CEM3の特性 CEM3とは何か?プリント配線板のベース材としてどんな特性があるのか?

この記事で分かること

  • CEM3とは:ガラス不織布にエポキシ樹脂を含浸させたプリント基板のベース材料の一種でコストパフォーマンスに優れた材料です。
  • どんな特性を持つのか:FR-4よりも機械的強度には劣るものの、高周波特性に優れています。
  • なぜ、FR-4よりも高周波特性に優れるのか:一般的にFR-4よりも誘電正接が低く、板厚精度が高いため、高周波特性に優れる性能を持ちます。

CEM3の特性

 プリント基板は電子回路の部品を取り付け、配線するための土台であり、現代の電子機器にはほぼすべて使われています。

 前回の記事では、FR-4について解説しました。今回の記事ではCEM3について解説しています。

配線板ベース材料に求められるもの

 プリント配線板のベース材料に求められるものは、多岐に渡り、使用される環境や用途によって重要となる特性が異なります。主な要素としては、以下の点が挙げられます。

1. 電気的特性

  • 絶縁性: 電流が意図しない箇所に流れないようにする性能。絶縁抵抗が高いことが求められます。
  • 誘電率 (Dk): 電気信号の伝送速度に影響。高速伝送が求められる用途では低い誘電率が望ましいです。
  • 誘電正接 (Df): 電気信号の損失を示す指標。高周波用途では低い誘電正接が重要になります。
  • 耐トラッキング性 (CTI): 沿面放電に対する抵抗性。高電圧環境下や湿度の高い環境下で重要です。

2. 機械的特性

  • 強度: 製造工程や実装、使用時の応力に耐える強度。曲げ強度、引張強度など。
  • 寸法安定性: 温度変化や湿度変化による基板の変形が少ないこと。
  • 加工性: 穴あけ、切断、多層化などの加工が容易であること。
  • 柔軟性: フレキシブル基板の場合、屈曲性や耐久性が求められます。

3. 熱的特性

  • 耐熱性 (Tg: ガラス転移温度): 高温下でも基板の機械的・電気的特性を維持できること。
  • 熱膨張率 (CTE): 温度変化による基板の膨張・収縮の度合い。部品との熱膨張の差が小さいことが望ましいです。
  • 熱伝導性: 部品から発生する熱を効率よく逃がす性能。高密度実装化が進む中で重要性が増しています。

4. 環境特性

  • 難燃性 (UL規格など): 火災発生のリスクを低減する性能。
  • 耐薬品性: 製造工程や使用環境における薬品に対する耐性。
  • 吸湿性: 湿度変化による特性変化が少ないこと。
  • RoHS指令などへの適合: 環境負荷物質を含まないこと。

その他

  • コスト: 用途に見合った適切なコストであること。
  • 信頼性: 長期間にわたって安定した性能を維持できること。

プリント配線板のベース材料には、絶縁特性などの電気特性、機械的な強度、熱耐性や部品と似た膨張率など様々な特性が求められます。

これらの特性とコストなどから総合的に判断し、材料が選択されています。

CEM3とは何か

 CEM3(セムスリー)は、プリント基板のベース材料の一種です。主に以下のような特徴があります。

材料

  • ガラス不織布にエポキシ樹脂を含浸させた複合材料
  • 表面に銅箔を積層

特徴

  • コストパフォーマンス: 一般的にFR-4よりも安価
  • 加工性: FR-4よりも打ち抜き加工やVカットがしやすい
  • 電気特性: FR-4と同等レベル
  • 耐トラッキング性: FR-4より優れている
  • 高周波特性: 優れている
  • 板厚精度: 優れている
  • 熱伝導性: 近年、熱伝導性を高めたCEM3材がLED用途などで注目されている

用途

  • 主に両面基板や片面基板に使用
  • コストを抑えたい民生用電子機器など
  • 耐トラッキング性が求められる用途
  • 高周波回路

FR-4との違い

  • 基材: FR-4はガラス織布を使用するのに対し、CEM3はガラス不織布を使用
  • 機械的強度・寸法安定性: 一般的にFR-4の方が優れているため、多層基板には不向き
  • 価格: CEM3の方が安価

