三菱マテリアルの無酸素銅の開発 無酸素銅とは何か?どのような電子機器に使用されるのか?

この記事で分かること

無酸素銅とは:酸素含有量を極めて少なくした高純度銅(純度99.96%以上)です。電気・熱伝導率に優れ、水素脆化を起こさないため、溶接やろう付けが可能です。

どのような用途があるのか:高導電性・高熱伝導性・加工性に優れ、水素脆化も起きないため、半導体のリードフレームや放熱板、EV等の大電流を流すバスバー、コネクタ、高品位ケーブルなどに幅広く使われます。

三菱マテリアルの無酸素銅の開発

 三菱マテリアルが、熱処理時の結晶粒の粗大化を極めて抑制できる新しい無酸素銅「MOFC®-GC」を開発したことを発表しました。

 https://www.mmc.co.jp/corporate/ja/news/press/2025/25-0625.html

 電動車などの電子部品・モジュールの品質向上や工程安定化に貢献することが期待されています。特に、AMB基板などのセラミックス基板の回路層材料として採用することで、光学認識性の向上、表面粗さの低減(平滑性の向上、ばらつき低減)、めっき外観の改善といった効果が見込まれています。

無酸素銅とは何か

 無酸素銅(むさんそどう、Oxygen-Free Copper, OFC)とは、純度99.96%以上の高純度銅で、酸素の含有量を極限まで少なくした銅のことです。特に、純度99.99%以上のものはOFHC銅(Oxygen-Free High Conductivity Copper)とも呼ばれます。

 一般的な純銅である「タフピッチ銅」には微量の酸素(酸化銅として)が含まれており、これが特定の条件下で問題を引き起こすことがあります。それに対し、無酸素銅は酸素をほとんど含まないため、以下のような優れた特性を持っています。

無酸素銅の主な特徴

  1. 高い導電率と熱伝導率: 酸素や不純物が極めて少ないため、銅本来の優れた電気伝導性(電気を通しやすさ)と熱伝導性(熱を伝えやすさ)を最大限に発揮します。
  2. 水素脆化(ぜいか)を起こさない: タフピッチ銅は、水素を含む雰囲気中で高温にさらされると、銅中の酸化銅と水素が反応して水蒸気を生成し、それが内部に蓄積されることで脆くなる「水素脆化」という現象を起こします。無酸素銅は酸素をほとんど含まないため、この水素脆化の心配がありません。そのため、溶接やろう付けなどの高温工程を伴う製品に適しています。
  3. 優れた加工性: 不純物が少なく結晶構造が整っているため、非常に柔らかく、展延性(薄く広げられる性質)や絞り加工性、曲げ加工性、溶接性に優れています。
  4. ガス放出特性が低い: 真空中で加熱してもガスを放出しにくいため、真空機器の部品としても適しています。

主な用途

無酸素銅は、その優れた特性から、様々な分野で幅広く利用されています。

  • 電気・電子部品:
    • 半導体デバイス
    • 高純度配線、回路、コネクタ、端子
    • ブスバー(バスバー、大電流を流す導体)
    • トランス用コイル材
    • 高性能オーディオケーブル、通信ケーブル
  • 熱関連部品:
    • 放熱板、ヒートスプレッダー
    • 熱交換器(特に極低温環境での使用)
  • その他:
    • 真空機器用ガスケット
    • 深絞り材

メリットとデメリット

メリット:

  • 極めて高い導電率と熱伝導率
  • 水素脆化を起こさないため、溶接やろう付けなどの高温加工が可能
  • 優れた加工性(展延性、絞り加工性、溶接性)
  • ガス放出が少ない

デメリット:

  • 高純度であるため、タフピッチ銅などに比べて製造コストが高い傾向にある
  • 柔らかいため、強度が求められる用途には不向きな場合がある
  • 切削加工時に構成刃先が発生しやすいなど、加工には専門的なノウハウが必要な場合がある

このように、無酸素銅は特定の用途において非常に優れた性能を発揮する高機能な銅材料です。

無酸素銅は、酸素含有量を極めて少なくした高純度銅(純度99.96%以上)です。電気・熱伝導率に優れ、水素脆化を起こさないため、溶接やろう付けが可能です。高い加工性も持ち、電子部品、放熱材、真空機器などに広く用いられます。

酸素が少ないと導電性や熱伝導に優れる理由は

 酸素が少ないと銅の導電性や熱伝導性に優れる理由は、主に以下の物理的なメカニズムに基づいています。

1. 電子の移動の妨げが少ない(導電性)

