レゾナックのフッ素化合物メーカー子会社の売却 どんな製品を製造しているのか?売却の理由は何か?

この記事で分かること

  • F2ケミカルズの製品:高温・高圧に耐える熱安定性と化学的不活性を持つパーフルオロカーボン流体を中心に製造しています。また、低GWPのHFPオリゴマーや、医薬品中間体となる選択的直接フッ素化化合物も手掛けています。
  • パーフルオロカーボン流体の用途:半導体や電子機器の冷却材、医療分野での人工血液や眼科手術用流体、精密洗浄剤など、その不燃性、電気絶縁性、不活性といった特性を活かし、幅広い分野で利用されています。
  • 売却の理由:レゾナックが事業の選択と集中を進め、将来の成長が見込めるコア事業に経営資源を最適配分していくという方針の一環と考えられます。

レゾナックのフッ素化合物メーカー子会社の売却

 レゾナックが、2025年7月1日に、英国のフッ素化合物メーカーである完全子会社F2ケミカルズ(F2 Chemicals Ltd.)を、英国の投資ファンドであるRcapital Partners LLP.に売却することに合意し、契約を締結しました。

 継続的なポートフォリオの見直しを通じて持続的な成長を追求しており、その中でF2ケミカルズの事業のあり方について検討した結果、今回の売却を決定したとしています。

F2ケミカルズはどんなフッ素化合物を製造しているのか

 F2ケミカルズは、主に以下のフッ素化合物を製造しています。

  • Flutec®パーフルオロカーボン流体(Perfluorocarbon Fluids): これは完全にフッ素化されており、フッ素と炭素原子のみを含んでいます。優れた熱安定性、化学的不活性、電気抵抗性、ガス溶解性などの特性を持ち、無毒性で不燃性です。石油・ガス産業、半導体製造、医療用途、高出力電子機器の冷却用誘電体流体など、幅広い産業で特殊な性能流体として使用されています。
    • 具体的な製品としては、オクタフルオロプロパン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロデカリン、パーフルオロメチルデカリン、パーフルオロパーヒドロフェナントレンなどがあります。
  • Fluorotherm D(HFPダイマー)およびFluorotherm T(HFPトリマー): これらは一部の熱伝達用途においてパーフルオロカーボン流体の代替となる液体で、低いGWP(地球温暖化係数)を持つため、電子機器の冷却などの用途で利用されています。
  • 選択的直接フッ素化による化合物: 元素状フッ素と有機化合物を用いた選択的直接フッ素化の技術を持ち、SF5化合物やフッ素化ケトエステルなどを製造しています。これらは医薬品中間体として重要な機能を持っています。

 F2ケミカルズは、これらの製品を欧州各国およびアメリカを中心に製造・販売しています。

F2ケミカルズは、高温・高圧に耐える熱安定性と化学的不活性を持つパーフルオロカーボン流体を中心に製造しています。これらは半導体や電子機器の冷却、医療用途、特殊化学品などに広く用いられます。また、低GWPのHFPオリゴマーや、医薬品中間体となる選択的直接フッ素化化合物も手掛けています。

パーフルオロカーボン流体の具体的な用途は?

 パーフルオロカーボン流体(PFCs)は、その卓越した特性(高い熱安定性、化学的不活性、低い表面張力、高いガス溶解度、不燃性、非導電性など)から、非常に幅広い分野で利用されています。具体的な用途は以下の通りです。

  • 電子機器・半導体製造関連:
    • 熱媒体・冷却材: スーパーコンピューター、データセンターのサーバー浸漬冷却、高出力電子機器、半導体製造装置などで、発熱する部品を効率的に冷却するために使用されます。不燃性で電気絶縁性に優れるため、直接電子部品に触れても安全です。
    • 洗浄剤・リンス剤・乾燥材: 半導体ウェハーや精密部品の洗浄プロセスにおいて、残留物を残さずに汚れを除去し、速やかに乾燥させるために使用されます。
  • 医療・バイオ関連:
    • 人工血液・酸素運搬剤: 酸素溶解度が高いため、人工血液の代替品や、酸素供給が困難な組織への酸素運搬剤として研究・利用されています。
    • 液体換気(液体呼吸): 重度の呼吸不全患者の肺に直接注入し、酸素を供給する液体換気療法に用いられます。
    • 眼科手術: 網膜剥離などの眼科手術において、網膜の整復や硝子体置換術に使用されます。
    • 超音波造影剤・MRI造影剤: 診断画像診断において、臓器や血管のコントラストを高めるために使用されます。
    • 薬物送達システム: 特定の組織や臓器に薬物を送達するためのキャリアとして研究されています。
  • その他産業用途:
    • 化学品製造: 化学反応の媒体や溶剤として、その不活性が利用されます。
    • 航空・軍事用エレクトロニクス: 厳しい環境下で使用される航空機や軍事機器の電子部品の冷却や保護に用いられます。
    • 潤滑剤・分散剤: 特殊な潤滑剤や、他の物質を均一に分散させるための分散剤として利用されます。

