この記事で分かること
- 浮体式洋上風力発電とは:海上に浮かぶ構造物(浮体)に風車を設置して発電する施設です。
- メリット:固定の難しい水深の深い場所でも建設できる点や、漁業や景観への影響が少ない点がメリットです。
- 課題:コストの高さ、浮体の設計や送電など技術的な困難、 環境への影響評価、インフラの未整備などが課題として挙げられています。
グローカルによる浮体式洋上風力発電
株式会社グローカルが参画する「ひびき灘沖浮体式洋上風力発電所」が、2025年4月22日に商用運転を開始しました。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00748985
このプロジェクトは、国内で2例目、鋼製バージ型浮体としては国内初の商用化事例となります。
グローカルは浮体式洋上風力発電の技術革新と普及拡大を推進し、脱炭素社会の実現に貢献する姿勢を示しています。
浮体式洋上風力発電所とはなにか
浮体式洋上風力発電所とは、海上に浮かぶ構造物(浮体)に風車を設置して発電する施設です。陸上や海底に固定するタイプと違い、水深が深い海域でも設置できるのが特徴です。
特徴と仕組み
- 設置場所:水深50m以上の沖合など、海底固定が難しい場所
- 構造:鋼やコンクリート製の浮体に風力タービンを載せ、係留索で海底に固定利点 風が強く安定した海域での発電が可能/漁業や景観への影響が少ない
- 課題: 建設・維持コストが高い/波や台風への耐久性設計が必要
主なタイプ(浮体の構造)
1. スパー型:細長い円筒を縦に海中へ沈める(安定性が高い)
2. セミサブ型:複数の柱で構成される浮体(バランスが取りやすい)
3. バージ型:平たい構造(浅い水域向き)→ 響灘のプロジェクトはこの型
日本での重要性
- 日本は海に囲まれ、水深が深いため「固定式」よりも「浮体式」が現実的。
- 再生可能エネルギーの拡大と脱炭素目標の達成において、重要な選択肢の一つ。

浮体式洋上風力発電所は、海上に浮かぶ構造物(浮体)に風車を設置して発電する施設です。固定の難しい水深の深い場所でも建設できるという特徴をもっています。
浮体式洋上風力発電所の問題点は
浮体式洋上風力発電所には多くの可能性がありますが、現状では以下のような課題・問題点があります。
1. コストが高い
- 建設費用:浮体、係留索、海底設備、特殊な船舶などが必要で、固定式よりも高額。
- 保守運用費:海上での点検・修理は技術的に難しく、コストもかさむ。
2. 技術的な難しさ
- 浮体の安定性:強風・高波・台風などの自然条件に耐える設計が必要。
- 係留システム:浮体を海底に安定して固定する技術も高度。
3. 送電の難しさ
- 海底ケーブルの敷設と維持が困難で高コスト。遠洋に設置されるため、送電ロスや送電網との接続も課題。
4. 環境・漁業との調整
- 海洋環境や海洋生態系への影響評価が必須。漁業権や航路との調整が必要になるため、社会的合意形成が難しいことも。
5. 制度・インフラの未整備
- 浮体式の商用化はまだ初期段階であり、法律・制度が追いついていない。港湾・建造・メンテナンスのインフラが未整備な地域も多い。
6. 人材・技術者の不足
- 洋上風力に特化した技術者やオペレーターが国内では不足している。

コストの高さ、浮体の設計や送電など技術的な困難、 環境への影響評価、インフラの未整備などの問題点もあります。
鋼性バージ型とはなにか
鋼製バージ型(こうせいバージがた)とは、浮体式洋上風力発電所における浮体の一種で、平らで広い鋼鉄製の構造物(バージ)をベースに風車を設置する方式です。
バージ型の概要特徴
- 内容形状:平らで箱型の船のような構造(台船に似た構造)材質 鋼製(耐食・耐久性がある)
- 設置海域:比較的浅め~中程度の水深(例:50~60m)
- 係留方法:アンカーと係留索で海底に固定
メリット
- 構造が単純で製造しやすい:平面構造のため、造船技術で対応可能。
- 港で建造して曳航可能:建造後、港から曳航して設置できる。
- 安定性がある:広い底面によって揺れに強く、風車の発電効率も保ちやすい。—
デメリット・課題
- 波や風の影響を受けやすい:他の型(スパー型など)と比べて揺れが大きくなる可能性がある。
- 大型化すると運搬や設置が難しい。
- 長期的な腐食対策が必要(鋼材ゆえの課題)。
響灘プロジェクトとの関係
2025年4月に稼働した響灘沖浮体式洋上風力発電所では、日本初の商用鋼製バージ型が採用されました。これは、フランスBW Ideol社の「ダンピングプール」構造を活用しており、波の動揺を抑える特殊設計が施されています。

