グリーン半導体、電子部品とは何か?材料面での検討はどのようなものか?

この記事で分かること

  • グリーン半導体、電子部品とは:グリーン半導体・電子部品は、環境負荷の低減を目指して開発・製造された半導体および電子部品の総称です。
  • どのような面で、環境負荷低減が必要か:省エネルギー化による電力消費量の削減、有害物質による環境汚染の防止、資源の有効活用などが必要となっています。
  • 材料面での開発:有害物質の低減・排除、省資源化、低消費電力化、環境調和型材料の使用、リサイクル性の考慮など材料にも多くの技術革新が検討されています

グリーン半導体、電子部品

 電子情報技術産業協会(JEITA)は「第11版 電子部品技術ロードマップ」を3月末に発刊しました。

 https://newswitch.jp/p/45382

 このロードマップは、日本のエレクトロニクス産業が2050年を見据えてどのような技術的進展や社会的課題に対応していくかを示したものになっています。

 前回の記事では、「グリーン×デジタル」のカーボンフットプリントとスマートファクトリーの解説でしたが、今回はグリーン半導体、電子部品の解説となります。

グリーン半導体、電子部品とは何か

 グリーン半導体・電子部品は、環境負荷の低減を目指して開発・製造された半導体および電子部品の総称です。具体的には、以下のような特徴を持つものが挙げられます。

グリーン半導体

  • 省エネルギー性能の向上: 消費電力を低減し、動作時の発熱を抑えることで、製品全体のエネルギー効率向上に貢献します。例えば、低リーク電流トランジスタや、高効率なパワー半導体(SiC、GaNなど)が挙げられます。
  • 省資源化: チップサイズの小型化、薄型化、使用する材料の削減などにより、資源の有効活用を図ります。
  • 有害物質の削減・排除: 製品や製造プロセスにおいて、鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニル(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)などの環境負荷の高い物質の使用を制限または排除します。RoHS指令などがその代表例です。
  • 製造プロセスの環境負荷低減: 製造時のエネルギー消費量削減、水使用量の削減、廃棄物排出量の削減、温室効果ガス排出量の抑制など、環境に配慮した製造プロセスを採用します。
  • リサイクル性の向上: 製品の分解・分別が容易な設計や、リサイクルしやすい材料の使用などを通して、廃棄後の資源再利用を促進します。

グリーン電子部品

 グリーン電子部品も、基本的な考え方はグリーン半導体と同様で、電子回路を構成する個々の部品レベルで環境負荷の低減を目指します。具体的には以下のようなものが挙げられます。

  • 省電力部品: 低消費電力で動作する抵抗、コンデンサ、インダクタ、コネクタなど。
  • 小型・軽量部品: 製品全体の小型化、軽量化に貢献し、使用する資源量を削減します。
  • 非含有・低含有部品: 環境負荷の高い特定化学物質の含有量を低減または排除した部品。
  • 長寿命部品: 製品の長寿命化に貢献し、交換頻度を減らすことで廃棄物の削減に繋がります。
  • 再生可能材料・バイオ由来材料を使用した部品: 環境への負荷が少ない材料を使用した部品。

グリーン半導体・電子部品の重要性

 現代社会において、電子機器はあらゆる分野で不可欠であり、その生産量も増大しています。そのため、これらの部品の環境負荷を低減することは、地球環境全体の持続可能性にとって非常に重要です。

電子機器の重要性が増す中で、グリーン半導体・電子部品の普及は、省エネルギー化による電力消費量の削減、有害物質による環境汚染の防止、資源の有効活用などに貢献し、より持続可能な社会の実現に繋がります。

リーク電流とは何か

 リーク電流(漏れ電流)とは、半導体デバイス(トランジスタ、ダイオードなど)において、本来電流が流れないはずのOFF(遮断)状態や、絶縁されている部分をわずかに流れてしまう不要な電流のことです。こ

 れは、デバイスの誤動作や消費電力の増大、発熱の原因となるため、可能な限り低減することが求められます。

低リーク電流の重要性

 特に、近年の半導体デバイスの微細化が進むにつれて、低リーク電流の重要性は増しています。その理由は以下の通りです。

信頼性の向上: 不要な電流はデバイスの発熱を招き、長期的な信頼性を損なう可能性があります。

消費電力の抑制: モバイル機器のようにバッテリー駆動が前提となるデバイスでは、リーク電流は待機時の消費電力に大きく影響し、バッテリー駆動時間を短くしてしまいます。

