天然ガス価格の下落 下落の理由は?ホルムズ海峡はなぜ大きな影響があるのか?

この記事で分かること

  • 下落の理由:イスラエルとイランの武力衝突に関して両国が停戦で合意したと報じられたことで、これを反映して天然ガス(NATGAS)価格は下落しています。
  • 停戦で下落する理由:ホルムズ海峡など主要輸送ルートの封鎖や攻撃リスクを解消し、天然ガス供給途絶の懸念を払拭します。これにより、地政学的リスクプレミアムが剥落し、市場の供給不安が和らぐため、価格が下落します。
  • ホルムズ海峡の重要性:、世界のLNG貿易の約20%を担うカタールなどからの天然ガス供給を途絶させます。代替ルートが乏しいため、世界的な天然ガス不足と価格の急騰を招き、各国エネルギー安全保障に大きな影響があります。

天然ガス価格の下落

 イランとイスラエルの停戦合意を受けて、天然ガス価格が下落したというニュースが報道されています。

 OANDA証券の報道(2025年6月25日付)によると、イスラエルとイランの武力衝突に関して両国が停戦で合意したと報じられたことで、ホルムズ海峡の封鎖懸念などがなくなり、これを反映して天然ガス(NATGAS)価格は下落したと伝えられています。天然ガスは3営業日続落し、3.54ドルになったとのことです。

 また、SBI証券の報道(2025年6月24日付)でも、トランプ米大統領が発表したこの停戦合意は、カタールの仲介によって実現し、段階的に進行するとされています。これにより、市場の緊張感が緩和されたと考えられます。

なぜ停戦で下落するのか

 イランとイスラエルの停戦合意で天然ガス価格が下落するのは、主に以下の理由が複合的に作用するためです。

供給途絶リスクの低下(特にホルムズ海峡の安全確保)

  • 中東情勢の緊迫化: イランとイスラエルの対立は、中東地域全体の不安定化を招き、特にホルムズ海峡の安全性が脅かされる可能性がありました。ホルムズ海峡は、中東からアジアや欧州へ石油や天然ガス(LNG)を輸送する上で極めて重要なチョークポイント(海上輸送の要衝)です。
  • 供給不安の解消: 停戦合意により、この海峡が封鎖されたり、タンカーへの攻撃が行われたりするリスクが大幅に低下します。これにより、天然ガスの供給が滞るという懸念が後退し、市場の供給不安が解消されるため、価格が下落します。供給が安定的に継続される見通しが立つと、高値を維持する必要がなくなるためです。

地政学的リスクプレミアムの剥落

  • リスクプレミアム: 紛争や地政学的緊張が高まると、市場は将来の不確実性や供給途絶のリスクを織り込み、「リスクプレミアム」として価格に上乗せします。これは、万が一の事態に備えて、通常よりも高い価格で取引される現象です。
  • リスクプレミアムの解消: 停戦合意は、このリスクプレミアムが不要になったことを意味します。市場参加者は、これまでの懸念材料が後退したと判断し、投機的に買っていた分を売却したり、価格を押し上げていた心理的な要因がなくなるため、価格が正常な水準に戻ろうとします。

市場心理の改善

  • センチメントの変化: 紛争の激化は、市場に悲観的な見方や不安をもたらします。しかし、停戦合意はポジティブなニュースであり、市場心理を改善させます。
  • 売り圧力: 不安感から買い進められていたポジションが解消され、売り圧力が強まることで、価格が下落します。

 これらの要因が組み合わさることで、イランとイスラエルのような主要な産油・産ガス地域に影響を及ぼす可能性のある紛争の停戦は、天然ガス価格を下落させる大きな要因となります。

停戦合意は、ホルムズ海峡など主要輸送ルートの封鎖や攻撃リスクを解消し、天然ガス供給途絶の懸念を払拭します。これにより、地政学的リスクプレミアムが剥落し、市場の供給不安が和らぐため、価格が下落します。

ホルムズ海峡の封鎖になぜこれほど大きな影響があるのか

 ホルムズ海峡の封鎖が天然ガスの運輸に大きな影響を与える理由は、主に以下の3点です。

世界の主要なLNG(液化天然ガス)輸出国が集中しているため

  • ホルムズ海峡は、世界有数の天然ガス輸出国であるカタールがLNGを輸出する唯一の主要な海上輸送ルートです。カタールは、世界最大のLNG輸出国の一つであり、その供給がストップすれば、世界のLNG市場に甚大な影響を及ぼします。
  • また、他のペルシャ湾沿岸諸国(イラン、アラブ首長国連邦など)も天然ガスの生産を行っており、ホルムズ海峡を通じて輸出される可能性があります。

地理的に非常に狭隘で、代替ルートがほぼ存在しないため(チョークポイント)

  • ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とアラビア海(オマーン湾)を結ぶ非常に狭い水路です。最も狭い地点では幅が約34kmしかなく、船舶の航行レーンも限られています。
  • 天然ガスを輸送する大型のLNGタンカーは、この狭い海峡を慎重に航行する必要があります。
  • この海峡を迂回できる現実的な代替ルートはほとんどありません。例えば、サウジアラビアやUAEには一部パイプラインがありますが、ホルムズ海峡を通じて輸出される量に比べるとごく一部に過ぎません。そのため、ホルムズ海峡が封鎖されると、多くのLNGが輸送できなくなります。

世界のLNG貿易に占める割合が非常に大きいため

  • 米国エネルギー情報局(EIA)によると、世界の液化天然ガス(LNG)貿易の約5分の1(約20%)がホルムズ海峡を通過しているとされています。
  • この巨大な割合を占めるLNGの供給が途絶えれば、世界中でLNGの供給不足が発生し、価格が急騰することは避けられません。特に、日本を含むアジア諸国は、中東からのLNGに大きく依存しているため、その影響は甚大です。

 これらの理由から、ホルムズ海峡の封鎖は、単に航路が使えなくなるだけでなく、世界全体の天然ガス需給バランスを大きく崩し、価格の暴騰やエネルギー安全保障上の深刻な問題を引き起こすことになります。

ホルムズ海峡の封鎖は、世界のLNG貿易の約20%を担うカタールなどからの天然ガス供給を途絶させます。代替ルートが乏しいため、世界的な天然ガス不足と価格の急騰を招き、各国エネルギー安全保障に甚大な影響を与えます。

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