Helical Fusionの資金調達 Helical Fusionとははどんな会社か?ヘリカル型核融合炉とは何か?

この記事で分かること

  • Helical Fusionとは:日本の核融合科学研究所の知見を活かし、ヘリカル方式の定常核融合炉実用化を目指すスタートアップです。
  • 核融合発電とは:太陽と同じ原理で軽い原子核を融合させ、膨大なエネルギーを取り出す次世代クリーンエネルギーであり、CO2を排出せず、燃料資源も豊富です。
  • ヘリカル型核融合炉とは:らせん状のコイルで生成した磁場でプラズマを閉じ込める方式です。プラズマ電流が不要なため、長時間安定した定常運転が可能という特徴を持ち、日本の核融合科学研究所が研究をリードしています。

Helical Fusionの資金調達

 核融合発電の分野で注目される日本のスタートアップ「Helical Fusion(ヘリカルフュージョン)」が、最近、総額約22億円(融資を含めると約23億円)の資金調達を実施したことが明らかになりました。 

 同社は三井金属とブランケットの共同開発契約を締結するなど核融合発電に積極的な投資を行っています。

核融合発電とはなにか

 核融合発電とは、軽い原子核同士を融合させて、より重い原子核に変換する際に発生する莫大なエネルギーを利用して発電を行う技術です。この反応は、太陽の内部で実際に起きている現象と同じ原理に基づいています。

核融合の仕組み

 核融合発電では、主に水素の同位体である重水素(D)と三重水素(T)を燃料とします。

  1. 超高温プラズマの生成: 重水素と三重水素を数千万度から1億度以上の超高温に加熱すると、原子核と電子がバラバラになった「プラズマ」と呼ばれる状態になります。
  2. プラズマの閉じ込め: この超高温のプラズマは、通常の物質と接触すると冷えてしまうため、強力な磁場(磁気閉じ込め方式)やレーザー(慣性閉じ込め方式)などを用いて、容器に触れないように閉じ込めます。
  3. 核融合反応の発生: 高温・高密度のプラズマ中で、重水素と三重水素の原子核が衝突・融合することで、ヘリウム原子核と中性子が生じます。この際、質量の一部が失われ、それがアインシュタインの式 E=mc2 に従って膨大なエネルギーとして放出されます。
  4. エネルギーの利用: 発生したエネルギー(主に中性子の運動エネルギー)を熱として取り出し、この熱で水を沸騰させて蒸気タービンを回すことで発電します。

核融合発電のメリット

 核融合発電は、次世代のクリーンエネルギーとして大きな期待が寄せられており、以下のようなメリットがあります。

  • 燃料資源が豊富: 燃料となる重水素は海水中に無尽蔵に存在し、三重水素は核融合炉内で生成することも可能です。これにより、半永久的なエネルギー供給が期待できます。
  • 環境負荷が低い:
    • 二酸化炭素を排出しない: 発電過程でCO2などの温室効果ガスを排出しません。
    • 放射性廃棄物が少ない・管理期間が短い: 核分裂を利用する原子力発電と比べて、高レベル放射性廃棄物が発生せず、放射性廃棄物の放射能レベルが比較的低く、管理期間も短くて済みます(数十年~100年程度)。
  • 安全性が高い:
    • 暴走・爆発のリスクが低い: 核融合反応は、非常にシビアな条件(超高温・高密度)が維持されなければ継続しません。そのため、万が一運転中に異常が発生しても、反応は自然に停止し、暴走や爆発につながる可能性は極めて低いとされています。
    • 臨界事故の概念がない: 核分裂のような「臨界」の概念がないため、臨界事故の心配もありません。
  • エネルギー効率が高い: わずかな燃料から非常に大きなエネルギーを生み出すことができます。例えば、わずか1グラムの重水素と三重水素の燃料で、タンクローリー1台分(約8トン)の石油を燃やしたときと同じくらいの熱エネルギーが得られると言われています。
  • 安定的なエネルギー供給: 太陽光発電や風力発電のように天候に左右されず、24時間365日安定して発電できるベースロード電源としての活用が期待されます。

核融合発電の課題

 一方で、核融合発電の実用化には、まだいくつかの大きな課題があります。

  • 技術的なハードルの高さ:
    • 超高温プラズマの安定的な制御: 1億度以上のプラズマを安定的に長時間閉じ込める技術は非常に困難です。
    • 炉壁材料の開発: 核融合反応によって生じる高エネルギーの中性子に耐えうる、耐久性の高い材料の開発が必要です。
    • 三重水素の自己生成: 燃料となる三重水素を炉内で効率的に生成する技術の確立が求められます。
  • 開発・運用コスト: 実証炉の建設には数兆円規模の費用がかかるなど、巨額の投資が必要です。実用化には、経済性を高めるための技術革新とコスト削減が不可欠です。
  • 社会受容性: 新しい技術であるため、国民の理解と受容を得ていく必要があります。

実用化に向けた現状と展望

 現在、日本を含む世界各国が国際協力のもと、核融合発電の実用化に向けて研究開発を進めています。特に注目されているのは、フランスで建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)プロジェクトです。ITERは、核融合反応の継続とエネルギー生成の実証を目指しており、2035年の核融合運転開始を目指しています。

 日本国内では、ヘリカルフュージョンのようなスタートアップ企業が独自の方式で商用炉の実現を目指すほか、量子科学技術研究開発機構(QST)のJT-60SAなどの大型装置での研究も進められています。

 多くの専門家や関係機関は、核融合発電の「発電実証」を2030年代に目指し、2050年頃までの実用化を目指すロードマップを描いています。技術的な課題は依然として大きいものの、その計り知れないメリットから、核融合発電は人類のエネルギー問題解決の切り札として、今後の進展が注目されています。

