この記事で分かること
- 科学技術予算はどのように利用されるのか:「純粋な科学の発展」と「日本の産業・国際競争力アップ」の両方を狙った割り振りになっており、企業、大学などの研究機関、産学官連携プロジェクト、実証実験などに利用されます。
- 重要視されている分野:量子技術、AI、宇宙開発、脱炭素、バイオテクノロジー、半導体など
- 半導体への支援の中身:TSMCなどの最先端工場(ファウンドリ)建設支援、国内企業の強化、研究開発投資、人材育成などに支援が行われています。
科学技術予算が初めて5兆円を突破
2025年度の日本の科学技術予算(正確には「科学技術・イノベーション関連予算」)が初めて5兆円を超えたことがニュースになっています。
https://sci-news.co.jp/topics/10077/
政府が発表した内容によると、2025年度予算案では約5兆300億円が計上されています。これは前年(2024年度)と比べても増加していています。
背景としては、日本が国際競争力を高めるために、科学技術とイノベーションへの投資を加速する必要があると考えられているためです。また、研究者の育成や国際連携、スタートアップ支援にもかなり力を入れる方針です。
科学技術予算はどのようなところに割り当てられるのか
科学技術予算(正式には「科学技術・イノベーション関連予算」)は、以下のように様々な分野やプロジェクトに割り当てられています。
1. 基礎研究支援
- 大学や研究機関での自由な研究(基礎科学・応用科学)
- 例:自然科学、数学、物理学、化学、生命科学など
- 【代表例】科学研究費助成事業(科研費)
2. 戦略分野への集中投資
- 国が「ここは特に重要!」と決めた技術領域に集中的に投資を行います。
- 例:特に今回の予算で重視されているのが以下の領域です。
- 量子技術(量子コンピュータ、量子通信)
- AI(人工知能)
- 半導体
- 宇宙開発(月面探査・衛星開発)
- バイオテクノロジー
- 脱炭素(グリーン成長技術)
- この分野の投資は、特に「社会実装」や「技術の量産化」が重要なので、民間企業に対する投資・補助金が中心になっています。
- その他の投資先として、大学・研究機関・スタートアップ・官民連携プロジェクトなどにも広く配分されています。
3. スタートアップ支援
- 大学発ベンチャーやディープテック系スタートアップへの出資・補助
- 例:スタートアップ育成5か年計画の中で、資金提供や育成拠点設立
4. 社会実装・イノベーション推進
- 研究成果を社会に広めるための仕組みづくり
- 例:
- 産学官連携プロジェクト
- 技術の実証実験(スマートシティ実験など)
- 大規模フィールド実験
5. 人材育成
- 若手研究者支援
- 留学生支援
- 女性研究者や地方大学の活性化施策
6. 防災・安全保障分野
- 防災技術、気象観測、感染症対策研究
- 近年は経済安全保障(例えば先端半導体開発)にも予算が使われる

科学技術予算は「純粋な科学の発展」と「日本の産業・国際競争力アップ」の両方を狙った割り振りになっています。
日本の科学技術予算はどのように推移してきたのか
日本の科学技術予算(科学技術振興費)の推移
※年度によって多少分類名や集計方法が違うためだいたいの目安となります。
年度 | 科学技術予算(兆円) | 備考 |
---|---|---|
2000年度 | 約3.3兆円 | 第2期科学技術基本計画スタート |
2005年度 | 約3.5兆円 | ナノ・ライフ分野に重点 |
2010年度 | 約3.6兆円 | 第3期科学技術基本計画(重点四分野) |
2015年度 | 約3.5兆円 | 地方創生・イノベーション推進 |
2020年度 | 約3.8兆円 | Society5.0・ムーンショット型研究 |
2021年度 | 約4.4兆円 | コロナ対策+グリーン成長戦略 |
2022年度 | 約4.5兆円 | デジタル田園都市国家構想スタート |
2023年度 | 約4.8兆円 | 量子、AI、半導体投資強化 |
2024年度 | 約4.9兆円 | スタートアップ育成5か年計画 |
2025年度 | 約5.03兆円 | 初の5兆円突破! |
特徴まとめ
- 2000年代前半~中盤:そこまで大きな伸びはなく、3兆円台を横ばい
- 2010年以降:国際競争激化、イノベーション重視で少しずつ増加
- 2020年以降:コロナ禍とデジタル・脱炭素政策の影響で急拡大
- 2025年度:国際競争への危機感からさらに積極投資(半導体・量子・宇宙・AI)

