光免疫療法の臨床試験 光免疫療法とは何か?なぜがん細胞を狙い撃てるのか?

この記事で分かること

  • 光免疫療法とは:がん細胞に特異的な抗体を付与し、抗体に光感受性物質を結合させます。その後近赤外線レーザーを照射すると、光感受性物質が活性化して、がん細胞の膜を破壊することができます。
  • がん細胞を狙い撃てる理由:がん細胞は正常な細胞とは異なるタンパク質(抗原)をたくさん作ったり、表面に異常な構造を持っているため、抗体を結合させることが可能。
  • 光感受性物質とは:特定の波長の光(主に近赤外線)を吸収すると、エネルギーをもらって活性化され、活性酸素種を発生させます。反応性の高い活性酸素種ががん細胞を攻撃します。

光免疫療法の臨床試験

 光を当ててがん細胞だけを壊し、抗がん剤や手術などに次ぐ「第5のがん治療法」として注目される「光免疫療法」を巡り、関西医科大と島津製作所は15日、光に反応する色素を用いた新たな臨床研究を始めると明らかにしています。https://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/2504/16/news148.html

 腫瘍の位置を正確に特定することができれば、治療漏れを防ぐなどの効果への期待があります。

光免疫療法とは何か

 光免疫療法(こうめんえきりょうほう)は、がん治療の中でも比較的新しいアプローチで、「がん細胞だけを選んで壊す」ことを目的とした治療法です。副作用が少なく、身体への負担が小さいという特徴があります。


■ 仕組み

  1. がん細胞に特異的な抗体を使って、がん細胞の表面にある特定のタンパク質(マーカー)に結合。
  2. その抗体に、光に反応する薬剤(光感受性物質)を結合させる。
  3. この複合体を患者に投与すると、がん細胞だけに選択的に集まる。
  4. そこに近赤外線レーザーを照射すると、光感受性物質が活性化して、がん細胞の膜を破壊し、細胞を死滅させる。

■ 特徴

  • 正常な細胞にはほとんど影響しない(がん細胞だけを狙える)
  • 手術・放射線・抗がん剤と併用可能
  • 副作用が少ない
  • 繰り返し治療が可能

■ 実用例と進展

  • 日本では楽天メディカル社の「アキャルックス(抗体)+近赤外線照射」が先行し、頭頸部がんへの治療で承認されています(2020年)。
  • 関西医科大学では乳がん(特にトリプルネガティブ乳がん)への応用が研究されており、新たな標的分子としてICAM-1を活用。
  • 島津製作所は、治療の「見える化」や「効果測定」のための機器開発を進行中。

がん細胞の表面にある特定のタンパク質(マーカー)に特異的な抗体を結合させ、その抗体に、光に反応する薬剤(光感受性物質)を結合させます。

その後、近赤外線レーザーを照射すると、光感受性物質が活性化して、がん細胞の膜を破壊し、細胞を死滅させることが可能になります。

なぜがん細胞に選択的にマーカーをつけられるのか

 がん細胞に選択的にマーカー(抗体など)をつけられる理由は、がん細胞が正常な細胞とは異なる「目印(ターゲット分子)」を持っているからです。


■ がん細胞の特徴的な目印(ターゲット)

 がん細胞は、以下のような理由で特定のタンパク質(抗原)をたくさん作ったり、表面に異常な構造を持ったりしています。

  • 異常に増殖する:細胞分裂を活性化するタンパク質が多く発現される(例:EGFR)
  • 酸素が少ない環境に対応する:血管新生に関与する物質(例:VEGF)
  • 免疫から逃れる仕組みを持つ:免疫抑制分子の発現が高い(例:PD-L1)
  • がんの種類によって特異的なマーカーがある(例:HER2は乳がんで高発現)

■ 抗体による選択的な結合

抗体は「鍵と鍵穴」の関係のように、特定のタンパク質(抗原)にしか結合しません。

  1. 抗体は、がん細胞に多く存在する目印(例:EGFRやHER2)に合わせて設計されます。
  2. 正常細胞にはその目印が少ない、またはないため、抗体はほとんど結合しません。
  3. その結果、がん細胞だけを選んで抗体(=マーカー)を届けることができるというわけです。

