この記事で分かること
- SMPS同軸コネクターとは:超小型で軽量なRFコネクタの一種です。特に高周波(〜65GHz)での使用を想定しており、基板やモジュール間の高密度実装に適しています。
- 高周波に適している理由:信号を外部ノイズから守る同軸構造と、信号の反射を防ぐ50Ωの特性インピーダンスにより、高周波の効率的かつ安定した伝送を可能にします。
- 非磁性にする意味:量子コンピュータやMRIなどの磁場環境下で、機器の誤動作や損傷を防ぐためです。磁性があると、微細な信号を扱う機器の動作を妨げたり、MRIの画像にノイズを生じさせたりする原因となります。
日本航空電子工業のSMPS同軸コネクター
日本航空電子工業が試作開発した量子コンピューター向けの非磁性対応コネクターは、SMPS同軸コネクターです。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00757846
このコネクターは、量子コンピューターのさらなる高密度化に対応するために開発されました。
SMPS同軸コネクターとはなにか
SMPS同軸コネクターは、無線周波数(RF)信号を伝送するための超小型同軸コネクターの一種です。特に、高周波で高密度実装が求められる用途向けに開発されました。
主な特徴
- 超小型: SMPM(Sub-Miniature Push-on Micro)コネクターよりもさらに小型化されており、基板上の実装面積を削減できます。これは、限られたスペースに多くのコネクターを配置する必要がある用途に不可欠です。
- 高周波対応: 最大で100GHzまでの周波数に対応し、高周波信号の伝送に適しています。
- ブラインド・メイト(Blind-mate)対応: 工具を使わずに押し込むだけで嵌合できる設計になっています。これにより、基板対基板の接続などで、位置合わせが難しい場合でも簡単に接続できます。
応用分野
SMPSコネクターは、その高い性能と小型化の利点から、以下のような最先端技術分野で広く利用されています。
- 測定機器: オシロスコープやスペクトラムアナライザなどの高性能な測定・試験装置にも使われています。
- 量子コンピューター: 極低温環境下での高密度配線に適しており、量子ビット間の微弱な信号伝送に用いられます。
- 宇宙・航空・軍事分野: 衛星やレーダーなど、高い信頼性と小型・軽量化が求められる機器に採用されています。
- 通信機器: 5G/6G基地局や高速データ通信機器など、高周波信号を扱う機器の内部配線に利用されます。

SMPS同軸コネクタは、超小型で軽量なRFコネクタの一種です。特に高周波(〜65GHz)での使用を想定しており、プッシュオン嵌合方式のため、基板やモジュール間の高密度実装に適しています。航空宇宙、防衛、医療、5G通信分野などで利用されます。
非磁性にするのはなぜか
SMPS同軸コネクタを非磁性にするのは、強力な磁場を使用する環境での機器の誤動作や損傷を防ぐためです。
非磁性の必要性
SMPSコネクタは、特に高周波信号を扱う精密機器や、量子コンピュータ、MRI (磁気共鳴画像法) などの特殊な環境で使われることが多いため、磁気の影響を排除する必要があります。
- 高精度測定: 微弱な信号を扱う科学・医療分野の精密機器では、わずかな磁気の変化が測定データに影響を及ぼし、品質の低下や誤差につながることがあります。非磁性化することで、外部磁場の影響を最小限に抑え、信頼性の高い測定を可能にします。
- 量子コンピュータ: 量子コンピュータは、極低温かつ強力な磁場環境下で動作します。磁性体が近くにあると、磁場を歪ませ、コンピュータの繊細な動作を妨げ、誤作動を引き起こす可能性があります。
- MRI: MRIは強力な磁場を利用して人体の断層画像を生成する医療機器です。磁性体の部品があると、磁場に引き寄せられて装置や患者に危険が及ぶだけでなく、画像のノイズの原因となり、正確な診断ができなくなります。

