神戸製鋼所とパナソニック コネクトによるアーク溶接での協業 アーク溶接とは何か?

この記事で分かること

アーク溶接とは:電気の力を使って金属同士を接合する溶接方法で、接合力の強さや設備のシンプルさが特長です。

TIG溶接とは:Tungsten Inert Gas 溶接の略称で、熱の制御がしやすく、非常にきれいで精密な溶接が可能であるという特徴を持っています。

神戸製鋼所とパナソニック コネクトによるアーク溶接での協業

 神戸製鋼所とパナソニック コネクトは、2025年5月7日、自動車および二輪車分野におけるアーク溶接の品質安定化と電着塗装性の向上を目的とした新たな協業を発表しました。

神戸製鋼、車向け新溶接ワイヤ 電着塗装向上 パナコネクトと協業
 神戸製鋼所とパナソニックコネクトは7日、自動車・二輪分野における溶接品質安定化と電着塗装性向上を実現するアーク溶接新工法・新溶接材料の販売と開発協力に関する協業に合意したと発表した。高張力鋼板や亜鉛

 この協業では、高張力鋼板や亜鉛めっき鋼板などの薄板に対応する新しいアーク溶接工法と溶接材料を共同で開発し、今月からロボットシステムと共に販売を開始する予定です 。

アーク溶接とは何か

 アーク溶接とは、電気の力を使って金属同士を接合する溶接方法の一つです。

簡単な原理

  1. 電極と母材(金属の部品)の間に電気を流し、アーク放電(電気の火花のようなもの)を発生させます。
  2. このアークの熱(約5000~6000℃)で母材や溶接棒を溶かし、溶けた金属が固まることで接合します。

主な特徴

  • 厚い鋼材や構造物にも使える強力な接合方法
  • 設備が比較的シンプルで、現場作業にも向く
  • ガスシールドやフラックスを用いることで溶接部分を酸化から守る

代表的なアーク溶接の種類

  • 被覆アーク溶接(手溶接)
  • TIG溶接(タングステン・イナートガス溶接)
  • MIG/MAG溶接(半自動溶接)

アーク溶接とは、電気の力を使って金属同士を接合する溶接方法で、接合力の強さや設備のシンプルさが特長です。

ガス溶接との違いはなにか

 一般的に溶接には以下のようにいくつか種類があります。


■ 溶接の大分類

  1. 融接(ゆうせつ)
     → 金属を溶かして接合する方法
     例:アーク溶接、ガス溶接、レーザー溶接
  2. 圧接(あっせつ)
     → 金属を加圧して接合する方法(高温にすることもある)
     例:摩擦圧接、スポット溶接
  3. ろう接(ろうせつ)
     → 母材は溶かさず、低融点の金属(ろう)を使って接合
     例:銀ろう付け、ハンダ付け

■ アーク溶接と「ガス溶接」の違いは

  • アーク溶接 → 電気の熱(アーク放電)で溶かす
  • ガス溶接 → 火炎の熱で溶かす

 主な違いは熱源の種類です。


■ 比較ポイント

項目アーク溶接ガス溶接
熱源電気アーク酸素-アセチレン火炎
温度約5000~6000℃約3000℃
適用範囲厚板・構造物・高強度材料薄板・補修作業など
屋外作業可能(風対策は必要)風で火炎が乱れるので不向き
必要な設備電源・電極・溶接棒ガスボンベ・バーナー

