この記事で分かること
- 増産の理由:半導体需要の急増と国内サプライチェーンの安定化が主な理由です。AIやIoT、自動車の高度化により、半導体材料であるエポキシ樹脂の需要が増加しています。
- エポキシ樹脂の用途:エポキシ樹脂は、半導体チップを外部環境から保護する「封止材」や、電子回路が形成される「電子基板」の材料として使用されます。これにより、半導体の性能を維持し、信頼性を確保する重要な役割を担っています。
- 供給確保計画とは:経済安全保障推進法に基づき、国が指定した重要物資の安定供給を目的とした計画です。事業者が国の認定を受けると、助成金などの支援を受けられます。
DICのエポキシ樹脂増産と供給確保計画
DIC株式会社は、千葉工場(千葉県市原市)にエポキシ樹脂の製造設備を新設することを発表しました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/fda6c9cad41c591948cdf3153e89c80349ac568f
この投資は、日本の経済安全保障推進法に基づき、経済産業省から「供給確保計画」として認定されています。
新設される設備は、半導体材料として使用されるエポキシ樹脂の生産能力を約59%増強することを目的としています。操業開始は2029年7月を予定しており、最大30億円の助成金が支給される見込みです。
増産の理由はなにか
DICがエポキシ樹脂の製造設備を新設し、生産能力を増強する主な理由は、以下のような半導体材料としての需要の増加に対応するためです。
デジタル化の加速による需要急増
AIやIoT技術の普及により、データ処理に必要な高性能半導体の需要が急増しています。
自動車産業の高度化
EV化や自動運転技術の発展に伴い、車載電子部品への需要が高まっています。
サプライチェーンの安定化
経済安全保障の観点から、国内における半導体材料の安定供給体制を強化する必要性が高まっています。DICの新設設備は、日本の経済安全保障推進法に基づく「供給確保計画」として認定されており、この目的を明確に示しています。
このように、エレクトロニクス分野や自動車分野における技術革新が、エポキシ樹脂の需要を押し上げており、DICはこれに対応するために生産能力の増強を決定しました。

半導体需要の急増と国内サプライチェーンの安定化が主な理由です。AIやIoT、自動車の高度化により、半導体材料であるエポキシ樹脂の需要が増加しています。経済安全保障の観点から、国内での安定供給体制を強化するため、生産能力を増強します。
どんなエポキシ樹脂なのか
DICが増産するエポキシ樹脂は、主に半導体材料として使用されるものです。
具体的には、半導体チップを外部の環境から保護するための「封止材」や、電子回路を形成する「電子基板」の材料として使われます。
AIやIoT、自動車の高度化に伴い、高性能な半導体の需要が急増しており、DICはこれに対応するため、高耐熱化や伝送損失の低減といった特性を持つエポキシ樹脂の生産能力を増強します。
半導体用途に特化した、高性能な製品であり、具体的な特性としては、以下のような点が挙げられます。
- 高耐熱性: 高性能化する半導体は、動作時に発熱量が増加するため、200℃を超えるような高温にも耐えられる耐熱性が求められます。
- 伝送損失の低減: 5GやAIなどによる超高速通信に対応するため、信号の減衰を抑える「低誘電」特性が重要となります。
- 寸法安定性の向上: 基板の反りなどを防ぎ、電子回路の信頼性を確保するための特性です。
- 吸湿性の低減: 湿気による性能劣化を防ぐため、高い吸湿性を抑える技術が求められます。
これらの特性は、半導体チップを保護する封止材や、電子回路を形成する基板の材料に不可欠なものであり、DICはこれらの課題を解決できるエポキシ樹脂を開発・生産しています。

今回増産するのは、半導体製造に不可欠な高性能エポキシ樹脂です。具体的には、半導体の封止材や電子基板に使用され、高耐熱性や低誘電特性に優れることで、AIや5G通信に対応した高性能な半導体を実現します。
どうやって耐熱性の向上、伝送損失の低減を実現するのか
DICがエポキシ樹脂の耐熱性向上と伝送損失の低減を実現するために用いる技術は、主に樹脂の分子設計と硬化剤の選定にあります。
一般的に、エポキシ樹脂の耐熱性と伝送損失の低減は、相反する特性(トレードオフ)の関係にあります。しかし、DICは独自の技術でこの課題を克服しようとしています。
耐熱性の向上
- 分子骨格の導入: エポキシ樹脂の分子構造に、ナフタレンやビフェニルなどの「多環芳香族骨格」と呼ばれる剛直な構造を導入することで、高温での熱分解安定性を大幅に改善します。これにより、分子の運動が抑制され、より高い温度に耐えることができます。
- 高機能な硬化剤の開発: DICは、特定の硬化剤を使用することで、エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)を大幅に向上させる技術を開発しています。高いTgは、高耐熱性の指標となります。
伝送損失の低減
- 硬化剤の選定: 従来のエポキシ樹脂の硬化システムでは、硬化時に発生する水酸基が誘電特性を悪化させる原因となります。DICは、水酸基が発生しない「活性エステル系硬化剤」を使用することで、低誘電性を確保しています。
- 低誘電特性を持つ素材の活用: 樹脂の分子構造そのものに、誘電特性を低く抑えるための特殊な構造を組み込むことで、高周波帯での信号の減衰を抑制します。
これらの技術により、DICは、次世代の高速通信や高性能化が進む半導体に必要な、高耐熱性と低誘電性を両立したエポキシ樹脂の開発・生産を進めています。

樹脂の分子骨格に剛直な構造を導入し、高温に耐える高機能な硬化剤を用いることで耐熱性を向上。硬化時に水酸基を発生させない硬化剤で、誘電特性を悪化させずに伝送損失を低減します。
供給確保計画とは何か
「供給確保計画」とは、経済安全保障推進法に基づき、国が指定した「特定重要物資」の安定的な供給を確保するための取り組みを定めた計画です。
この法律は、国民生活や経済活動に不可欠な物資のサプライチェーンが途絶するリスクに備えることを目的としています。半導体や蓄電池、重要鉱物、医薬品などが「特定重要物資」として指定されています。
具体的には、特定重要物資を生産・供給する事業者が、生産設備の増強や技術開発、備蓄など、安定供給確保のための計画を策定し、経済産業大臣の認定を受けます。認定を受けた事業者は、国から助成金や融資などの支援を受けることができます。
DICのエポキシ樹脂製造設備新設も、半導体の安定供給に貢献するとして、この「供給確保計画」に認定されたことで、国の支援を受けているというわけです。

供給確保計画は、経済安全保障推進法に基づき、国が指定した重要物資の安定供給を目的とした計画です。事業者が生産設備増強などの計画を策定し、国の認定を受けると、助成金などの支援を受けられます。
供給確保計画の対象となっている企業の例は?
経済安全保障推進法に基づく「供給確保計画」の認定を受けている企業は、多岐にわたります。以下にその一部を挙げます。
- 半導体関連: ルネサスエレクトロニクス、イビデン、キオクシア、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングなど
- 蓄電池関連: 本田技研工業、GSユアサ、パナソニックエナジー、デンカ、トヨタ自動車、プライムプラネットエナジー&ソリューションズなど
- クラウドプログラム: 東京大学、さくらインターネットなど
- 工作機械・産業用ロボット: ファナック、三菱電機、ハーモニック・ドライブ・システムズなど
これらの企業は、それぞれの事業分野で、日本経済や国民生活に不可欠な「特定重要物資」の安定供給を確保するための取り組みを国から認められ、支援を受けています。DICのエポキシ樹脂製造設備新設も、半導体関連の特定重要物資の供給確保計画として認定されたものです。
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