生命科学・医療 × デザイン思考 アート・クリエイティブ × テクノロジー それぞれの融合の狙い意義は何か?

この記事で分かること

  • 生命科学・医療 × デザイン思考の融合の狙い:製品やサービスを使いやすくするだけでなく、患者さんの尊厳やQOL(生活の質)の向上、医療従事者の働きがい、そして持続可能な医療システムの構築が可能となります。
  • アート・クリエイティブ × テクノロジーの融合の狙い:表現の自由度を高め、新しい創造性を刺激し、アートと社会の関わり方を大きく変える可能性を秘めています。

新学部「UTokyo College of Design」を開設

  東京大学は、2027年9月に約70年ぶりとなる新学部「UTokyo College of Design」を開設することを発表しました。

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 これは1958年の薬学部以来の新設学部であり、文理融合型の革新的な教育課程として注目されています。

 前回の記事では、工学・情報科学 × 社会科学・人文学や環境科学 × 経済・政策に関する融合に解説しましたが、今回は生命科学・医療 × デザイン思考アート・クリエイティブ × テクノロジーについて解説します。

UTokyo College of Designの特徴

 新学部は、東京大学の創立150周年に向けた取り組みの一環として、未来社会に貢献する人材の育成を目指しています。​

特徴 

 「デザイン」を広義に捉え、工業製品の造形や芸術的意匠に留まらず、新たな価値やシステムの創出、複雑な社会課題の解決に向けた創造的なプロセスを含めた幅広い概念として教育を行います。

​ 気候変動や高齢化社会、デジタル化がもたらす影響など、単一の学術領域だけでは解決できない課題に対し、多様な学術知を「デザイン」によって繋ぎ、融合することで、世界にインパクトを与える人材の育成を目指します。

単一の学術領域だけでは解決できない複雑な社会課題の解決に向けた創造的なプロセスを学ぶために、多様な学術知を「デザイン」によって繋ぎ、融合することを目指した学部となります。

どのような分野の融合が期待されているか

 東大の新学部「UTokyo College of Design」で特に融合が期待されている分野には以下のようなものがあります。


1. 工学・情報科学 × 社会科学・人文学

  • 工学やデジタル技術(AI、IoTなど)を駆使しながら、社会制度や文化、倫理までを視野に入れて問題解決する力を育成。
  • 例えば、単に「新しい都市インフラを作る」だけでなく、「人々の暮らしやコミュニティ文化も含めた都市のあり方をデザインする」という発想。

2. 環境科学 × 経済・政策

  • 気候変動や資源管理などのグローバル課題に対して、サステナビリティと経済合理性を両立させる新しいモデル作り。
  • 例えば「CO₂削減のための技術開発+その普及を促す経済政策の提案」のように、テクノロジーと社会運営をセットで考える形です。

3. 生命科学・医療 × デザイン思考

  • 高齢化社会や医療の課題に、単なる医療技術の進歩だけでなく、患者中心のケア設計や、医療体験そのものの再設計を目指す。
  • たとえば「病院の設計を患者目線で変える」「ウェアラブルデバイスによるヘルスケアの社会実装」などがあります。

4. アート・クリエイティブ × テクノロジー

  • 従来は分かれていた芸術的発想最先端技術を組み合わせて、これまでにない新しい価値や体験を生み出す。
  • たとえば「VR空間を使った新しい教育法」や「AIと共創するデザインプロジェクト」のような分野です。

理系だけでも、文系だけでも無理。両方が交わったところにこそ未来がある。
という考えをベースに様々な分野での融合が検討されています。

生命科学・医療 × デザイン思考

 生命科学・医療とデザイン思考の融合は、医療現場やヘルスケア分野において、より人間中心で、患者さんのニーズに寄り添った革新的な解決策を生み出す可能性を秘めています。

 それぞれの分野が持つ強みを組み合わせることで、これまで見過ごされてきた課題に対する新しいアプローチが生まれることが期待されます。

1. 患者体験の向上と個別化された医療

  • 生命科学・医療: 病気のメカニズムを解明し、診断・治療法を開発する専門知識を持っていますが、ともすれば患者さんの感情や経験、生活背景への配慮が不足することがあります。
  • デザイン思考: 患者さんの視点に立ち、共感(Empathize)を通じて潜在的なニーズや課題を深く理解し、それを基にアイデアを発想(Ideate)、プロトタイプを作成(Prototype)、テスト(Test)するプロセスを重視します。
  • 融合: デザイン思考の手法を用いることで、患者さんが治療過程で感じる不安や不便さ、情報へのアクセスしやすさ、医療従事者とのコミュニケーションなど、患者体験全体を向上させるためのデザインが可能になります。例えば、患者さん向けの分かりやすい説明ツールの開発、治療環境の改善、個別化されたケアプランの設計などが挙げられます。

2. 医療機器・ヘルスケア製品の開発

  • 生命科学・医療: 生理学的データや医学的知識に基づいて、効果的な医療機器や治療器具を開発しますが、使いやすさや患者さんの心理的な負担への配慮が十分でない場合があります。
  • デザイン思考: ユーザーである医療従事者や患者さんのニーズ、利用状況を詳細に観察し、人間工学に基づいた操作性、安全性、心理的な安心感を提供する製品デザインを追求します。例えば、高齢者や障がい者にとって使いやすい医療機器、自宅でのケアをサポートする製品、服薬アドヒアランスを高めるための工夫などが考えられます。