 CEM3は、FR-4と比較してコストと加工性に優れており、特定の用途においてはFR-4の代替として有効な材料です。

CEM3は、ガラス不織布にエポキシ樹脂を含浸させたプリント基板の材料の一種でコストパフォーマンスに優れた材料になっています。

高周波特性に優れる理由

 CEM3がFR-4よりも高周波特性に優れる主な理由は、以下の点が考えられます。

1. 誘電正接(tanδ)が低い

  • 誘電正接は、交流電場が印加された際に誘電体(絶縁体)内部で電気エネルギーが熱エネルギーに変換されて失われる割合を示す指標です。
  • 誘電正接が低いほど、高周波信号の伝送損失が少なくなり、信号の減衰を抑えることができます。
  • 一般的に、CEM3はFR-4と比較して誘電正接が低い傾向にあります。これにより、高周波信号がより効率的に伝送されるため、高周波特性が優れると言えます。

2. 板厚精度が高い

  • 高周波回路では、配線のインピーダンス制御が非常に重要です。インピーダンスは、配線の幅や厚み、そして基板の誘電率や板厚によって決まります。
  • CEM3は、FR-4と比較して板厚のバラツキが小さく、高い板厚精度を有しています。
  • 板厚精度が高いことで、設計されたインピーダンスを正確に実現しやすく、高周波信号の反射や歪みを抑制することができます。

3. 誘電率の周波数特性が良い

  • 誘電率は、電気信号の伝送速度に影響を与える材料の特性です。高周波領域では、誘電率の周波数による変化が小さい方が望ましいです。
  • CEM3は、FR-4と比較して、高周波領域における誘電率の安定性に優れている場合があります。

CEM3が高周波特性に優れる主な理由は、一般的にFR-4よりも誘電正接が低く、板厚精度が高いためです。これにより、高周波信号の損失が少なく、安定した信号伝送が可能になります。

誘電正接が低い理由

 CEM3のほうが誘電正接が低い理由は、製造方法と主成分の違いに起因します。

FR-4 (ガラス織布 + エポキシ樹脂)

  • FR-4は、ガラス繊維を織った布(ガラスクロス)をエポキシ樹脂で含浸・積層し、高温高圧でプレスして作られます。
  • ガラスクロスは、織り方や繊維の種類によってわずかに隙間が生じることがあります。また、プレス時に樹脂が完全に均一に充填されない場合や、ガラス繊維と樹脂の界面に微細な空隙が残る可能性があります。
  • これらの不均一な構造や界面は、高周波の電場が印加された際に分極や緩和を起こしやすく、エネルギー損失(誘電損失)の原因となり、結果として誘電正接が高くなる傾向があります。
  • また、エポキシ樹脂の種類によっても誘電特性は異なりますが、一般的なFR-4で使用されるエポキシ樹脂は、CEM3で使用される樹脂と比較して、高周波領域での誘電損失が大きい場合があります。

CEM3 (ガラス不織布 + エポキシ樹脂)

  • CEM3は、ガラス繊維を織らずにランダムに配置した不織布(ガラスマット)をエポキシ樹脂で含浸・積層して作られます。
  • ガラス不織布は、織布のような規則的な構造を持たないため、樹脂がより均一に充填されやすく、ガラス繊維と樹脂の界面における空隙も比較的少なくなりやすいと考えられます。
  • また、CEM3で使用されるエポキシ樹脂は、FR-4と比較して高周波特性に優れたものが選択される傾向があることも、誘電正接が低くなる要因の一つです。
  • さらに、プレス工程においても、不織布の特性から、より均一な密度で成形しやすい可能性があり、これが誘電特性の安定につながることも考えられます。

CEM-3が誘電正接に優れるのは、使用されるガラス素材の違い、誘電正接の低いエポキシ樹脂が使用される、不織布を使用するため、より均一な構造になるなどの理由からです。

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