これらの用途以外にも、そのユニークな特性から様々な分野での応用が検討されています。

パーフルオロカーボン流体は、半導体や電子機器の冷却材医療分野での人工血液眼科手術用流体精密洗浄剤など、その不燃性、電気絶縁性、不活性といった特性を活かし、幅広い分野で利用されています。

SF5化合物やフッ素化ケトエステルとは何か

 SF5化合物、つまりペンタフルオロスルファニル基(-SF5)を持つ化合物は、そのユニークな化学的性質から近年注目されています。 フッ素化ケトエステルは、ケトンとエステル基の両方、さらにフッ素原子を含む有機化合物です。

SF5化合物(ペンタフルオロスルファニル化合物)

  • 定義: 硫黄原子に5つのフッ素原子が結合したペンタフルオロスルファニル基(-SF5)を持つ有機化合物の総称です。
  • 特徴:
    • 強力な電子求引性: ニトロ基(-NO2)に匹敵する非常に強い電子求引性を持ちます。これにより、分子内の電子分布を大きく変化させ、様々な化学反応性や物理的性質を付与できます。
    • 高い脂溶性: 水に溶けにくく、油になじみやすい性質を持ちます。これは、医薬品が細胞膜を透過する能力や、農薬が植物組織に浸透する能力に影響します。
    • 高い化学的・熱的安定性: 非常に安定な構造を持つため、強酸や強塩基、熱などの厳しい条件下でも分解されにくい特徴があります。これは、製品の寿命や安定性を向上させる上で重要です。
    • 嵩高さ(かさたかさ): 分子量が大きく、ある程度の立体的なかさ高さを持つため、特定の分子間相互作用を制御するのに役立ちます。
  • 用途:
    • 医薬品: 薬物の標的分子への結合親和性の向上、代謝安定性の改善、生体内での吸収性や作用時間の制御などに利用されます。トリフルオロメチル基(-CF3)よりも優れた効果を示す場合があるため、「スーパートリフルオロメチル基」とも呼ばれます。
    • 農薬: 殺虫剤、殺菌剤、除草剤などの有効成分として、その作用の選択性や持続性を高めるために利用されます。
    • 電子材料: 液晶材料、有機EL材料、高分子材料などに導入することで、特性向上に貢献します。

フッ素化ケトエステル

  • 定義: ケトン基(>C=O)とエステル基(−COOR)、そしてフッ素原子(またはフッ素原子を含む基)を分子内に持つ有機化合物です。F2ケミカルズが製造するものは、「選択的直接フッ素化」という技術を用いて製造される、特定のフッ素原子が導入されたケトエステルであると考えられます。
  • 特徴:
    • 複数の官能基: ケトンとエステルという反応性に富んだ官能基を持つため、様々な化学変換が可能であり、複雑な分子構造を構築する際のビルディングブロックとして非常に有用です。
    • フッ素原子による特性改変: フッ素原子の導入により、化合物の電子密度が変化し、酸性度や求核性・求電子性といった反応性が修飾されます。また、脂溶性や化学的安定性も向上することがあります。
  • 用途:
    • 医薬品中間体: 特に光学活性(左右が鏡像関係にあるが重ね合わせられない分子の性質)を持つフッ素化ケトエステルは、特定の疾患に効果的な薬剤の合成において、重要なキラル中間体として利用されます。
    • 農薬中間体: 新規な農薬の有効成分を合成するための原料となります。
    • 特殊化学品: 液晶材料、機能性高分子、界面活性剤など、特定の機能を持つ高機能材料の合成中間体としても利用される可能性があります。

 F2ケミカルズは、これらの高付加価値なフッ素化合物を独自のフッ素化技術を用いて製造し、様々な産業分野に供給することで、顧客企業の製品開発に貢献しています。

SF5化合物は、強力な電子求引性と高い安定性を持つフッ素化合物で、医薬品や農薬の性能向上に貢献します。フッ素化ケトエステルは、フッ素と複数の官能基を持ち、医薬品や特殊化学品の重要な中間体として、その反応性と特性が活用されます。

売却の理由は何か

 


レゾナックによるF2ケミカルズ売却の理由

 レゾナックが英国のフッ素化合物子会社であるF2ケミカルズを売却した主な理由は、レゾナックグループの事業ポートフォリオ戦略の見直しにあります。

 レゾナックは、「統合新会社の長期ビジョン(2021~2030)」において、世界トップクラスの機能性化学メーカーとして持続可能な社会への貢献を目指しています。このビジョンを達成するため、継続的なポートフォリオの見直しを通じて持続的な成長を追求しており、その過程でF2ケミカルズの事業のあり方について検討が行われました。

 レゾナックは、F2ケミカルズが英国の投資ファンドであるRcapital Partners LLP.の傘下に入ることで、Rcapitalが持つ20年以上の投資実績と専門的知見のもと、より柔軟かつ大胆な事業戦略を展開し、さらなる成長と競争力強化が実現できると判断しました。これにより、F2ケミカルズの各ステークホルダーにとっても最適であるとの結論に至ったとのことです。

今回の売却は、レゾナックが事業の選択と集中を進め、将来の成長が見込めるコア事業に経営資源を最適配分していくという方針の一環と考えられます。

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