阪本薬品工業の半導体分野での用途開拓 ポリグリセリン系モノマーとは何か?どのような用途を開拓しているのか?

この記事で分かること

  • ポリグリセリン系モノマー:親水性の高いポリグリセリン骨格に反応性官能基を持つ化合物です。速硬化性、柔軟性、水溶性に優れ、コーティング、フィルム、フォトレジストなどに利用され、防曇性や密着性向上に貢献します。
  • 半導体分野での使用:ポリグリセリン系モノマーは半導体製造でフォトレジストの感度・密着性向上や、CMPスラリー添加剤として銅配線の過研磨抑制・洗浄性向上に利用されます。

阪本薬品工業の半導体分野での用途開拓

 阪本薬品工業が半導体分野での用途開拓を積極的に進め、新製品を相次いで投入しています。

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 阪本薬品工業は、半導体製造プロセスにおける様々なニーズに対応するため、ポリグリセリンを用いた新たな材料開発に注力しています。特に、フォトレジストやCMPスラリーといった重要な工程での採用を目指しているようです。

ポリグリセリン系モノマーとは何か

 「ポリグリセリン系モノマー」とは、「ポリグリセリン」を骨格に持つ、反応性の官能基(モノマー)を導入した化合物を指します。

  1. ポリグリセリンとは?
    • グリセリン(プロパン-1,2,3-トリオール)が複数個、脱水縮合して重合したものです。
    • グリセリンが2個結合すればジグリセリン、3個結合すればトリグリセリン、といったように、重合度によって様々なポリグリセリンが存在します。
    • 分子内に多くの水酸基(-OH)を持つため、非常に親水性が高く、優れた保湿性を示す特徴があります。
    • 食品添加物(乳化剤など)、化粧品の保湿剤、医薬品原料など、幅広い分野で利用されています。
  2. モノマーとは
    • 「単量体」とも呼ばれ、重合して高分子(ポリマー)を形成するための最小単位の分子のことです。
    • モノマーには、重合反応を起こすための特定の官能基(例:アクリレート、ビニル基、エポキシ基など)が備わっています。
  3. ポリグリセリン系モノマーの特性と用途
    • ポリグリセリンの持つ親水性柔軟性といった特性に加えて、モノマーとしての反応性(重合して硬化する能力)を付与したものです。
    • これにより、以下のような特徴を持つ材料の原料として使われます。
      • 速硬化性:短時間で硬化させることができます。
      • 低カール性・耐屈曲性:硬化後の塗膜やフィルムが反りにくく、柔軟性に優れます。
      • 水溶性:ポリグリセリン由来の親水性により、水に溶けやすく、水系での利用が可能です。
      • フィラーの分散性向上:水溶性であるため、無機フィラーなどを均一に分散させるのに役立ちます。
      • 防曇性(曇り止め):吸湿性に優れるため、表面に水分が付着しても水滴になりにくく、曇りにくい性質を与えます。
      • 柔軟性、防汚性、密着性の向上:様々な用途でこれらの性能を付与・向上させることが期待されます。

 阪本薬品工業の事例で言えば、「SYシンテック®シリーズ」はポリグリセリン系モノマーであり、コーティング剤、フィルム、フォトレジストなど、特に柔軟性や親水性が求められる分野での応用が進められています。

ポリグリセリン系モノマーは、親水性の高いポリグリセリン骨格に反応性官能基を持つ化合物です。速硬化性、柔軟性、水溶性に優れ、コーティング、フィルム、フォトレジストなどに利用され、防曇性や密着性向上に貢献します。

ポリグリセリン系モノマーは半導体製造でどのように使用されるのか

 ポリグリセリン系モノマーは、その特性(親水性、柔軟性、反応性など)を活かして、半導体製造の様々な工程で使用されています。主な用途としては以下の2点が挙げられます。

フォトレジスト(感光性樹脂)

  • 半導体回路を形成する際に、光に反応してパターンを形成する材料がフォトレジストです。
  • ポリグリセリン系モノマーは、フォトレジストの感度や密着性を向上させるために添加されます。特に、阪本薬品工業が開発した「SYシンテック® SM-N1」は、フォトレジストに配合することで、良好な感度、密着性、解像性、現像性を実現し、一般的な多官能メタクリレートよりも性能が向上するとされています。
  • 半導体の微細化が進むにつれて、より高精度なパターン形成が求められるため、フォトレジストの性能向上は非常に重要です。

CMP(化学的機械研磨)スラリー添加剤

  • CMPは、半導体ウェーハ表面を平坦化するために行われるプロセスです。砥粒と薬液(スラリー)を用いて、機械的研磨と化学的エッチングを同時に行います。
  • ポリグリセリンは、このCMPスラリーの添加剤として開発が進められています。
  • 銅表面の過研磨抑制: 研磨液にポリグリセリンを添加することで、銅配線が過度に研磨されてしまうのを抑制する効果が期待されます。これは、配線の断線やショートを防ぐ上で重要です。
  • 研磨後の洗浄性向上: 研磨後の洗浄液にポリグリセリンを配合することで、研磨後のウェーハ表面をきれいに洗浄し、残渣の付着を防ぐ効果があります。

