プラチナ価格の高騰 高騰の背景は?どのような用途があるのか?触媒として優れている理由は?

この記事で分かること

  • プラチナ高騰の背景:、南アフリカの生産障害による供給不足、高値の金からの代替需要、投機マネーの流入、そして自動車産業の回復や水素エネルギー分野への期待といった工業需要の増加が複合的に影響しています。
  • 工業的なプラチナの用途:自動車の排ガス浄化触媒、燃料電池の電極、石油化学工業での触媒、高品質なガラス製造のるつぼ、医療器具、ハードディスクの記録層などに利用されています。
  • 触媒として優れる理由:化学的に安定しつつ、高い触媒活性を持つため、様々な化学反応を効率的に促進します。特に、反応物から電子の授受をスムーズに行い、高温下でも安定して機能する点が優れています。

プラチナ価格の高騰

 プラチナが11年ぶりの高値を記録しています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB274L90X20C25A6000000/

 高騰の背景には、複数の要因が複合的に絡み合っている結果と考えられています。供給不足が構造的であることや、金に代わる投資対象としての魅力が再評価されていることから、短期的なマネーの流入だけでなく、中長期的な視点でも注目されています。

なぜプラチナが高騰しているのか

 プラチナの高騰には以下のような複数の要因が絡み合っていると考えられます。

プラチナ価格高騰の主な理由

  1. 供給不足の深刻化:
    • プラチナの主要産出国である南アフリカでの生産障害(洪水による鉱山稼働制限など)が挙げられます。南アフリカは世界のプラチナ供給の約7割を占めるため、同国の生産状況は価格に大きな影響を与えます。
    • 地上在庫も減少し続けており、供給が不安定になっていることが価格を押し上げています。
  2. 金の代替需要:
    • 金価格が高騰する中、比較的割安感のあるプラチナに資金が流れていると考えられます。特に宝飾品業界では、高すぎる金からプラチナへの需要シフトが見られます。中国でのプラチナ宝飾品需要が活発になっているとの報道もあります。
    • もともとプラチナは金よりも希少性が高い金属であり、過去には金以上の価格で取引されていた時期もあります。その希少性から、供給が不足すると価格が上昇しやすい性質を持っています。
  3. 投機マネーの流入:
    • プラチナと金価格の差が広がり過ぎたことで、割安感から投機マネーがプラチナ市場に流入していると指摘されています。投機筋は、中国需要増といった実需の拡大を後講釈として捉えつつ、先行して買いを入れている可能性があります。
    • ETF(上場投資信託)を通じた資金流入も、価格に影響を与えていると考えられます。
  4. 工業需要の変化と期待:
    • プラチナは主に工業用、特に自動車の排ガス浄化触媒として約6割が使用されます。新型コロナウイルスからの経済回復に伴い、自動車産業を中心に需要が増加しています。
    • パラジウム価格の高騰を受け、その代替としてプラチナが選ばれるケースが増えています。
    • 将来的な需要として、水素エネルギー分野での活用が期待されています。燃料電池車や水素製造のための固体高分子型水電解装置にはプラチナが触媒として不可欠であり、水素社会の実現に向けてプラチナの需要が高まる可能性があります。

今後の見通しと留意点

  • 短期的な上昇の可能性: 上記の要因から、短期的にはプラチナ価格の上昇が見込まれます。
  • 価格変動の大きさ: プラチナは金に比べて価格変動幅が大きいことが特徴です。工業需要に左右される面が大きく、景気動向の影響を受けやすい性質があります。
  • 脱炭素化の影響: ディーゼル車の需要減少はプラチナ需要にマイナスに働く可能性がありますが、一方で水素エネルギー分野での需要拡大はプラス要因となりえます。
  • 為替相場の影響: プラチナは米ドル建てで取引されるため、円安が進行すると日本国内でのプラチナ価格は上昇します。

 プラチナの価格動向は、世界の経済状況、各産業の動向、そして地政学的リスクなど、様々な要因が複雑に絡み合って形成されるため、今後の動向を注視していく必要があります。

プラチナ高騰は、南アフリカの生産障害による供給不足、高値の金からの代替需要、投機マネーの流入、そして自動車産業の回復や水素エネルギー分野への期待といった工業需要の増加が複合的に影響しています。

プラチナは工業的に、どのように使用されるのか

 プラチナは宝飾品のイメージが強いですが、実はその特性から工業分野で非常に幅広く活用されています。特にその「触媒作用」「耐熱性」「耐食性」「安定性」が重要視されます。主な工業用途は以下の通りです。

1. 自動車の排ガス浄化触媒

 プラチナの工業用途で最も大きな割合を占めるのが、自動車の排ガス浄化触媒です。これはプラチナが持つ優れた触媒作用によるものです。

  • 機能: エンジンの排ガスに含まれる有害物質(一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx))を、触媒反応によって無害な物質(二酸化炭素(CO2)、水(H2O)、窒素(N2)、酸素(O2))に分解・還元します。
  • メカニズム: プラチナは、これらの有害物質が空気中の酸素や他の物質と反応するのを促進する役割を果たします。特にディーゼル車の排ガス浄化触媒としてプラチナが多く使われています。
  • 特徴: プラチナは化学的に安定しており、高温の排ガス環境下でもその触媒活性を維持できるため、厳しい排ガス規制に対応するために不可欠な素材となっています。

