九州電化の宇宙分野でのクロムめっき技術 なぜ反射率ゼロの黒色クロムめっきが必要なのか?どうやって反射率を下げているのか?

この記事で分かること

  • 反射率ゼロの黒色クロムめっきが必要な理由:精密な光学機器やセンサーで迷光(不要な反射光)を防ぎ、画像や測定精度を向上させるために必要です。これにより、ハレーション抑制や宇宙機器の信頼性確保にも貢献します。
  • クロムめっきが反射率の低い理由:、皮膜が微細な凹凸や多孔質構造を持つため、入射した光が内部で多重反射・吸収されます。また、クロム酸化物などの化合物が光を吸収するため、反射率が極めて低く、漆黒に見えるのです。
  • 反射率を下げる方法:めっき浴の組成(硫酸根を減らすなど)と条件(低い温度、高い電流密度など)を調整します。これにより、光沢のある金属クロムではなく、微細な凹凸や多孔質構造、クロム酸化物を含む皮膜を形成させ、光を多重反射・吸収させて黒く見せます。

九州電化の宇宙分野でのクロムめっき技術 

 株式会社九州電化は、福岡県に本社を置くめっき・表面処理の専門企業で近年、特に宇宙産業への参入に力を入れており、衛星部品へのめっき加工で貢献を目指しています。

 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00753146

 特に、軽量化と機能性を両立させるCFRPへのめっき技術や、特殊な光学特性を持つめっき技術は、今後の宇宙開発において重要な役割を果たす可能性があります。

 前回の記事では、CFRPへのめっき技術の解説でしたが、今回は特殊な光学特性を持つクロムめっきについての解説となります。

反射率ゼロの黒色クロムめっきが必要な理由は

 反射率ゼロ、あるいはそれに極めて近い黒色クロムめっきが必要とされる理由は、主に光の制御視覚的な影響の排除にあります。特に、精密光学機器やセンサー、宇宙関連機器においてその重要性が高まります。

迷光(ストレイライト)の防止

  • カメラのレンズ内部、望遠鏡の鏡筒内、センサーの受光部周辺などでは、本来の光以外の光(迷光)が内部で反射し、画像品質の低下や測定誤差を引き起こすことがあります。
  • 反射率ゼロの黒色めっきは、この迷光を極限まで吸収することで、コントラストの向上、ゴーストやフレアの抑制、測定精度の確保に貢献します。

ハレーションの防止

  • 高輝度の光が当たる部分で、光が乱反射して周囲が白っぽくぼやけて見える現象(ハレーション)を防ぎます。
  • これにより、画像やデータのクリアさを保ち、誤認識を防ぎます。

光の選択吸収性

  • 特定の波長の光を効率よく吸収し、それ以外の波長を反射させない特性が必要な場合があります。例えば、太陽光発電のソーラーパネルにおいては、太陽光を最大限に吸収し、熱放射を抑える特性が求められます。

視覚的な妨害の排除

  • 自動車のダッシュボードや航空機のコックピットなど、運転・操縦中に光の反射が視界の妨げになる場合、反射防止処理は安全性の確保に直結します。
  • また、電子部品の検査装置などでは、不要な反射光が測定に影響を与えるのを防ぐためにも、反射率の低い表面処理が求められます。

美観と機能性の両立

  • カメラや高級オーディオ機器など、外観の美しさと機能性(反射防止)が同時に求められる製品にも採用されます。艶消しの漆黒は、高級感を演出する効果もあります。

宇宙環境での要求

  • 人工衛星に搭載される光学センサーや観測機器は、宇宙空間の過酷な環境下で極めて高い精度が要求されます。太陽光や地球からの反射光など、不要な光の入射は観測データの信頼性を損なうため、反射率ゼロの表面処理は不可欠です。

 反射率ゼロの黒色クロムめっきは、単なる色付けではなく、光学的性能を最大化し、システムの信頼性や安全性を確保するために不可欠な機能性表面処理と言えます。

反射率ゼロの黒色クロムめっきは、精密な光学機器やセンサーで迷光(不要な反射光)を防ぎ、画像や測定精度を向上させるために必要です。これにより、ハレーション抑制や宇宙機器の信頼性確保にも貢献します。

なぜクロムめっきは反射率が低いのか

 光沢のある通常のクロムめっきは高い反射率を持っていますが、「黒色クロムめっき」が低い反射率を持つのは、以下のように、その特殊な皮膜構造と光の吸収メカニズムによるものです。