 これらの用途以外にも、ポリグリセリンの親水性や水溶性を活かして、半導体製造のウェットプロセス(水溶液を使用する工程)における様々な薬液の添加剤として応用が期待されています。半導体製造は非常に精密なプロセスであり、材料のわずかな特性が最終製品の性能に大きく影響するため、ポリグリセリン系モノマーのような高機能材料のニーズが高まっています。

ポリグリセリン系モノマーは、半導体製造でフォトレジストの感度・密着性向上や、CMPスラリー添加剤として銅配線の過研磨抑制・洗浄性向上に利用されます。これにより、高精度な回路形成とウェーハ平坦化に貢献します。

なぜフォトレジストの密着性が上がるのか

 フォトレジストの密着性がポリグリセリン系モノマーによって向上するメカニズムは、主に以下の点が考えられます。

  1. 水酸基(-OH基)による界面相互作用の強化
    • ポリグリセリンは、分子内に多数の水酸基(-OH基)を持っています。これらの水酸基は、ウェーハ表面(多くの場合、酸化膜や窒化膜などの無機材料)の表面にある水酸基や酸素原子と水素結合を形成しやすい性質があります。
    • また、フォトレジストの主成分である樹脂との間でも水素結合やその他の分子間力(ファンデルワールス力など)を形成することで、フォトレジストとウェーハ表面の両方に対する親和性を高め、強固な結合を促進します。これにより、フォトレジスト膜がウェーハ表面から剥がれにくくなります。
  2. 塗布膜の均一性向上と欠陥低減
    • ポリグリセリン系モノマーは、親水性を持つため、フォトレジスト溶液の濡れ性を改善し、ウェーハ表面に均一な膜を形成しやすくする可能性があります。
    • 膜の均一性が向上することで、密着性の低い部分(ピンホールやムラ)が減少し、全体としての密着性が向上します。
  3. 表面エネルギーの最適化
    • フォトレジスト溶液の表面張力とウェーハ表面の表面エネルギーのバランスは、塗布性と密着性に大きく影響します。ポリグリセリン系モノマーがこのバランスを最適化することで、より良い塗布状態と密着性を実現することが考えられます。
  4. 柔軟性の付与
    • 特に、ポリグリセリン系モノマーの中には、硬化後のフォトレジスト膜に柔軟性を付与するものもあります。これにより、レジスト膜が応力によって割れたり、剥がれたりするのを防ぎ、結果的に密着性が維持されやすくなります。

これらの要因が複合的に作用することで、ポリグリセリン系モノマーはフォトレジストのウェーハに対する密着性を向上させると考えられます。特に、微細化が進む半導体製造においては、パターニング時の剥がれや倒れは致命的な欠陥となるため、密着性向上は非常に重要な課題です。

ポリグリセリン系モノマーは、多数の水酸基によりウェーハ表面やレジスト成分と水素結合を形成し、界面の接着力を強化します。これにより、塗布膜の均一性が向上し、レジスト剥がれを防ぎ、密着性が向上します。

ポリグリセリンを添加することで銅表面の過研磨を抑制する理由は

 ポリグリセリンをCMPスラリーに添加することで銅表面の過研磨を抑制する主な理由は、以下のメカニズムが考えられます。

  1. 銅表面への吸着による保護膜形成(防食効果)
    • ポリグリセリンは、その分子構造(特に多くの水酸基)により、銅表面に吸着しやすい性質を持っています。
    • 銅表面にポリグリセリンが吸着することで、銅とスラリー中の酸化剤や錯化剤との直接的な反応を阻害する「保護膜」のような役割を果たします。これにより、銅の化学的な溶解(エッチング)が抑制され、過度な化学研磨を防ぎます。
    • 阪本薬品工業の発表でも、ポリグリセリンを防食剤と併用することで、防食剤の使用量を低減できる可能性が示唆されており、ポリグリセリン自体が防食効果を持つことが推測されます。
  2. 研磨挙動の制御(選択的な研磨)
    • CMPは、物理的な研磨と化学的な溶解のバランスによって成り立っています。ポリグリセリンが銅表面に吸着することで、物理的な研磨作用を部分的に緩和し、化学的な溶解とのバランスを調整する可能性があります。
    • 特に、凹部(ディッシングが生じやすい部分)では、ポリグリセリンの吸着層が厚く、砥粒が銅表面に到達しにくくなることで、研磨が抑制されるというメカニズムも考えられます。これにより、凸部のみが効率的に研磨され、凹部の過研磨を防ぐことで、平坦化性能が向上します。
  3. スラリー中の砥粒分散性の維持
    • スラリー中の微粒子(砥粒)の凝集は、スクラッチや不均一な研磨の原因となります。ポリグリセリンは水溶性高分子であり、スラリー中の砥粒の分散性を安定させる効果も期待できます。これにより、より均一な研磨が可能となり、部分的な過研磨を抑制することに繋がります。

 このように、ポリグリセリンは銅表面に保護膜を形成して化学反応を抑制したり、研磨挙動を制御したりすることで、銅配線の過研磨を防ぎ、より高精度な平坦化を実現すると考えられます。これは、微細化が進む半導体デバイスにおいて、配線の断線やショートを防ぐ上で非常に重要な機能です。

ポリグリセリンが銅表面に吸着し、保護膜を形成することで、スラリー中の化学物質との直接反応を抑制します。これにより、銅の過剰な溶解を防ぎ、物理研磨とのバランスを保つことで、過研磨を抑制します。

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