この記事で分かること
位相差フィルムとは:偏光状態を制御するための特殊な光学フィルムで、偏光の位相をずらすことで、視野角や色再現性を向上させることができます。
COPとは:クロオレフィンを主成分とする熱可塑性プラスチックでり、高い透明度や光学性能を持ち、化学的にも安定なため、多くの分野で注目されています。
なぜ、COPが位相差フィルムとして利用できるのか:加工時に引き延ばすことで、分子鎖が整列し、進行方向に対する屈折率に差が生じます、この屈折率の差が位相差を生んでいます。
日本ゼオンによる位相差フィルムの生産増
日本ゼオン株式会社は、富山県氷見市の氷見二上工場において、大画面液晶テレビ用位相差フィルムの新たな生産ラインを増設することを発表しています。
https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/newswitch/business/newswitch-45714
この増設により、同社のテレビ用位相差フィルムの年間生産能力は約20%増加し、2億6,400万平方メートルに拡大する見込みです。
液晶テレビ市場では、55インチ以上の大型パネルの需要が増加しており、今後もさらに拡大が見込まれています。
このような市場ニーズに対応するため、最大130インチの液晶パネルにも対応可能な世界最大級となる3,000ミリメートル幅のフィルム生産に初めて取り組むこととなりました。新ラインは2025年12月に着工し、2027年夏の量産開始を予定しています。
位相差フィルムとは何か
位相差フィルム(retardation film)とは、光の偏光状態を制御するための特殊な光学フィルムで、主に液晶ディスプレイ(LCD)に使われます。
■ 基本的な役割
液晶ディスプレイでは、光の透過や遮断を偏光板と液晶の働きで制御しています。しかし液晶パネルの視野角やコントラストには限界があり、見る角度によって色が変わる「視野角依存性」が問題になります。
そこで活躍するのが位相差フィルムです。これは、以下のような働きをします:
- 偏光の位相をずらす(光の進行方向に対して波の位相=タイミングを調整)
- 液晶の特性と補完し合い、視野角や色再現性を向上させる
- コントラスト改善や反射防止にも寄与
■ 仕組み(簡略化)
- 光は波の性質を持つ(電場と磁場の振動)
- 液晶パネルを通った光は、偏光の状態が変化
- その光が位相差フィルムを通ることで、再度調整され、より正確な色・明るさで表示される
■ 応用分野
- 液晶テレビ(特に大画面)
- スマートフォン、タブレット
- ノートPC
- VR・ARデバイス
■ 材料例
- ポリカーボネート(PC)
- シクロオレフィンポリマー(COP):日本ゼオンの「ZeonorFilm®」が該当

位相差フィルムとは、光の偏光状態を制御するための特殊な光学フィルムで、偏光の位相をずらすことで、視野角や色再現性を向上させることが可能になるため、ディスプレイで利用されています。
偏光を変化させると視覚野を改善出来るのはなぜか
偏光を変化させる(=光の偏光状態を制御する)ことで視野角を改善できる理由は、液晶ディスプレイの表示原理において、光の通過や変化が「偏光状態」に強く依存しているからです。
【1】液晶ディスプレイと偏光の関係
液晶ディスプレイ(LCD)では、以下の構造が基本です:
偏光板 → ガラス基板 → 液晶層 → ガラス基板 → 偏光板
- 液晶は「ねじれ」や「配向」を変えて、通過する光の偏光状態を変化させます。
- 最後に通る出射側の偏光板が、偏光状態に応じて光を「通すか遮るか」判断します。
つまり、偏光の向きによって「見える/見えない」が決まるといえます。
【2】視野角の問題とは?
- 正面から見たとき:想定された偏光状態で光が進むため、正しい色と明るさで見える。
- 斜めから見たとき:液晶や他の光学層を通る角度が変わるため、
- 偏光状態が意図しないものになる
- 偏光板で光がカットされる
- 色ずれや暗さ、コントラスト低下が起きる
【3】偏光を補正する=視野角が改善される
ここで位相差フィルムなどが使われると:
- 光の偏光状態をあらかじめ補正・調整する
- 斜め方向から来た光も適切な偏光状態に導ける
- 結果として、斜めから見ても色や明るさが保たれる

