日立製作所、白物家電事業子会社の売却検討 売却の理由は何か?サムスンが買収意欲が高い理由は?

この記事で分かること

  • 売却理由:成長が見込める鉄道やデジタル分野に注力するため、白物家電事業を売却し、事業構造を改革するのが主な理由です。
  • サムスンの意欲が高い理由:サムスンは日本での白物家電事業の拡大を目指しており、日立のブランド力、販売網、技術力を獲得したいため買収に意欲を示しています。
  • 社会インフラ事業に注力する理由:安定した収益性、グローバルな成長性、そして高付加価値なビジネスモデルへの転換といった点で、電機メーカーの持続的な成長を支える柱として期待されています。

日立製作所、白物家電事業子会社の売却検討

 日立製作所は、国内の白物家電事業を担う子会社「日立グローバルライフソリューションズ(GLS)」の売却を検討しています。

 これは、鉄道などの収益性の高い事業に経営資源を集中させるという、日立グループの構造改革の一環とされています。

 複数の企業に打診が行われている模様で、韓国のサムスン電子やLG電子、トルコの家電大手アーチェリク、中国企業などが買収に関心を示していると報じられています。特にサムスン電子が最も買収意欲が強いとされています。

売却の理由は何か

 日立が国内白物家電事業の売却を検討している主な理由は、以下の2点に集約されます。

事業の「選択と集中」による構造改革の推進

  • 日立は、リーマンショック後の大赤字からV字回復を遂げて以降、収益性の高い事業に経営資源を集中させる「選択と集中」を経営の根幹に据えています。
  • 具体的には、鉄道やエネルギー、ITソリューションなどを柱とする「社会イノベーション事業」をグローバルで拡大することを目指しています。
  • 白物家電事業は、売り切り型のビジネスが中心であり、日立が注力するデジタルサービスとの相乗効果が薄いと判断されたと考えられます。

グループ全体のIT化、デジタル化の加速

  • 日立は、IT、OT(制御・運用技術)、プロダクトを融合させて社会インフラの課題を解決するビジネスモデルを推進しています。
  • これに伴い、グループ全体でIT資産・コスト構造改革を進め、よりITに注力できる体制を整えています。
  • 白物家電事業の売却は、この流れに沿ったものであり、ITと関係の薄い事業を売却することで、より成長が見込める分野に経営資源を振り向ける狙いがあります。

 日立は白物家電事業を、今後の成長戦略の中心に据える事業ではないと判断し、経営資源をより競争力のある分野に集中させるための戦略的な判断として、売却を検討していると言えるでしょう。

日立は収益性の高い事業に経営資源を集中させる「選択と集中」を進めています。成長が見込める鉄道やデジタル分野に注力するため、白物家電事業を売却し、事業構造を改革するのが主な理由です。

サムスン電子が最も買収意欲が強い理由は

 サムスン電子が日立の白物家電事業の買収に強い意欲を示しているとされる理由は、主に以下の点が考えられます。

  • 日本市場でのシェア拡大: サムスンはスマートフォンでは日本市場である程度の存在感を示していますが、白物家電分野では日本の消費者からの信頼やブランド力がまだ十分ではありません。日立の国内白物家電事業を買収することで、「HITACHI」ブランドの持つ高い信頼性と、長年にわたり培ってきた販売網、そして根強いファン層を獲得できるメリットがあります。日立が売却条件として「HITACHI」ブランド名の5年間使用を求めていることも、サムスンにとっては日本市場でのブランド移行を円滑に進める上で有利な条件となります。
  • 技術力の獲得: 日立は、冷蔵庫や洗濯機といった白物家電において、独自のモーター技術や省エネ技術に強みを持っています。一方、サムスンはAIやIoTといった最新のスマート家電技術に強みがあります。日立の信頼性の高いハードウェア技術と、サムスンの先進的なソフトウェア・デジタル技術が融合すれば、より競争力のある製品を開発できる可能性があります。
  • グローバル市場での競争力強化: サムスンは、白物家電事業をグローバルで拡大する戦略を掲げており、日立の事業買収は、その一環と見られています。特に、日本の家電市場は、消費者ニーズが独特で「ガラパゴス市場」とも言われますが、その市場で培われた日立の技術やノウハウは、サムスンが世界各国で展開する上で、新たな付加価値を生み出す可能性があります。

 サムスンは、日立の持つ「日本の市場での強いブランド力と販売網」と「信頼性の高い製品技術」を獲得することで、日本市場でのシェアを拡大し、ひいてはグローバルでの競争力を強化する狙いがあると考えられます。

