この記事で分かること
- JDI苦戦の理由:スマートフォン向け液晶パネル市場の競争激化と、有機ELへの移行遅れです。特定の顧客への依存と巨額の設備投資が裏目に出て、慢性的な赤字と資金繰り悪化を招きました。
- 主力メーカー:サムスンディスプレイやLGディスプレイなどの韓国企業やBOE Technology GroupやCSOTなどの中国企業が有力になっています。
JDIの茂原工場設備売却
JDIは千葉県茂原市にある茂原工場の液晶パネル生産を2026年3月までに終了し、工場と生産設備の売却を検討していることが明らかにしています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC117HF0R10C25A7000000/
茂原工場は、かつて主力工場の一つであり、特にApple Watch向けの有機ELパネルの生産も行っていたとされていますが、有機ELパネルの生産も中止し、その設備も売却する方針です。
JDI苦戦の理由は
ジャパンディスプレイ(JDI)が苦戦している理由は多岐にわたりますが、主な要因は以下の通りです。
液晶パネル市場の構造変化と競争激化
- 中国・韓国勢との価格競争: スマートフォン向けの液晶パネルは、韓国のサムスンディスプレイやLGディスプレイ、そして中国のBOEテクノロジーグループなどのメーカーが巨額の設備投資と生産力で市場を席巻しました。JDIは技術力では優位性を持っていたものの、量産によるコスト競争では太刀打ちできませんでした。
- スマートフォンの有機ELシフトへの対応遅れ: 主要顧客であったAppleがiPhoneに有機ELパネルを採用し始めたことで、JDIの主力製品である液晶パネルの需要が大きく減少しました。JDIも有機ELへの投資を行っていましたが、競合に比べて遅れをとり、量産体制の構築や技術開発で後塵を拝しました。特に、自社開発の有機EL技術「eLEAP」も実用化に時間がかかり、収益に繋がるまでに時間を要しています。
- 過剰な設備投資と減損損失: 全盛期には「日の丸液晶」として期待され、特にApple向けに巨額の設備投資を行いました(例:白山工場)。しかし、前述の有機ELシフトにより、これらの設備が稼働率を上げられずに遊休資産となり、巨額の減損損失を計上することになりました。
特定の顧客への依存(一本足打法)
- Appleへの依存度が高すぎたことが、市場の変化に迅速に対応できない脆弱な経営体質を生み出しました。Appleが有機ELに切り替えた際、JDIは代替となる収益源を十分に確保できていませんでした。
ガバナンスと経営判断の遅れ
- ソニー、東芝、日立の中小型液晶部門が統合して発足したJDIは、異なる企業文化や意思決定プロセスが混在し、迅速な経営判断が難しい側面があったと指摘されています。特に、有機ELへの本格的な投資判断が遅れたことや、不採算事業からの撤退が遅れたことが、経営悪化を加速させました。
- 過去には、一部の従業員による不適切な会計処理(粉飾決算)も発覚し、企業の信頼性低下と内部統制の不備が露呈しました。
慢性的な赤字と資金繰りの悪化
- 上記の要因が重なり、JDIは発足以来、ほぼ毎年赤字を計上し続けています。これにより自己資本が毀損され、資金調達も困難な状況に陥り、常に経営再建を迫られる状態が続いています。
これらの理由から、JDIは従来の主力事業であった液晶パネルから脱却し、車載ディスプレイやセンサー、さらには半導体関連やAIデータセンターといった新しい事業領域への転換を図ることで、生き残りを模索しています。主力工場の売却や大規模なリストラも、この事業構造転換と財務体質改善のための苦渋の決断と言えます。

JDI苦戦の主な理由は、スマートフォン向け液晶パネル市場の競争激化と、有機ELへの移行遅れです。特定の顧客への依存と巨額の設備投資が裏目に出て、慢性的な赤字と資金繰り悪化を招きました。
液晶ディスプレイとは何か
液晶ディスプレイ(LCD: Liquid Crystal Display)とは、その名の通り、「液晶」という特殊な物質の電気的・光学的特性を利用して画像を表示する装置です。
基本的な仕組み
