この記事で分かること
- 長寿命化の方法:独自の材料(リチウム金属負極など)と電解液の最適化などによる、低い自己放電率の実現で長寿命を達成しています。
- なぜカーボン電極は自己放電しやすいのか:電解液との副反応やSEI膜の不安定性が原因です。充放電に伴うSEI膜の損傷や電解液の分解が、リチウムイオンを消費し、容量減少(自己放電)を引き起こします
FDKのリチウムイオン電池の長寿命化
FDKは、リチウム電池の長寿命化に関して、様々な技術開発と製品展開を行っています。
FDKのリチウム電池は、スマートメーター、IoT機器、セキュリティ機器、火災警報器、医療機器、車載機器など、幅広い分野で採用されており、その長寿命と高い信頼性が評価されています。
どのように長寿命を実現しているのか
FDKはリチウム電池の長寿命化を実現するために以下のような技術を用いています。
1. 自己放電率の極限までの抑制
これがFDKの長寿命化の最大の特長の一つです。リチウム電池は、使用していなくてもわずかずつ容量が減少していく「自己放電」という現象が避けられません。
FDKは、この自己放電を極めて低いレベルに抑えることで、長期保存や長期使用における容量劣化を最小限にしています。
- 電極材料の最適化:
- 負極材料にリチウム金属を使用: 一般的なリチウムイオン電池ではグラファイトなどが使われますが、FDKの一次リチウム電池では、質量あたりの容量が大きいリチウム金属を負極材料に採用しています。このリチウム金属と、適切な正極材料(二酸化マンガンなど)との組み合わせが、安定した電位と低い自己放電率に寄与します。
- 材料設計のノウハウ: 長年の電池開発で培った独自の材料選定や配合技術により、電極と電解液の間の副反応を抑制し、自己放電の原因となる内部抵抗の増加や電極表面の劣化を防いでいます。
- 電解液の改良:
- 非水系電解液の採用: 容易には凍らない非水系電解液を使用することで、広範囲の温度(-40℃~+85℃)で安定した性能を維持できます。温度変化による電解液の劣化や副反応の発生を抑制し、自己放電を抑えています。
- 最適な組成の選定: 電解液中の溶媒や電解質、添加剤の最適なバランスを見つけることで、電極表面での不動態皮膜の形成を制御し、電解液と電極の界面での不必要な反応を抑制しています。
- 封口技術の高度化(レーザー封口):
- 電池内部の電解液が外部に漏れ出したり、外部から水分や酸素が侵入したりすることは、自己放電や劣化の大きな原因となります。FDKは、電池の密閉性を高めるためにレーザー封口などの高度な封口技術を採用しています。これにより、外部環境からの影響を遮断し、電池内部の安定性を長期間保つことが可能です。
2. 電池構造の最適化
- スパイラル電極構造: 特に高出力タイプの電池では、電極を渦巻き状に巻いた「スパイラル電極構造」を採用しています。これにより、電極面積を広げ、内部抵抗を低減することで、大電流放電時でも安定した性能を発揮し、電池への負荷を軽減します。高頻度なパルス放電を必要とする機器でも、電池の劣化を抑え、長寿命化に貢献します。
3. 品質管理と生産体制
- 国内生産体制: FDKは日本国内(鳥取工場など)での開発・製造にこだわり、高い品質と信頼性を確保しています。精密な製造プロセスと厳格な品質管理により、ばらつきの少ない安定した性能の電池を供給し、長寿命を保証しています。
4. 次世代技術への取り組み
- 全固体電池の開発: 将来的なさらなる長寿命化、安全性向上を目指し、電解液を使用しない全固体電池の開発にも力を入れています。可燃性の有機系電解液の代わりに、酸化物系の固体電解質を用いることで、液漏れのリスクがなくなり、高温環境下での安全性と安定性が向上します。これにより、究極の長寿命電池の実現を目指しています。
これらの技術の組み合わせにより、FDKは「室温で0.5%/年」という非常に低い自己放電率を実現し、10年保存しても95%以上の容量を維持できるという優れた長寿命性能を誇っています。
これが、スマートメーターやIoT機器など、一度設置したら長期にわたって交換が困難な用途でFDKのリチウム電池が広く採用されている理由です。