サムスンは日本での白物家電事業の拡大を目指しており、日立のブランド力、販売網、技術力を獲得したい考えです。日立の高い信頼性とサムスンの先進技術を組み合わせ、日本市場でのシェアとグローバルでの競争力強化を狙っています。

日本の白物家電メーカーが苦戦している理由は

 日本の白物家電メーカーが苦戦している理由は、主に以下の3点に集約されます。

グローバルな価格競争への対応の遅れ

  • 中国や韓国のメーカーが人件費の安さを武器に、高品質かつ低価格な製品を世界市場に投入しました。
  • これに対し、日本のメーカーは国内市場で培った高機能・高品質な製品を強みとしてきましたが、価格競争力で劣勢に立たされました。
  • 特に新興国市場では、必要最低限の機能で安価な製品が求められることが多く、日本の高価格帯の製品は市場のニーズに合わないケースが増えました。

市場ニーズの変化への対応の遅れ

  • 従来の日本のメーカーは、多機能・高性能を追求する「プロダクトアウト」的なものづくりに強みを持っていました。
  • しかし、現代の消費者は「本当に必要な機能は何か」を重視し、シンプルでデザイン性の高い製品を求める傾向が強まっています。
  • また、IoTやAIを活用したスマート家電など、デジタル技術を前提とした製品開発において、海外メーカーに先行を許す形になっています。
  • 一部のメーカーは高価格帯で特定の層をターゲットとする高級路線(バルミューダなど)で成功を収めましたが、市場全体を牽引するほどの勢いには至っていません。

国内市場の縮小と事業の選択と集中

  • 少子高齢化に伴い、国内の白物家電市場は長期的に縮小傾向にあります。
  • また、製品の買い替えサイクルも長期化しており、国内市場だけで事業を維持するのが難しくなっています。
  • このため、多くの日本の電機メーカーは、より成長が見込めるBtoB事業や、社会インフラ関連の事業に経営資源を集中させる「選択と集中」を進めてきました。今回のケースのように、白物家電事業を本体から切り離したり、海外メーカーとの合弁事業にしたりする動きは、この流れに沿ったものです。

 これらの要因が複合的に絡み合い、日本の白物家電メーカーはグローバルな競争環境の中で厳しい状況に置かれています。

グローバルな価格競争への対応の遅れが主な原因です。また、多機能志向からシンプル・安価な製品を求める市場ニーズの変化や、国内市場の縮小も影響し、経営資源を他事業に集中させる動きが強まっています。

社会インフラ関連の事業に集中する理由は

 社会インフラ関連の事業に集中する理由は、主に以下の点が挙げられます。

安定的な収益性

  • 鉄道、エネルギー、水道、情報通信といった社会インフラは、人々の生活や経済活動に不可欠な基盤であり、需要が景気に左右されにくく、安定した収益が見込めます。
  • 一度導入されると、長期にわたる保守・メンテナンスやシステム更新の需要が発生するため、継続的なビジネスにつながります。
  • また、国や自治体、電力会社など、特定の顧客との関係が深く、長期的なパートナーシップを築きやすい点も魅力です。

グローバルな成長性

  • 世界的に都市化が進み、新興国を中心にインフラ整備の需要が拡大しています。
  • 日本のメーカーは、新幹線に代表される鉄道システムや、電力・エネルギー関連の技術で高い信頼性と実績を持っており、これらの技術を海外に輸出することで、大きな成長機会を獲得できます。
  • 日立が鉄道事業に注力しているのも、車両製造だけでなく、信号システムや保守サービスなどを含めた全体を提案することで、高い収益性を確保し、グローバル市場で事業を拡大できると見込んでいるからです。

付加価値の高いビジネスモデルへの転換

  • 白物家電などのコンシューマー向け事業は、グローバルな価格競争に巻き込まれやすく、利益率が低い傾向にあります。
  • 一方、社会インフラ事業は、単に製品を売るだけでなく、システム構築や運用、コンサルティングといった付加価値の高いサービスと組み合わせることで、高収益化が可能です。
  • 多くの日本のメーカーは、IoTやAIといったデジタル技術を活用し、社会インフラをより効率的・安全に運用する「社会イノベーション事業」への転換を進めています。

社会インフラ事業は、安定した収益性、グローバルな成長性、そして高付加価値なビジネスモデルへの転換といった点で、電機メーカーの持続的な成長を支える柱として期待されています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました