この記事で分かること
- カーボンクレジットとは:温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「1トンCO2e=1クレジット」として取引可能にしたものです。企業などが削減・吸収した量をクレジット化し、他の企業が購入することで、自社の排出量を相殺(オフセット)できます。
- 支援の方法:農家の脱炭素への取り組みを支援し、その温室効果ガス削減・吸収量をカーボンクレジットとして認証・生成します。この複雑なプロセスを代行し、生成されたクレジットを企業に販売し、農家に新たな収益をもたらしています。
農家の脱炭素支援企業フェイガーの資金調達
株式会社フェイガーは、農家の脱炭素支援を通じて、農業由来のカーボンクレジットを生成・販売しているスタートアップ企業です。この度、10億円規模の資金調達を実施したことが報じられています。
同社は農家の脱炭素の取り組みを支援し、その成果をカーボンクレジット化して収益化をサポートしています。
カーボンクレジットと何か
カーボンクレジット(炭素クレジットとも呼ばれます)とは、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を、認証された形で取引可能にしたものです。
企業や団体が、自社の事業活動で削減した温室効果ガスの量や、森林管理などで吸収した温室効果ガスの量を「クレジット」として発行し、それを他の企業や団体が購入することで、自社の排出量を相殺(オフセット)できる仕組みです。
カーボンクレジットの仕組み
基本的な仕組みは以下の通りです。
- 温室効果ガス削減・吸収プロジェクトの実施:
- 例:省エネ設備の導入、再生可能エネルギーの導入、森林管理によるCO2吸収、農業におけるメタンガス排出削減など。
- 排出削減・吸収量の測定・報告・検証(MRV: Measurement, Reporting, and Verification):
- プロジェクトによってどれくらいの温室効果ガスが削減・吸収されたかを、客観的かつ厳密に測定し、報告書を作成します。
- その報告書が、第三者機関によって適切に検証されます。
- クレジットの認証・発行:
- 検証が完了すると、削減・吸収量に応じたクレジットが認証機関から発行されます。一般的に「1クレジット=1トンCO2e(二酸化炭素換算量)」として扱われます。
- クレジットの取引:
- 発行されたクレジットは、市場を通じて他の企業や団体に売買されます。
- クレジットを購入した企業は、自社の排出量をそのクレジット分相殺することができます(カーボンオフセット)。
カーボンクレジットの種類
カーボンクレジットには、主に以下のような種類があります。
- 国際協定に基づく枠組み:
- CDM(クリーン開発メカニズム): 京都議定書のもとで、先進国が途上国の排出削減プロジェクトに投資し、その削減量をクレジットとして獲得する仕組み(新規申請は停止中)。
- JCM(二国間クレジット制度): 日本が途上国に脱炭素技術や製品を提供し、温室効果ガス削減に貢献することで、削減量を両国で分け合う仕組み。
- 国や地域の制度:
- J-クレジット(日本): 日本国内で、省エネ設備の導入、再生可能エネルギーの活用、適切な森林管理などによるCO2削減・吸収量を国が認証する制度。
- 地域版J-クレジット制度: 地方自治体が運営する、地域に特化したクレジット制度。
- その他、オーストラリアの「排出削減基金(ERF)」など、各国に独自の制度があります。
- 民間事業者による制度(ボランタリークレジット):
- 国や政府とは独立した民間の認証機関が主導するクレジット。企業やNGOなどが主体となって発行します。
- VCS(Verified Carbon Standard): 世界で最も取引量が多い民間クレジット。
- GS(Gold Standard): WWFなどの国際的な環境NGOが設立した認証基準。
カーボンクレジットのメリット・デメリット
メリット:
- CO2排出削減が難しい企業も目標達成に貢献: 自社で直接削減が難しい場合でも、クレジットを購入することで排出量をオフセットし、目標達成に貢献できます。
