この記事で分かること
- ケミカルリサイクルポリアミドとは:使用済みプラスチックを化学分解して元の原料に戻し、再重合して製造されたポリアミドです。
- 製造方法:ポリアミドを水や熱、触媒などを用いて、ポリアミドの結合を切断し、元の小さな分子(モノマーや中間原料)に戻します。小さな分子を精製した後に、新たな重合の原料とします。
- 課題:高コスト(設備投資、運用費用)、技術的な難しさ(添加物処理、効率・収率向上)、そして安定した廃プラスチックの確保です。
BASFらのケミカルリサイクルポリアミド
BASFジャパン、興人フィルム&ケミカルズ、TOPPAN、J-オイルミルズの4社が、ケミカルリサイクルポリアミドを用いた日本初の食用油向け業務用容器BIB(バッグインボックス)の開発に関して協業を開始しました。
この協業の目的は、容器包材のリサイクルを促進し、ケミカルリサイクルポリアミドなどを活用した包装材の循環型モデルの実現を目指すことです。
ケミカルリサイクルポリアミドとは何か
ケミカルリサイクルポリアミドとは、使用済みプラスチック(特にポリアミド製品)を化学的に分解し、その構成要素であるモノマーや中間原料に戻してから、再度ポリアミドとして重合して作られた素材のことです。
一般的なプラスチックリサイクルには、主に「マテリアルリサイクル」と「ケミカルリサイクル」の2種類があります。
- マテリアルリサイクル(物理的リサイクル): 廃棄されたプラスチックを洗浄・粉砕し、溶融して新しい製品に成形する方法です。比較的シンプルな工程ですが、異物の混入や品質劣化の問題が生じやすく、再生できる用途が限られる場合があります。
- ケミカルリサイクル(化学的リサイクル): 廃棄されたプラスチックを熱や薬剤を使って化学的に分解し、元の化学物質(モノマーや石油化学原料など)に戻す方法です。この分解された化学物質は、新品のプラスチックを製造する際と同じように再利用できます。
ケミカルリサイクルポリアミドの主な特徴
- 品質の安定性: 化学的に分解して原料に戻すため、新品と同等の品質を持つポリアミドを製造することが可能です。マテリアルリサイクルで起こりがちな品質劣化を抑えられます。
- 幅広い原料対応: 汚れたプラスチックや、他の素材と混ざった複合プラスチックなど、マテリアルリサイクルが困難な廃棄物も原料として利用できる可能性があります。
- 資源の有効活用と環境負荷低減: 化石燃料からポリアミドを新規製造する代わりに、使用済みプラスチックを再利用することで、有限な資源の消費を抑え、CO2排出量削減にも貢献します。
- 循環型経済の実現: プラスチックを焼却・埋め立てせずに再利用する「水平リサイクル」(使用済み製品を再び同じ製品にリサイクルすること)を含む、より高度な循環型モデルの構築が可能になります。
ポリアミドとは
ポリアミドは、一般的に「ナイロン」と呼ばれる素材の総称です。優れた強度、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性を持つため、衣料品、自動車部品、電気・電子部品、包装材など、幅広い分野で利用されています。
食用油容器におけるケミカルリサイクルポリアミドの利用
食用油容器のような食品に直接触れる用途では、衛生面や安全性の基準が非常に厳しいため、品質が安定した素材が求められます。ケミカルリサイクルポリアミドは、新品と同等の品質と安全性を確保できるため、このような用途での採用が進められています。BASFなどの協業では、マスバランス・アプローチという手法を用いて、リサイクル原料の価値を割り当て、再生素材を用いた食用油容器の開発を進めています。

ケミカルリサイクルポリアミドは、使用済みプラスチックを化学分解して元の原料に戻し、再重合して製造されたポリアミドです。新品と同等の品質を持ち、資源の有効活用と環境負荷低減に貢献します。食用油容器など厳格な品質が求められる分野でも利用され、循環型経済の実現を目指します。
どのように分解するのか
ポリアミドのケミカルリサイクルにおける分解方法は、主に「解重合(かいじゅうごう)」と呼ばれる化学反応を利用します。ポリアミドは、モノマー(単量体)と呼ばれる小さな分子が多数結合してできたポリマー(高分子)です。解重合は、このポリマーの結合を断ち切り、元のモノマーに戻すプロセスです。
