この記事で分かること
- 海水淡水化とは:海水から塩分を除去し、飲料水や生活用水、工業用水として利用可能な淡水(真水)を製造する施設です。水資源が不足する地域での安定供給に貢献します。
- 逆浸透膜とは:水分子のみを通し、塩分や不純物、細菌などを透過させない特殊な半透膜です。この膜に高圧をかけることで、海水から真水を得るなど、純粋な水を効率的に分離・生成する技術です。
- なぜ、水だけが通過するのか:水分子よりはるかに小さい約0.1ナノメートルの極微細な孔を持ち、さらに膜材料が水分子と親和性を持つためです。この物理的なサイズ排除と化学的な溶解拡散により、水分子のみが透過し、塩分や不純物は通過できません。
東レの海水淡水化向け逆浸透膜
東レは、サウジアラビアの複数の大型海水淡水化プラント向けに逆浸透(RO)膜を供給しています。
https://www.toray.co.jp/news/article.html?contentId=p79kousq
同社は海水淡水化による水問題の解決に貢献しており、水需要が高まっているサウジアラビアのメッカ、ジェッダ、タイフ、アルバハの地域に安定的に飲料水を供給する、重要な水ライフラインとなっています。
海水淡水化施設とは何か
海水淡水化施設とは、海水から塩分を取り除き、淡水(真水)を製造する施設のことです。地球上の水のほとんどは海水ですが、直接飲料水や農業用水、工業用水として利用することはできません。水資源が不足している地域や、安定した水源確保が難しい地域において、この技術が非常に重要になっています。
海水淡水化の主な仕組み
海水淡水化にはいくつかの方法がありますが、現在主流となっているのは以下の2つです。
- 逆浸透(RO)法
- 原理: 水は通すが塩分を通さない「半透膜(RO膜)」に海水を高圧で押し込むことで、水分子だけが膜を透過し、塩分やその他の不純物は膜の反対側に残る仕組みです。
- 特徴:
- 比較的小規模な設備で設置が可能。
- エネルギー消費を抑える技術が進んでおり、現在最も普及している方法です。
- 東レなどが得意とする技術で、世界中で多くのプラントに導入されています。
- 蒸発法(多段フラッシュ法、多重効用蒸発法など)
- 原理: 海水を加熱して水蒸気にした後、その水蒸気を冷やして淡水を得る方法です。蒸留の原理に似ています。
- 特徴:
- 古くから使われている技術で、比較的安定して水を生産できます。
- 大量の熱エネルギーが必要となるため、エネルギーコストが高い傾向があります。
- 中東などの産油国で発電所の排熱などを利用して建設されることが多いです。
海水淡水化施設のメリット
- 無尽蔵な水資源の確保: 地球上に豊富に存在する海水を利用するため、干ばつや気象条件に左右されずに安定的に水を確保できます。
- 短期間での建設と省スペース: ダム建設などに比べて、プラント設備の設置が主であるため、建設工期が短く、施設面積も比較的小さくて済みます。
- 消費地に近い設置が可能: 海岸沿いなど消費地の近くに設置できるため、導送水施設の距離を短縮できます。
- 高品質な水の確保: 膜や蒸発の過程で細菌やウイルス、有害物質なども除去されるため、飲料水に適した非常にきれいな水が得られます。
海水淡水化施設のデメリット
- 高いエネルギー消費: 海水から塩分を除去するためには、大量のエネルギーが必要となります。特に逆浸透法では高圧ポンプ、蒸発法では加熱にエネルギーを要します。これがコスト増大やCO2排出の原因となることがあります。
- 濃縮海水の排出: 淡水を生成した後に残る、塩分濃度が高くなった「濃縮海水」の処理が課題となります。これをそのまま海に放流すると、周辺の海洋生態系に影響を与える可能性があるため、拡散させたり、他の排水と混ぜて濃度を薄めたりするなどの対策が必要です。
- 建設・維持コスト: 施設の建設費用や運用・維持費用が比較的高額になる傾向があります。
- ミネラル分の除去: 淡水化によってミネラル分も除去されてしまうため、飲用にする場合はミネラルを添加するなどの後処理が必要になることがあります。
これらのメリットとデメリットを考慮し、水資源の状況やコスト、環境への影響などを総合的に判断して導入が検討されます。