核融合発電は、太陽と同じ原理で軽い原子核を融合させ、膨大なエネルギーを取り出す次世代クリーンエネルギーであり、CO2を排出せず、燃料資源も豊富です。

プラズマの超高温制御など技術的課題は残るが、2050年頃の実用化を目指し世界中で開発が進められています。

ヘリカルフュージョンはどんな企業か

 Helical Fusion(ヘリカルフュージョン)は、「人類は核融合で進化する」をビジョンに掲げ、以下のような特徴を持つ世界初の定常核融合炉の実現を目指す日本のスタートアップ企業です。

  • ヘリカル方式の採用: 国立専門研究機関である核融合科学研究所(NIFS)で長年培われた「ヘリカル型核融合炉」の知見を引き継いでいます。この方式は、プラズマの閉じ込めに必要な磁場を電磁石コイルのみで安定的に生成できる点が大きな特徴で、定常運転能力に優れているとされています。
  • 商用核融合炉の開発: 商用核融合炉および関連技術の開発を行っています。特に、核融合炉の重要装置である「ブランケット」の開発においては、三井金属鉱業やMiRESSOなどとの共同開発も進めています。
  • 具体的な目標: 「2034年の商用炉完成」という明確な目標を掲げ、世界最速での定常核融合炉の実現と商用化を目指しています。
  • 強力なチームとパートナーシップ: 核融合科学研究所の元教授や助教など、物理と炉工学の分野における世界トップクラスの研究者と、事業開発に強みを持つメンバーが融合したチームを形成しています。また、豊田合成やKDDIなどの大手企業からの出資や、商工中金からの融資を受けるなど、様々な機関と連携して事業を進めています。
  • J-Startup選定企業: 経済産業省が運営するスタートアップ支援プログラム「J-Startup」の第5次選定企業にも選ばれており、政府からの支援も受けています。

 Helical Fusionは、日本発の技術で、クリーンで安定した次世代エネルギーである核融合発電の社会実装に挑む、非常に意欲的な企業と言えるでしょう。

Helical Fusionは、日本の核融合科学研究所の知見を活かし、ヘリカル方式の定常核融合炉実用化を目指すスタートアップです。CO2を出さないクリーンな未来のエネルギー源として、2034年の商用炉完成を目標に開発を進めています。

ヘリカル型核融合炉とは何か

 ヘリカル型核融合炉は、磁場閉じ込め方式の核融合炉の一種で、特に定常運転(24時間365日安定して稼働)に適しているとされている方式です。

仕組みと特徴

  1. らせん状のコイル(ヘリカルコイル): ヘリカル型核融合炉の最大の特徴は、ドーナツ状の容器の外側に、DNAの二重らせんのような「らせん状にねじれたコイル(ヘリカルコイル)」を配置することです。
  2. 磁場の生成: このヘリカルコイルに電流を流すことで、プラズマを閉じ込めるためのねじれた磁場(磁力線のカゴ)を生成します。
  3. プラズマの閉じ込め: プラズマ中の荷電粒子(イオンや電子)は、このねじれた磁力線に沿って運動することで、容器の壁に触れることなく、長時間安定して閉じ込められます。
  4. プラズマ電流不要: トカマク型核融合炉がプラズマ中に電流を流して磁場を補強するのに対し、ヘリカル型は外部のヘリカルコイルのみで必要な磁場を生成できるため、プラズマに電流を流す必要がありません。

メリット

  • 定常運転に優れる: プラズマ電流が不要なため、プラズマの不安定性(ディスラプションなど)が起きにくく、長時間安定した運転が可能です。これは、発電所として継続的に稼働させる上で非常に重要な特性です。
  • 安定性: プラズマ電流に起因する不安定性が原理的に少ないため、トカマク型と比較して、より安定したプラズマの閉じ込めが期待できます。
  • 構造のシンプルさ: プラズマ電流を生成するための複雑な機器(センターソレノイドコイルなど)が不要なため、炉の構造を比較的シンプルに設計できる可能性があります。
  • 高いエネルギー効率: プラズマの保持やプラント全体の運転に必要なエネルギー効率が高いとされています。

デメリット・課題

  • コイル構造の複雑さ: ヘリカルコイル自体が複雑な形状をしているため、その製造や設置の難易度が高いという課題があります。
  • プラズマ閉じ込め性能: 一般的に、プラズマの閉じ込め性能(プラズマの温度や密度を高く維持する能力)においては、トカマク型に比べてやや劣るとされてきました。しかし、コイル形状の最適化など、研究開発によって改善が進められています。
  • 大型化: 効率的なプラズマ閉じ込めのために、装置が大型化しやすい傾向があります。

日本の研究とヘリカルフュージョン

 日本は、核融合科学研究所が保有する大型ヘリカル装置(LHD)によって、ヘリカル型核融合炉の研究を世界的にリードしてきました。LHDは、ヘリカル型の特徴である長時間プラズマ保持の記録を打ち立てるなど、多くの成果を上げています。

 Helical Fusion社は、この核融合科学研究所で培われた技術と知見をベースに、ヘリカル型核融合炉の商用化を目指しています。ヘリカル型の持つ「定常運転の優位性」を活かし、24時間365日稼働できる発電炉の実現を目指しているのが特徴です。

ヘリカル型核融合炉は、らせん状のコイルで生成した磁場でプラズマを閉じ込める方式です。プラズマ電流が不要なため、長時間安定した定常運転が可能という特徴を持ち、日本の核融合科学研究所が研究をリードしています。

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