具体的な分解方法には、いくつかの種類がありますが、代表的なものとして以下が挙げられます。
- 加水分解(Hydolysis)
- 方法: 水または水蒸気、あるいは酸やアルカリなどの触媒を加えて、高温・高圧下で反応させます。ポリアミドのアミド結合に水分子が作用し、結合が切断されます。
- 特徴:
- 特に、ナイロン6(ポリアミド6)の原料であるカプロラクタムは、加水分解によって比較的容易に回収できます。
- 東レなどは、高温・高圧の「亜臨界水」を用いた解重合技術を開発しており、触媒を使用せずに高効率でモノマーを回収できるとされています。
- 解重合(Depolymerization)
- 方法: 加水分解も解重合の一種ですが、より広義には、熱や溶媒、特定の触媒などを利用して、直接モノマーに戻す方法を指します。
- 特徴:
- 熱分解: 高温で加熱することで、ポリアミドの分子構造を破壊し、ガスや油、モノマーなどの低分子量物質に分解します。
- 加溶媒分解: 特定の溶媒を加えて加熱することで、ポリアミドを溶解・分解し、モノマーを回収します。
- マイクロ波技術: 旭化成とマイクロ波化学が共同で進めているのが、マイクロ波を用いたポリアミド66の解重合技術です。マイクロ波は対象物質を直接・選択的に加熱できるため、低エネルギーで高収率での分解が期待されています。ポリアミド66は、ヘキサメチレンジアミン(HMD)とアジピン酸(ADA)という2種類のモノマーから構成されており、これらを直接回収することを目指しています。
分解された後のプロセス
分解によって得られたモノマーや中間原料は、不純物を取り除くための「精製」プロセスを経て、新たなポリアミドを製造するための原料として再利用されます。これにより、バージン(新品)のポリアミドと同等の品質を持つ再生ポリアミドが製造可能となります。
ケミカルリサイクルは、マテリアルリサイクルでは難しい、複合素材や汚れたプラスチックのリサイクルを可能にし、より高度なプラスチックの資源循環に貢献する重要な技術です。

ポリアミドのケミカルリサイクルでは、主に「解重合」という化学反応で分解します。水や熱、触媒などを用いて、ポリアミドの結合を切断し、元の小さな分子(モノマーや中間原料)に戻します。これにより、高品質な再生ポリアミドの製造が可能になります。
精製はどのように行われるのか
ケミカルリサイクルでポリアミドを分解し、モノマーや中間原料を得た後、これらの分解生成物は、新たなポリアミドとして再利用できるようにするために精製(Purification)という重要な工程を経ます。
精製は、不純物を取り除き、純度を高めるために行われます。
具体的な精製方法は、分解方法や得られるモノマーの種類、そしてターゲットとする最終製品の要求品質によって異なりますが、一般的には以下のような技術が組み合わせられます。
- 蒸留(Distillation)
- 原理: 物質の沸点の違いを利用して分離する方法です。分解生成物に含まれる異なる沸点の成分(モノマー、未反応物、低沸点・高沸点の不純物など)を加熱して蒸発させ、冷却・凝縮させることで純粋なモノマーを分離します。
- 特徴: 特にモノマーが揮発性を持つ場合に有効です。多段蒸留を行うことで、非常に高い純度を実現できます。
- 晶析(Crystallization)
- 原理: 溶液中の目的物質を過飽和状態にし、結晶として析出させることで分離する方法です。溶解度の違いを利用します。
- 特徴: 高純度の固体モノマーを得るのに適しています。冷却や溶媒の蒸発、貧溶媒の添加などによって結晶を析出させ、ろ過・洗浄によって精製します。
- 吸着(Adsorption)
- 原理: 特定の物質(不純物)が、吸着剤(活性炭など)の表面に物理的または化学的に吸着される現象を利用して分離します。
- 特徴: 微量な不純物や色素、臭気成分などを除去するのに効果的です。
- 膜分離(Membrane Separation)
- 原理: 微細な孔を持つ膜を利用して、分子の大きさや電荷、溶解度などの違いによって物質を分離する方法です。
- 特徴: ナノろ過や逆浸透膜など、様々な種類の膜が開発されており、特定の不純物を効率的に除去できる場合があります。
- イオン交換(Ion Exchange)