  • 結晶構造の乱れ(格子欠陥)の低減: 銅の電気伝導は、自由電子が結晶中をスムーズに移動することで行われます。不純物である酸素原子(正確には酸化銅の形で存在)が銅の結晶中に存在すると、それが「格子欠陥」として機能し、電子の進行を妨げる散乱中心となります。酸素が少ない無酸素銅は、結晶構造がより規則正しく、電子が自由に動きやすいため、電気抵抗が低くなり、高い導電性を示します。
  • 不純物散乱の抑制: 一般的に、金属中の不純物原子は、自由電子が運動する際に衝突し、その運動方向を変化させます。これにより、電子の流れが阻害され、電気抵抗が増加します。酸素もこの不純物として機能するため、その含有量が少ないほど、電子の散乱が抑制され、より効率的に電気を伝えることができます。

2. 熱の伝達の妨げが少ない(熱伝導性)

  • 電子による熱伝導が支配的: 金属の熱伝導は、主に自由電子の移動によって行われます。電気伝導のメカニズムと同様に、電子が熱エネルギーを運び、結晶中を移動することで熱が伝わります。
  • 不純物による熱の散乱抑制: 酸素などの不純物が存在すると、それが熱を運ぶ電子やフォノン(格子振動の量子)の動きを妨げ、散乱を引き起こします。これにより、熱エネルギーが効率的に伝達されなくなり、熱伝導率が低下します。無酸素銅は不純物が少ないため、熱を運ぶ電子がスムーズに移動でき、高い熱伝導性を発揮します。

まとめ

 酸素は銅にとって「不純物」として作用します。不純物が少ないほど、電子の移動がスムーズになり、電気も熱もより効率的に伝わるようになります。

 特に銅は電気伝導性と熱伝導性が密接に関連しており、「ウィーデマン・フランツの法則」によって、電気伝導率が高い材料は熱伝導率も高い傾向にあることが示されています。

酸素は銅中の不純物として、自由電子の移動を妨げる散乱源となります。酸素が少ないと電子がスムーズに移動できるため、電気抵抗が減少し、熱も効率良く伝わることで、導電性・熱伝導性が向上します。

電気・電子部品で無酸素銅はどのように使用されるのか

 無酸素銅は、その優れた電気伝導性、熱伝導性、加工性、そして水素脆化を起こさない特性から、多岐にわたる電気・電子部品で使用されています。以下に主な用途を挙げます。

1. 半導体関連部品

  • リードフレーム: 半導体チップと外部回路を電気的に接続し、チップで発生する熱を外部に放熱する重要な部品です。無酸素銅は高い導電率と熱伝導率を持ち、さらに加工性にも優れるため、複雑な形状のリードフレーム製造に適しています。特に、パワー半導体では大電流が流れ、大きな発熱を伴うため、無酸素銅の放熱特性が非常に重要になります。
  • AMB(Active Metal Brazing)基板などの絶縁放熱回路基板: パワー半導体モジュールなどに使われる基板で、セラミックスと銅板を接合して作られます。半導体からの熱を効率的に放熱しつつ、電気的な絶縁を保つ役割があります。三菱マテリアルが開発した「MOFC®-GC」のように、熱処理時の結晶粒の粗大化を抑制できる無酸素銅は、この基板の品質向上(光学認識性、表面粗さ、めっき外観など)に貢献します。
  • 半導体パッケージ: リードフレーム以外にも、半導体パッケージの内部配線や放熱部材として無酸素銅が使用されます。

2. 電力伝送・配線材

  • バスバー(ブスバー): 大電流を効率的に流すための導体で、電気自動車(EV)や産業機器、データセンターなどで使用されます。無酸素銅は高い導電率と、溶接・ろう付けのしやすさから、大電流を扱うバスバーの材料として適しています。タフピッチ銅と比較して、高温になる環境でも水素脆化のリスクがない点が大きな利点です。
  • 高純度配線・ケーブル: オーディオケーブルや通信ケーブルなど、信号伝送の損失を最小限に抑えたい用途で、無酸素銅が使用されます。高純度であるため、信号の劣化が少ないとされています。
  • コネクタ・端子: 電気信号を接続する部分で、高い導電性と信頼性が求められるため、無酸素銅が用いられます。