■ 光免疫療法での応用

 この「選択的な抗体」を、光に反応する薬剤と結合させることで、がん細胞だけに薬剤を集め、光を当てて「狙い撃ち」ができます。

がん細胞は正常な細胞とは異なるタンパク質(抗原)をたくさん作ったり、表面に異常な構造を持っています。

そのため、選択性をもつ抗体を付与すると、がん細胞だけを選んで抗体(=マーカー)を届けることができます。

光に反応する薬剤はどのような仕組みで反応するのか

 光に反応する薬剤=光感受性物質は以下のような仕組みでがん細胞を壊しています。

■ 仕組み:どうやって光で細胞を壊すのか

 光感受性物質(photosensitizer)は、特定の波長の光(主に近赤外線)を吸収すると、エネルギーをもらって活性化されます。

活性化された光感受性物質は、周囲の酸素と反応して:

  • 活性酸素種(ROS)という非常に反応性の高い分子を発生
  • それが細胞膜やミトコンドリアなどを化学的に攻撃
  • 結果としてがん細胞が壊れる or 自滅(アポトーシス)する

つまり、光でスイッチを入れるような感じで、がん細胞を中から壊しています。


■ 代表的な光感受性物質

名称特徴使用例
IR700(IRdye700DX)近赤外線で活性化される色素。水溶性が高く抗体と結合しやすい。光免疫療法(楽天メディカルの製剤)で使用中
ポルフィリン誘導体(例:Photofrin)初期の光線力学療法(PDT)で使用。がん組織に蓄積しやすい。肺がん・食道がんなどに承認済み
タロクロール(タロスフォトン)日本で開発された新しい光感受性物質研究段階/一部臨床応用

光に反応する薬剤=光感受性物質は、特定の波長の光(主に近赤外線)を吸収すると、エネルギーをもらって活性化され、活性酸素種を発生させます。

活性酸素種は非常に反応性が高いため、細胞膜やミトコンドリアなどを化学的に攻撃し、がん細胞が壊れる or 自滅(アポトーシス)させることが可能です。

活性酸素種とは何か

 活性酸素種は、「酸素が変身して、非常に反応しやすくなった状態」のことです。
体の中で自然にできるもので、多すぎると細胞を傷つける厄介者にもなりますが、うまく使えば、がん細胞を壊す武器にもなります。

活性酸素種の主な種類

名称化学式特徴
スーパーオキシドO₂⁻最も基本的なROS。ミトコンドリアで発生
過酸化水素H₂O₂比較的安定。細胞内の酵素で分解される
ヒドロキシラジカル·OH超強力で危険。DNAや脂質を一瞬で破壊
一重項酸素¹O₂光免疫療法などで重要。光で活性化される

どうやって作られるのか 

 体内で酸素を使ってエネルギーを作るとき(ミトコンドリア呼吸)や、免疫細胞が細菌を壊すときに自然に発生します。また、紫外線・放射線・化学物質・喫煙・ストレスなどでも増えます。

活性酸素種の良い働き

  • 細菌やウイルスを攻撃(免疫の一部)
  • がん治療で使う(光免疫療法や放射線療法)

活性酸素種悪い働き(酸化ストレス)

  • DNAや細胞膜を傷つける → 老化・がん・動脈硬化の原因
  • 酵素やタンパク質の機能を壊す

 体には「抗酸化物質(例:ビタミンC、E、グルタチオン、SOD酵素)」という防御システムがあって、活性酸素を中和してくれます。しかし、そのバランスが崩れると病気の元となります。 

光免疫療法と活性酸素

 光免疫療法では、近赤外線を照射すると、光感受性物質が「一重項酸素(¹O₂)」という活性酸素種を発生させ、がん細胞の膜をピンポイントで破壊しています。

活性酸素種は、「酸素が変身して、非常に反応しやすくなった状態」であり、バランスが崩れると病気の要因となりますが、適切に使えば、免疫やがん治療にも利用できます。

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