- 原理: イオン交換樹脂の表面に存在するイオンと、溶液中の目的のイオンや不純物イオンとを交換させることで分離します。
- 特徴: 特に、酸性やアルカリ性の不純物、金属イオンなどを除去するのに適しています。
精製の重要性
精製は、ケミカルリサイクルの成功に不可欠な工程です。
- 品質の確保: 不純物が残っていると、再生されたポリアミドの物性(強度、耐熱性、色など)が低下したり、加工性が悪くなったりする可能性があります。食品容器のように高い安全性が求められる用途では、特に厳格な精製が必要です。
- 再重合プロセスの効率化: 純度の高いモノマーを使用することで、再重合反応がスムーズに進み、高分子量のポリアミドを安定して製造できます。
- 循環利用の促進: 高品質な再生素材を提供することで、企業が積極的にケミカルリサイクル素材を採用するインセンティブが高まり、プラスチックの循環利用が促進されます。
分解されたモノマーが、いかに効率的かつ経済的に、そして高純度に精製されるかが、ケミカルリサイクル全体のコストと実用性を左右する重要な要素となります。

ケミカルリサイクルで得られた分解生成物は、蒸留、晶析、吸着などの方法で不純物が除去され、精製されます。これにより、高品質なモノマーや中間原料が得られ、バージン品と同等の物性を持つ再生ポリアミドを製造し、安全な再利用を可能にします。
ケミカルリサイクルの課題は何か
ケミカルリサイクルは、プラスチックの高度な循環利用を可能にする有望な技術ですが、実用化と普及にはいくつかの重要な課題が存在します。
主な課題は以下の通りです。
- 高コスト:
- 大規模な設備投資: ケミカルリサイクル施設は、プラスチックを化学的に分解し、精製するための複雑な装置が必要であり、建設に多額の初期投資がかかります。
- 運用コスト: 分解・精製プロセスには、高温・高圧や特殊な触媒、大量のエネルギーが必要となる場合が多く、運用コストも高額になりがちです。
- 輸送コスト: 施設が限られており、廃プラスチックを遠隔地から輸送するコストもかさみます。
- これらのコストが、新品のプラスチックを製造するよりも高くなる傾向があり、再生品の価格競争力を低下させる要因となっています。
- 技術的課題:
- プラスチック添加物の処理: プラスチックには、耐久性や色、機能性を付与するために様々な添加剤が使われています。これらの添加剤が分解・精製プロセスに影響を与えたり、最終的なモノマーの純度を下げたりする可能性があります。添加物を効率的に分離・除去する技術の確立が重要です。
- 分解効率と収率の向上: モノマーへの分解反応の効率や、目的のモノマーの回収率(収率)がまだ十分でないケースもあります。より低エネルギーで高収率を実現する技術開発が求められています。
- 多様な廃プラスチックへの対応: ケミカルリサイクルは、マテリアルリサイクルが難しい複合素材や汚れたプラスチックも処理できるメリットがありますが、様々な種類のプラスチックが混ざった廃棄物を効率的に処理するための技術開発も継続して必要です。
- 安定的な原料(廃プラスチック)の確保:
- ケミカルリサイクル施設を安定的に稼働させるためには、大量かつ安定した品質の廃プラスチックを継続的に確保する必要があります。
- 現在の回収システムは、必ずしもケミカルリサイクルに適した分別・回収網が十分に整備されているわけではありません。自治体や企業との連携による回収ルートの確立が課題となります。
- エネルギー消費:
- 分解・精製プロセスにはエネルギーを消費するため、そのエネルギー源が化石燃料である場合、CO2排出量削減効果が相殺される可能性があります。再生可能エネルギーの活用など、プロセス全体の環境負荷低減も考慮する必要があります。
これらの課題を克服し、ケミカルリサイクルをより広く普及させるためには、技術革新によるコスト削減、効率化、そして回収・供給システムの整備、さらには社会全体での協力体制の構築が不可欠です。

ケミカルリサイクルの主な課題は、高コスト(設備投資、運用費用)、技術的な難しさ(添加物処理、効率・収率向上)、そして安定した廃プラスチックの確保です。これらを克服し、実用化と普及を進める必要があります。
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