この記事で分かること
- 破産の背景:主要事業であるパワー半導体市場の不調で業績が悪化したことなどで、海外企業との資本提携交渉が破談となったため、今回の破産申請に至ったとされています。
- パワー半導体不調の理由:EV市場の減速、中国経済の低迷、コロナ禍後の在庫調整が主な要因です。これにより、メーカーは生産調整を迫られ、市況が悪化しています。
- 日本にファウンダリが少ない理由:つての垂直統合型ビジネスモデルに固執し、世界的な水平分業化(ファブレス・ファウンドリ化)の波に乗り遅れたためです。莫大な設備投資とリスクを嫌い、政府支援も不十分だったことも要因です。
JSファンダリの破産申請
株式会社JSファンダリは、2025年7月14日に東京地方裁判所へ破産を申請し、同日破産手続き開始決定を受けました。
同社はアナログ・パワー半導体の前処理、裏面処理、EPI積層、チップサイズパッケージなどを手掛ける国内初の独立系ファウンドリ専業会社として、日本の半導体産業のサプライチェーン強化に貢献することを目指していました。
しかし、海外企業との資本提携交渉が破談となったため、今回の破産申請に至ったとされています。負債総額は約161億円です。
JSファンダリはどんな企業なのか
株式会社JSファンダリは、2022年12月1日に設立された、国内初の独立系ファウンドリ専業会社です。
主な事業内容は以下の通りです。
- アナログ・パワー半導体の製造受託(ファウンドリビジネス):
- 前処理
- 裏面処理
- EPI積層
- チップサイズパッケージ
同社は、旧三洋電機グループのLSI生産拠点であった新潟工場を、オン・セミコンダクター(現:オンセミ)から引き継ぐ形で設立されました。その目的は、脆弱化している日本の半導体産業におけるアナログ・パワー半導体のサプライチェーンを強化すること、そして国内の研究・教育機関における研究開発を支援することで、日本の半導体発展に貢献することでした。
具 体的には、電気自動車やIoT、再生可能エネルギーなど、近年ニーズが高まっているアナログ・パワー半導体の製造を専門に行っていました。単に受託製造を行うだけでなく、「お客様と社員で共に創り上げる」という企業理念のもと、顧客と共に半導体を創り上げ、安心と満足を提供する経営方針を掲げていました。
このように、JSファンダリは日本の半導体産業の再興に一石を投じる存在として期待されていましたが、海外企業との資本提携交渉の破談により、今回の破産申請に至りました。

JSファンダリは、国内初の独立系アナログ・パワー半導体ファウンドリとして、日本の半導体サプライチェーン強化を目指していました。しかし、海外企業との資本提携交渉決裂により、2025年7月14日破産申請しました。負債総額は約161億円です。
海外企業との資本提携交渉が破談した理由は
JSファンダリが海外企業との資本提携交渉が破談した具体的な理由は、現時点では詳細に公表されていません。
しかし、報道されている情報から推測できる主な要因としては、採算性の課題が挙げられます。
JSファンダリは2023年12月期に、売上高約31億4,000万円に対し、13億7,200万円の最終赤字を計上していました。このような経営状況は、提携を検討していた海外企業にとって、投資リスクが高いと判断される要因になった可能性があります。
パワー半導体の市況が悪い理由は
パワー半導体市場の市況が悪化している理由は、主に以下の要因が複合的に絡み合っていると考えられます。
EV(電気自動車)市場の減速・調整局面
- パワー半導体の主要な用途の一つがEVです。しかし、一部の国や地域でEV販売の伸びが鈍化したり、各国の政策変更(補助金の削減など)により電動化計画の見直しが進んだりしています。
- 特に欧州市場では、EV販売の減速が見られ、これがパワー半導体の需要に影響を与えています。
- EVの販売台数が想定ほど伸びていない背景には、充電インフラの課題、価格の高さ、消費者の経済状況などが挙げられます。
- また、EVに比べてパワー半導体の搭載量が少ないハイブリッド車の販売が好調であることも、パワー半導体の需要全体を押し下げる要因となっています。
在庫調整の動き
- コロナ禍での半導体不足や旺盛な需要を受け、各メーカーが増産体制を強化し、設備投資を進めてきました。しかし、その後の需要の鈍化により、過剰な在庫を抱える状況になっています。
- 特に2024年は在庫調整が本格化し、半導体メーカーは生産調整を余儀なくされています。
中国経済の減速と需要低迷
- 中国は半導体の最大の需要国の一つですが、景気悪化や不動産市場の低迷などにより、需要が全体的に低迷しています。
- FA(ファクトリーオートメーション)向けの投資減退も、パワー半導体の需要に影響を与えています。
- 米中貿易摩擦や対中輸出規制も、サプライチェーンに影響を及ぼしています。
シリコンサイクルによる市場の変動
- 半導体市場は「シリコンサイクル」と呼ばれる周期的な好不況を繰り返します。特需が一巡し、生産能力が増強されたことで、一時的に供給過剰に陥りやすい状況となっています。
これらの要因により、パワー半導体市場は一時的に調整局面に入っています。
ただし、中長期的に見れば、EVの普及、再生可能エネルギー(太陽光発電など)、データセンター、産業機器などの分野でパワー半導体の需要は引き続き拡大すると予測されています。特に、より高効率なSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった次世代パワー半導体は、今後も高い成長が期待されています。

