的な対応の限界

 コロナ禍では、感染症のリスク評価・研究・対策の決定などが複数の機関に分散していたため、迅速で一貫性のある対応が難しかったという課題がありました。

  • 例えば、感染症研究(NIID)と臨床現場(NCGM)が別機関だったため、情報の伝達や研究と臨床の連携にタイムラグが生じることがあった。

2. 情報・研究・臨床の「三位一体化」

 感染症対策においては、次の3つを統合的に運用することがカギとされました。

  • 情報収集・分析(NIID)
  • 研究開発(NIID & NCGM)
  • 臨床・国際対応(NCGM)

 この三位一体を1つの機構に集約することで、平時・有事の切り替えを迅速に行える体制を整えるという狙いがあります。


3. 司令塔機能の強化

 JIHSは、科学的根拠に基づいた政府への助言機関(ヘルスセキュリティの司令塔)としての役割も担います。NIIDやNCGM単体ではカバーしきれなかった政策決定への関与や国際連携の機能強化を目指しています。


4. 人材とノウハウの集約

 国内外の専門人材・研究リソースを統合することで、競争力ある研究と国際対応力を高める。これは、パンデミックや新興感染症といった国際的な課題に対する日本の対応力を強化することにもつながります。

「研究」「現場」「政策提言」を一体化して、次の健康危機にもっと強く・速く・柔軟に対応する」ために統合を行っています。

国際連携はどのような形になるのか

 国立健康危機管理研究機構(JIHS)における国際連携の役割は、日本がグローバルな健康危機(感染症パンデミックなど)に迅速かつ効果的に対応できるよう、国際機関や各国の公衆衛生機関と協力体制を強化することにあります。


1. WHOなど国際機関との連携強化

  • JIHSは、世界保健機関(WHO)やアジア太平洋地域の保健当局と連携し、感染症の早期警戒やリスク評価、技術支援を行います。
  • 特に、WHOのR&D BlueprintやPIP Frameworkといったパンデミック対応の枠組みに積極的に参加。

2. 国際感染症ネットワークの構築

  • 日本をハブとしたアジア感染症研究ネットワークの中核機関として、周辺諸国と検査技術、病原体情報、臨床データの共有を推進。
  • ASEAN各国、米CDC(疾病予防管理センター)、欧州CDCなどとMOU締結・人材交流。

3. 技術協力と能力強化支援(キャパシティ・ビルディング)

  • 東南アジアやアフリカなどの発展途上国に対して、
    • 検査キットや診断技術の提供
    • 現地研究者・医師のトレーニング
    • 疫学調査の共同実施 などの技術協力を展開しています。

4. 国際共同研究の推進

  • 感染症ワクチン・治療薬の開発で、多国間共同研究を積極的に行っています。
    • 例:mRNAワクチンの臨床研究を米国・欧州の研究機関と共同で実施。
  • WHOやCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)との連携も強化。

5. グローバルヘルス人材の育成

  • JIHSは国内外の大学・機関と連携し、グローバルヘルス分野の専門人材を育成
  • WHOや国連機関に日本人専門家を派遣するための研修プログラムやキャリア支援制度を用意。

JIHSは日本の感染症研究の中心としてだけでなく、アジア・世界の健康安全保障を支える国際的なハブ機関としての役割を果たすことが期待されています。

基礎研究にはどんなものがあるか

 国立健康危機管理研究機構(JIHS)で行われる基礎研究は、感染症や健康危機に関する「病原体の理解」や「ヒトの免疫応答の仕組み解明」など、将来の診断・治療・予防に繋がる科学的土台づくりを目的としたものです。


◆ 1. 病原体の分子生物学的解析

  • ウイルスや細菌の遺伝子構造、変異、感染メカニズムを解析
  • 例:新型コロナウイルス、インフルエンザ、麻疹、結核、耐性菌 など
  • 病原体のゲノムシーケンスを通じて、変異株の出現を早期に検出

◆ 2. ウイルス・細菌の進化と伝播の研究

  • 感染症がどのように動物から人へうつるか(人獣共通感染症)を解明
  • 地理的・時間的な広がり(エピデミックやパンデミック)のモデル化
  • 例:コウモリ起源のウイルスやダニ媒介ウイルスの研究

