この記事で分かること
- 導電性ナノワイヤーとは:直径がナノメートルスケールの極細の導電性材料です。高い透明性、柔軟性、優れた導電性を兼ね備えた材料です。
- その用途:タッチパネル、フレキシブルディスプレイ、ウェアラブルデバイスなどの次世代エレクトロニクス分野での応用が期待されています。特に、既存の透明導電材料のフレキシブル性のなさという課題を解決する素材として注目されています。
ユニチカの導電性ナノワイヤー
ユニチカは、透明導電や特殊配線向けの導電材料として「導電性ナノワイヤー」を開発していることがニュースになっています。
https://chemicaldaily.com/archives/667674
導電性ナノワイヤーはITO膜の欠点である曲げることが難しいという点を解決できる技術として注目されています。
導電性ナノワイヤーとはなにか
導電性ナノワイヤーとは、直径がナノメートル(10億分の1メートル)スケールで、かつ電気を流す性質を持つ非常に細い線状の材料のことです。
特徴
- 極めて細い: 直径が10〜100ナノメートル程度の、肉眼では見えないほどの細さです。この微細なサイズが、従来の導電材料にはないユニークな特性をもたらします。
- 導電性: 金属(銀、銅、ニッケルなど)や半導体、あるいは特定の有機材料などで作られ、電気を通すことができます。
- 高アスペクト比: 長さが直径に比べて非常に長いため、高いアスペクト比(縦横比)を持ちます。これにより、少量で効率的な導電ネットワークを形成できます。
- 柔軟性・透明性: 特に銀ナノワイヤーなどは、その細さから柔軟な基材に適用でき、薄く塗布することで高い透明性を保ちつつ導電性を付与することが可能です。
- 量子効果: ナノメートルスケールの極めて細い線では、電子の挙動がバルク(塊)の材料とは異なり、量子力学的な効果が現れることがあります。これにより、特異な電気伝導特性を示すことがあります。
従来の導電材料との比較
現在の透明導電膜の主流は酸化インジウムスズ(ITO)ですが、ITOは脆く、曲げるのが難しいという欠点があります。一方、導電性ナノワイヤーは、その柔軟性から、フレキシブルディスプレイやウェアラブルデバイスなど、曲げたり折りたたんだりする用途での応用が期待されています。
また、銀ナノワイヤーは高い導電性を持つ一方で、イオンマイグレーション(電極材料が移動してショートする現象)による劣化が課題となることがありますが、ユニチカが開発している銅やニッケルを主成分とするナノワイヤーは、この耐イオンマイグレーション性に優れているといった特徴があります。
主な用途
導電性ナノワイヤーは、その独特の特性から様々な分野での応用が期待されています。
- 透明導電膜:
- タッチパネル
- フレキシブルディスプレイ
- 有機ELディスプレイ (OLED)
- 太陽電池
- 透明ヒーター(防曇、融雪など)
- 特殊配線:
- 小型化された電子回路の配線
- センサー
- ウェアラブルエレクトロニクス:
- フレキシブルな生体センサー
- スマート衣料
- その他:
- 電磁波シールド材(磁性ナノワイヤーの場合)
- 触媒
このように、導電性ナノワイヤーは、次世代の電子デバイスや高機能材料の実現に不可欠な素材として、活発に研究・開発が進められています。

導電性ナノワイヤーは、直径がナノメートルスケールの極細の導電性材料です。高い透明性、柔軟性、優れた導電性を兼ね備え、タッチパネル、フレキシブルディスプレイ、ウェアラブルデバイスなどの次世代エレクトロニクス分野での応用が期待されています。特に、既存の透明導電材料の課題を解決する素材として注目されています。
透明導電膜とは何か
透明導電膜(とうめいどうでんまく)とは、その名の通り、「透明」でありながら「電気を通す(導電性がある)」という、相反する性質を併せ持つ薄い膜のことです。
通常、電気をよく通す金属は不透明であり、透明なガラスなどは電気を通さない絶縁体です。しかし、現代の多くの電子機器には、表示と操作の両方を同時に行うための、透明で電気を通す材料が不可欠になっています。
主な特徴
- 透明性: 可視光(人間の目に見える光)を高い割合で透過します。
- 導電性: 電気を通すことができます。
- 薄膜: ガラスやプラスチックフィルムなどの基板の上に、非常に薄く形成されます。
なぜ透明で導電性を持つのか
多くの透明導電膜は、透明な半導体材料に、電気を通すための元素(ドーパント)を少量添加することで作られます。 これにより、材料の透明性を損なうことなく、電気を運ぶ自由電子(キャリア)を増やし、導電性を付与します。
例えば、最も広く使われている透明導電膜であるITO(酸化インジウムスズ)は、透明な酸化インジウムにスズを少量添加することで作られています。
主な種類
ITO以外にも、様々な材料が透明導電膜として研究・実用化されています。
- ITO(酸化インジウムスズ): 現在最も広く使われている透明導電膜。高い導電性と透明性を両立します。ただし、インジウムが希少金属であるため、代替材料の開発も進められています。
- ZnO(酸化亜鉛)系: 比較的安価で、一部の太陽電池などに使用されます。
- FTO(フッ素ドープ酸化スズ): 酸化スズにフッ素を添加したもの。高い透明性と電気伝導度を持ち、耐熱性も優れます。
- 導電性ナノワイヤー: 銀ナノワイヤーや銅ナノワイヤーなど。柔軟性が高く、フレキシブルな用途に適しています。
- 導電性ポリマー: PEDOT:PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン)など。柔軟性が高く、低温での成膜が可能です。
- グラフェン: 高い導電性と透明性、柔軟性を持つ次世代の材料として注目されています。
主な用途
透明導電膜は、私たちの身の回りの様々な電子機器に不可欠な材料です。
- ディスプレイ: 液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)などの透明電極
- タッチパネル: スマートフォンやタブレット、ATMなどのタッチスクリーン
- 太陽電池: 発電した電気を取り出すための透明電極
- 透明ヒーター: 自動車のフロントガラスや監視カメラのレンズの曇り止め・融雪、建材の防曇など
- センサー: 各種センサーの透明電極
- 静電気防止: 帯電防止コーティング
このように、透明導電膜は、現代のデジタル社会を支える基盤技術の一つであり、その性能向上と新たな材料開発が活発に進められています。