海水淡水化施設は、海水から塩分を除去し、飲料水や生活用水、工業用水として利用可能な淡水(真水)を製造する施設です。逆浸透膜や蒸発の技術が使われ、水資源が不足する地域での安定供給に貢献します。
逆浸透膜とは何か
逆浸透膜(RO膜)とは、水分子は通すが、水に溶けている塩分やその他の不純物、細菌、ウイルスなどはほとんど通さない特殊な半透膜のことです。
この膜を利用することで、海水から真水を分離したり、工場排水から有害物質を取り除いたり、純度の高い水を生成したりすることが可能になります。
仕組み(逆浸透現象)
通常の浸透現象では、水は塩分濃度が低い方から高い方へ自然に移動します。しかし、逆浸透では、この自然な水の流れに逆らって、塩分濃度の高い側の水に高い圧力をかけることで、水分子だけを半透膜を通して塩分濃度の低い側へと押し出します。これにより、高濃度側には塩分や不純物が残り、低濃度側には純粋な水が得られます。
主な用途
- 海水淡水化: 海水から真水(飲料水など)を製造する最も普及している技術です。
- 超純水製造: 半導体や医薬品工場などで使用される、極めて純度の高い水を製造するのに使われます。
- 排水処理・再利用: 工場排水や生活排水から有害物質を除去し、水を再利用可能にします。
- 浄水器: 家庭用の浄水器にも使われ、水道水中の不純物や塩素、トリハロメタンなどを除去します。
- 食品・飲料分野: ジュースの濃縮や牛乳の分離などにも応用されています。
特徴
- 高い除去性能: 塩分だけでなく、ほとんどのウイルス、細菌、農薬、重金属などの微細な不純物も除去できます。
- 低エネルギー化: 技術の進歩により、必要な圧力が低減され、エネルギー効率が向上しています。
- 物理的な分離: 加熱や化学薬品をあまり使わないため、環境負荷が比較的低いとされています。
このように、逆浸透膜は水処理技術の根幹をなす重要な要素であり、水不足の解決や産業の発展に大きく貢献しています。

逆浸透膜(RO膜)は、水分子のみを通し、塩分や不純物、細菌などを透過させない特殊な半透膜です。この膜に高圧をかけることで、海水から真水を得るなど、純粋な水を効率的に分離・生成する技術です。
なぜ水分子だけを通過させるのか
逆浸透膜が水分子だけを通過させる理由は、その極めて微細な孔(細孔)の大きさと、膜を構成する材料の化学的性質によるものです。主に以下の要因が組み合わさって、高い選択透過性を実現しています。
孔(細孔)のサイズ
- 逆浸透膜には、0.0001マイクロメートル(0.1ナノメートル)程度の非常に小さな孔が空いています。
- この孔の大きさは、水分子(約0.38ナノメートル)よりも小さいとされています。(ただし、単純なふるい分けのようには説明しきれない複雑なメカニズムも関与します。)
- この極小の孔により、水分子はかろうじて通過できる一方で、水に溶けているナトリウムイオンやカルシウムイオン、重金属、農薬、細菌、ウイルスなどの不純物は、水分子よりも大きく、または水和(水分子に囲まれる)することで見かけのサイズが大きくなるため、膜を透過できません。
膜材料の化学的性質(溶解拡散モデル)
- RO膜は主にポリアミドなどの高分子材料でできています。これらの材料は、水分子とは親和性がありますが、イオンなどの溶質とは親和性が低いという性質を持っています。
- 水分子は膜の表面に「溶解」し、膜の内部を「拡散」して透過するという「溶解拡散モデル」という考え方もあります。このモデルでは、水分子が膜の中を移動しやすい一方で、イオンなどは移動しにくいという材料の性質が重要になります。
これらの物理的・化学的特性により、逆浸透膜は高圧をかけることで、効率的に水分子のみを透過させ、高純度の水を作り出すことが可能になります。

逆浸透膜は、水分子よりはるかに小さい約0.1ナノメートルの極微細な孔を持ち、さらに膜材料が水分子と親和性を持つためです。この物理的なサイズ排除と化学的な溶解拡散により、水分子のみが透過し、塩分や不純物は通過できません。
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