EV市場の減速、中国経済の低迷、コロナ禍後の在庫調整が主な要因です。これにより、メーカーは生産調整を迫られ、市況が悪化しています。
ファウンダリはなぜ日本に少ないのか
ファウンドリは、自社で設計を行わず、他社からの依頼を受けて半導体チップの製造を専門に行う企業や工場のことです。莫大な設備投資を要する製造工程を請け負い、ファブレス企業などの設計専門企業と分業することで、半導体産業の発展を支えています。
日本にファウンドリが少ない理由は、主に以下の歴史的・構造的な要因が複合的に絡み合っています。
垂直統合型モデルへの固執と水平分業化への乗り遅れ
- 1980年代の日本の半導体メーカーは、設計から製造、組立、検査まで全て自社で行う「垂直統合型デバイスメーカー(IDM)」が主流であり、世界市場を席巻していました。
- しかし、1990年代以降、半導体製造の設備投資額が莫大になり、技術開発が高度化する中で、台湾のTSMCなどが提唱した「ファブレス(設計専門)+ファウンドリ(製造専門)」という水平分業型のビジネスモデルが世界的に主流となりました。
- 日本企業はこの変化への対応が遅れ、巨額な設備投資を必要とする製造部門を抱え続けることになり、競争力の低下を招きました。結果的に、多くのIDMが製造能力を縮小したり、海外企業に売却したりする流れとなりました。
巨額な設備投資とリスクの高さ
- 最先端の半導体製造工場(ファブ)を建設するには、数兆円規模の初期投資と、継続的な研究開発投資が必要です。日本の企業は、バブル崩壊後の経済状況や、リスクを嫌う傾向から、このような巨額投資に及び腰になったと言われています。
- 世界の主要ファウンドリは、政府からの強力な支援や、世界中のファブレス企業からの受注によって成り立っていますが、日本ではそのような大規模な支援体制や需要の集約が十分にありませんでした。
日米半導体協定と競争力低下
- 1980年代後半の日米貿易摩擦の結果締結された「日米半導体協定」も、日本の半導体産業の競争力に影響を与えたとされています。この協定により、日本市場における海外製半導体のシェア引き上げが求められ、日本のメーカーは厳しい状況に置かれました。
技術者・人材の流出
- 業界の低迷期には、半導体分野の優秀な技術者が海外企業へ流出する現象も見られました。これにより、製造技術の蓄積や継承にも影響が出た可能性があります。
これらの要因により、日本はかつての半導体大国としての地位を失い、特に製造を専門とする大規模なファウンドリの育成が進まなかったという背景があります。近年、政府は国内への半導体工場誘致(TSMC熊本工場など)や、国産ファウンドリの育成(Rapidusなど)に力を入れ、この状況を打開しようと取り組んでいます。

日本にファウンドリが少ないのは、かつての垂直統合型ビジネスモデルに固執し、世界的な水平分業化(ファブレス・ファウンドリ化)の波に乗り遅れたためです。莫大な設備投資とリスクを嫌い、政府支援も不十分だったことも要因です。
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