日本ゼオンの電池材料 電池用シール剤やセパレータ関連技術とは何か?

この記事で分かること

  • 電池用シール剤とは:電池内部の電解液漏洩や外部からの異物侵入を防ぎ、気密性・液密性を保つことで、電池の安全性や性能、長寿命化に貢献する材料のことです。します。
  • セパレータ塗布用接着剤とは:リチウムイオン電池の正負極間にあるセパレータに塗布され、電極とセパレータを接着・一体化させる材料です。これにより、電極間の距離を維持し、電池の長寿命化や生産性向上、安全性向上に貢献します。
  • セパレータ耐熱層用バインダーとは:リチウムイオン電池のセパレータ表面に、無機粒子からなる耐熱層を形成するための接着剤です。電池が異常発熱した際にセパレータの変形を防ぎ、短絡による発火などを抑制します。

日本ゼオンの電池用シール剤やセパレータ関連技術

 日本ゼオンは、電力貯蔵向け電池などの電池材料事業の拡販に積極的に取り組んでいます。同社は中期経営計画「STAGE30」において、電池材料を「磨き上げる既存事業」の一つとして位置づけ、リチウムイオン電池負極用バインダー事業の拡大を通じて、持続可能な社会への貢献を目指しています。

 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00756186

 独自の技術力を活かし、リチウムイオン電池の性能向上に不可欠な材料を提供することで、電力貯蔵市場における存在感を高め、事業拡大を目指しています。

 前回の記事では、電力貯蔵向け電池やバインダーに関する解説でしたが、今回は同じく同社が拡販を進める電池用シール剤やセパレータ塗布用接着剤に関する解説となります。

電池用シール剤とは何か

 電池用シール剤とは、電池の内部と外部を隔てるために使用される材料で、主に電池の気密性や液密性を保つ役割を担っています。電池の性能維持、安全性確保、長寿命化において非常に重要な構成要素です。

具体的には、以下の目的で使用されます。

電解液の漏洩防止

 リチウムイオン電池などの液体電解液を使用する電池では、電解液が外部に漏れるのを防ぎます。電解液は可燃性や毒性を持つことがあり、漏洩は安全性に関わる重大な問題となります。

外部からの異物侵入防止

 水分、酸素、粉塵などの外部の異物が電池内部に侵入するのを防ぎます。これらの異物が侵入すると、電池の劣化や故障の原因となります。

ガス放出の抑制

 電池が過充電などで異常な状態になった場合、内部でガスが発生することがあります。シール剤は、これらのガスの放出をある程度抑制し、急激な圧力上昇や発火のリスクを低減します。

機械的保護

  電池の構成部品(セル、モジュール、パックなど)を結合し、外部からの衝撃や振動から保護する役割も兼ね備えている場合があります。

熱管理

 バッテリーパック全体をシールすることで、内部の熱を効率的に管理し、過熱を防ぐ役割を果たすこともあります。

主な種類と材料

電池用シール剤には、主に以下の材料が使用されます。

  • シリコーン系: 高い耐熱性・耐寒性、優れた電気絶縁性を持ち、柔軟性があるため、熱膨張・収縮にも対応しやすいです。液状タイプ(FIPG)やフォーム状のものがあります。
  • エポキシ樹脂系: 高い接着強度を持ち、耐薬品性や耐湿性に優れます。硬化後は比較的硬い特性を持つものが多いです。
  • ポリウレタン系: 柔軟性と接着性のバランスが良く、耐振動性や衝撃吸収性にも優れます。
  • ゴム系:
    • EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム): 特にニッケル水素電池の電極部など、電解液に対する耐性や通電時の劣化抑制が求められる箇所に用いられます。
    • SBR(スチレンブタジエンゴム)やニトリルゴム: 油や燃料への耐性が必要なEVバッテリーパックなどに使用されます。
    • その他(天然ゴム、クロロプレンゴムなど): 用途に応じて様々な種類のゴムが使用されます。
  • アスファルト系: 歴史的には一部の電池のシール材として使用されていました。
  • 粘着テープ: 薄型のシール材として、PET(ポリエチレンテレフタレート)PI(ポリイミド)などの樹脂フィルムに粘着剤を塗布したものや、アクリルフォームテープなどが使用されます。

 これらの材料は、電池の種類(リチウムイオン電池、ニッケル水素電池など)、使用環境(温度、湿度、振動など)、求められる性能(耐電解液性、耐熱性、接着性、柔軟性、安全性など)に応じて使い分けられます。

 近年では、EVバッテリーの高容量化に伴い、熱管理や高い安全性、耐久性に対応できるシール材の開発が進んでいます。

電池用シール剤は、電池内部の電解液漏洩や外部からの異物侵入を防ぎ、気密性・液密性を保つ材料です。これにより、電池の安全性や性能、長寿命化に貢献します。高耐熱性を持つものなど、用途に応じて様々な種類があります。

