積水化学工業のPFASフリーの超純水用配管 なぜ、PFASが使われるのか?どのようにPFASフリーにしたのか?

この記事で分かること

  • PFASが使用される理由:その優れた耐薬品性、低溶出性、耐熱性、および非粘着性により、超高純度が要求される半導体製造プロセスにおいて、水の純度を維持し、不純物混入を防ぐのに最適だったからです。
  • PFASフリー実現の方法:特殊オレフィン樹脂をベースとしたPFASを含まない新素材の配管・継手を開発。栗田工業との共同実証で、従来のPFAS含有配管と同等の低溶出性や微粒子発塵性、ガス透過性を確認し、技術を確立しました。
  • 特殊オレフィン樹脂とは:ポリエチレンやポリプロピレンなどの一般的なオレフィン系樹脂を、特定の性能(低溶出性、微粒子抑制、ガス透過性など)を満たすよう改良・改質した高機能なプラスチックです。

積水化学工業のPFASフリーの超純水用配管

 積水化学工業は、先端半導体製造プロセスで用いられる超純水用配管について、有機フッ素化合物(PFAS)を全く含まない「PFASフリー」化を進めています。

半導体製造で洗浄する「超純水」に「PFAS」対策 積水化学が新素材(電波新聞デジタル) - Yahoo!ニュース
 積水化学工業は、半導体製造に使う超純水装置について、その有害性から規制の進むフッ素化合物(PFAS)を含まない新素材を使った配管・継手を開発した。超純水装置で世界トップシェアを有する栗田工業と共同

 この技術確立は、半導体産業における環境負荷低減とサステナビリティへの貢献、そして高まるPFAS規制への対応において重要な一歩となります。

超純水の配管に有機フッ素化合物が使用される理由は

 超純水の配管に有機フッ素化合物(PFAS)が使用されてきた主な理由は、以下のようなその優れた特性にあります。

  • 耐薬品性: 半導体製造プロセスでは、さまざまな種類の強酸や強アルカリ、有機溶剤などが使用されます。PFASはこれらの薬品に対して非常に高い耐性を持つため、配管が腐食したり、溶出物が発生したりするのを防ぐことができます。
  • 低溶出性: 超純水は、わずかな不純物も許容されないため、配管材料からの不純物の溶出は極めて問題となります。PFASは、他の一般的な樹脂材料に比べて、水や薬品への溶出が非常に少ないという特性を持っています。これにより、超純水の純度を高く保つことができます。
  • 耐熱性: 半導体製造プロセスでは、高温での処理が必要となる場合もあります。PFASは比較的高い耐熱性を持つため、このような環境下でも安定して使用できます。
  • 非粘着性: PFASは表面エネルギーが低く、非常に滑らかな表面を持つため、粒子が付着しにくく、微生物の繁殖も抑制しやすいという特性があります。これは、超純水の清浄度を維持する上で重要です。

 これらの特性により、PFASは長年にわたり、半導体製造における超純水配管の最適な材料として広く採用されてきました。しかし、近年、PFASの環境や人体への影響が懸念され、世界的に規制の動きが強まっていることから、積水化学工業のような企業がPFASフリーの代替材料の開発を進めている状況です。

超純水配管にPFASが使われてきたのは、その優れた耐薬品性、低溶出性、耐熱性、および非粘着性により、超高純度が要求される半導体製造プロセスにおいて、水の純度を維持し、不純物混入を防ぐのに最適だったからです。

どうやってPFASフリーにしたのか

 積水化学工業が超純水配管のPFASフリー化を実現した方法は、PFASを含まない新しい素材を開発し、その性能を検証するというアプローチです。

  1. 非有機フッ素化合物系資材の開発: 積水化学工業は、従来のフッ素系樹脂(PFASを含む)に代わる、非有機フッ素化合物系の新しい配管・継手用資材を開発しました。詳細な素材名は公表されていませんが、「特殊オレフィン樹脂を用いた配管材が新たに開発され」という記述があります。オレフィン系樹脂は炭化水素の二重結合を持った樹脂の総称で、軽量で低吸湿性、耐薬品性など、様々な特性を持つ素材です。
  2. 栗田工業との共同実証: 開発した新素材の配管・継手は、超純水システムにおける世界的なリーディングカンパニーである栗田工業との共同で、栗田工業の「Kurita Innovation Hub(KIH)」に設置された超純水製造装置を用いて実証試験が行われました。
  3. 厳格な性能評価: この実証試験では、従来のPVDF配管(PFASを含むフッ素系樹脂の一種)と同等以上の性能があることを確認するため、以下の項目が評価されました。
    • 溶出性: 配管材料から水中に溶け出す不純物の量。超純水では極めて低い溶出性が求められます。
    • 微粒子の発塵性: 配管表面から微粒子が剥がれ落ちる可能性。半導体製造では微粒子が歩留まりに直結するため、非常に重要です。
    • ガス透過性: 配管の外から内部へガスが透過する度合い。外部からの汚染を防ぐため、低いガス透過性が求められます。

 これらの評価項目において、PFASフリーの新素材が従来のPFAS含有配管に劣らない性能を発揮することを確認したことで、技術確立にめどが立ったと発表されています。

積水化学工業は、特殊オレフィン樹脂をベースとしたPFASを含まない新素材の配管・継手を開発。栗田工業との共同実証で、従来のPFAS含有配管と同等の低溶出性や微粒子発塵性、ガス透過性を確認し、技術を確立しました。