FDKは、リチウム電池の長寿命化を、極めて低い自己放電率の実現で達成しています。これは、独自の材料(リチウム金属負極など)と電解液の最適化、レーザー封口による高密閉化により実現。加えて、スパイラル電極構造や厳格な国内生産体制も長寿命を支えています。
なぜグラファイトを使うと自己放電するのか
リチウムイオン電池の負極にグラファイトを使用する場合、自己放電が発生する主な理由は以下の通りです。
1. 電解液との副反応(SEI膜の欠陥)
- SEI (Solid Electrolyte Interphase) 膜の形成: リチウムイオン電池を最初に充電する際、グラファイト負極の表面では電解液が還元され、**SEI膜(固体電解質界面膜)**と呼ばれる薄い保護膜が形成されます。このSEI膜は、それ以上の電解液の分解を抑制し、リチウムイオンがグラファイト内部に出入りする(インターカレーション)ための通路となります。
- SEI膜の不安定性や欠陥: しかし、このSEI膜は完全に完璧ではありません。
- 経年劣化や温度変化: 長期間の使用や高温環境下では、SEI膜が分解したり、亀裂が入ったりして不安定になることがあります。
- リチウムイオンの挿入・脱離による損傷: 充放電を繰り返すことで、グラファイトの層構造が膨張・収縮し、SEI膜に物理的なストレスがかかり、欠陥が生じやすくなります。
- 副反応の進行: SEI膜に欠陥が生じると、その部分から電解液がグラファイト表面に直接触れ、電解液の還元分解などの副反応が微量ながら進行します。この副反応は、リチウムイオンを消費し、電子が内部で消費されることで、電池の容量が徐々に失われる、つまり自己放電として現れます。
2. 電解液中の不純物による反応
- 電解液中には、微量の不純物が含まれていることがあります。これらの不純物が、電極表面や電解液中で化学反応を引き起こし、自己放電の原因となることがあります。
- 例えば、水分の存在は電解液の分解を促進し、SEI膜の不安定化につながります。
3. 正極からの溶解成分による内部短絡(レドックスシャトル)
- 特に高電圧で使用されるリチウムイオン電池の場合、正極材料(特に遷移金属酸化物)の一部が電解液中に溶け出すことがあります。
- 溶け出した金属イオンが負極のグラファイト表面に到達し、そこで還元されて金属として析出することがあります。この金属析出物がセパレータを突き破り、正極と負極の間で微小な内部短絡を引き起こすことで自己放電が発生します。
- また、一部の研究では、電極を固定するためのテープなどの材料が化学分解し、「レドックスシャトル」と呼ばれる分子を生成し、これが電極間を往復することで自己放電が起こる可能性も指摘されています。
4. グラファイト層構造の損傷
- リチウムイオンがグラファイトの層間に挿入・脱離する過程で、グラファイトの結晶構造にわずかな歪みや損傷が生じることがあります。これにより、リチウムイオンの吸蔵・放出効率が低下し、自己放電に繋がる可能性も考えられます。
グラファイトはリチウムイオンの吸蔵性に優れ、比較的安定した材料ですが、上記のような要因により、完全に自己放電をなくすことはできません。
FDKが自己放電を極限まで抑えるためにリチウム金属を負極に用いるのは、グラファイト負極が抱えるこれらの自己放電要因を避けるための一つの戦略と言えます。

グラファイト負極のリチウムイオン電池で自己放電が起こるのは、主に電解液との副反応やSEI膜の不安定性が原因です。充放電に伴うSEI膜の損傷や電解液の分解が、リチウムイオンを消費し、容量減少(自己放電)を引き起こします。
スパイラル電極とは何か
「スパイラル電極」とは、電池の内部構造において、正極、セパレータ、負極の3つのシート状の材料を、セパレータを挟むように重ねて渦巻き状に(スパイラルに)巻きつけた構造のことを指します。
イメージとしては、ロールケーキのように薄い生地(電極)とクリーム(セパレータ)を重ねて巻いていくような形です。この巻きつけたものを円筒形のケースに収めることで、円筒形電池が作られます。
スパイラル電極の主な特徴とメリット
- 広い電極面積の確保: 限られた体積の中に、非常に広い面積の電極を効率的に配置することができます。
- 低内部抵抗: 電極面積が広がることで、電流が流れる経路が短くなり、内部抵抗を低く抑えることができます。
- 高出力化: 内部抵抗が低いことで、大電流をスムーズに流すことが可能になります。そのため、電動工具やデジタルカメラ、電気自動車など、瞬間的に大きな電力を必要とする用途に適しています。FDKの「高出力円筒形二酸化マンガンリチウム一次電池」のように、大電流放電が求められる製品で採用されています。
- 比較的高いエネルギー密度: コンパクトに電極を収納できるため、体積あたりのエネルギー密度を高くすることができます。
- 製造の自動化が容易: シート状の材料を巻き取るプロセスは自動化しやすく、大量生産に向いています。
スパイラル電極の主なデメリット(比較対象は積層型など)
- 形状の制約: 基本的に円筒形になるため、薄型や自由な形状の電池には不向きです。スマートフォンなどの薄型機器には、シート状の電極を何枚も積み重ねる「積層型(ラミネート型)」が使われることが多いです。
- 熱放散の課題: 電極が密に巻かれているため、内部で発生した熱がこもりがちになり、放熱性が課題となることがあります。特に高出力で連続放電を行う場合、温度上昇に注意が必要です。
多くの円筒形のリチウムイオン電池やニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池などで、このスパイラル電極構造が採用されています。

スパイラル電極とはスパイラル電極は、電池の正極、セパレータ、負極をシート状に重ねて渦巻き状に巻いた構造です。これにより、限られたスペースに広い電極面積を確保でき、内部抵抗を低減。結果として、大電流を供給できる高出力な電池を実現します。多くの円筒形電池に採用されています。
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