セパレータ塗布用接着剤とは何か

 セパレータ塗布用接着剤とは、リチウムイオン電池の主要構成部品である「セパレータ」に塗布される特殊な接着剤のことです。

セパレータの役割

 セパレータは、電池の正極と負極の間に挿入される薄い多孔質の膜です。以下の重要な役割を担っています。

  • 電気的絶縁: 正極と負極が直接接触してショートするのを防ぎます。
  • イオン透過: 電解液を含浸させ、リチウムイオンが正極と負極の間を行き来するための通路を確保します。
  • シャットダウン機能: 異常な発熱が起こった際に、セパレータの細孔が溶融・閉塞することでリチウムイオンの移動を遮断し、電池の動作を停止させて安全性を確保します。

セパレータ塗布用接着剤の目的と機能

 従来の電池では、セパレータと電極は完全に固定されていませんでしたが、特にパウチ型電池などでは、充放電を繰り返すうちに電極とセパレータの間に隙間が生じ、リチウムイオンの移動が阻害されて電池寿命が短くなるという課題がありました。

 セパレータ塗布用接着剤は、この課題を解決するために開発されました。主な目的と機能は以下の通りです。

電極とセパレータの一体化

 セパレータに接着剤を塗布し、熱プレスなどで電極とセパレータをしっかりと接着することで、捲回体(シート状の電極とセパレータを巻き取ったもの)や積層体を一体化します。

電極間距離の維持

 電極とセパレータの間に隙間が生じるのを防ぎ、正負極間の適切な距離を維持することで、リチウムイオンのスムーズな移動を保証し、電池の長寿命化に貢献します。

製造プロセスの効率化
  • 捲回体や積層体を一体化することで、製造工程内での搬送が容易になり、高速化につながります。
  • 大型電池の容器への挿入がしやすくなるなど、生産性向上に寄与します。
  • 積層型電池で発生しがちな層間のズレや折れを防ぎ、歩留まりの改善に貢献します。
安全性の向上(耐熱層としての役割)

 一部のセパレータ塗布用接着剤は、セラミックスなどの無機物をバインダーと共にセパレータ表面に塗布することで、耐熱層を形成し、電池の安全性をさらに高める役割も果たします。これにより、異常発熱時のセパレータの破損を防ぎ、短絡を抑制します。

 日本ゼオンが開発している「AFL」がこのセパレータ塗布用接着剤の代表例で、水系の製品設計であるため環境負荷も考慮されています。

セパレータ塗布用接着剤は、リチウムイオン電池の正負極間にあるセパレータに塗布され、電極とセパレータを接着・一体化させる材料です。これにより、電極間の距離を維持し、電池の長寿命化や生産性向上、安全性向上に貢献します。

セパレータ耐熱層用バインダーとは何か

 セパレータ耐熱層用バインダーとは、リチウムイオン電池の安全性を向上させるためにセパレータ表面に形成される「耐熱層」を構成する接着剤のことです。

 リチウムイオン電池は、高容量化や高出力化が進むにつれて、異常発熱時の安全性が重要な課題となっています。特に、正極と負極を隔てるセパレータは、電池が異常な高温にさらされた際に、溶融・収縮してしまい、正極と負極が直接接触(短絡)し、発火や爆発につながるリスクがあります。

 このリスクを低減するために、セパレータの片面または両面に耐熱層と呼ばれる薄い層が形成されます。この耐熱層は、主に耐熱性のある無機粒子(アルミナ、シリカ、チタニアなど)と、それらをセパレータ表面に固定する耐熱層用バインダーから構成されます。

セパレータ耐熱層用バインダーの主な役割

  1. 無機粒子の結着・固定: 耐熱性のある無機粒子同士を強固に結びつけ、セパレータ表面にしっかりと固定します。
  2. セパレータへの密着性向上: 無機粒子と一体となった耐熱層をセパレータ本体に密着させ、剥がれを防ぎます。
  3. 熱収縮抑制: 電池が異常発熱した際に、セパレータ本体が溶融・収縮するのを、この耐熱層が形状を保持することで抑制します。これにより、正極と負極の短絡を防ぎ、発火などの重大事故を防ぎます。
  4. 電解液の注液性向上: 耐熱層を形成しても、電解液がセパレータにスムーズに浸透するよう、適切な空隙構造や親和性を維持する機能も求められます。
  5. 高耐熱性: バインダー自体が異常な高温(例:200℃以上)に耐え、劣化しない特性が必要です。

 日本ゼオンなどが開発している水系のセパレータ耐熱層用バインダーは、環境負荷の低減にも貢献しつつ、高い耐熱性と接着性を提供することで、リチウムイオン電池のさらなる安全性向上に寄与しています。自動車などの車載用リチウムイオン電池では、特にこの耐熱層の重要性が増しています。

セパレータ耐熱層用バインダーは、リチウムイオン電池のセパレータ表面に、無機粒子(アルミナ等)からなる耐熱層を形成するための接着剤です。電池が異常発熱した際にセパレータの変形を防ぎ、短絡による発火などを抑制し、安全性を高める役割を担います。

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