旭化成ライフサイエンスの新規紡糸工場建設 ウイルス除去フィルターの仕組みは?どんなウイルスを除去できるのか?

この記事で分かること

  • ウイルスフィルターの仕組み:ナノメートルオーダーの均一な孔径を持つ中空糸膜により、ウイルスを物理的にふるい分ける「サイズ排除」で除去します。
  • 除去できるウイルスの種類:フィルターの孔径より大きいウイルス全般に有効です。小さいパルボウイルスから比較的大きなエンベロープウイルスまで、様々なサイズのウイルスを物理的な「サイズ排除」で除去可能です。

旭化成ライフサイエンスの新規紡糸工場建設

 旭化成ライフサイエンスは、ウイルス除去フィルター「プラノバ™」の将来的な需要拡大に対応するため、宮崎県延岡市に新たな紡糸工場を建設することを決定しました。

 https://news.yahoo.co.jp/articles/8e378748422e2f602ae540e01482cf7261ef6a2d

この新工場は、旭化成にとってセルロース膜中空糸フィルターの紡糸工場としては4番目の施設となります。

どうやってウイルスを除去しているのか

 旭化成のウイルス除去フィルター「プラノバ™」は、主に以下の原理でウイルスを除去しています。

1. サイズ排除 (Size Exclusion) によるろ過

 これがプラノバ™の最も基本的なウイルス除去原理です。

  • 中空糸膜の構造: プラノバ™は、非常に精密な孔径を持つ中空糸膜で構成されています。この膜は、厚さ数十マイクロメートルにわたる多層の孔構造を持ち、まるでふるいのような役割を果たします。
  • 物理的なふるい分け: バイオ医薬品のタンパク質溶液が中空糸の内部に導入され、膜の壁を通過して外に出ていく際に、膜に開けられた特定の孔径よりも大きなウイルスは物理的に捕捉・除去されます。
  • 多段階的な捕捉: 膜内部は三次元的に結合した網目状の構造をしており、ウイルスは膜を通過する過程で段階的に、効率よく捕捉されます。

2. 物理化学的吸着の最小化

 プラノバ™の膜は、ウイルスを物理的に除去することに特化しており、タンパク質などの有用な成分が膜に吸着したり、変性したりするのを最小限に抑えるように設計されています。これは、バイオ医薬品の品質を維持する上で非常に重要です。

  • 材質: プラノバ™の膜は、緻密で均質なPVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜でできています。この膜は、確実なウイルス除去と高いろ過流速を同時に実現するために、熱誘起相分離法という特殊な製造技術を用いて作られています。
  • 親水化処理: PVDFは本来疎水性の素材ですが、グラフト重合によって親水化処理が施されており、溶液がスムーズに膜を通過できるように工夫されています。

 このように、プラノバ™は、精密な孔径を持つ中空糸膜による「サイズ排除」という物理的なろ過メカニズムによって、バイオ医薬品中のウイルスを効率的かつ安全に除去しています。

旭化成のウイルス除去フィルター「プラノバ™」は、ナノメートルオーダーの均一な孔径を持つ中空糸膜により、ウイルスを物理的にふるい分ける「サイズ排除」で除去します。これにより、バイオ医薬品中のウイルスを効率的かつ安全に捕捉します。

ポリフッ化ビニリデンが使用される理由は何か

 PVDF(ポリフッ化ビニリデン)が旭化成のウイルス除去フィルター「プラノバ™」に採用される主な理由は以下の通りです。

  • 優れたろ過性能と流速: PVDF膜は、緻密で均質な孔構造を持つことで、確実なウイルス除去と同時に高いろ過流速を実現できます。これは、バイオ医薬品の製造プロセスにおいて、効率的な処理と高い生産性を両立させるために重要です。
  • 高い耐薬品性・耐熱性: PVDFは、幅広い種類の酸、塩基、有機溶剤に対して優れた耐性を持っています。これにより、様々なバイオ医薬品の製造プロセスで使用される多様な溶液に対応でき、繰り返し使用する際の耐久性も高まります。また、オートクレーブ滅菌などの高温処理にも耐えることができます。
  • 低いタンパク質吸着: フィルターにタンパク質が吸着することは、医薬品の回収率低下や品質劣化につながるため、極力避けたい特性です。PVDF膜は、タンパク質吸着が非常に低いという特徴があり、医薬品の有効成分を損なうことなくウイルスを除去できます。
  • 機械的強度: PVDF膜は機械的強度が高く、高圧下でのろ過や、洗浄・滅菌といった繰り返しの操作にも耐えられます。

 これらの特性により、PVDFはバイオ医薬品の安全性と品質を確保するためのウイルス除去フィルターにおいて、非常に適した素材とされています。

PVDFは、優れた耐薬品性・耐熱性、高いろ過流速とウイルス除去性能、そして低いタンパク質吸着性を持つため、バイオ医薬品の品質と安全性を確保するウイルス除去フィルターに最適です。

どんなウイルスに有効なのか

 旭化成のウイルス除去フィルター「プラノバ™」は、その「サイズ排除」の原理により、多様な種類のウイルスに有効です。

 特定のウイルスに特化しているわけではなく、フィルターの孔径よりも大きいウイルスであれば、種類に関わらず捕捉・除去することができます。

 製品ラインナップとして、様々な孔径のフィルターが提供されており、それぞれが異なるサイズのウイルスに対応しています。例えば、旭化成のウェブサイトでは、以下の試験ウイルスに対する除去性能データが示されています。

  • PPV(Porcine Parvovirus – 豚パルボウイルス): 比較的サイズが小さい(約18-24 nm)非エンベロープウイルス
  • MVM(Minute Virus of Mice – マウス微小ウイルス): PPVと同様に小さい非エンベロープウイルス
  • SV40(Simian Virus 40 – サルウイルス40): 約40-50 nmのポリオマウイルス
  • BVDV(Bovine Viral Diarrhea Virus – 牛ウイルス性下痢ウイルス): 約50-70 nmのエンベロープウイルス
  • HAV(Hepatitis A Virus – A型肝炎ウイルス): 約27-32 nmのピコルナウイルス
  • B19(Parvovirus B19): 約18-26 nmのパルボウイルス

 これらのデータは、プラノバ™が様々な大きさのウイルスに対して、高いウイルス除去性能(LRV: Log Reduction Value)を発揮することを示しています。

 したがって、プラノバ™は、特定のウイルスというよりは、フィルターの孔径に適合するサイズのウイルス全般に対して有効であると言えます。

プラノバ™は、フィルターの孔径より大きいウイルス全般に有効です。小さいパルボウイルスから比較的大きなエンベロープウイルスまで、様々なサイズのウイルスを物理的な「サイズ排除」で確実に除去します。

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