  1. 微細な凹凸構造(多孔質構造)
    • 黒色クロムめっきの皮膜は、通常の光沢クロムめっきとは異なり、非常に微細な凹凸や多孔質な構造を持っています。
    • この微細な凹凸が、入射してきた光を様々な方向に乱反射させます。しかし、単に乱反射するだけでなく、凹凸の「奥」に入り込んだ光は、内部で何度も反射を繰り返しながら徐々に吸収されていきます。光が効率的に外に出てこられなくなるため、結果として反射率が非常に低く、黒く見えるのです。
  2. クロムとその化合物の複合体
    • 黒色クロムめっきの皮膜は、純粋な金属クロムだけでなく、クロム酸化物や水酸化物などの化合物が混ざり合った複合体であると考えられています。
    • これらの化合物は、特定の波長の光を吸収する性質を持っています。特に、可視光領域の光を効率よく吸収することで、皮膜全体が黒く見えます。
  3. 光吸収のメカニズム
    • 光が黒色クロムめっきの表面に入射すると、上述の微細な凹凸内で多重反射が起こり、光のエネルギーが皮膜内部に閉じ込められやすくなります。
    • 同時に、皮膜を構成するクロムの化合物が光のエネルギーを熱に変換して吸収します。
    • これらの相乗効果により、入射光の大部分が吸収され、私たちの目に届く反射光が極めて少なくなるため、「反射率ゼロ」に近い漆黒が実現します。

 単に黒い塗料のように色素を吸収しているわけではなく、皮膜自体の物理的な構造(微細な凹凸)と、皮膜を構成する物質の光吸収特性の両方が組み合わさることで、極めて低い反射率を実現しているのです。

黒色クロムめっきは、皮膜が微細な凹凸や多孔質構造を持つため、入射した光が内部で多重反射・吸収されます。また、クロム酸化物などの化合物が光を吸収するため、反射率が極めて低く、漆黒に見えるのです。

どうやってクロムめっきの反射率を低くするのか、

 クロムめっきの反射率を低くして「黒色クロムめっき」を得るためには、通常の光沢クロムめっきとは異なる特殊なめっき浴の組成と、特定のめっき条件を組み合わせることが重要です。

  1. めっき浴の組成を調整する
    • 硫酸根の含有を抑える: 一般的に、黒色クロムめっき浴では、通常の光沢クロムめっき浴に含まれる硫酸根(硫酸や硫酸塩)の含有量を意図的に少なくします。これにより、光沢のある金属クロムの析出を抑制し、代わりにクロムの酸化物や水酸化物などの化合物が析ムしやすくなります。
    • 添加剤の利用: 特殊な添加剤(有機酸、錯化剤など)を加えることで、皮膜の微細構造や組成を制御し、光を吸収しやすい構造を形成させます。
    • 価数クロムの利用: 黒色クロムめっきには、主に六価クロム浴が用いられますが、近年では環境負荷の低い三価クロム浴でも黒色クロムめっきが開発されています。三価クロム浴では、析出する皮膜がクロム-コバルト合金など、異なる組成になることがあります。
  2. めっき条件を最適化する
    • 低いめっき温度: 一般的に、黒色クロムめっきは比較的低い温度(30℃以下など)で行われることが多いです。温度が低いと、結晶成長が抑制され、より微細で不規則な構造が形成されやすくなります。
    • 高い電流密度: 光沢クロムめっきに比べて、高めの電流密度でめっきを行うことがあります。これにより、水素発生が促進され、そのガスが皮膜中に取り込まれることで多孔質な構造が形成されやすくなると考えられます。ただし、過度に高いと焼け付く可能性もあるため、最適な範囲を選びます。
    • 短いめっき時間: 薄い皮膜でも十分な黒色が得られるため、めっき時間は短めに設定されることが多いです。

 これらの条件を組み合わせることで、光沢のある金属クロムの均一な結晶が析出するのを抑制し、代わりに微細な凹凸や多孔質構造、あるいはクロム酸化物や水酸化物などの複合体が主体となる皮膜を形成させます。この特殊な皮膜構造が、入射した光を多重反射させながら吸収し、結果として反射率の低い漆黒の外観を生み出すのです。

 光沢のあるクロムめっきとは異なる、意図的に不均一で多孔質な構造を持つ皮膜を生成させる技術が、黒色クロムめっきの肝となります。

クロムめっきの反射率を低くするには、めっき浴の組成(硫酸根を減らすなど)と条件(低い温度、高い電流密度など)を調整します。これにより、光沢のある金属クロムではなく、微細な凹凸や多孔質構造、クロム酸化物を含む皮膜を形成させ、光を多重反射・吸収させて黒く見せます。

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