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この記事で分かること
- レカネマブとは:アルツハイマー病の進行を抑制する新しい治療薬です。
- アルツハイマーの進行を抑制できる理由:アルツハイマー病の原因の一つである「アミロイドβ(Aβ)」を脳から除去する作用があることで、認知機能の低下を防げています。
- アミロイドβの蓄積はなぜ、アルツハイマーの原因となるのか:アミロイドβの凝集体は炎症の要因や異常なタウタンパク質を生み、神経細胞への毒性やシナプス機能の障害などを引き落とします。
レカネマブのEUでの承認
エーザイが開発した認知症治療薬「レカネマブ」(商品名:レケンビ)は、アルツハイマー病の進行を抑制する新しい治療法として注目されています。
https://www.nnn.co.jp/articles/-/509794
今回、EU域内で厳しい条件付きではあるものの、承認されアルツハイマー病の根本的原因に対処する初の治療薬となるもようです。
アルツハイマー病とは何か
アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)は、最も一般的な認知症の一種で、記憶力や判断力などの認知機能が徐々に低下していく進行性の神経変性疾患です。
◆ 主な特徴
- 初期症状:最近の出来事を忘れる(短期記憶障害)が目立ちます。
- 進行すると:時間・場所の認識障害、判断力低下、言語障害、人格変化などが現れ、日常生活に支障が出ます。
- 最終的には:食事や排せつなど基本的な生活動作も困難になります。
◆ 原因と脳の変化
- アミロイドβ(Aβ):脳内に異常に蓄積され、「老人斑」という変化を引き起こす。
- タウたんぱく質:神経細胞内に蓄積し、「神経原線維変化」を引き起こす。
- 神経細胞の死滅:これが記憶や思考を司る海馬・大脳皮質で進行していきます。
◆ 発症リスク要因
- 加齢(最大のリスク)
- 遺伝的要因(例:ApoE4遺伝子)
- 生活習慣(高血圧・糖尿病・喫煙・運動不足)
- 教育歴・社会的孤立もリスクになることが知られています。
◆ 診断方法
- 医師による問診・認知機能テスト
- MRI・CT:脳の萎縮を確認
- PET検査や脳脊髄液検査でアミロイドβやタウの蓄積を評価
◆ 治療
- 対症療法(症状の進行を遅らせる薬)
- コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)
- NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)
- 疾患修飾薬(原因にアプローチ)
- レカネマブのようにアミロイドβを除去する新薬が登場
◆ 予防のポイント
- 有酸素運動
- バランスの良い食事(地中海食など)
- 社会参加・脳トレ・読書
- 生活習慣病の管理(特に中年期)

アルツハイマー病は、記憶力や判断力などの認知機能が徐々に低下していく進行性の神経変性疾患です。
レカネマブはなぜ認知機能の低下を防げるのか
レカネマブ(Leqembi)が認知機能の低下を防げる理由は、アルツハイマー病の「根本的な原因の一つ」とされる「アミロイドβ(Aβ)」を脳から除去する作用があるからです。
◆ レカネマブの作用機序(なぜ効くのか)
- アミロイドβとは?
脳内に異常に蓄積すると、神経細胞の働きを妨げ、記憶や判断力などの認知機能を低下させるたんぱく質。 - レカネマブの役割
→ アミロイドβの「可溶性オリゴマー」や「凝集体」に対するヒト化モノクローナル抗体
→ それを認識して結合し、免疫細胞(ミクログリア)に“これ壊して”と指示する
→ 結果、アミロイドβが脳から除去される。 - 除去によって何が起きる?
- 脳内環境が改善され、神経細胞へのダメージが軽減
- そのため、記憶や判断などの機能低下の進行が遅くなる
◆ 実際の効果(臨床試験)
- 2022年の「Clarity AD試験」では:
- 18か月の治療で認知機能の低下を約27%抑制
- 脳内のアミロイドβ量も明確に減少
◆ 補足:完全に治す薬ではない
- レカネマブは「進行を遅らせる薬」であって、元に戻すものではありません。
- 初期の段階(軽度認知障害〜軽度認知症)で使うことが重要です。

レカネマブはアルツハイマー病の原因の一つである「アミロイドβ(Aβ)」を脳から除去する作用があることで、認知機能の低下を防げています。
アミロイドβの蓄積が老人斑を起こす理由は何か
アミロイドβ(Aβ)の蓄積が「老人斑(senile plaque)」を起こす理由は、アミロイドβの性質と、脳内での処理機構の破綻にあります。
◆ 1. アミロイドβとは
- 通常はAPP(アミロイド前駆体タンパク質)が分解されてできる断片の一つ。
- 健常人でも常に作られていますが、正常なら分解・排出される。
◆ 2. 蓄積が始まるメカニズム
以下のような原因で、アミロイドβの産生と分解のバランスが崩れます:
- βセクレターゼ・γセクレターゼの異常でAβ42のような“凝集しやすい型”が増える
- 加齢や遺伝的要因(ApoE4など)で、除去が間に合わなくなる
◆ 3. 蓄積→凝集→沈着の流れ
- Aβモノマー(単体)が脳内に蓄積
- → 徐々にオリゴマー(数個が集まった毒性の高い形)になる
- → さらに原線維(フィブリル)に成長し、不溶性の繊維状構造に
- → 最終的に細胞外に沈着し、老人斑となる
◆ 4. 老人斑の構造と影響
- 中心にアミロイドβの凝集体
- 周囲に活性化ミクログリア(炎症を起こす)や異常なタウタンパク質
- 結果として以下のような
- 神経細胞への毒性
- シナプス機能の障害
- 慢性炎症
- 認知機能低下
◆ なぜ「斑」になるのか?
- Aβの凝集は特定の場所(主に海馬や大脳皮質)に偏って起きる
- それが顕微鏡で「斑点状(plaque)」に見えることから「老人斑」と呼ばれます

正常なら分解・排出されるアミロイドβが蓄積されることで、凝集しやすい型が増えてしまいます。アミロイドβの凝集体は炎症の要因や異常なタウタンパク質を生み、神経細胞への毒性やシナプス機能の障害などを引き落とします。
レカネマブはどうやってアミロイドを認識するのか
レカネマブがアミロイドβをどうやって認識して選択的に結合するかは、薬の「設計上の肝」と言えます。
◆ ポイントは「構造の違い」に注目していること
アミロイドβ(Aβ)にはいろんな状態があります:
状態 | 内容 | 脳への影響 |
---|---|---|
単量体(モノマー) | 1本のたんぱく質 | 基本的に無害 |
オリゴマー | 数本が集まった状態 | 神経毒性が強い |
フィブリル・プラーク | 固まって沈着(老人斑) | 蓄積して脳に悪影響 |
◆ レカネマブのターゲット
→ 「可溶性オリゴマー」と「原線維(フィブリル)」を選択的に認識します。
→ これは病的な状態に特有の「立体構造」(コンフォメーション)を目印にして、抗体が特異的に結合するよう設計されています。
- モノクローナル抗体(IgG1)の可変領域(Fab)が、オリゴマーの特有の形にぴったりフィットするよう作られている。
- モノマー(正常なAβ)にはほとんど結合しないので、副作用リスクを減らしています。
- この作用によって、病的なアミロイドβだけを除去でき、正常な脳の働きを邪魔しにくくなります。
→ これがレカネマブの「選択性」と「安全性」の鍵です。

病的なアミロイドβに特有の「立体構造」を認識し、抗体が結合するため、病的なアミロイドβだけを除去でき、正常な脳の働きを邪魔しにくくなります。
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