電子部品:炭素皮膜抵抗器 温度による抵抗変化が大きい理由は?どんな用途があるのか

この記事で分かること

  • 炭素皮膜抵抗器とは:セラミック基板に炭素の薄い膜を焼き付けて作られる、最も一般的な抵抗器です。安価で汎用性が高く、電子工作から多くの電子機器に広く使われています。
  • 製造工程と材料の性質が主な理由です。抵抗値を調整するために炭素膜を削る工程で、わずかな誤差が生じやすく、また抵抗体の材料である炭素が温度変化に弱い性質を持つためです。
  • 温度変化に弱い理由:炭素は温度が上がると、半導体的な性質により自由電子が増加し、抵抗値が下がります。また、熱膨張率の違いによるひずみも影響します。
  • 用途:炭素皮膜抵抗器は、安価で汎用性が高いため、多くの電子機器で広く使われています。ラジオやテレビなどの一般回路での電流制限や電圧調整、LEDの保護、電子工作キットなどに利用されます。高精度を必要としない一般的な用途に最適です。

炭素皮膜抵抗器

 日本の電子部品メーカーは、半導体製造分野では後れを取っているものの、コンデンサやセンサーなどの部品分野では、長年にわたり世界市場で強い競争力を保ち続けており、台湾企業による買収も報じられています。

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 日本の電子部品メーカーは、長年にわたって培ってきた高い技術力、品質へのこだわり、そして特定のニッチ分野での圧倒的な強みにより、世界市場でその地位を確固たるものにしています。

今回は受動部品である抵抗器、特に炭素皮膜抵抗器についての記事となります。

 抵抗器は、電流の流れを妨げる電子部品です。この「流れにくさ」を示すのが抵抗値(単位:Ω)で、回路内の電流を制限したり、電圧を調整したりする役割があります。過剰な電流から他の部品を保護するためや、信号の調整などに使われます。

炭素皮膜抵抗器とは何か

 炭素皮膜抵抗器(カーボン抵抗器とも呼ばれる)は、セラミックの円筒状の基板に炭素の薄い膜(皮膜)を焼き付けて作られる抵抗器です。この炭素の皮膜にらせん状の溝を削って抵抗値を調整します。


特徴

 炭素皮膜抵抗器は、その製造方法と材料の特性から、以下のような特徴を持ちます。

  • 低コスト: 安価で製造しやすいため、最も広く普及している抵抗器です。
  • 汎用性: 幅広い電子機器の一般回路に使用されます。
  • 中程度の精度: 高精度が要求される用途には向きませんが、一般的な用途には十分な精度を持ちます。抵抗値の公差は通常±5%程度です。
  • 温度特性: 抵抗体の材料である炭素が、温度変化によって抵抗値が変動しやすい性質を持っています。

 これらの特徴から、炭素皮膜抵抗器は電子工作や家電製品など、多くの電子回路で広く使われています。より高い精度や安定性が求められる場合には、金属皮膜抵抗器などが使用されます。

炭素皮膜抵抗器は、セラミック基板に炭素の薄い膜を焼き付けて作られる、最も一般的な抵抗器です。安価で汎用性が高く、電子工作から多くの電子機器に広く使われています。精度は中程度で、温度変化による抵抗値の変動が比較的大きいのが特徴です。

炭素の電気抵抗が高い理由は

 炭素の電気抵抗が高い理由は、その結晶構造自由電子の数にあります。炭素には、ダイヤモンドやグラファイトなど様々な形態がありますが、それぞれ異なる電気的性質を示します。炭素皮膜抵抗器に用いられる炭素は、結晶構造が不完全で、電気の流れを妨げる要因が多いため、高い電気抵抗を持ちます。


炭素の結晶構造と電気抵抗

  • ダイヤモンド(絶縁体): ダイヤモンドは、4つの価電子すべてが隣接する炭素原子と共有結合している強固な立体構造をしています。このため、自由に動き回れる自由電子がほとんど存在しません。電子は原子に強く束縛されているため、電流をほとんど流すことができず、電気の絶縁体として働きます。
  • グラファイト(導体): グラファイトは、炭素原子が六角形の網目状の平面構造(グラフェンシート)を形成し、それが層状に積み重なっています。各炭素原子は3つの価電子で共有結合を作り、残りの1つの価電子が層内を自由に動き回れる自由電子となります。この自由電子の存在によって、グラファイトは電気をよく通す導体となります。ただし、層と層の間は弱い結合で結ばれているため、層をまたぐ方向には電気を通しにくい異方性という性質も持っています。

炭素皮膜抵抗器の炭素(半導体)

