この記事で分かること
ネオジムの用途:ホウ素と化合させたネオジム磁石は強力な磁力と高い強度を持つことから様々な分野で使用されています。
強い磁力を持つ条件:強い磁気モーメント、高い飽和磁化と非常に強い磁気異方性や高い残留磁化と保磁力といった材料特性を持つことが強い磁力の条件です。
ネオジム磁石の磁力が強い理由:ネオジム原子が持つ多数の不対電子による大きな磁気モーメントや鉄との化合物による強磁性の発現、特定の結晶構造による非常に高い磁気異方性の理由でネオジム磁石は強い磁力を持ちます。
レアアースの価格高騰
2025年5月現在、レアアース(希土類元素)の価格が急騰し、一部の元素では3倍以上に達しています。
https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/9d4e470de0c14dbbb85fb74805ffde56824602dd
この背景には、中国による輸出規制の強化があり、特に電気自動車(EV)や風力発電、軍事用途に不可欠な元素であるジスプロシウムやテルビウムの供給が逼迫しています。
レアアースのひとつである、ジスプロシウムはEVモーターの永久磁石に不可欠であり、テスラなどの自動車メーカーは在庫が5月末までしか持たないと懸念しています。
今回はレアアースのひとつである、ネオジムの解説となります。
レアアースとは何か
レアアース(希土類元素)とは、周期表の中で原子番号57番のランタン(La)から71番のルテチウム(Lu)までの15元素に、化学的性質が類似するスカンジウム(Sc)とイットリウム(Y)を加えた、計17元素の総称です。
レアアースの特徴
- 名前の通り「珍しい(rare)」と思われがちですが、実際には地殻中に比較的豊富に存在します。ただし、単体で高濃度に存在する鉱床が少なく、抽出・分離が困難なため「希土類」と呼ばれています。
- 化学的性質が似ていて分離が難しく、製錬や精製には高度な技術が必要です。
主な用途
レアアースは現代のハイテク産業に欠かせない資源です:
- 永久磁石(ネオジム、ジスプロシウムなど):電気自動車(EV)、風力発電、スマートフォン
- 蛍光体(ユウロピウム、テルビウムなど):液晶テレビ、LED、蛍光灯
- 触媒(セリウムなど):自動車の排ガス浄化装置、石油精製
- 研磨剤:ガラスやレンズの精密研磨
産出と地政学的リスク
- 世界のレアアース生産の約60〜90%は中国に依存しており、供給の地政学的リスクが高い資源です。
- アメリカ、オーストラリア、ミャンマーなども採掘を試みていますが、製錬・精製まで含めると中国の独占的な地位は依然として強力です。

レアアースとは、原子番号57番のランタン(La)から71番のルテチウム(Lu)までの15元素に、化学的性質が類似するスカンジウム(Sc)とイットリウム(Y)を加えた、計17元素のことであり、電動化・デジタル化・再生可能エネルギー推進において不可欠な「戦略的資源」であり、経済安全保障上も重要視されています。
ネオジムとは何か
ネオジム(Neodymium、元素記号Nd)は、レアアース(希土類元素) の一種で、原子番号60の元素です。銀白色の金属で、展延性があります。
ネオジムの特徴
- 強力な磁力: 特に鉄(Fe)やホウ素(B)と化合したネオジム磁石は、現在実用化されている永久磁石の中で最も強力な磁力を持つことで知られています。フェライト磁石の約10倍の磁力を持つとも言われます。
- 高い機械的強度: 他の磁石に比べて硬く、機械的な強度に優れています。
- 小型化・軽量化に貢献: 単位体積当たりの磁力が大きいため、小型でも強力な磁力を得られ、機器の小型化や軽量化に貢献します。
ネオジム磁石の用途
その強力な磁力を活かし、ネオジム磁石は様々な分野で利用されています。
- 電子機器: ハードディスクドライブ(HDD)やDVDドライブのモーター、小型スピーカー、スマートフォン、オーディオ機器など
- 自動車: ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)の駆動用モーター、電動パワーステアリング(EPS)など
- 産業機器: 精密工作機械、各種ロボット、磁気センサー、風力発電機のジェネレーターなど
- 医療機器: MRI(磁気共鳴画像診断装置)、磁気浮上軸受、磁気ポンプなど
- 家電製品: エアコン、冷蔵庫、洗濯機、掃除機などのモーター
- その他: 文房具、玩具、DIY材料、磁気応用製品など
ネオジムの歴史
ネオジムは1885年にオーストリアの化学者カール・アウアー・フォン・ヴェルスバッハによって、それまで単一の元素と考えられていた「ジジミウム」からプラセオジムとともに分離・発見されました。
「ネオジム」という名前は、ギリシャ語で「新しい」を意味する「neos」と、「双子」を意味する「didymos」を組み合わせて名付けられました。
1982年には、日本の佐川眞人博士によってネオジム、鉄、ホウ素を主成分とする高性能なネオジム磁石が発明され、その強力な磁力とコストパフォーマンスの良さから、様々な分野で広く利用されるようになりました。