SMPS同軸コネクターを非磁性にするのは、量子コンピュータやMRIなどの磁場環境下で、機器の誤動作や損傷を防ぐためです。磁性があると、微細な信号を扱う機器の動作を妨げたり、MRIの画像にノイズを生じさせたりする原因となります。
なぜ高周波の伝送に適しているのか
SMPS同軸コネクタは、同軸構造と厳密に管理されたインピーダンスによって高周波の伝送に適しています。
同軸構造とその役割
SMPSコネクタは、同軸ケーブルと同様に、信号を通す中心導体を絶縁体で覆い、さらにその外側を外部導体(シールド)で囲む構造をしています。この同心円状の構造には、主に以下の利点があります。
- 電磁ノイズの遮断: 外部導体(シールド)が電磁シールドとして機能し、外部からの電磁ノイズや干渉を遮断します。これにより、信号の劣化や歪みを防ぎ、安定した伝送が可能になります。
- 電波の閉じ込め: 信号が外部に放射されるのを防ぎます。高周波信号は周波数が高くなるほど電波として放射されやすくなるため、この閉じ込め効果は伝送損失を最小限に抑える上で非常に重要です。
特性インピーダンス
高周波信号を効率よく伝送するためには、コネクタの電気的な抵抗値である特性インピーダンスが、接続するケーブルや機器と一致している必要があります。SMPSコネクタは、この特性インピーダンスを厳密に50Ωに設計・製造されています。
特性インピーダンスが一致していないと、信号がコネクタの接続部で反射し、信号の損失(反射損失)や波形の歪みが発生します。SMPSコネクタは、この反射を最小限に抑えることで、高速かつ高品質な信号伝送を実現します。
小型化と高密度実装
SMPSコネクタは、その超小型サイズも高周波伝送に適した重要な要素です。小型化することで、コネクタ内部の構造が単純化され、高周波で問題となる寄生容量や寄生インダクタンスといった電気的な不連続性が最小限に抑えられます。
これにより、より高い周波数帯域(〜65GHz)まで安定して使用できるようになります。また、高密度実装が可能なため、複数の信号を狭いスペースで伝送する必要のある機器で特に重宝されます。

SMPS同軸コネクターは、信号を外部ノイズから守る同軸構造と、信号の反射を防ぐ50Ωの特性インピーダンスにより、高周波の効率的かつ安定した伝送を可能にします。また、小型化により寄生成分を抑えていることも理由です。
特性インピーダンスとはなにか
特性インピーダンスは、電気信号がケーブルや伝送路を伝わる際に受ける交流抵抗のようなものです。直流抵抗とは異なり、周波数に依存し、ケーブルの物理的構造(導体の太さ、絶縁体の誘電率など)によって決まります。
なぜ重要なのか
高周波信号を効率よく伝送するためには、ケーブルやコネクタの特性インピーダンスが、接続する機器や他の伝送路と一致している必要があります。
- 反射の防止: インピーダンスが一致しないと、信号が伝送路の途中で反射してしまいます。これは、光が水と空気の境界で反射するのと同じ原理です。反射が起こると、信号のエネルギーが失われ、波形が歪んだり、データが欠損したりします。
- 信号の効率的な伝送: 特性インピーダンスを一致させることで、信号の反射を最小限に抑え、エネルギーのほとんどを送り先まで届けることができます。これにより、高周波信号を安定して、かつ高品質に伝送することが可能になります。
例えば、テレビのアンテナケーブルでは、放送局から送られてくる高周波信号をテレビまで効率よく届けるために、ケーブル、コネクタ、テレビのすべての特性インピーダンスが75Ωで統一されています。通信機器やコンピュータネットワークでは、一般的に50Ωが使われます。
インピーダンスとの違い
インピーダンスは交流回路全体の「電気的な流れにくさ」を指すのに対し、特性インピーダンスはケーブルや伝送路の「固有の電気的性質」を指します。
インピーダンス (Impedance)
インピーダンスは、交流回路における電圧と電流の比で、抵抗(レジスタンス)に加えてコイル(インダクタンス)やコンデンサ(キャパシタンス)による抵抗分(リアクタンス)も含みます。そのため、回路全体の周波数によって値が変化するのが特徴です。簡単に言えば、交流における抵抗の総称です。
特性インピーダンス (Characteristic Impedance)
特性インピーダンスは、無限に長い伝送路を想定した際に、その伝送路の構造と材料のみによって決まる固有の値です。終端の負荷(抵抗など)の影響を受けません。
違いのまとめ
項目 | インピーダンス | 特性インピーダンス |
対象 | 回路全体の電気的な流れにくさ | ケーブルや伝送路固有の電気的性質 |
決定要因 | 抵抗、コイル、コンデンサなど回路全体の構成と周波数 | 伝送路の物理的構造(導体の太さ、間隔など)と材料 |
主な用途 | 交流回路の解析や設計 | 高周波信号の反射防止(インピーダンス整合) |
値の変化 | 周波数や負荷(終端)によって変わる | 一定(理想的には) |
例えば、テレビのアンテナケーブルを考えてみましょう。ケーブルそのものが持つ「特性インピーダンス」は、ケーブルの構造によって決まる75Ωです。
一方、ケーブルの終端に接続されるテレビ側の「インピーダンス」は、テレビの回路構成によって決まります。この両方のインピーダンスを75Ωに一致させることで、反射を抑え、信号を効率よく伝送することができます。この作業を「インピーダンス整合」と呼びます。

特性インピーダンスとは、ケーブルや伝送路の構造によって決まる固有の電気的性質です。交流信号の伝送時に反射を防ぎ、効率よくエネルギーを伝えるために、接続する機器と値を合わせる必要があります。主に50Ωや75Ωが使われます。
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