特殊オレフィン樹脂とは何か

 「特殊オレフィン樹脂」とは、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などの一般的なオレフィン系樹脂をベースに、特定の用途や要求される性能に合わせて改良・改質された樹脂の総称です。

 オレフィン系樹脂は、炭素(C)と水素(H)のみで構成される高分子化合物で、以下の共通する特徴があります。

  • 軽量性: 比重が小さく、非常に軽い。
  • 耐薬品性: 酸やアルカリなど、多くの化学薬品に対して高い耐性を持つ。
  • 低吸湿性・防水性: 水分をほとんど吸収せず、湿気や水に強い。
  • 環境負荷の低減: 燃焼時に塩化水素ガスやダイオキシンなどの有害ガスをほとんど発生しない。

 積水化学工業が超純水配管に採用した「特殊オレフィン樹脂」は、これらのオレフィン系樹脂の基本的な特性を活かしつつ、超純水配管に求められる極めて厳しい要件(低溶出性、微粒子発塵性、ガス透過性など)をクリアできるように、重合プロセスや配合、構造などを工夫して開発されたものと考えられます。

 通常のオレフィン系樹脂は、耐熱性やガスバリア性、表面の滑らかさなどにおいて、フッ素系樹脂に劣る場合があります。そのため、「特殊」という言葉が示すように、これらの課題を克服し、超純水配管として最適な性能を発揮できるよう、高度な技術で改質されたオレフィン系樹脂であると理解できます。

特殊オレフィン樹脂とは、ポリエチレンやポリプロピレンなどの一般的なオレフィン系樹脂を、特定の性能(低溶出性、微粒子抑制、ガス透過性など)を満たすよう改良・改質した高機能なプラスチックです。

オレフィン樹脂の改質にはどのようなものがあるのか

 オレフィン樹脂の改質には、大きく分けて表面改質と分子構造・組成改質(バルク改質)の2種類があります。積水化学工業のケースでは、超純水配管という用途から、主に分子構造・組成改質が行われていると考えられます。

1. 表面改質

 オレフィン樹脂は、そのままではインクや塗料、接着剤が密着しにくいという特性があります。これを改善し、濡れ性や接着性を向上させるための処理です。

  • コロナ放電処理: 強い放電を当てることで、樹脂表面に酸素含有官能基(極性基)を生成し、濡れ性を向上させます。フィルムやシートの印刷前処理などで広く用いられます。
  • フレーム処理: ガス炎で樹脂表面をあぶり、分子に酸素結合や二重結合を導入して濡れ性を改善します。成形品(ボトルなど)で多く使われます。
  • プラズマ処理: プラズマを用いて表面の油脂や汚れを除去し、同時に官能基を生成して表面を高エネルギー化します。環境に配慮しつつ高い接着性を得られる方法として注目されています。
  • 紫外線(UV)照射処理: 紫外線を照射することで表面の改質を図ります。
  • プライマー処理: 接着性の良いコーティング材(プライマー)を事前に塗布して、接着剤との密着性を高めます。

2. 分子構造・組成改質(バルク改質)

 樹脂自体の特性(耐熱性、強度、透明性、バリア性、溶出性など)を向上させるための改質です。積水化学工業の「特殊オレフィン樹脂」は、この範疇に入ると考えられます。

  • 共重合: 複数の種類のモノマー(単量体)を重合させることで、異なる特性を持つ部分を導入し、新たな特性を付与します。例えば、エチレンとα-オレフィンを共重合させることで、フィルム強度や透明性を向上させたLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)などがその例です。
  • ブレンド・アロイ化: 異なる種類の樹脂を混ぜ合わせることで、それぞれの良い特性を組み合わせます。例えば、ポリプロピレンとエチレンプロピレンゴム(EPR)をブレンドすることで、耐衝撃性と剛性を両立させるといった方法があります。
  • グラフト重合: あるポリマーの主鎖に、別のモノマーを枝状に結合させることで、耐熱性や相溶性などを向上させます。
  • ナノフィラー複合化: クレイやシリカなどのナノサイズの微粒子を数パーセント添加し、樹脂とフィラー間の相互作用を強化することで、ガスバリア性、難燃性、強度などを大幅に向上させます。透明性とバリア性の両立も可能になります。
  • 精密重合技術(メタロセン触媒など): 触媒技術の進化により、分子量分布や立体規則性を精密に制御できるようになり、高結晶性ポリエチレンやエラストマー特性を持つランダム共重合体など、特定の性能を持つ新しいポリマーの設計が可能になりました。
  • 添加剤の配合: 酸化防止剤、耐候安定剤、滑剤、難燃剤など、様々な機能を持つ添加剤を配合することで、樹脂の性能を向上させます。特に超純水用途では、溶出を極力抑えるための添加剤選定が重要になります。

 積水化学工業が超純水配管に採用した「特殊オレフィン樹脂」は、上記の分子構造・組成改質技術を駆使して、フッ素系樹脂に匹敵する「低溶出性」や「微粒子発塵性」、「ガス透過性」を実現したものと推測されます。特に、不純物の溶出を抑えるためには、材料自体の純度向上や、溶出しにくい添加剤の選定、あるいは添加剤フリーの設計などが重要になります。

オレフィン樹脂の改質には、表面の接着性や濡れ性を高める表面改質(コロナ・プラズマ処理など)と、強度・耐熱性・バリア性などを向上させる分子構造・組成改質(共重合、ブレンド、ナノフィラー複合化、精密重合など)があります。

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