鋼製バージ型とは平らで広い鋼鉄製の構造物(バージ)をベースに風車を設置する方式です。日本は鋼鉄、造船に関する技術が高いため、適していますが、波や風の影響を受けやすい、運搬や設置が難しいなどの問題点もあります。
その他の実証例にはどんなものがあるのか
浮体式洋上風力発電は、日本を含む世界各国で実証や導入が進められています。水深が深い海域にも設置できるため、特に日本のように海岸からすぐに水深が深くなる国での導入が期待されています
日本国内の実証例・プロジェクト
- 長崎県五島市沖(はえんかぜ)
- 環境省の実証事業として、2010年度から浮体式洋上風力発電の実証が開始されました。
- 実証機「はえんかぜ」が運転中です。
- コンクリートと鋼製部材のハイブリッド構造を採用し、コストダウンと安定性向上を目指しています。
- 福島沖浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業(Fukushima Hamakaze)
- 経済産業省が推進した大型実証プロジェクトで、3基の浮体式風力発電設備が設置されました。
- 2013年から2021年にかけて運転が行われ、浮体式洋上風力発電の技術開発に貢献しました。
- TLP型浮体式洋上風力発電基礎の開発(大林組)
- 大林組が独自に開発したTLP(Tension Leg Platform)型浮体式基礎の実証を実海域で開始。
- 15MW級の風車を搭載する浮体の5分の1サイズの模型を設置し、浮体の動揺安定性や係留材の緊張力を確認しています。
- グリーンイノベーション基金「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクト
- 経済産業省とNEDOが、浮体式洋上風力発電の本格導入に向けた実証事業を進めています。
- 2024年6月には、秋田県南部沖と愛知県田原市・豊橋市沖の2海域が実証事業の実施海域として選定されました。15MW超の大型風車を搭載する2基のセミサブ浮体が計画されています。
世界の主な実証例・プロジェクト
- Hywind Tampen(ノルウェー)
- ノルウェーのHywind Tampenでは、88MWの浮体式洋上風力発電所が2023年から稼働を開始しました。
- 海域の水深は260~300m、海岸からの距離は約140kmに及び、スパー形式の浮体を採用しています。世界最大規模の浮体式洋上風力発電所です。
- Kincardine(イギリス)
- イギリスのKincardineでは、49.5MWの浮体式洋上風力発電所が2021年から稼働開始しました。
- 海域の水深は60~80m、海岸からの距離は約15kmで、セミサブマーシブル形式の浮体を採用しています。
- Hywind Scotland(スコットランド)
- 世界初の浮体式ウィンドファームとして、2017年に運転を開始しました(出力30MW)。
- 北海の厳しい気象条件下で運用され、浮体式洋上風力の商用化に向けた知見を蓄積しています。
- WindFloat Atlantic(ポルトガル)
- 2020年に稼働開始したポルトガルのプロジェクトで、セミサブマーシブル型の浮体を採用しています。
- 大型の風車(8.4MW)を3基設置し、商用化に近い規模での実証が進められています。
- TetraSpar Demonstrator(ノルウェー)
- テトラスパー型の浮体構造を採用した実証プロジェクトで、製造・組立・設置工程の簡略化と低コスト化を目指しています。
これらの実証を通じて、浮体式洋上風力発電の技術は着実に進化しており、将来的には世界のエネルギー供給において重要な役割を果たすことが期待されています。
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