ガスによる溶接は、火の熱で対象物を溶かしますが、アーク溶接は電気の熱で溶かすという違いがあります。

薄板へのアーク溶接が難しい理由は何か

 薄板(金属の板厚が薄い材料)へのアーク溶接が難しい理由は主に次のようなものです。


主な理由

  1. 熱の集中で穴が開きやすい
    → アーク溶接は非常に高温(5000℃以上)なので、薄板では熱が集中しすぎると母材自体が溶け落ち、穴(溶け落ち欠陥)ができやすい。
  2. 熱変形しやすい
    → 薄い材料は熱を受けるとすぐに変形・反りが発生し、寸法精度が悪くなる。
  3. 溶け込みの制御が難しい
    → 厚板なら多少深く溶かしても問題ないが、薄板だと表面だけ溶かし、裏まで抜けないようにする高度な技術が必要。
  4. 電流・条件の調整がシビア
    → 通常の溶接条件(電流・電圧・速度)では熱量が過剰になるため、細かい調整が必須。
  5. 溶接材料の選択が重要
    → 通常の溶接棒やワイヤでは過剰な金属が供給され、薄板には不適切になることがある。

対策例

  • 低電流・低電圧の溶接条件に設定する
  • TIG溶接(より繊細な制御が可能)を使う
  • 冷却治具(銅板など)を裏に当てて熱を逃がす
  • パルスアーク溶接(熱を細かく断続的に入れる)を使う

薄い板は熱の集中で穴が開きやすい、変形しやすい、表面だけを溶かすことが難しいなどの理由から薄い板へのアーク溶接の適用は対策が必要です。

TIG溶接とは何か

 TIG溶接とは、「Tungsten Inert Gas 溶接」の略称で、日本語では「タングステン不活性ガス溶接」とも呼ばれ、以下のような特徴を持っています。


基本原理

  • 電極に「タングステン(融点が高く溶けにくい)」を使い、電気アークで母材を加熱
  • 溶接部を「アルゴン」などの不活性ガスでシールド(酸化を防ぐ)
  • 必要に応じて別途「溶加材(金属棒)」を手で供給して溶かす

特徴

  • 熱の制御がしやすく、非常にきれいで精密な溶接が可能
  • 溶接スパッタ(飛び散り)が少ない
  • アルミ、ステンレス、チタンなど様々な材料に対応可能
  • 作業は比較的ゆっくりで熟練技術が必要

主な用途

  • 航空機や原子力、医療機器など高精度が要求される分野
  • ステンレス製品やアルミフレーム(自転車、厨房器具など)
  • 美観や精度が重視される溶接(装飾や可視部品など)

アーク溶接との比較

溶接方式TIG溶接被覆アーク溶接(一般的な手溶接)
電極タングステン(溶けない)被覆された鉄の棒(溶ける)
保護ガスアルゴンなど不活性ガス被覆材のガスで保護
仕上がり非常に美しい・高品質比較的粗い
作業スピード遅い比較的速い

TIG溶接とは、「Tungsten Inert Gas 溶接」の略称で、熱の制御がしやすく、非常にきれいで精密な溶接が可能であるという特徴を持っています。

熱の制御がしやすい理由

 TIG溶接で「熱の制御がしやすい」と言われる理由は、以下の3つの技術的な特徴にあります。


① 電極が溶けない(非消耗電極)

  • TIG溶接では「タングステン電極(非常に高融点)」を使うため、アークを安定的に維持できます。
  • 電極が溶けないので、母材や溶加材だけを必要なだけ溶かせる。
    → 熱の入力量を正確にコントロールしやすい。

② 溶加材(フィラー)を手動で別途供給

  • アークだけで母材を加熱し、「溶かす金属(溶加棒)」は人がタイミングを見て別途入れる。
    → 必要なときだけ金属を加えられるため、繊細な溶接作業が可能。
    → 熱を加えずに“溶かさない”選択もできる(溶け込み量を最小限にできる)。

③ 直流/交流、パルス制御が可能

  • 溶接機の電流波形(直流・交流)、電流の大きさ、パルスの周波数などを細かく設定できる。

  → 特に薄板やアルミなど熱影響を抑えたい場面で有効。

  → パルスTIGでは、熱を「オン・オフ」しながら入れることで、局所的な過熱を防げる。

TIG溶接は「アーク」「金属」「ガス」の3要素を独立して管理できるため、熱の入れ方を精密にコントロールです。

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