この記事で分かること
ELV指令とは:廃車時の環境負荷を低減し、資源の循環利用を促進するための規制です。
なぜ、炭素繊維に影響があるのか:繊維強化プラスチックの再利用・リサイクルの促進に言及しているが、再利用が難しいためです。
繊維系複合素材とは:繊維を補強材として使い、母材に埋め込んで成形した複合材料のことです。軽量で高い強度をもつことなどから幅広い分野で応用されています。
ELV指令の炭素繊維への影響
ELV指令(End-of-Life Vehicles Directive)はもともと 自動車の廃車時における廃棄物管理・再利用・リサイクルを義務づけるEUの指令です。
これまで金属、プラスチック、ガラスといった部材が焦点でしたが、最近の修正案では以下のような拡張や強化が議論されています。
- 再生材料(リサイクル材)の最低含有率の義務化
- 接着剤や混合材、繊維強化プラスチック(CFRPなど)の再利用・リサイクルの促進
- デザイン段階から分解・リサイクルを前提とした設計(エコデザイン)の義務化
繊維材料に関しては、炭素繊維強化樹脂(CFRP)やガラス繊維強化樹脂(GFRP)の再資源化が難しい車両内装材(シート、天井布、内装布など)の多くが混繊・複合材であり、分別・リサイクルが困難点から指摘がなされています。
日本化学繊維協会炭素繊維協会委員会は、欧州議会で協議されている「ELV指令」の修正案に対して、循環型で低環境負荷な社会を目指す欧州での価値を提供する炭素繊維に関してのポジションペーパーを発行しており、大手メーカーであるTORAYも賛同を見せています。
https://www.toray.co.jp/news/article.html?contentId=0gbo1nue
繊維系複合素材とは何か
繊維系複合素材(fiber-reinforced composite materials) とは、繊維(ファイバー)を補強材として使い、樹脂や金属、セラミックなどのマトリックス(母材)に埋め込んで成形した複合材料 のことです。
構成
- 繊維:強さ・しなやかさ・軽さを提供する部分(例:炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維など)
- マトリックス:繊維をまとめて形を保持し、荷重を分散させる部分(例:エポキシ樹脂、熱可塑性樹脂、金属、セラミックなど)
代表例
- CFRP(炭素繊維強化プラスチック):軽量・高強度、航空機・自動車・スポーツ用品に使われる
- GFRP(ガラス繊維強化プラスチック):安価・耐食性が高い、船舶・風力発電ブレードなどに使われる
- アラミド繊維強化樹脂:高耐衝撃性、防弾ベストやヘルメットに使われる
特徴
- 軽いのに強い(比強度・比剛性が高い)
- 耐腐食性が高い
- 破断特性や設計自由度が高い
課題
- リサイクルが難しい(樹脂と繊維を分離しにくい)
- 成形・加工コストが高い
- 製造時のエネルギー負荷が大きい
特に自動車や航空機で使われる場合、軽量化による燃費向上はメリットですが、廃棄時の環境負荷・リサイクル問題が近年注目されています。

繊維系複合素材とは、繊維を補強材として使い、母材に埋め込んで成形した複合材料のことです。軽量で高い強度をもつことなどから幅広い分野で応用されています。
一方で、リサイクルが難しいという課題もあります。
ELV指令はどんな制限をする法令なのか
EUのELV(End-of-Life Vehicles)指令は、廃車時の環境負荷を低減し、資源の循環利用を促進するための規制です。特定の複合素材の使用を直接禁止しているわけではありませんが、以下のような制限や要件が設けられています。
1. 有害物質の使用制限
ELV指令では、以下の有害物質の使用が禁止されています(2003年7月1日以降に市場に投入された車両が対象)。
- 鉛(Pb)
- 水銀(Hg)
- カドミウム(Cd)
- 六価クロム(Cr⁶⁺)
ただし、代替が困難な場合など、特定の用途については例外が認められています。
2. リサイクル性の向上と設計要件
2023年7月に提案された新たなELV規則案では、以下のような要件が追加されています。
- 新車に使用されるプラスチックのうち、25%を再生材とし、そのうち25%はELV由来の再生材を使用すること。
- 部品の取り外しやすさを考慮した設計(デザイン・フォー・リサイクル)の義務化。
- 自動車メーカーに対し、循環性戦略の策定と実施を求める。
これらの要件は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP)などの複合素材にも影響を与えます。これらの素材は軽量で高強度という利点がありますが、リサイクルが難しいため、設計段階からの配慮が求められます。
3. 複合素材に関する業界の懸念と対応
欧州複合材料産業協会(EuCIA)は、ELV指令の改正案に対し、複合素材の利点を考慮するよう提言しています。彼らは、複合素材のリサイクル技術が進展しており、循環型経済への貢献が可能であると主張しています。

ELV指令では、廃車時の環境負荷を低減し、資源の循環利用を促進するための規制です。特定の複合素材を直接禁止しているわけではありませんが、使用される物質の有害性やリサイクル性を考慮した設計が求められています。
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