固体電解質の市場拡大 全固体電池とは何か?その特徴と課題は?

この記事で分かること

  • 固体電解質とは:固体電解質は、リチウムイオン電池の電解液を代替する固体材料です。これにより、液漏れや発火リスクのない高い安全性、広い動作温度範囲、高エネルギー密度、長寿命化を実現します。硫化物系、酸化物系、高分子系などがあり、全固体電池の鍵となる材料です。
  • 全固体電池とは:従来の液体電解質を固体に置き換えた次世代電池です。液漏れや発火リスクが低く、安全性に優れます。
  • 全固体電池の課題:製造コストの高さ、電極と固体電解質間の界面抵抗、イオン伝導率の確保、および充放電による耐久性(サイクル寿命)の向上、そして大規模な量産技術の確立です。

固体電解質の市場拡大

 富士経済が、2045年の固体電解質の世界市場規模を7,553億円と予測していることが報じられています。

 全固体電池の普及に伴う固体電解質の需要拡大を背景としています。全固体電池は、従来の液系電解質を用いるリチウムイオン電池に比べて、安全性やエネルギー密度、急速充電性能などで優位性があり、自動車(xEV)を中心に、2020年代後半から需要が本格化すると見込まれています。

全固体電池とは何か

 全固体電池(ぜんこたいでんち)とは、従来の二次電池(充電して繰り返し使える電池)で用いられていた電解液(液体やゲル状の電解質)を、全て固体の電解質に置き換えた電池のことです。

 一般的なリチウムイオン電池は、正極、負極、そしてその間をリチウムイオンが移動するための電解液で構成されています。また、正極と負極が直接接触しないようにセパレーターという膜も必要です。

 これに対して全固体電池は、電解質が固体であるため、以下のような特徴とメリットがあります。

全固体電池の仕組み

  • 固体電解質の使用: リチウムイオンが移動する媒体が、液体ではなく固体になります。この固体電解質は、イオンを伝導する能力を持ちながら、正極と負極の分離(セパレーターの役割)も兼ねることができます。
  • シンプルな構造: セパレーターが不要になるため、従来の電池よりも構造がシンプルになり、よりコンパクトに設計できる可能性があります。
  • イオンの移動: 充電時にはリチウムイオンが正極から負極へ、放電時には負極から正極へ、固体電解質の中を移動することで電気を発生させます。

全固体電池の主なメリット

  1. 高い安全性:
    • 液漏れのリスクがない: 電解液を使用しないため、液漏れやそれに伴う発火・爆発のリスクが大幅に低減されます。
    • 難燃性: 固体電解質は一般的に難燃性であり、発熱やガス発生のリスクが少ないです。
  2. 広い動作温度範囲:
    • 低温で電解液が凝固したり、高温で分解したりする心配がないため、より広い温度範囲で安定した性能を発揮できます。冬の寒さや夏の暑さにも強いと期待されます。
  3. 長寿命化:
    • 従来の電解液では、リチウムイオン以外の物質が移動することで副反応が起こり、電池の劣化を招くことがありました。全固体電池ではこのような副反応が起こりにくく、劣化しにくいとされています。
  4. 急速充電性能:
    • 高出力での急速充電が可能になる可能性があります。
  5. 高いエネルギー密度・大容量化:
    • 電極材料の選択肢が広がり、高電圧・高容量のバッテリーを実現しやすくなります。
  6. 設計の自由度が高い:
    • 液漏れを考慮する必要がないため、薄型化や小型化、さらには曲げられるなど、様々な形状の電池を設計できる可能性があります。

 世界中のメーカーや研究機関で活発に研究開発が進められており、特に電気自動車(EV)向けをはじめ、様々な分野での実用化が期待されています。

全固体電池は、従来の液体電解質を固体に置き換えた次世代電池です。液漏れや発火リスクが低く、安全性に優れます。また、高エネルギー密度、急速充電、長寿命化が期待され、EVやモバイル機器など幅広い分野での実用化に向け、開発が進められています。

