この記事で分かること
- 積層の方法:微細な銅粉末に青色レーザーを照射して一層ずつ融解・凝固させ、目的の立体形状を形成していきます。
- なぜ、青色レーザーなのか:青色レーザーは銅への光吸収率が格段に高いため、従来の近赤外線レーザーでは困難であった純銅の効率的かつ安定的な溶融が可能になり、積層造形に適した特性を持っているためです。
青色レーザーを用いた純銅の積層
大阪大学は、青色レーザーを用いた純銅の積層造形技術に関して、長年にわたり研究開発を進めており、複数の画期的な成果を発表しています。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00751833
青色レーザーが持つ銅への高い吸収率という特性を活かし、これまで難しかった純銅の精密な加工や積層造形を実現するもので、様々な産業分野での応用が期待されています。
レーザーを使ってどのように銅を積層するのか
レーザー積層造形(Additive Manufacturing)の基本的な原理は、粉末状の金属材料にレーザーを照射して融解させ、それを一層ずつ積み重ねて立体的な造形物を作り上げる、というものです。
銅の積層造形においても、この原理が適用されます。特に、大阪大学などが研究開発を進めている青色レーザーを用いた方式では、以下のプロセスで銅を融解・積層していきます。
- 銅粉末の供給: 積層造形装置のビルドプレート上に、非常に微細な銅の粉末が均一に敷き詰められます。
- 青色レーザーの照射と融解: 青色レーザーが、造形したい部分の銅粉末にピンポイントで照射されます。銅は青色レーザーを効率よく吸収するため、瞬時に融解し、小さな溶融プール(メルトプール)が形成されます。
- 凝固と一層目の形成: レーザーが通過した部分は、融解した銅がすぐに冷却されて凝固し、一層目の造形物が形成されます。
- 積層の繰り返し:
- 一層目が完成すると、ビルドプレートがわずかに下降します。
- その上に再び新しい銅粉末が薄く敷き詰められます。
- 再びレーザーが照射され、一層目の上に二層目が融解・凝固して積み重なります。
- 最終的な造形物: このプロセスを何百、何千回と繰り返すことで、最終的に設計された三次元の純銅部品が完成します。
このプロセスにおいて、青色レーザーの特性(高い吸収率と安定した溶融)が、銅を効率的かつ高品質に積層するために非常に重要な役割を果たしています。
従来のレーザーでは難しかった、導電性や熱伝導性に優れた純銅部品の製造が可能になることで、電気自動車のモーターやパワーデバイス、放熱部品など、様々な分野での応用が期待されています。

従来のレーザーに比べ、銅が青色光を非常に効率よく吸収するため、少ないエネルギーで安定的に融解できます。この特性を活かし、微細な銅粉末に青色レーザーを照射して一層ずつ融解・凝固させ、目的の立体形状を形成していきます。
なぜ青色レーザーで銅を積層できるのか
青色レーザーで純銅を積層できる理由は、銅が青色光を非常に効率よく吸収するという、光学的特性にあります。
高い光吸収率
- 近赤外線レーザー(従来のレーザー)の場合: 一般的な金属加工に用いられる近赤外線レーザー(波長約1.0μm)は、銅に対してわずか数%(およそ1%~5%)しか吸収されません。残りの大部分は銅の表面で反射されてしまいます。そのため、銅を溶かすためには非常に高い出力のレーザーが必要となり、加工効率が悪いだけでなく、不安定な溶融やスパッタ(飛散)の発生などの問題が起こりやすくなります。
- 青色レーザーの場合: 青色レーザー(波長約450nm)は、銅に対して**約60%**もの高い吸収率を示します。これは近赤外線レーザーと比較して約12倍も効率が良いことを意味します。この高い吸収率により、少ないエネルギーで効率よく銅を溶融させることが可能になります。
安定した溶融
- 近赤外線レーザーでは、銅が溶融する前と後で光吸収率が大きく変化します(溶融すると吸収率が上がる)。この急激な吸収率の変化が、不安定な溶融(キーホールの不安定化など)を引き起こし、結果として加工不良やスパッタの発生に繋がります。
- 青色レーザーは、固体状態の銅と液体状態の銅の間で光吸収率の差が小さいと言われています。これにより、溶融プロセスが安定し、スパッタの抑制や高品質な積層造形が可能になります。
微細加工性
- 青色レーザーは、近赤外線レーザーに比べて波長が短いため、より微細な領域にエネルギーを集中させることができます。これにより、精密な加工や薄い層での積層が可能となり、高精度な純銅部品の製造に適しています。

青色レーザーは銅への光吸収率が格段に高いため、従来の近赤外線レーザーでは困難であった純銅の効率的かつ安定的な溶融が可能になり、積層造形に適した特性を持っているのです。
どんな応用方法があるのか
青色レーザーを用いた純銅の積層造形技術は、銅が持つ優れた特性(高い電気伝導性、高い熱伝導性)を最大限に活かせるため、以下のように様々な分野で革新的な応用が期待されています。
1. 電気・電子部品分野
- EV(電気自動車)用モーターコイル: EVの高性能化にはモーターの効率向上が不可欠です。複雑な形状のコイルを一体成形することで、従来の巻線製造では難しかった高密度な配置や最適な冷却経路の確保が可能になり、モーターの小型化、軽量化、高出力化、高効率化に貢献します。
- バスバー(ブスバー): 電流を流すための導体であり、複雑な分岐や冷却構造を一体で製造することで、電力損失の低減や省スペース化が図れます。
- 高周波コイル: 高周波加熱などに応用されるコイルの複雑な内部構造を一体で造形することで、効率と耐久性を向上させることができます。特に高周波焼き入れ用コイルなどでは、熟練の職人によるロウ付けが不要になり、安定生産とコストダウンに繋がります。
- パワー半導体デバイス: 窒化アルミニウム基板への直接接合などにより、熱マネジメントが重要なパワー半導体の高信頼性化、小型化、高性能化に貢献します。
2. 熱マネジメント部品分野
- ヒートシンク・熱交換器: 複雑な内部流路やラティス構造を一体で設計・製造することで、従来の加工法では不可能だった高い熱交換効率を持つヒートシンクや熱交換器が実現できます。これにより、データセンターのAIチップ冷却や電子機器の放熱性能を飛躍的に向上させ、省エネルギー化に貢献します。
- コールドプレート: 特に高性能な電子機器の直接冷却に使われる部品で、内部に冷却液が通る微細で複雑な流路を設けることで、効率的な冷却が可能です。
- ロケットエンジン部品: 高温にさらされるロケットエンジンの冷却チャンネルなど、高い熱伝導性と複雑な形状が要求される部品への適用が期待されています。
3. その他
- 高精度が求められる部品: 航空・宇宙分野など、高精度な部品が要求される領域での活用が進んでいます。
- カスタム品・少量多品種生産: 金型が不要になるため、開発期間の大幅な短縮や、多品種少量生産、オーダーメイド品の製造が容易になります。
これらの応用は、純銅が持つ優れた物性を、複雑な形状と組み合わせることで最大限に引き出し、これまでの製造方法では困難だった革新的な製品開発を可能にするものです。
特に、高効率化や小型化が求められる現代の産業において、青色レーザーによる純銅積層造形技術は非常に大きなインパクトを持つと期待されています。

高い電気伝導性と熱伝導性を活かし、EVモーターのコイルやバスバー、高性能ヒートシンク、熱交換器など、次世代の電気・電子部品や熱マネジメント部品の製造を革新します。複雑な形状も一体成形でき、高効率化と小型化に貢献します。
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