- 環境アピール・企業価値向上: カーボンクレジットの購入や創出は、企業の環境意識の高さを示すことができ、ESG経営やSDGs推進の観点からも企業価値向上に繋がります。
- 新たな収益源: クレジットを創出した側(例えば農家)は、それを販売することで新たな収益を得ることができます。
- 脱炭素技術・プロジェクトへの資金流入: クレジット販売で得られた資金が、さらなる排出削減や吸収のプロジェクトに再投資され、技術開発や普及を促進します。
- 森林保全や再生可能エネルギー開発の促進: これらの活動がクレジットの対象となることで、資金が流れ込み、活動が活性化します。
デメリット・課題:
- 企業の排出削減への意欲低下の懸念: クレジットを購入することで排出量をオフセットできるため、自社での根本的な排出削減努力が怠られる可能性があるという批判があります。
- クレジットの信頼性のばらつき: 制度や認証機関によって、クレジットの品質や算出基準が異なることがあり、信頼性にばらつきが生じる可能性があります。不正取引や「グリーンウォッシュ」(実態が伴わない環境配慮のアピール)の懸念も指摘されます。
- 価格変動リスク: クレジットの価格は需要と供給、規制動向によって変動するため、企業にとってはコスト予測が難しい場合があります。
- 手続きの時間と費用: クレジットの創出には、測定・報告・検証など、時間と費用がかかる場合があります。
- 認知度・理解度: まだ一般的に認知度が高いとは言えず、その仕組みや重要性への理解が不足している場合があります。
カーボンクレジットは、地球温暖化対策の重要なツールとして期待されており、その活用は今後ますます広がっていくと考えられています。しかし、上記の課題も踏まえながら、透明性と信頼性の高い市場形成が求められています。

カーボンクレジットは、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「1トンCO2e=1クレジット」として取引可能にしたものです。企業などが削減・吸収した量をクレジット化し、他の企業が購入することで、自社の排出量を相殺(オフセット)できます。地球温暖化対策の促進と新たな収益源創出に貢献します。
農家の脱炭素支援の方法は
株式会社フェイガーは、農家の脱炭素支援において、主に「農業由来のカーボンクレジットの生成と収益化」を軸としたサービスを提供しています。その具体的な方法は以下の通りです。
1. 温室効果ガス削減・吸収プロジェクトの提案と実行支援
フェイガーが農家に提案し、実行を支援する主な脱炭素農法は以下の通りです。
- 水田の中干し期間延長: 水田から発生するメタンガスを削減するため、通常よりも中干し(田んぼの水を抜き、土を乾かす期間)を長くする農法を推奨しています。これはJ-クレジットの対象となる主要な取り組みの一つです。
- バイオ炭の土壌施用: 木材や農業残渣などを炭化したバイオ炭を農地に混ぜることで、土壌中に炭素を固定(吸収・貯留)し、CO2排出量を削減します。
- その他、J-クレジット制度で認められている農法: 上記以外にも、農業由来の温室効果ガス排出削減や吸収に繋がる様々な農法(例えば、特定の施肥管理など)についても、J-クレジットの要件を満たすものがあれば支援対象となります。
2. カーボンクレジット化の一貫サポート
農家が脱炭素の取り組みで得た成果を、実際に収益に繋げるための複雑なプロセスをフェイガーが一貫してサポートします。
- 申請・認証取得の代行:
- J-クレジット制度などのカーボンクレジット制度は、申請書類の作成やデータの収集、第三者機関による検証など、専門知識と手間がかかります。フェイガーはこれらのプロセスを農家に代わって行い、負担を大幅に軽減します。
- 例えば、水田の中干しデータ収集を、営農支援システム「アグリノート」との連携や水位センサーの導入などを通じて簡素化する取り組みも行っています。
- データの収集と管理: 農業日誌などの既存データや、IoT機器を活用して、温室効果ガス削減量・吸収量の算定に必要なデータを効率的に収集・管理します。