市場拡大の理由は何か

 全固体電池の市場が拡大する主な理由は、その従来の電池にはない優れた特性と、それがもたらす幅広い応用可能性にあります。具体的には以下の点が挙げられます。

  1. 高い安全性:
    • 従来の液体電解質と異なり、液漏れや引火・発火のリスクが極めて低い点が最大の強みです。これにより、電気自動車(EV)や家庭用蓄電池、スマートフォンなど、より多くの電力が必要とされる用途での安全性が飛躍的に向上します。特にEV市場では、消費者の安全意識の高さから、この点は非常に重要視されています。
  2. 高エネルギー密度・大容量化:
    • 固体電解質を用いることで、高電圧で安定した動作が可能な電極材料の選択肢が広がり、より多くのエネルギーを蓄積できるようになります。これにより、EVの航続距離延長や、スマートフォンのバッテリー駆動時間延長、ドローンや空飛ぶクルマなど、より多くの電力を必要とする機器への搭載が可能になります。
  3. 急速充電性能:
    • 固体電解質は、イオン伝導性が高い材料が多く開発されており、より短時間での充電が可能になると期待されています。EVの普及には、ガソリン車並みの充電時間が求められるため、この性能は非常に重要です。
  4. 長寿命化:
    • 従来の電解液で発生していた副反応が抑制されるため、電池の劣化が少なく、充放電サイクル寿命が長くなることが期待されます。これにより、交換頻度が減り、経済性や環境負荷の低減にも貢献します。
  5. 広い動作温度範囲:
    • 電解液の凍結や分解の心配がないため、寒冷地や高温環境でも安定した性能を発揮できます。
  6. 設計の自由度:
    • 液漏れの心配がないため、薄型化や小型化、さらにはフレキシブルな形状など、製品設計の自由度が高まります。これにより、ウェアラブルデバイスやIoT機器など、新たな用途への展開が期待されます。

 これらのメリットから、全固体電池は電気自動車(xEV)市場を筆頭に、スマートフォンやノートパソコンなどのモバイル機器、ドローンや空飛ぶクルマといった航空・宇宙分野、医療機器、インフラ、さらにはIoTデバイスの電源など、幅広い分野での需要が見込まれており、これが市場拡大の大きな推進力となっています。

 現在のところ、製造コストや量産技術の確立といった課題は残されていますが、各国の政府や企業が巨額の投資を行い、実用化に向けた研究開発が加速している状況です。 

 これらの課題が解決されれば、全固体電池の市場はさらに大きく拡大していくと予測されています。

全固体電池は、高い安全性、高エネルギー密度、急速充電、長寿命といった優れた特性を持つため、電気自動車(EV)を中心に、モバイル機器や産業機器など幅広い分野で需要が高まり、市場が急速に拡大しています。

全固体電池の課題は何か

 全固体電池は次世代電池として大きな期待が寄せられていますが、実用化・普及にはまだいくつかの重要な課題があります。主な課題は以下の通りです。

  1. 製造コストの高さ:
    • 特殊な材料(高純度な固体電解質など)や、従来の液体電解質電池とは異なる製造プロセスが必要となるため、現状では製造コストが非常に高いです。特に、量産化におけるコスト削減が最大の課題の一つとされています。
  2. 電極と固体電解質の界面抵抗:
    • 固体電解質と電極(正極・負極)の間の接触が、液体のように完全に密着しにくいため、界面抵抗が生じやすいです。この抵抗が大きいと、電池の出力が低下したり、効率が悪くなったりします。充放電を繰り返すことで、電極の膨張・収縮によって界面が剥がれ、さらに抵抗が増大する問題も指摘されています。この界面の安定化と抵抗低減が重要な研究開発テーマです。
  3. イオン伝導率の確保:
    • 固体中をイオンが移動するため、液体電解質に比べてイオン伝導率が低い固体電解質もあります。高いイオン伝導率を持つ固体電解質の開発や、それらを安定して製造する技術の確立が求められます。
  4. 充放電サイクル寿命の課題:
    • 前述の界面抵抗や電極の膨張・収縮による固体電解質の劣化(亀裂の発生など)が、充放電サイクル寿命の短縮につながる可能性があります。長期間安定して使用できる耐久性の確保が必要です。
  5. 量産技術の確立:
    • 研究室レベルでの成功例は増えていますが、自動車用など大規模な用途に求められる品質と性能を保ちながら、安定的に大量生産する技術の確立にはまだ時間を要します。特に、硫化物系の固体電解質を使用する場合、製造時に有毒な硫化水素ガスが発生するリスクがあり、厳重な管理下での製造環境整備が必要となります。
  6. 特定の固体電解質の課題:
    • 硫化物系: イオン伝導率が高い反面、水と反応して有毒な硫化水素を発生するリスクや、製造工程での取り扱いが難しい点が課題です。交通事故時の安全性確保も重要視されています。
    • 酸化物系: 硫化物系に比べて化学的に安定していますが、イオン伝導率が低く、電極との界面抵抗が大きい傾向があります。高温での焼成が必要な場合もあり、材料の選択肢が限られることもあります。
    • 高分子系: 柔軟性がありますが、イオン伝導率が低く、容量が上げにくいという課題があります。