レアアースのひとつである、ネオジムは鉄、ホウ素と化合させたネオジム磁石は強力な磁力と高い強度を持つことから様々な分野で使用されています。
磁力の強さは何で決まるのか
磁力の強さは、主に以下の要素によって決まります
1. 物質を構成する原子の磁気的な性質(磁気モーメント)
- 不対電子の数と配置: 原子内の電子はスピンという自転運動をしており、それが小さな磁石のような性質(磁気モーメント)を持ちます。不対電子が多いほど、原子の磁気モーメントは大きくなります。また、フントの法則に従い、これらのスピンが同じ方向を向きやすい原子ほど、強い磁気モーメントを持ちます。
2. 物質の内部構造と磁気的な相互作用:
- 強磁性体の形成: 多くの物質は常温では磁力を持ちませんが、特定の元素(鉄、ニッケル、コバルトなど)は、原子の磁気モーメントが互いに協力し合うことで、外部磁場がなくても自発的に磁化する強磁性体となります。
- 磁気異方性: 物質には、磁化されやすい方向(磁化容易軸)と磁化されにくい方向が存在するものがあります。この性質を磁気異方性といいます。高い磁気異方性を持つ物質は、一度磁化されると磁化の方向が安定し、外部磁場を取り除いても磁力を保ちやすい、つまり強い永久磁石になりやすいです。
3. 磁石の形状とサイズ
- 磁束密度: 磁力線の密度である磁束密度が高いほど、磁力は強くなります。磁石の形状やサイズによって、磁束の集中具合が変わり、磁力に影響を与えます。一般的に、磁石の体積が大きいほど、より強い磁力を得やすくなります。また、磁石の高さ(磁化方向の長さ)と接地面積も磁力に影響します。
- 磁気回路: 磁石を特定の形状に配置したり、軟磁性材料と組み合わせたりすることで、磁力を効率よく利用する磁気回路を構成できます。これにより、磁石単体よりも強い磁力を特定の場所に発生させることが可能です。
4. 磁石の材料特性(残留磁化と保磁力)
- 残留磁化 (Br): 磁石を強い磁場で磁化させた後、外部磁場を取り除いても残る磁束密度の大きさです。残留磁化が大きいほど、強い磁力を持ちます。
- 保磁力 (Hc): 磁化された磁石を完全に消磁するために必要な逆向きの磁場の強さです。保磁力が高いほど、外部の磁場や温度変化によって磁力が低下しにくい、安定した強い磁石と言えます。ネオジム磁石は、残留磁化と保磁力の両方が高いことが、強力な磁力の理由の一つです。

強い磁気モーメント、高い飽和磁化と非常に強い磁気異方性や高い残留磁化と保磁力といった材料特性を持つものが強い磁力を持つ素材になります。
ネオジム磁石はなぜ、強い磁力を持つのか
ネオジム磁石が強力な磁力を持つ理由は、主に以下の2つの要素が組み合わさっているためです。
1. ネオジム原子の持つ強い磁気モーメント
- 不対電子の存在: ネオジム(Nd)原子は、内側の電子殻である4f軌道に不対電子を多く持っています。電子は自転(スピン)しており、このスピンが小さな磁石のような性質(磁気モーメント)を持ちます。不対電子が多いほど、原子全体の磁気モーメントが大きくなります。
- フントの法則: 同じエネルギー準位の複数の軌道に電子が配置される際、電子はできるだけスピンを平行にして別々の軌道に入る傾向があります(フントの法則)。これにより、ネオジム原子内では多くの電子のスピンが同じ方向を向き、磁気モーメントが打ち消し合うことなく増強されます。
2. ネオジム、鉄、ホウ素(Nd₂Fe₁₄B)化合物の結晶構造と強い磁気異方性
- 強磁性体の形成: ネオジム単体では、ある程度の磁力は示すものの、常温では強磁性体ではありません。しかし、鉄(Fe)やホウ素(B)と特定の割合で化合することによって、強い強磁性体であるNd₂Fe₁₄Bという化合物が形成されます。この化合物中では、ネオジム原子と鉄原子の磁気モーメントが互いに協力し合い、より大きな磁力を生み出します。
- 高い磁気異方性: Nd₂Fe₁₄Bの結晶構造は、特定の方向に磁化されやすく、その方向に磁化されると非常に安定であるという性質(高い磁気異方性)を持ちます。これは、外部の磁場を取り去っても磁化の方向が乱れにくく、強い永久磁石となるための重要な要素です。例えるなら、一度特定の方向に倒すと、なかなか別の方向に倒れにくい積み木のようなイメージです。

ネオジム原子が持つ多数の不対電子による大きな磁気モーメントや鉄との化合物による強磁性の発現、特定の結晶構造による非常に高い磁気異方性の理由でネオジム磁石は強い磁力を持ちます。
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