集積密度の向上: 微細化によりトランジスタの数が集積されるほど、デバイス全体としてのリーク電流の総量が増加し、無視できないレベルになります。

誤動作の防止: リーク電流が大きくなると、回路の意図しない動作を引き起こす可能性があります。

低リーク電流を実現するためにはどうすれば良いのか

 半導体メーカーは、低リーク電流を実現するために様々な技術を開発・採用しています。

  • 高誘電率ゲート絶縁膜(High-k): トランジスタのゲート絶縁膜に、従来の酸化シリコンよりも誘電率の高い材料を使用することで、ゲート容量を維持しつつ物理的な膜厚を厚くでき、リーク電流を抑制します。
  • メタルゲート(Metal Gate): 従来のポリシリコンゲート電極を金属ゲートに置き換えることで、ゲート電極と絶縁膜の界面でのポテンシャル低下を抑制し、リーク電流を低減します。
  • 歪みシリコン(Strained Silicon): シリコン結晶に механическое な歪みを与えることで、キャリアの移動度を向上させ、低電圧での動作を可能にし、結果としてリーク電流を低減します。
  • FinFETなどの3次元構造: トランジスタのチャネルを立体的な構造にすることで、ゲートによるチャネルの制御性を高め、リーク電流を抑制します。
  • ドーピングプロファイルの最適化: 半導体中の不純物の濃度分布を精密に制御することで、リーク電流の発生を抑制します。
  • 電源管理技術(Power Gating): 使用していない回路ブロックへの電源供給を遮断することで、リーク電流をゼロに近づけます。
  • マルチスレッショルド電圧(Multi-Vt): 回路内のトランジスタに複数の閾値電圧(Vth)の異なるものを使用することで、動作速度が要求される部分には低Vthのトランジスタを、リーク電流を抑えたい部分には高Vthのトランジスタを使用します。

様々な技術を組み合わせることで、高性能かつ低消費電力な半導体デバイスが実現されています。

材料はどのような検討がなされているのか

 グリーン半導体・電子部品に使用される材料では以下のように環境負荷低減と高性能化の両立を目指し、様々な技術革新が進んでいます。

1. 有害物質の低減・排除

  • 鉛フリーはんだ: 従来の鉛を含むはんだから、スズ、銀、銅などを主成分とする鉛を含まないはんだへの切り替えが進んでいます。これにより、廃棄時の環境汚染リスクを低減します。
  • ハロゲンフリー材料: 塩素や臭素などのハロゲン元素を含む材料の使用を抑制または排除する動きがあります。これらの元素は、燃焼時に有害なガスを発生させる可能性があります。
  • カドミウムフリー材料: 電池やめっきなどに使用されてきたカドミウムは毒性が高いため、代替材料への移行が進んでいます。
  • 六価クロムフリーめっき: 耐食性向上のために使用されてきた六価クロムを含むめっきから、三価クロムめっきや他の表面処理技術への代替が進んでいます。
  • REACH規則、RoHS指令への対応: これらの国際的な環境規制に対応するため、使用する材料の成分管理を徹底し、規制対象物質の不使用や低減に努めています。

2. 省資源化に貢献する材料

  • 薄膜材料: 半導体薄膜や絶縁膜などをより薄く形成する技術により、使用する材料の量を削減します。
  • 微細化技術に対応した高純度材料: より微細な回路形成に対応するため、不純物の少ない高純度なシリコンウェハや配線材料などが開発されています。これにより、歩留まり向上にも貢献し、資源の無駄を減らします。
  • 代替材料の探索: 希少金属の使用量を削減するため、代替となる安価で豊富な元素を用いた材料の研究開発が進められています。

3. 低消費電力化に貢献する材料

  • 高移動度材料: シリコンよりも電子や正孔の移動度が高い材料(例:SiGe、GaAs、InP、SiC、GaNなど)をトランジスタのチャネル材料に用いることで、低電圧での高速動作が可能になり、消費電力を削減できます。
  • 高誘電率(High-k)絶縁膜材料: トランジスタのゲート絶縁膜に、従来の酸化シリコンよりも高い誘電率を持つ材料(例:HfO2、ZrO2など)を使用することで、リーク電流を抑制し、消費電力を低減します。
  • 低抵抗配線材料: 配線材料に、抵抗の低い銅やアルミニウム、さらには抵抗がより低い材料(例:グラフェン、カーボンナノチューブ)の研究開発も進められています。これにより、配線による電力損失を低減します。

4. 環境調和型の材料

  • バイオ由来材料: 植物由来の樹脂や繊維などを電子部品の基板や筐体に使用する研究開発が進められています。これにより、化石資源への依存度を低減し、カーボンニュートラルに貢献することが期待されます。
  • 生分解性材料: 将来的には、使用後に自然環境で分解されるような電子部品材料の開発も視野に入れられています。

5. リサイクル性を考慮した材料

  • 分離・分解が容易な材料: 異なる材料を接合する際に、後で分離しやすい材料や構造を採用することで、リサイクル時の資源回収効率を高めます。
  • リサイクルしやすい元素で構成された材料: 希少金属の使用を避け、リサイクルプロセスが確立された元素を中心とした材料選択が進められています。

有害物質の低減・排除、省資源化、低消費電力化、環境調和型材料の使用、リサイクル性の考慮など材料にも多くの技術革新が検討されています。

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