3. 医療システム・サービスの革新

  • 生命科学・医療: 効率的な医療提供体制や質の高い医療サービスの実現を目指しますが、複雑なシステムや手続きが患者さんや医療従事者の負担になることがあります。
  • デザイン思考: 医療現場のプロセス全体を俯瞰的に捉え、ボトルネックとなっている部分や改善の余地がある点を見つけ出し、よりスムーズで患者中心の医療システムやサービスをデザインします。例えば、予約システムの改善、オンライン診療のインターフェース設計、地域包括ケアの連携強化などが挙げられます。

4. 健康増進・予防医療への応用

  • 生命科学・医療: 疾患の予防や健康維持のための科学的根拠を提供しますが、人々の行動変容を促す効果的なアプローチが課題となることがあります。
  • デザイン思考: 人々のライフスタイルや価値観を理解し、楽しみながら健康的な行動を促すような製品、サービス、コミュニケーション方法をデザインします。例えば、運動習慣を身につけるためのアプリ、健康的な食生活をサポートするサービス、地域コミュニティを活用した健康増進プログラムなどが考えられます。

5. 研究開発プロセスの変革

  • 生命科学・医療: 新しい治療法や医薬品の開発は長い時間と多大なコストを要しますが、患者さんのニーズが十分に反映されないまま進むことがあります。
  • デザイン思考: 研究開発の初期段階から患者さんや医療従事者の視点を取り入れ、本当に必要とされている治療法や技術を明確にすることで、開発の効率性を高め、実用化への道のりを加速させることが期待されます。

生命科学・医療とデザイン思考の融合は、単に製品やサービスを使いやすくするだけでなく、患者さんの尊厳やQOL(生活の質)の向上、医療従事者の働きがい、そして持続可能な医療システムの構築に貢献する可能性を秘めています。

アート・クリエイティブ とテクノロジーの融合

 アート・クリエイティブとテクノロジーの融合は、表現の可能性を飛躍的に拡大し、新しい芸術体験や創造的な活動を生み出しています。

 それぞれの領域が持つ独自性と革新性を掛け合わせることで、これまで想像もできなかったような表現形式やインタラクションが生まれているのです。

1. 新しい表現形式の創出

  • テクノロジー: デジタルツール、プログラミング、センサー、AI、VR/AR/MRなどの技術は、従来の絵画、彫刻、音楽、映像といった芸術の枠組みを超えた表現を可能にします。
  • アート・クリエイティブ: アーティストやクリエイターは、これらのテクノロジーを駆使して、インタラクティブなインスタレーション、ジェネラティブアート、デジタル彫刻、没入型体験、プロジェクションマッピングなど、新しい表現形式を生み出しています。例えば、観客の動きに合わせて変化する映像作品、AIが生成する音楽、VR空間でのアート体験などが挙げられます。

2. 制作プロセスの革新

  • テクノロジー: デジタルペイントツール、3Dモデリングソフト、音楽制作ソフトウェア、映像編集ソフトなどは、制作の効率を高め、より複雑で洗練された作品を生み出すことを可能にします。また、アルゴリズムを活用した自動生成や、データに基づいた視覚化など、新しい制作手法も生まれています。
  • アート・クリエイティブ: クリエイターは、これらのツールを使いこなし、自身のアイデアをより迅速かつ柔軟に形にしていきます。また、プログラミングやデータ分析のスキルを習得することで、自ら表現のための独自のツールやシステムを開発するアーティストも現れています。

3. 鑑賞体験の拡張

  • テクノロジー: インターネット、モバイルデバイス、VR/AR技術などは、アート作品の展示方法や鑑賞体験を大きく変えています。オンラインギャラリーやバーチャルミュージアムでは、時間や場所にとらわれずに作品を鑑賞することが可能です。AR技術を使えば、現実空間にデジタルアートを重ねて楽しむこともできます。
  • アート・クリエイティブ: アーティストは、これらのテクノロジーを活用して、観客が作品とインタラクションしたり、多角的な視点から作品を体験したりできるような仕掛けをデザインしています。例えば、スマートフォンアプリを通じて作品の背景情報を知ることができる、VR空間で作品の世界に入り込むことができるといった体験が提供されています。

4. コラボレーションとコミュニティの創出

  • テクノロジー: インターネットやソーシャルメディアは、地理的な制約を超えたアーティスト同士のコラボレーションや、ファンとの交流を促進します。オープンソースのツールやプラットフォームは、知識や技術の共有を容易にし、新しいクリエイティブコミュニティの形成を後押しします。
  • アート・クリエイティブ: 異なる分野のクリエイターやエンジニアが協力して作品を制作したり、オンラインプラットフォームを通じて作品を発表したり、フィードバックを得たりする動きが活発になっています。

5. 新しいビジネスモデルの可能性

  • テクノロジー: NFT(非代替性トークン)やブロックチェーン技術は、デジタルアートの所有権や価値を明確にし、新しい収益化の仕組みを提供しています。オンラインプラットフォームは、アーティストが直接作品を販売したり、ファンから支援を受けたりする機会を増やしています。
  • アート・クリエイティブ: アーティストは、これらの新しいテクノロジーを活用して、自身の作品の価値を高め、持続可能な活動のための新たな道を探っています。

アート・クリエイティブとテクノロジーの融合は、表現の自由度を高め、新しい創造性を刺激し、アートと社会の関わり方を大きく変える可能性を秘めています。

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