2. 燃料電池

 クリーンエネルギーとして注目される燃料電池においても、プラチナは重要な役割を担っています。

  • 機能: 燃料電池は、水素と酸素の化学反応によって電気を生成します。この反応を効率的に進めるために、プラチナが電極の触媒として使用されます。
  • 応用: 燃料電池自動車(FCV)や定置用燃料電池などに搭載されており、プラチナは耐酸性・耐食性が求められる電極部分に最適です。
  • 将来性: 脱炭素社会への移行が進む中で、燃料電池の普及が期待されており、それに伴いプラチナの需要もさらに高まる可能性があります。

3. 石油化学工業

 石油化学製品や化学肥料の製造プロセスでもプラチナは重要な触媒として利用されます。

  • 硝酸製造: 肥料の原料となる硝酸の製造において、アンモニアから硝酸を生成する際にプラチナ網が触媒として使われます。
  • シリコーン製造: シリコーン樹脂の製造プロセスにおいても、プラチナが触媒として不可欠です。
  • その他: パラキシレン(プラスチックやポリエステル繊維の中間原料)やプロピレン(石油精製のプロセスで生成)などの製造にも、プラチナ触媒が活用されています。

4. ガラス製造 

 プラチナは非常に高い融点(約1769℃)と優れた耐熱性、耐食性を持つため、高品質なガラスの製造に不可欠な材料です。

  • 溶融炉: 高温でガラスを溶かすためのるつぼや、ガラスを成形するためのノズルなどに、プラチナやプラチナ合金が使用されます。特に光学ガラスや液晶基板ガラスなど、高い純度と均一性が求められるガラス製造では、ガラスとの化学反応が少ないプラチナが選ばれます。
  • 熱電対: 高温の炉内の温度管理に用いられる熱電対(温度センサー)にもプラチナが使われます。

5. その他の工業用途

  • ハードディスク: パソコンやテレビの内蔵ハードディスクにおいて、情報を記録する微小な磁石部分にプラチナが使われています。
  • 医療器具: 体内に入ってもアレルギー反応を起こしにくい性質と電気伝導率の良さから、心臓ペースメーカーの電極やカテーテルの先端部分などに使用されます。
  • 宇宙開発: 高い融点と安定性から、火星探査機やスペースシャトルなどの部品にも用いられ、過酷な宇宙環境下での機能安定性を保ちます。
  • 理化学用器具: 化学分析用のるつぼやボートなど、高温での実験や精密な測定を必要とする器具にプラチナが使われます。

 このように、プラチナは宝飾品だけでなく、私たちの生活を支える様々な工業製品や技術において、そのユニークな特性を活かして欠かせない役割を果たしています。

プラチナは優れた触媒作用と耐熱性、耐食性を持つため、工業分野で多岐にわたる用途があります。主に、自動車の排ガス浄化触媒、燃料電池の電極、石油化学工業での触媒、高品質なガラス製造のるつぼ、医療器具、ハードディスクの記録層などに利用され、現代社会に不可欠な素材です。

触媒として優れているのはなぜか

 プラチナが触媒として優れている理由は、その独特の化学的性質にあります。特に重要なのは以下の点です。

反応性の高さと安定性の両立

  • プラチナ自体は非常に化学的に安定しており、他の物質と直接反応して自らが変化することはほとんどありません。この「不活性」であるという性質が、触媒として繰り返し使用できる耐久性につながります。
  • 一方で、反応させたい物質をプラチナの表面に吸着させ、その物質の化学結合を一時的に弱めることで、反応を効率よく進行させる能力(触媒活性)が非常に高いです。これは、プラチナ原子が持つ電子構造が、特定の反応分子と相互作用しやすい「場」を提供するためと考えられています。

電子の授受のしやすさ

  • プラチナは、反応物から電子を受け取ったり、反応物に電子を与えたりする能力に優れています。これにより、酸化反応(電子を失う反応)と還元反応(電子を得る反応)の両方を効率よく促進できます。自動車の排ガス浄化触媒で、一酸化炭素や炭化水素の酸化と、窒素酸化物の還元を同時に行えるのはこの性質のためです。

特定の反応を促進する選択性

  • プラチナは、特定の化学反応だけを効率的に促進する「選択性」が高い場合が多いです。これにより、望まない副反応を抑え、目的の生成物を効率よく得ることができます。

高温環境での安定性

  • プラチナは融点が高く(約1769℃)、高温環境下でも構造が安定しており、触媒活性を維持できます。自動車の排ガスは高温になるため、この耐熱性は非常に重要です。

表面積の最大化

  • 触媒作用は表面で起こるため、より多くの反応物と触媒が接触できるよう、プラチナは非常に細かい微粒子(ナノ粒子)として、広い表面積を持つ担体(セラミックスなど)に担持されて使用されることが一般的です。これにより、限られた量のプラチナで最大限の触媒効果を発揮します。

 これらの特性の組み合わせにより、プラチナは自動車の排ガス浄化、燃料電池、石油化学製品の製造など、多岐にわたる重要な工業プロセスで欠かせない触媒として利用されています。

プラチナは化学的に安定しつつ、高い触媒活性を持つため、様々な化学反応を効率的に促進します。特に、反応物から電子の授受をスムーズに行い、高温下でも安定して機能する点が優れています。これにより、排ガス浄化や燃料電池など多岐にわたる工業プロセスで不可欠な触媒となります。

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