 これらの課題は複合的に関連しており、一つの課題を解決するだけでは実用化に至らない場合もあります。

 現在、世界中の企業や研究機関がこれらの課題解決に向けて研究開発に注力しており、特に界面技術の改善や新しい固体電解質材料の開発が活発に進められています。

全固体電池の主要課題は、製造コストの高さ、電極と固体電解質間の界面抵抗、イオン伝導率の確保、および充放電による耐久性(サイクル寿命)の向上、そして大規模な量産技術の確立です。これら技術的・コスト的障壁の克服が普及の鍵となります。

全固体電池の有力メーカーはどこか

 全固体電池の開発競争は世界中で激化しており、多くの企業が有力候補として挙げられます。主な企業を国・地域別に見ていきましょう。

日本

 日本は全固体電池の特許数でリードしており、特に硫化物系固体電解質の分野で強みを持っています。

  • トヨタ自動車: 全固体電池開発の最前線を走る企業の1つです。出光興産と連携し、硫化物系固体電解質の量産化技術確立を目指しており、2027年頃の実用化を目指すと発表しています。
  • 出光興産: トヨタ自動車との協業により、全固体電池の主要材料である固体電解質の開発・供給を担っています。硫黄を原料とする独自の技術が強みです。
  • パナソニックグループ: 全固体電池関連技術の特許総合力で上位にランクインしており、独自の固体電解質と高速イオン伝導度評価手法により、短時間充電を実現。ドローンなどへの応用も視野に入れています。
  • 日立造船: 宇宙空間での充放電実証に成功するなど、厳しい環境下での使用に耐えうる全固体電池の開発を進めています。産業用機械や宇宙での活用を目指しています。
  • TDK: 小型デバイス向けの全固体電池の開発に注力しています。
  • 三井金属鉱業、住友化学、村田製作所など: 各種材料メーカーや部品メーカーも、全固体電池の実現に向けた重要な役割を担っています。

韓国

  • Samsung SDI: 2027年からの量産を目標に掲げており、世界の自動車メーカーにサンプル品の出荷を開始するなど、開発を加速させています。特に小型全固体電池の量産にも意欲を示しています。
  • LGエネルギーソリューション: 2028年を目標にポリマー系全固体電池の量産、2030年には硫化物系の全固体電池の実用化を目指しています。

中国

  • CATL (寧徳時代新能源科技): 世界最大の車載電池メーカーであり、全固体電池の開発にも巨額の投資を行い、20Ah容量のサンプル生産を開始し、2027年の少量商用生産を目指しています。
  • WELION: ハイブリッド固液電解質リチウムイオン電池と全固体リチウム電池の研究開発・製造に焦点を当てています。
  • BYD: EVメーカーとして知られますが、自社での電池開発も進めています。

欧米

  • QuantumScape (米国): フォルクスワーゲンの主要出資を受け、全固体電池の最先端開発をリードするスタートアップ企業です。
  • Factorial (米国): 全固体電池技術の商業化を目指す新興企業で、航続距離延長に貢献する全固体電池を開発しています。
  • General Motors (GM) (米国): Ultium CAMの事業拡大に投資するなど、全固体電池を含む次世代電池の開発に積極的です。

 これらの企業は、それぞれ異なるアプローチや得意分野を持ちながら、全固体電池の実用化に向けてしのぎを削っています。特に自動車分野での需要が大きいため、自動車メーカーと電池メーカーの提携や協業が活発に行われているのが現状です。

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