2000年代には、大きな伸びがなかったものの、競争激化やイノベーションの重要度の増加、脱炭素への対応などで近年は予算が拡大しています。
スタートアップへの助成が成功した例
スタートアップへの助成が成功した例」は、以下のように日本でも少しずつ出てきています。
1. Spiber(スパイバー)
- 分野:バイオテクノロジー(人工たんぱく質素材)
- 内容:
- クモの糸のような超強靭な素材を人工合成。
- 環境に優しい次世代繊維として注目。
- 支援:
- 文科省・経産省系の研究開発型スタートアップ支援事業に採択。
- 地方創生推進交付金なども使い、山形県鶴岡市に大規模工場を建設。
- 成果:
- アディダスやザ・ノース・フェイスと提携。
- 2024年には新工場が本格稼働、グローバル展開中。
2. Preferred Networks(プリファード・ネットワークス)
- 分野:AI・機械学習
- 内容:
- 深層学習(ディープラーニング)を使った産業ソリューション開発。
- 支援:
- NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のAIプロジェクトに参加。
- 初期から政府系ファンド(産業革新機構など)による間接支援。
- 成果:
- トヨタ自動車と提携して自動運転開発。
- 医療・ロボット分野にも進出。
3. ispace(アイスペース)
- 分野:宇宙開発(民間月面探査)
- 内容:
- 月面探査ロボット(ローバー)や月資源探査ミッションを計画。
- 支援:
- JAXA(宇宙航空研究開発機構)と契約、国のプロジェクトに参加。
- 宇宙関連スタートアップ向けの助成金も獲得。
- 成果:
- 2023年、日本初の民間月着陸ミッション「HAKUTO-R」を実施。
- 世界的にも注目される宇宙ベンチャーに成長。

スタートアップへの支援が成功する例は日本でも増え始めています。科学系のスタートアップは最初の数年間はお金がかかるので、国の助成やファンド支援が成長のために重要になっています。
半導体分野ではどのような支援が行われているのか
なぜ今、半導体支援を強化しているのか?
- 経済安全保障(サプライチェーンリスクを減らす)
- デジタル社会の基盤(AI、5G、IoT、量子技術…全部半導体が必要)
- 国際競争力(台湾・米国・中国が超巨大投資してるから、日本も負けられない状況です。)
→ 「半導体がないと未来が作れない」と政府が本気になっています。
支援の主な中身
1. 国内の最先端工場(ファウンドリ)建設支援
- 【例】熊本にできるTSMCの工場(JASM)
→ 政府が約4760億円支援 - 【例】さらに第2工場(JASM2)にも支援拡大中
- 【目的】先端ロジック半導体(車載・産業機器向け)を国内生産
2. 日本企業の強化(国産化)
- 【例】Rapidus(ラピダス)支援
- 日本企業連合(トヨタ、ソニーなど出資)
- 2ナノメートル級の最先端半導体を北海道で開発・製造
- 政府から3300億円超の支援
- IBMと共同開発してる
- 【目的】国産最先端プロセスを持つ国にする(今は台湾・韓国が圧倒的)
3. 研究開発投資(次世代半導体)
- 【例】LSTC(Leading-edge Semiconductor Technology Center)
- 産学官連携で次世代チップ技術を開発
- 重点テーマ:超低消費電力・新材料・設計技術など
- 【予算】数千億円規模で支援(段階的に拡大予定)
4. 人材育成
- 半導体技術者(エンジニア・研究者)を増やすため、
- 大学と企業の連携教育
- 特別コース設置(東大・東北大・九大などが積極的)
- 【例】半導体産業人材育成プログラム(政府支援)
どれくらいお金をかけてるの?
- 2021~2024年で、国家予算でざっくり1兆円超が「半導体支援」だけに使われています。
- さらに2025年度も拡大予定。

経済安全保障や競争の激化などもあり、最先端半導体の製造が日本でも可能になるために、多くの支援が行われています。
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