  炭素皮膜抵抗器に使われる炭素は、ダイヤモンドとグラファイトのどちらとも異なる不完全な結晶構造をしています。

 そのため、グラファイトのように自由に動ける電子の数が少なく、電気をほとんど通さないダイヤモンドよりは導電性があるものの、金属のような導体にはなりません。この半導体的な性質と、結晶の不完全な構造が電子の流れを強く妨げるため、高い電気抵抗を示すのです。

炭素の電気抵抗が高いのは、不完全な結晶構造を持ち、電流を運ぶ自由電子の数が少ないためです。このため、電子がスムーズに移動できず、原子に衝突しやすいため、電気の流れが妨げられます。

なぜ、精度があまり高くないのか

 炭素皮膜抵抗器の精度があまり高くない主な理由は、製造方法と材料の性質にあります。


製造方法による影響

 炭素皮膜抵抗器は、セラミックの基板に炭素の薄い膜を塗布し、そこにらせん状の溝を削って抵抗値を調整します。この「溝を削る」というプロセスが、抵抗値のばらつきを生む原因となります。削り込む深さや幅にわずかな誤差が生じるだけで、抵抗値が設計値からずれてしまうのです。


材料の性質による影響

 抵抗体の材料である炭素は、金属に比べて温度変化によって電気抵抗が大きく変動しやすい性質を持っています。そのため、周囲の温度が変わると抵抗値もわずかに変化してしまいます。特に高い精度が求められる回路では、この変動が問題となることがあります。

 これらの理由から、より高い精度や安定性が求められる場合には、炭素皮膜抵抗器よりも、温度変化に強い金属を抵抗体に使用した金属皮膜抵抗器が選ばれることが多いです。

炭素皮膜抵抗器の精度が低いのは、製造工程と材料の性質が主な理由です。抵抗値を調整するために炭素膜を削る工程で、わずかな誤差が生じやすく、また抵抗体の材料である炭素が温度変化に弱い性質を持つためです。

温度変化による抵抗値の変動が大きいのはなぜか

 炭素皮膜抵抗器の抵抗値が温度変化に大きく変動する主な理由は、抵抗体の材料である炭素の性質と、製造方法にあります。

炭素の半導体的な性質

 炭素は、金属と半導体の中間的な性質を持つ物質です。金属は温度が上がると、原子の熱振動が激しくなり、電流を運ぶ電子の動きを妨げるため、抵抗値が上がります。

 しかし、炭素のような半導体的な性質を持つ物質は、温度が上がると、熱エネルギーによって電子が放出されやすくなり、電流を運ぶ自由電子の数が増えるため、逆に抵抗値が下がります。この現象は負の抵抗温度係数と呼ばれます。炭素皮膜抵抗器の抵抗値は、温度上昇によって低下する傾向にあります。


製造工程による影響

 また、炭素皮膜抵抗器は、セラミック基板に炭素の薄い膜を塗布し、そこにらせん状の溝を削って抵抗値を調整します。このとき、基板と炭素皮膜では熱膨張率が異なるため、温度が変化すると、皮膜にひずみやクラック(ひび割れ)が生じることがあります。これらの物理的な変化が抵抗値の変動をさらに大きくする要因となります。

 これらの理由から、炭素皮膜抵抗器は、金属皮膜抵抗器などの高精度な抵抗器に比べて、温度変化による抵抗値の変動が大きくなります。

炭素皮膜抵抗器の抵抗体が炭素であり、温度変化によって抵抗値が大きく変動しやすい性質を持つためです。温度が上がると、半導体的な性質により自由電子が増加し、抵抗値が下がります。また、熱膨張率の違いによるひずみも影響します。

炭素皮膜抵抗器は何に使われるのか

 炭素皮膜抵抗器は、その安価で汎用性が高いという特性から、多くの電子機器や回路に幅広く使われています。

主な用途

  • 一般電子回路:ラジオ、テレビ、パソコンなどの家電製品や、電子工作のキットなど、多くの電子回路で電流制限や電圧の分圧、信号の調整といった基本的な役割を果たします。
  • LEDの電流制限:LEDは一定以上の電流が流れると壊れてしまうため、炭素皮膜抵抗器を使って流れる電流を適切な値に制限します。
  • フィルター回路:コンデンサやコイルと組み合わせて、特定の周波数の信号を通したり、遮断したりするフィルター回路に使用されます。

向かない用途

 一方、高い精度や安定性が必要な場所には向いていません。

  • 高精度な計測機器:温度変化による抵抗値の変動が大きいため、精密な測定を要する機器には金属皮膜抵抗器などが使われます。
  • オーディオ回路:炭素皮膜抵抗器はノイズを発生しやすいため、音質にこだわるオーディオ機器の回路には、より高品質な抵抗器が選ばれることがあります。

このように、炭素皮膜抵抗器はコストが重視される一般的な用途で広く活躍しています。

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