◆ 3. 免疫応答・ワクチン研究

  • ヒトの免疫がウイルス・細菌にどう反応するかを解明
  • 例:細胞性免疫・液性免疫の反応パターン、記憶免疫
  • mRNAワクチンなどの次世代ワクチンの設計基盤にも

◆ 4. 薬剤耐性(AMR)メカニズムの解明

  • 耐性菌(MRSA、CREなど)が薬剤に対してどのように耐性を持つのかを分子レベルで解明
  • 新しい抗菌薬のターゲットを見つける研究にもつながる

◆ 5. 感染モデル・動物実験

  • マウス・フェレット・霊長類などの動物を使い、感染の進行や病態の再現を行う
  • ワクチンや治療薬候補の前臨床評価にも使われる

◆ 6. バイオインフォマティクスとAI解析

  • 病原体の遺伝子データや感染拡大のビッグデータをAIや統計モデルで解析
  • 変異の予測、免疫逃避のシミュレーションなど

◆ 7. ヒト細胞やオルガノイドを使った感染解析

  • 人の気道・腸管などを模したオルガノイド(ミニ臓器)にウイルスを感染させ、病原性や薬効を評価

JIHSでは、将来の診断・治療・予防に繋がる科学的土台づくりを目的とした研究が多く行われています。

ワクチン開発に向けた基礎研究はどのように行われているか

 ワクチン開発に向けた基礎研究は、「免疫の仕組み」と「病原体の特徴」を深く理解することから始まります。

 JIHS(国立健康危機管理研究機構)では、感染症に対する安全で効果的なワクチンを迅速に設計・開発できるようにするための研究が平時から行われています。


◆ ワクチン開発に向けた主な基礎研究分野

1. 抗原の同定と構造解析
  • ウイルスや細菌の中で免疫が反応しやすいタンパク質(抗原)を見つけ出す。
  • 抗原の立体構造(3D構造)をX線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡などで詳しく調べ、抗体がどこに結合するかを特定。例:新型コロナウイルスのスパイクタンパク質(Sタンパク)の安定化変異設計

2. 免疫応答の解析(自然免疫・獲得免疫)
  • ヒトや動物の体内で、ワクチンに対してどのような免疫が働くかを調査。
  • B細胞による中和抗体産生だけでなく、T細胞によるウイルス排除や免疫記憶の形成も重要。

3. アジュバント(免疫増強剤)の開発
  • 弱い抗原にも強い免疫反応を起こすための補助成分(アジュバント)を開発。
  • JIHSでは新しいアジュバント候補を見つけ出し、その作用機序や安全性を解析する研究が行われています。

4. mRNA・DNA・ウイルスベクター型などの次世代ワクチンプラットフォーム研究
  • 新興感染症に迅速対応するため、mRNAワクチンやウイルスベクターワクチンなどの基盤技術の確立に取り組む。
  • 各プラットフォームの投与方法、安定性、免疫誘導力を比較・改善。

5. 感染動物モデルでのワクチン評価
  • ワクチン候補を動物に接種し、その後に病原体を感染させて発症防止効果を評価
  • ウイルス量・免疫応答・症状の変化などを詳細にモニタリング。

6. ワクチンによるブレークスルー感染や免疫逃避のメカニズム研究
  • ワクチン接種後に感染が起こる「ブレークスルー感染」がなぜ起こるかを研究。
  • ウイルスの抗原変異(変異株)に対して免疫がどう対応できているかを調査。

◆ 具体的な対象感染症の例

  • COVID-19(新型コロナウイルス)
  • インフルエンザ(パンデミック株含む)
  • 結核(BCGの改良型など)
  • デング熱、ジカ熱、黄熱(蚊媒介感染症)
  • 出血熱ウイルス(ラッサ、エボラなど)

◆ 今後の注力ポイント

  • パンデミック候補病原体の事前対応(Disease X)
  • ワクチン耐性を防ぐための多価抗原設計
  • 途上国でも使える安価・安定なワクチンの設計

ワクチン開発に向けた基礎研究とは「病原体の動き」と「人の免疫の仕組み」の両方を科学的に理解し、応用へ橋渡しする研究です。

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