- バックライト: 液晶ディスプレイ自体は光を発しないため、画面の背後から光を当てるための「バックライト」が必要です。このバックライトの光が、液晶ディスプレイを通過する光源となります。
- 偏光フィルター: バックライトから出た光は、様々な方向に振動していますが、これを特定の方向に揃える「偏光フィルター」を光の出入り口に配置します。
- 液晶層: 2枚のガラス基板の間に「液晶」が挟まれています。液晶は、固体と液体の中間の性質を持つ物質で、電圧を加えることで分子の向きが変化し、光の透過量を制御するシャッターのような役割を果たします。
- 透明電極: 液晶に電圧をかけるための透明な電極が配置されています。
- カラーフィルター: 色を表現するために、赤(R)、緑(G)、青(B)の3色の小さなフィルターが画素ごとに配置されています。液晶が光の透過量を制御し、その光がカラーフィルターを通過することで、様々な色を作り出します。
表示の原理
液晶分子は、電圧がかかっていない状態と電圧がかかった状態で、光の通り道や透過率が変わる性質があります。この性質を利用して、各画素(ピクセル)にかかる電圧を制御することで、光の透過量を調整し、色の濃淡や明るさを表現します。
これを小さな点の集合体として組み合わせることで、文字や画像、動画を表示します。
主な特徴
- 薄型・軽量: CRT(ブラウン管)ディスプレイに比べて、非常に薄く軽量に作ることができます。
- 低消費電力: 一般的に有機ELディスプレイに比べて消費電力が低い傾向にあります。
- 大画面化が容易: 比較的容易に大画面化が可能です。
- 安価: 量産体制が確立されているため、比較的安価に製造できます。
短所(有機ELとの比較で)
- 視野角: 斜めから見ると色味や明るさが変わって見えることがあります(技術の進化で改善されつつあります)。
- コントラスト比: バックライトがあるため、完全な黒を表現することが難しく、有機ELに比べてコントラスト比が劣る場合があります。
- 応答速度: 高速な動きを表示する際に、残像感が出ることがあります(応答速度の速い製品も増えています)。
液晶ディスプレイは、テレビ、パソコンモニター、スマートフォン、タブレット、カーナビ、デジタルカメラなど、私たちの身の回りにある多くの電子機器に広く利用されています。

液晶ディスプレイ(LCD)は、バックライトの光を、電圧で分子の向きを変える「液晶」のシャッター機能とカラーフィルターで制御し、色と明るさを表現する表示装置です。薄型・軽量で広く普及しています。
液晶ディスプレイの有力メーカーは
テレビ、スマートフォン、モニターなどに組み込まれる液晶パネルそのものを製造している企業です。 現在の主要なプレイヤーは、韓国と中国の企業が中心です。
- Samsung Display (サムスンディスプレイ) – 韓国 大型液晶パネルに強みを持つほか、有機ELへのシフトを積極的に進めていますが、液晶パネル生産も依然として有力です。
- BOE Technology Group (京東方科技集団) – 中国 世界最大のディスプレイメーカーであり、液晶パネル生産においても圧倒的なシェアを誇ります。特に大型および中小型液晶パネルで非常に強いです。
- LG Display (LGディスプレイ) – 韓国 テレビ向けの大型液晶パネルで強く、有機ELパネルのリーディングカンパニーでもあります。
- TCL China Star Optoelectronics Technology (CSOT) – 中国 中国のTCL傘下のディスプレイメーカーで、BOEと同様に積極的な投資で生産能力を拡大し、シェアを伸ばしています。
- AUO Corporation (友達光電) – 台湾 台湾の大手ディスプレイメーカーで、様々な用途の液晶パネルを供給しています。
- Innolux Corporation (群創光電) – 台湾 AUOと並ぶ台湾の大手ディスプレイメーカーです。
- SHARP CORPORATION (シャープ) – 日本 かつては世界有数の液晶メーカーでしたが、現在は中国の鴻海精密工業傘下となり、独自の強みを持つ液晶技術で差別化を図っています。
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