- 販売先の探索と売買:
- 生成されたカーボンクレジットの販売先をフェイガーが探索し、企業に販売します。企業側にはカーボンオフセットだけでなく、農家の顔が見えるクレジットとしてPR価値も提供しています。
- 認証取得後には、販売先の有無に関わらずフェイガーがクレジットを買い取り、農家へ報酬を支払う「全量買い取り+初期費用ゼロ」の仕組みを提供しているため、農家は安心して取り組みを始められます。
3. 持続可能な農業体系の構築への貢献
フェイガーは単にクレジットを生成するだけでなく、その先の持続可能な農業経営にも貢献することを目指しています。
- 新たな収益源の創出: カーボンクレジット販売による収益は、農家の新たな収入源となり、脱炭素農業への経済的インセンティブを生み出します。
- 地域活性化への貢献: クレジット創出を通じて地域の農業を支援し、被災地の復興支援など地域貢献にも繋げています。
- 生産性向上への研究開発: カーボンクレジットの取り組みに加え、農産物の収量向上や気候変動に適応するための研究開発も行い、より良い農業体系の構築を目指しています。
このように、フェイガーは農家が脱炭素の取り組みを行い、それを経済的なメリットとして享受できるよう、技術支援からクレジットの生成、販売までを一貫してサポートすることで、日本の農業の脱炭素化と持続可能性の向上に貢献しています。

フェイガーは、農家の脱炭素への取り組み(水田の中干し延長やバイオ炭施用など)を支援し、その温室効果ガス削減・吸収量をカーボンクレジットとして認証・生成します。この複雑なプロセスを代行し、生成されたクレジットを企業に販売することで、農家に新たな収益をもたらしています。
中干し期間延長でメタンガスを削減できるのはなぜか
水田の中干し期間延長でメタンガスを削減できるのは、主に以下のメカニズムによるものです。
嫌気性環境の解消とメタン生成菌の活動抑制
- 水田に水が張られている状態(湛水状態)では、土壌中に酸素がほとんどない嫌気性(無酸素)環境になります。
- この嫌気性環境で活発になるのが「メタン生成菌」という微生物です。メタン生成菌は、稲わらなどの土壌中の有機物を分解する際に、副産物としてメタン(CH₄)を生成します。メタンは二酸化炭素(CO₂)の約28倍(100年間の地球温暖化係数)の温室効果を持つ強力なガスです。
- 中干しとは、稲の生育途中で一時的に水田の水を抜いて土壌を乾かす作業です。中干し期間を延長することで、土壌に空気が入り込み、土壌中が好気性(酸素がある)環境に変化します。
- メタン生成菌は酸素があると活動できない絶対嫌気性菌であるため、土壌中に酸素が供給されることで、その活動が抑制され、メタンの生成が大幅に減少します。
有機物の分解経路の変化
- 酸素が豊富な好気性環境では、有機物の分解がメタン生成菌によるメタン生成ではなく、好気性微生物による二酸化炭素(CO₂)の生成へと切り替わります。
- メタンの温暖化効果はCO₂よりもはるかに高いため、有機物の分解経路がメタン生成からCO₂生成に変わることで、全体の温室効果ガス排出量を削減できることになります。
イネを通したメタン放出経路の抑制
- 水田で生成されたメタンの多くは、稲の茎や根にある「通気組織」という管を通って大気中に放出されます。
- 中干しによって土壌の嫌気性状態が解消され、メタンの生成自体が抑制されるため、イネを通じたメタン放出も減少します。
このように、中干し期間を延長することで、メタン生成の主要因となる土壌の嫌気性環境を解消し、メタン生成菌の活動を抑制することが、メタンガス削減の主な理由となります。この取り組みは、J-クレジット制度の対象にもなっており、農家の脱炭素化を促す重要な手法の一つとして注目されています。

水田の中干し期間延長でメタンガスを削減できるのは、土壌中の酸素を増やし、酸素がない環境で活動するメタン生成菌の働きを抑えるためです。これにより、強力な温室効果ガスであるメタンの発生を抑制します。
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