3. その他電気・電子機器部品

  • 電子機器の回路、部品: 高品質な回路や様々な電子機器の内部部品として、その優れた導電性と加工性から広く利用されています。
  • 放熱板・ヒートスプレッダー: 発熱する電子部品(CPUなど)から熱を効率的に外部へ逃がすための部材として、高い熱伝導性を持つ無酸素銅が使用されます。
  • トランス用コイル材: 変圧器などのコイルに使用され、高い導電性によって電力損失を低減します。
  • 真空機器用ガスケット・部品: ガス放出特性が低いため、高真空を要求される機器のガスケットや内部部品に用いられます。
  • 加速器の配管・コイル: 素粒子加速器など、極めて高い導電性と熱伝導性が要求される特殊な環境で使用されます。

 このように、無酸素銅は「電気をよく通し、熱をよく伝え、かつ加工しやすい」という特性を活かし、現代の電気・電子技術において不可欠な材料となっています。特に、パワー半導体やEVといった高効率化・高信頼性が求められる分野での需要が拡大しています。

無酸素銅は、高導電性・高熱伝導性・加工性に優れ、水素脆化も起きないため、半導体のリードフレームや放熱板、EV等の大電流を流すバスバー、コネクタ、高品位ケーブルなどに幅広く使われます。

無酸素銅はどのように製造されるのか

 無酸素銅の製造は、通常のタフピッチ銅とは異なり、溶融段階から酸素の混入を極力排除することが鍵となります。主な製造方法は以下の通りです。

1. 真空溶解・鋳造法

 最も基本的な無酸素銅の製造方法です。

  • 真空溶解: 高純度の電気銅(電解精錬された純度の高い銅)を真空中で溶解します。これにより、大気中の酸素が溶湯(溶けた銅)中に混入するのを防ぎます。また、銅中に溶け込んでいる微量のガス成分(水素など)も真空引きによって除去されます。
  • 真空鋳造: 溶解された銅は、そのまま真空中で鋳型に流し込まれ、凝固されます。鋳造中も大気に触れないため、酸素の再混入を防ぐことができます。

2. 還元性雰囲気中での溶解・鋳造法

 真空装置が不要で、比較的安価に製造できる方法として、還元性ガス雰囲気を利用する方法もあります。

  • 還元性ガス雰囲気: 溶解炉内を水素ガスや一酸化炭素ガスなどの還元性ガスで満たします。これにより、溶湯中の酸素と還元性ガスが反応して水蒸気や二酸化炭素となり、系外へ排出されます。また、大気中の酸素が溶湯に触れるのも防ぎます。
  • 固体還元剤の利用: 連続鋳造ラインなどでは、溶湯が流れる樋やタンディッシュ(溶湯を一時的に貯める容器)内に、木炭などの固体還元剤を配置し、溶湯中の酸素と反応させて除去する方法もあります。

3. 連続鋳造法(SCR法、DIPフォーミング方式など)

 効率的な生産のため、連続鋳造技術が広く用いられます。

  • SCR法(Southwire Continuous Rod System): シャフト炉などで連続溶解された溶銅を、還元性雰囲気下で連続的に鋳型に注入し、鋳塊として引き出し、そのまま連続的に圧延して線材などを製造する方式です。酸素の再混入を防ぐために、注湯ノズルから鋳型までの空間を還元性ガスで覆うなどの工夫がされます。
  • DIPフォーミング方式: クルーシブル(るつぼ)内の溶銅に銅母材を通過させ、温度差を利用して銅母材に銅を付着させることで凝固させる製法です。内側から外側へ凝固が進むため、ガスや酸素が抜けやすく、鋳造欠陥ができにくいという特徴があります。表面の酸化還元がほとんどないため、平滑な表面が得られ、伸線加工性に優れます。
  • 上向き連続鋳造法: 高品質の無酸素銅棒などを製造するために用いられ、溶融銅を上方へ引き上げて鋳造する方式です。

製造におけるポイント

無酸素銅の製造では、以下の点に細心の注意が払われます。

  • 原料の純度: 高純度の電気銅が原材料として使用されます。
  • 酸素の徹底除去: 溶融中、鋳造中を通じて、酸素との接触を極力避けるための工夫が凝らされます。
  • 脱ガス: 溶け込んだガス成分(特に水素)も除去する必要があります。
  • 不純物管理: 微量な不純物(特に粒成長抑制のために添加される元素以外)の混入も、製品の特性に影響を与えるため厳しく管理されます。

 これらの技術とプロセス管理によって、極めて酸素含有量の少ない高純度な無酸素銅が製造され、様々な高性能電気・電子部品の基材として利用されています。

無酸素銅は、高純度銅を真空中で溶解・鋳造するか、水素などの還元性ガス雰囲気下で製造されます。これにより、溶湯への酸素混入を徹底的に排除し、最終製品の酸素含有量を極めて低く抑え、優れた特性を実現します。

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