この記事で分かること
- 鉱工業指数とは:日本の鉱業と製造業の生産活動の状況を総合的に示す経済指標です。
- 景気との連動性が高い理由:関わる業界が経済活動全体の約4割に達する幅広さ、景気変動に敏感に反応する、速報性が高いなどの理由から景気判断に利用されます。
- 低迷の理由:フラットパネル・ディスプレイや繊維の製造装置の減少や航空機用機体部品、金属製品の製造量減少が低下の要因となっています。ただし、全体のトレンドが低下傾向であるかはまだ不透明です。
鉱工業生産指数低下
2025年4月の鉱工業生産指数(速報値)は、前月比0.9%減の101.5(季節調整済)となりました。これは3ヶ月ぶりの低下です。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250530/k10014820601000.html
一部からはアメリカの関税政策の影響との声もあり、今後の景気動向に不安が残る内容となっています。
鉱工業指数とは何か
「鉱工業指数」とは、日本の鉱業と製造業の生産活動の状況を総合的に示す経済指標です。経済産業省が毎月公表しており、日本の景気動向を把握する上で非常に重要な統計データの一つとされています。
鉱工業指数の主な種類
鉱工業指数には主に以下の3つの種類があります。
- 生産指数: 鉱工業製品がどれだけ生産されたかを示す指数です。企業の生産活動の活発さを表します。
- 出荷指数: 鉱工業製品がどれだけ出荷されたかを示す指数です。企業の販売状況や需要の動向を反映します。
- 在庫指数: 生産された製品がどれだけ手元に残っているかを示す指数です。在庫が増えれば過剰生産の可能性があり、減れば生産増強の兆しと見ることができます。
これら3つに加えて、「在庫率指数(出荷に対する在庫の割合)」や「生産能力指数」「稼働率指数」なども公表されています。
鉱工業指数の特徴と見方
- 数量指数である: 価格の変動を除いた、純粋な生産量や出荷量の変化を捉える数量指数です。
- 基準年と比較: ある特定の年(現在の基準年は2020年)を「100」として、その時点と比べて生産量や出荷量などがどれだけ増減したかを示します。例えば、生産指数が105であれば、基準年より5%生産が増えたことを意味します。
- 対象範囲: 鉱業(石灰石、原油など)と製造工業(製品の製造加工など)が対象です。これらの分野から代表的な品目を選んで指数を作成しています。
- 景気判断の重要指標:
- 速報性: GDP(国内総生産)が四半期ごとの発表であるのに対し、鉱工業指数は月次で発表されるため、経済の動きをいち早く把握できます。
- 景気との連動性: 鉱工業生産は、経済活動全体(GDP)への影響が大きく、景気の上向き・下向きに敏感に反応します。特に、景気が上向くと出荷が増え、在庫が減少して生産が増える傾向があるため、景気の動向や転換点を判断する上で非常に役立ちます。内閣府が作成する「景気動向指数」にも、鉱工業指数から複数の系列が採用されています。
- 在庫循環: 生産、出荷、在庫の動きを組み合わせることで、「在庫循環」という形で景気局面を読み解くことができます。
算出方法
鉱工業指数は、数多くの品目の中から代表的な製品を選び、その生産量や出荷量などの動きを基準年=100とする指数の形にします。
これらの個々の品目ごとに作成した指数を「個別指数」と呼び、それらを各品目の経済的な重要度を示す「ウェイト(付加価値額などに基づいて算出)」で加重平均することによって、総合指数や業種別・財別の指数を算出します。計算には主に「ラスパイレス算式」が用いられます。
このように、鉱工業指数は日本の経済状況を理解し、景気判断を行う上で不可欠なデータとなっています。