透明導電膜は、透明性と導電性という相反する性質を併せ持つ薄膜です。主にITOなどが使われ、ディスプレイ、タッチパネル、太陽電池、透明ヒーターなど、現代の電子機器に不可欠な材料として幅広く活用されています。フレキシブルデバイス向けに、導電性ナノワイヤーなどの新素材も開発されています。
導電性ナノワイヤーはどのように製造されるのか
導電性ナノワイヤーの製造方法は多岐にわたりますが、大きく分けて「トップダウン法」と「ボトムアップ法」の2種類があります。
1. トップダウン法(Top-down approach)
これは、大きな材料を削ったり、加工したりして微細な構造を作り出す方法です。半導体産業で用いられるリソグラフィやエッチング技術がこれに該当します。
- リソグラフィとエッチング: バルク(塊)のウェハーや結晶を、フォトリソグラフィなどの技術でパターンを描き、化学的または物理的なエッチングによってナノメートルスケールのワイヤーを形成します。
- 物理蒸着法(PVD): 真空中で材料を蒸発させ、基板上に堆積させてワイヤー状の構造を形成する方法です。
トップダウン法は精密な構造制御が可能ですが、クリーンルームや高価な設備が必要になる場合が多く、大量生産にはコストがかかる傾向があります。
2. ボトムアップ法(Bottom-up approach)
これは、原子や分子といった小さな単位から、化学反応などを利用して目的のナノ構造を自律的に組み上げていく方法です。より低コストで大量生産に向いているとされています。導電性ナノワイヤーの製造では、こちらの方法が主流です。
- 液相合成法(Solution-phase synthesis):
- ポリオールプロセス: ポリオール(多価アルコール)を溶媒兼還元剤として用い、金属塩(例: 硝酸銀、塩化銅)を加熱・反応させることでナノワイヤーを生成する方法です。界面活性剤などを添加して、ナノワイヤーの成長方向を制御し、均一な太さや長さのワイヤーを得る技術が重要になります。ユニチカのナノワイヤーもこの類の方法で製造されている可能性があります。
- 水熱合成法/ソルボサーマル合成法: 高温・高圧の水や有機溶媒中で反応させる方法です。銅ナノワイヤーの製造などで用いられることがあります。
- 気相成長法(Vapor-phase growth):
- VLS(Vapor-Liquid-Solid)成長法: 液化した金属ナノ粒子を触媒として、気相の原料ガス(例: シリコンのSiCl₄)を溶解させ、触媒を介してナノワイヤーを成長させる方法です。
- CVD(Chemical Vapor Deposition): 化学気相成長法。原料ガスを加熱された基板上で分解・反応させ、ナノワイヤーを析出させる方法です。
ユニチカの導電性ナノワイヤーの場合
ユニチカが開発している銅(Cu)やニッケル(Ni)を主成分とするナノワイヤーは、独自の製造技術を用いているとされています。
具体的な詳細は非公開ですが、一般的に、これらの金属ナノワイヤーは液相合成法をベースに、特定の界面活性剤や添加剤、反応条件を最適化することで、高いアスペクト比と均一な品質を実現していると考えられます。特に、「独自の表面処理技術により、ナノワイヤーの表面を安定した貴金属にすることが可能」という点から、製造後に表面改質プロセスを施していることが伺えます。
導電性ナノワイヤーは、インク状で提供されることが多いため、製造されたナノワイヤーを適切に分散させる技術も重要です。

導電性ナノワイヤーの製造は、原子・分子から組み上げる「ボトムアップ法」が主流です。特に液相合成法が多く用いられ、金属塩溶液中で化学反応を利用し、精密な条件制御によりナノスケールのワイヤーを成長させます。これにより、高アスペクト比の均一なナノワイヤーが効率的に得られます。
コメント