この記事で分かること
- EUV光源とは:EUVはわずか13.5nmの波長の極端紫外線であり、波長が短いほど、微細化可能であることもあり、半導体の微細化に必須の技術になっています。
- 発生方法:スズ液敵の生成、スズへのレーザー照射によるプラズマ化、スズからのEUV光の放出、ミラーによる投影機への集光といった手順で行われます。
- スズが用いられる理由:スズはその電子構造から、13.5nmの波長において強い発光スペクトルを持つため、変換効率に優れています。
EUV光源
半導体の重要性が増す中で、前工程装置は世界的に成長が続いています。
https://optronics-media.com/news/20250414/99245/
特に中国は米中対立もあり、大幅な投資増加が続いています。今後も先端技術を駆使した半導体の需要増加と従来技術による成熟プロセスともにその重要性は増加するとみられています。
今回はフォトリソグラフィの露光工程で現在、最先端半導体の微細化に欠かすことのできないEUV光源についての解説となります。
半導体の前工程とは
半導体の前工程とは、シリコンウェハ上にトランジスタや配線などの微細な回路を形成する一連のプロセスのことです。ウェハを素材として、集積回路を作り込んでいく、半導体製造の最も重要な部分と言えます。非常に多くの精密な工程を経て、最終的な半導体チップの機能が決まります。
主な前工程は以下の通りです。
ウェハ準備
シリコンインゴットの製造: 高純度のシリコンを溶解し、種結晶を用いて単結晶のシリコンインゴットを育成します。
- スライス: インゴットを薄い円盤状(ウェハ)にスライスします。
- 研磨: ウェハ表面を平坦かつ滑らかに研磨します。
- 洗浄: ウェハ表面の微細な異物や汚れを徹底的に除去します。
成膜
ウェハ表面に、酸化膜、窒化膜、金属膜など、様々な薄膜を形成します。
- 成膜方法には、CVD(化学気相成長法)、スパッタリング(物理気相成長法)、ALD(原子層堆積法)などがあります。
フォトリソグラフィ
ウェハ表面に感光材(フォトレジスト)を塗布します。
- 回路パターンが描かれたマスク(フォトマスク)を通して紫外線を照射し、レジストにパターンを焼き付けます。
- 現像液で不要なレジストを除去し、ウェハ上に回路パターンを形成します。
エッチング
フォトリソグラフィでパターン形成されたレジストをマスクとして、露出した成膜を除去し、ウェハに回路パターンを転写します。
- エッチングには、液体を用いるウェットエッチングと、プラズマを用いるドライエッチングがあります。
不純物導入(ドーピング)
半導体特性を持たせるために、リンやボロンなどの不純物をウェハ中に注入します。
- イオン注入法などが用いられます。
平坦化(CMP: Chemical Mechanical Polishing)
表面の凹凸をなくし、平坦にするための処理です。
- 化学的な腐食と механическая研磨を同時に行います。
配線形成(メタライゼーション)
形成されたトランジスタなどの素子間を金属配線で接続します。
- スパッタリングなどで金属膜を形成し、フォトリソグラフィとエッチングで配線パターンを作ります。
これらの工程を何度も繰り返し行うことで、複雑な集積回路がウェハ上に形成されます。前工程は、半導体の性能や品質を大きく左右する、非常に重要なプロセスです。

前工程は、細な回路を形成する一連のプロセスのことで、半導体の性能や品質を大きく左右する、非常に重要なプロセスです。
EUV光源とは
EUV(Extreme Ultraviolet、極端紫外線)光源は、現在の最先端半導体製造において、回路の微細化を可能にする上で最も重要な技術の一つです。その波長はわずか13.5nm(ナノメートル)と、従来の紫外線(UV)光源の約1/14にまで短縮されており、これにより7nm、5nm、さらには3nm世代といった極めて微細な回路パターンの形成が可能になります。
EUV光源の生成原理:LPP(Laser-Produced Plasma)方式
EUV光を生成する最も主流の方法は、LPP(Laser-Produced Plasma:レーザー生成プラズマ)方式です。この方式は、以下のステップでEUV光を生成します。
スズ(Sn)液滴の生成
EUV光源装置の心臓部で、マイクロメートル(10−6 m)サイズの非常に小さなスズの液滴が、ノズルから高速で噴射されます。スズが選ばれるのは、13.5nmというEUVリソグラフィに最適な波長で効率よく発光するためです。
プレパルスレーザー照射
まず、メインのレーザーに先立ち、低出力のレーザー(プレパルスレーザー)がスズ液滴に照射されます。これは、液滴の形状を整えたり、密度を調整したり、予備的に加熱してプラズマを生成しやすい状態にする役割があります。
メインパルスレーザー照射
次に、高出力のCO2レーザー(炭酸ガスレーザー)が、プレパルスレーザーによって調整されたスズ液滴に照射されます。このCO2レーザーは非常に強力で、液滴に当たると瞬時にスズを蒸発させ、超高温・高密度のプラズマ状態にします。
EUV光の集光
放出されたEUV光は、そのままでは全方向に拡散してしまいます。そのため、コレクターミラーと呼ばれる特殊な多層膜ミラーで効率的に集光され、露光装置の投影光学系へと導かれます。このミラーはEUV光を反射するために、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の薄膜を交互に何十層も重ねた構造になっています。