鉱工業指数は日本の鉱業と製造業の生産活動の状況を総合的に示す経済指標です。鉱工業生産指数は鉱工業製品がどれだけ生産されたかを示す指数であり、企業の生産活動の活発さを表すため、経済状況を表し景気判断を行うものとなっています。
景気の指標になるのはなぜか
鉱工業指数、特に鉱工業生産指数が景気と強く連動するのは、以下の重要な理由によります。
1. 経済活動全体に占める割合が大きいから
日本のGDP(国内総生産)に占める鉱工業(製造業と鉱業)の割合は約2割ですが、これに加えて、鉱工業製品の流通に関わる卸売業、小売業、運輸業といった関連産業まで含めると、経済活動全体の約4割に達すると言われています。
つまり、鉱工業の生産活動が活発になれば、その波及効果で多くの関連産業も潤い、経済全体が上向きます。
逆に、鉱工業の生産が落ち込めば、関連産業にも悪影響が及び、経済全体が停滞する傾向があるため、鉱工業生産指数は景気の「ど真ん中」にいると言えるのです。
2. 景気変動に敏感に反応するから
企業は、需要の変化に非常に敏感に反応して生産活動を調整します。
- 景気拡大期: 製品がよく売れる(出荷が増える)と、企業はそれに対応するために生産を増やします。場合によっては、将来の需要増を見越して、さらに積極的に生産を増強したり、設備投資を行ったりすることもあります。これにより、残業が増えたり、人手不足から雇用が拡大したりと、経済全体に活気が生まれます。
- 景気後退期: 製品の売れ行きが悪くなる(出荷が減る)と、企業はまず生産を抑制し、過剰な在庫を減らそうとします。生産が減れば、残業が減り、新規雇用が手控えられ、場合によっては人員削減が行われることもあります。これは、消費や企業の投資活動に直接的な影響を与え、景気悪化を加速させる要因となります。
このように、鉱工業生産は、需要の変化に直接的に影響を受けるため、景気の浮き沈みをいち早く反映する特性を持っています。
3. 速報性が高いから
GDP(国内総生産)の発表が四半期ごとであるのに対し、鉱工業指数は毎月速報値が公表されます。この速報性の高さにより、経済の現状や変化の兆候を、他の主要経済指標に比べて早く把握することができます。
経済学や政策立案においては、景気の転換点を正確かつ迅速に捉えることが非常に重要です。鉱工業生産指数は、その敏感さと速報性から、景気の先行指標や一致指標として広く利用されており、内閣府が公表する景気動向指数にも複数の鉱工業指数が採用されています。
これらの理由から、鉱工業生産指数は、日本の経済状況や景気動向を判断する上で非常に重要な指標として位置づけられているのです。

鉱工業に関わる業界が経済活動全体の約4割に達する幅広さ、景気変動に敏感に反応する、速報性が高いなどの理由から景気判断に利用されます。
今回の低下の要因は何か
2025年4月の鉱工業生産指数が前月比0.9%減となった今回の低下要因は以下のようなものと考えられます。
主な低下の要因
- 生産用機械工業の減少(特に顕著)
- フラットパネル・ディスプレイ製造装置:この分野での生産が大きく落ち込みました。これは、半導体関連の設備投資サイクルや特定の電子機器需要の変動に影響される可能性があります。
- 繊維機械:こちらも生産が減少しました。
- この業種全体の減少は、輸出向けと国内向けの両方で確認されており、特定の最終製品(ディスプレイや繊維製品など)の需要低迷、あるいは設備投資の一巡が背景にあると推測されます。
- 輸送機械工業(自動車工業を除く)の減少
- 航空機用機体部品などが減少しました。これは、特定の航空機メーカーからの受注変動や、部品の供給チェーンの調整などが影響している可能性があります。
- 金属製品工業の減少
- 具体的な製品名が挙げられていませんが、汎用的な金属部品や構造材などの生産が減少したと考えられます。これは、生産用機械工業など他の製造業の生産減少に引きずられた可能性もあります。
要因のまとめと背景推測
- 設備投資関連の減速: 特に「生産用機械工業」の落ち込みは、企業が新しい工場や設備に投資する意欲が一時的に鈍化している可能性を示唆します。これは、景気の先行きに対する慎重な見方や、過去の過剰な投資の反動などが考えられます。
- 海外需要の変動: フラットパネル・ディスプレイ製造装置や航空機部品などは、グローバルな需要動向に大きく左右されます。海外経済の減速や特定のセクターにおける調整が、日本の生産活動に影響を与えている可能性もあります。
- 国内需要の停滞: 国内向けの生産用機械の減少も確認されており、国内企業の設備投資意欲が全体として弱い局面にあることも要因として挙げられます。
経済産業省の評価との関連性
経済産業省が基調判断を「一進一退」に据え置いたことは、今回の低下が一時的なもの、あるいは特定の要因によるものであり、全体としてのトレンドが大きく下向きに転じたとはまだ判断していないことを示唆しています。
今後の動向としては、製造工業生産予測調査で5月は上昇、6月は低下が予測されており、短期的な上下変動は続くものの、大局的には横ばい圏での推移が見込まれています。
しかし、国際情勢や海外経済の不確実性が高まっているため、これらの要因が今後の生産動向にどう影響するかを引き続き注意深く見ていく必要があります。

フラットパネル・ディスプレイや繊維の製造装置の減少や航空機用機体部品、金属製品の製造量減少が低下の要因となっています。
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