視野角問題は偏光状態が角度によって乱れることで発生します。そのため、位相差フィルムによって、偏光状態を精密に調整し、視野角依存性を低減することで問題を軽減することが可能です。
COPとは何か
COP(シクロオレフィンポリマー, Cyclo Olefin Polymer)とは、シクロオレフィン(環状の炭化水素)を主成分とする熱可塑性プラスチック(ポリマー)です。
基本情報
- 名称:Cyclo Olefin Polymer(シクロオレフィンポリマー)
- 分類:熱可塑性樹脂(加熱でやわらかく、冷却で固まる)
- 代表メーカー:日本ゼオン(商品名:Zeonex®, Zeonor® など)
主な特長
特性 | 内容 |
---|---|
高い透明性 | ガラスに近い光学透明度を持ち、黄変しにくい |
低吸水性 | 湿気を吸収しにくいため、寸法安定性に優れる |
優れた耐熱性・耐薬品性 | 医療用途や高精度光学用途に適する |
成形性が良い | 溶融押出や射出成形が可能で、フィルムやレンズに加工しやすい |
光学異方性を制御可能 | 加工によって屈折率差(=位相差)を持たせることが可能(LCD用途) |
用途
- 液晶ディスプレイ(LCD)の位相差フィルムや導光板
- スマートフォン・タブレット・テレビなどの光学フィルム
- 医療用注射器、バイアル、マイクロ流体チップ
- カメラレンズ、光学部品
- 高周波電子材料(5G対応など)
なぜ注目されているのか?
従来の透明プラスチック(例:ポリカーボネート、アクリル)と比べて、COPは下記の点で優れています:
- より高い透明度と光学性能
- 化学的に安定しており、薬剤にも強い
- バイオアプリケーションにも対応(無添加・無溶剤で成形可能)

COPはシクロオレフィンを主成分とする熱可塑性プラスチックでり、高い透明度や光学性能を持ち、化学的にも安定なため、多くの分野で注目されています。
なぜcopは位相差を持つのか
COP(シクロオレフィンポリマー)が位相差を持つのは、その分子構造と延伸(引き伸ばし)加工によって光学異方性(方向によって屈折率が異なる性質)を持たせることができるからです。以下で詳しく説明します。
■ 位相差とは
光が媒質中を通過する際、異なる屈折率の方向に進むと光の速さが変わり、波の位相(タイミング)にズレが生じる現象を「位相差」と呼びます。
このとき、媒質が異方性(方向によって性質が違う)を持つ必要があります。
■ COPが位相差を持つ理由
1. 延伸加工による分子配向
- COPはもともと等方性(方向に依存しない光学特性)を持つポリマーですが、
- 加工時に一方向または二方向に延伸(引き伸ばす)ことで、分子鎖が整列します。
- この整列により、進行方向に対する屈折率に差が生じる(光学異方性が発現) → 位相差を生む。
2. COPの剛直な分子構造
- シクロオレフィン系の剛直な構造により、延伸時に安定した分子配向が可能。
- これにより、均一かつ制御された位相差特性を設計可能。
■ なぜCOPが好まれるのか
- 光学透明性が非常に高い(黄変しにくい)
- 吸水性が低く、寸法安定性が良い
- 熱安定性・耐薬品性が高い
- 溶融押出(溶かして成形)によりフィルム形状に加工しやすい
これらの特性により、安定かつ高性能な位相差フィルムを製造できる材料としてCOPが選ばれているのです。

COPは加工時に引き延ばすことで、分子鎖が整列し、進行方向に対する屈折率に差が生じます、この屈折率の差が位相差を生んでいます。
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