EUVはわずか13.5nmの波長の極端紫外線であり、波長が短いほど、微細化可能であることもあり、半導体の微細化に必須の技術になっています。
スズ液敵の生成、スズへのレーザー照射によるプラズマ化、スズからのEUV光の放出、ミラーによる投影機への集光といった手順で行われます。
EUV光源の課題は何か
EUV光源は、その高い性能と引き換えに、克服すべき多くの技術的課題を抱えています。
高い光出力と変換効率
- 課題: EUV露光装置の生産性(スループット)を確保するためには、非常に高出力のEUV光が必要です。しかし、レーザーエネルギーからEUV光への変換効率はまだ低く、残りのエネルギーは熱として失われます。
- 対策: CO2レーザーの高出力化、プレパルスとメインパルスの最適化、スズ液滴のサイズ・間隔・速度の精密制御などにより、変換効率の向上と高出力化が進められています。ASMLの最新EUV露光装置では、露光に必要な出力が確保され、量産化に貢献しています。
デブリ(微粒子)の発生とミラーの汚染
- 課題: スズプラズマを生成する過程で、スズの微細な粒子(デブリ)やイオンが発生します。これらのデブリがEUV光を集めるコレクターミラーに付着すると、ミラーのEUV反射率が低下し、寿命が短くなります。コレクターミラーは非常に高価な部品であり、頻繁な交換はコストとスループットに大きく影響します。
- 対策:
- 水素ガスフロー: コレクターミラーの表面に水素ガスを流すことで、デブリがミラーに到達する前に吹き飛ばしたり、付着したデブリを化学的に除去したりします。
- 磁場によるイオン制御: 磁場を用いて、デブリの原因となるスズイオンの軌道を制御し、ミラーへの付着を防ぐ技術も開発されています。
- 液滴の最適化: スズ液滴のサイズや形状を精密に制御することで、デブリの発生量を最小限に抑える試みも行われています。
真空環境の維持
- 課題: 13.5nmのEUV光は、空気や他のガス分子によって容易に吸収されてしまいます。そのため、EUV光源からウェーハに至るまでの光路全体が、極めて高い真空状態に保たれている必要があります。
- 対策: 高性能な真空ポンプ、リーク(漏れ)のないチャンバー設計、デブリ対策と真空維持の両立などが求められます。装置の大型化と複雑化の一因でもあります。
ペリクル(防塵膜)の透過率と耐久性
- 課題: マスクにゴミが付着するのを防ぐペリクルは、従来のUV光では透過性の高い材料が使えましたが、EUV光は通常の材料を透過しません。透過性の高いEUV用ペリクルは、まだ開発途上であり、透過率が100%ではないため、EUV光の一部を吸収して発熱し、デブリ発生やマスクの温度変化を引き起こす可能性があります。
- 対策: 高いEUV透過率と耐熱性、耐久性を持つペリクル材料の開発が続けられています。現在、ASMLは、EUV用ペリクルの使用を標準化しており、歩留まり向上に貢献しています。
EUV光源の主要メーカー
EUV光源を製造できる企業は世界でも非常に限られています。
- ギガフォトン (Gigaphoton, 日本): コマツの子会社であり、ASMLの主要なEUV光源サプライヤーの一つです。長年にわたるエキシマレーザー開発の経験を活かし、LPP方式EUV光源の開発をリードしています。
- サイマー (Cymer, アメリカ): かつては独立した主要なエキシマレーザーメーカーでしたが、現在はASMLの完全子会社となっています。ASMLはEUV光源を自社で内製する体制を強化しており、サイマーはその中核を担っています。
EUV光源は、半導体業界の最先端を切り開く上で不可欠な技術であり、これらの企業がその進化を支え続けています。

EUV光源は、その高い性能を持つものの、変換効率の低さ、微粒子の発生とミラーの汚染、ごみの付着を防ぐペリクルのEUV透過率の低さなどの課題もあります。
なぜ、スズが使用されるのか
EUV(極端紫外線)光源でスズ(Sn)が利用されるのには、主にその優れた発光効率と、ターゲットとする13.5nmという波長への最適性が理由として挙げられます。
スズが選ばれる理由
- 高い変換効率: レーザー生成プラズマ(LPP)方式では、ターゲット物質に高出力レーザーを照射してプラズマを生成し、そこからEUV光を取り出します。この際、投入したレーザーエネルギーからEUV光への変換効率が非常に重要になります。スズは、他の候補物質(例えばキセノン(Xe)など)と比較して、13.5nmの波長において格段に高い変換効率を示します。これは、スズの電子構造が、その波長域で強い発光スペクトルを持つためです。高い変換効率は、必要なEUV光出力を得るために必要なレーザーのエネルギーを抑え、装置の電力消費量やコストを削減する上で不可欠です。
- 最適な波長(13.5nm)での発光: EUVリソグラフィでは、光学系の設計(多層膜ミラーの反射特性など)との兼ね合いから、厳密に13.5nmの波長がターゲットとされています。スズのプラズマからは、この13.5nmにピークを持つ強力な発光スペクトルが得られます。これはスズ原子が特定のエネルギー準位間で遷移する際に放出する光が、この波長に合致しているためです。
その他の候補物質との比較
EUV光源の開発初期には、キセノン(Xe)も有力な候補でした。
- キセノン(Xe):
- 利点: 不活性ガスであるため、プラズマ生成時にデブリ(微粒子)をほとんど発生させないという大きな利点がありました。これにより、高価なコレクターミラーへの汚染リスクが低いと考えられていました。
- 欠点: 13.5nmにおけるEUVへの変換効率がスズに比べて著しく低いことが最大の課題でした。キセノンは、EUV波長域で複数の弱い発光ピークを持つため、効率よく目的の波長を生成するのが困難でした。
結果として、EUV光の高出力化と安定供給という半導体量産に必要な条件を満たすためには、スズの圧倒的な変換効率が不可欠であると判断され、デブリ発生という課題を抱えながらも、その克服に技術開発の重点が置かれることになりました。

スズはその電子構造から、13.5nmの波長において強い発光スペクトルを持ち、変換効率に優れているため利用されています。
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