この記事で分かること
- 最高益の理由:NAND型フラッシュメモリ市場の回復やAI向けの需要拡大が業績を押し上げています。
- NAND型フラッシュメモリとは:電源を消してもデータが消えない不揮発性メモリの一種です。
- データを残せる理由:データを電荷という形で、絶縁膜の中に閉じ込めることで、データを消さずに保存できます。
キオクシア業績過去最高
キオクシアホールディングス株式会社(キオクシアHD)は、2025年3月期において、過去最高となる業績を達成しました。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00748825
この業績回復の背景には、NAND型フラッシュメモリ市場の回復があり、販売単価の上昇と出荷量の増加が寄与しました。
キオクシアはどんな会社か
キオクシアホールディングス株式会社(Kioxia Holdings Corporation)は、日本を代表する半導体メーカーであり、特にNAND型フラッシュメモリの開発・製造・販売に強みを持つ企業です。
主な事業内容と強み
キオクシアは、NAND型フラッシュメモリの分野で世界的に活躍しており、主力事業はNAND型フラッシュメモリとSSDの開発・製造・販売です。
特に、三重県四日市市の四日市工場と岩手県北上市の北上工場において、世界で消費されるフラッシュメモリの約3分の1を生産しています。
また、AI技術を活用したスマートファクトリーを展開し、生産ラインから1日に25億件以上のデータを収集・解析することで、自動化された搬送や生産設備を高度に制御しています。
社名の由来
「キオクシア(Kioxia)」という社名は、日本語の「記憶(Kioku)」と、ギリシャ語で「価値」を意味する「axia(アクシア)」を組み合わせた造語です。
この名称は社内公募で選ばれ、「『記憶』で世界をおもしろくする」というブランドキャッチコピーのもと、記憶技術を通じて社会に価値を提供することをミッションとしています 。

キオクシアは日本を代表する半導体メーカーで、特にNAND型フラッシュメモリで強みを持つ企業です。
NAND型フラッシュメモリとはなにか
NAND型フラッシュメモリとは、デジタルデータを電気的に記録・消去・再書き込みできる不揮発性メモリの一種で、主にSSD(ソリッドステートドライブ)やUSBメモリ、スマートフォン、SDカードなどに使われています。
NAND型フラッシュメモリの特徴
- 不揮発性:電源を切ってもデータが消えない高密度
- 低コスト:多くのデータを安価に保存できる高速な読み書き HDDより圧倒的に高速(特に読み取り)書き換え回数に限界 書き込みや消去を繰り返すと劣化する
「NAND」とは何か?
「NAND」は論理回路の一種(NOT AND)を意味しており、この回路構成を使ったメモリセルアレイから名付けられました。NAND型はデータの連続読み出しに強く、高密度化しやすい構造であるため、大容量ストレージに向いています。

NAND型フラッシュメモリは電源を消してもデータが消えない不揮発性メモリの一種です。
データが揮発しない理由は?
NAND型フラッシュメモリがデータを揮発させない(電源を切っても保持できる)のは、電荷(電子)を絶縁された領域に閉じ込めて保持する構造を使っているからです。
仕組みの概要
NANDフラッシュの基本構造は「フローティングゲートトランジスタ」または「チャージトラップ構造」です。以下に代表的なフローティングゲート方式を説明します。
【1】フローティングゲート構造とは?NANDセルは以下のような構造をしています。
制御ゲート │ 絶縁膜(酸化膜) │ フローティングゲート(電荷を閉じ込める) │ 絶縁膜(酸化膜) │ 半導体基板(チャネル)
【2】書き込み(プログラム)時の動作高電圧をかけて電子(電荷)をトンネル効果(Fowler–Nordheimトンネリング)で絶縁膜を越えさせて、フローティングゲートに注入します。フローティングゲートに入った電子は絶縁膜に囲まれていて外に出られません。
【3】データ保持電源を切っても、電子は絶縁膜の中に閉じ込められているため、何年もそこに留まり続けます。このため、「1」または「0」といったデジタルデータが記憶され続けます。
【4】消去(イレース)逆方向に高電圧をかけ、トンネリング効果で電子を抜き出すことで、フローティングゲートを初期化(消去)します。
なぜ揮発しないのか
通常のDRAMやSRAMとは異なり、NAND型ではデータが電荷という形で物理的に閉じ込められているため、電源が切れても情報が消えないのです。
ただし、絶縁膜の劣化やリーク電流の蓄積により、長期間でデータ保持能力が低下することはあります(通常は10年程度以上保持)。

データを電荷という形で、絶縁膜の中に閉じ込めることで、データを消さずに保存できます。
キオクシアの今後の展望は
キオクシア株式会社は、2025年に向けて積極的な設備投資とAI向け需要の取り込みを進めていますが、事業構造の課題や競争環境の厳しさも抱えており、今後の展望には慎重な見方もあります。
業績と成長戦略
2024年度の通期業績は、売上高が1兆6744億~1兆7044億円と過去最高を記録し、営業利益も東芝グループから独立した2018年以降で過去最高となる見込みです。
特に、AI向けの需要拡大が業績を押し上げています。 データセンター向けのSSD需要が高まり、AIインフラ投資の加速により、推論サーバ向けの需要も拡大しています。
設備投資と技術革新
キオクシアは、三重県四日市工場と岩手県北上工場において、第8世代および第9世代の3次元フラッシュメモリを生産する設備投資計画が、経済産業大臣により「特定半導体生産施設整備等計画」に認定され、最大1,500億円の助成金が交付される予定です
また、デジタルツイン技術を活用し、製造プロセスの最適化と効率化を進めています。 四日市工場と北上工場の連携により、迅速な立ち上げと高歩留まりの実現が可能となっています。
課題と競争環境
現在、キオクシアの主力製品はNAND型フラッシュメモリのみであり、DRAMなど他のメモリ技術を手掛けていません。 これにより、競合他社と比較して事業構造の多様性に欠けるとの指摘があります。
さらに、半導体メモリ業界は競争が激化しており、業界再編の観測もあります。 キオクシアは、他社との協業や新技術の研究開発を進めていますが、事業化には時間がかかる見込みです。

キオクシアは、設備投資と技術革新を通じて、AI向け需要の取り込みと生産効率の向上を目指しています。
しかし、事業構造の多様化や競争環境の変化に対応するためには、技術革新と事業構造の多様化が鍵となります。
キオクシア以外のNAND型フラッシュメモリのメーカーは
キオクシア以外にも、NAND型フラッシュメモリを製造・販売している主要メーカーが世界中に存在します。以下は、代表的なNANDメーカーです。
- Samsung Electronics 韓国 世界シェアNo.1。3D NAND技術で先行。
- SK hynix / Solidigm 韓国 / 米国 インテルのNAND部門を買収しSolidigmを設立。
- Micron Technology 米国 高速な176層3D NANDなどを開発。
- Western Digital(WD) 米国 キオクシアとNANDを共同開発・生産(四日市など)。
- YMTC(長江存儲) 中国 中国系唯一の大手。技術制裁で苦戦中
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