エヌビディアの中国向けAI半導体開発 開発の背景は?AIチップの対中輸出規制の内容は?

この記事で分かること

  • 開発の背景:米国政府の輸出規制を受け、エヌビディアは中国市場向けに性能を調整したAI半導体「H20」などを開発しました。しかし、顧客ニーズに応えるため、より高性能な新チップ「B30A」を開発中です。
  • AIチップの対中輸出規制の内容:主にチップの演算能力と、複数チップを接続する際の通信速度を基準としています。これらの性能が一定の基準を超えるチップの輸出を制限することで、中国のAI開発能力を抑制することが目的です。

エヌビディアの中国向けAI半導体

 エヌビディアは中国市場向けに新たなAI半導体「B30A」を開発していると報じられています。

エヌビディア、中国向け新AI半導体開発 「H20」上回る=関係筋
半導体大手エヌビディアが新型人工知能(AI)半導体「ブラックウェル」の設計技術を基に、中国市場向けの新たなAI半導体を開発していることが関係者2人の話で明らかになった。現在中国で販売が認められている「H20」よりも高性能なものになる見込み。

 このチップは、現在中国で販売が許可されている「H20」よりも高性能になるとのことです。

開発の背景

 エヌビディアが中国向けに新たなAI半導体「B30A」を開発している背景と詳細について、以下にまとめました。

1. 米国による輸出規制の強化

  • 規制の目的: 米国政府は、最先端のAI半導体技術が軍事目的などで中国に利用されるのを防ぐため、高性能なAIチップの対中輸出規制を強化しています。
  • これまでの経緯:
    • エヌビディアの主力製品である高性能AIチップ「H100」や「A100」は、この規制の対象となり、中国への輸出が制限されました。
    • これを受けて、エヌビディアは、規制基準に適合するように性能を調整した中国市場向け専用のAI半導体として「H20」「L20」「L2」の3種類を開発し、販売を開始しました。
    • しかし、その中でも最も高性能な「H20」は、その後、米政府から輸出許可が必要との通知を受け、一時的に輸出が停止される事態となりました。

2. 「B30A」開発の背景

  • 市場ニーズへの対応: 中国市場は、エヌビディアの売上高の大きな割合を占めており、この重要な市場での事業を維持・拡大していく必要があります。
  • 「H20」の課題: 既存の中国向けチップ「H20」は、輸出規制に準拠するために性能が大幅に抑えられており、米国の主力製品「H100」の約6分の1程度(BF16/FP16のTFLOPS値で比較)とされています。このため、中国の顧客にとっては性能面での不満が残っていました。
  • 最新技術の活用: エヌビディアは、最新のGPUアーキテクチャである「Blackwell」をベースに、より高性能な中国向けAI半導体を開発することで、市場の競争力を高めようとしています。これが、今回開発が報じられた「B30A」です。

3. 「B30A」の詳細

  • アーキテクチャ: 最新世代の「Blackwell」アーキテクチャを採用しています。これは、前世代の「Hopper」(H100)を上回る性能を持つとされています。
  • 設計: 「B30A」は、「Blackwell」ベースの主力製品がデュアルダイ構成であるのに対し、シングルダイ設計を採用していると報じられています。この設計により、米国の輸出規制基準を満たしつつ、製造コストを抑えることが可能になります。
  • 性能: 具体的な数値はまだ公表されていませんが、既存の中国向けチップ「H20」を上回る性能を持つ一方で、米国向け主力製品の「B300」の約半分程度の演算能力に抑えられているとされています。
  • 今後の展開: エヌビディアは、早ければ来月にも中国の顧客にサンプルを提供し、テストを開始する予定です。しかし、米国の規制当局からの承認はまだ保証されておらず、今後の動向が注目されます。

 エヌビディアは、米国政府の規制を遵守しつつ、中国市場での事業を維持・拡大するという難しい課題に直面しており、「B30A」の開発はその戦略的な取り組みの一環と言えます。

米国政府の輸出規制を受け、エヌビディアは中国市場向けに性能を調整したAI半導体「H20」などを開発しました。しかし、顧客ニーズに応えるため、最新アーキテクチャ「Blackwell」に基づく、より高性能な新チップ「B30A」を開発中です。

高性能なAIチップの対中輸出規制の内容は

 米国による高性能AIチップの対中輸出規制は、主に以下の2つの基準によって、AIチップの輸出を制限しています。これらの基準は、中国のAI技術開発能力を抑制することを目的としています。

1. 演算性能(Performance)基準

  • 「TFLOPS」: AIの演算性能を表す指標である「TFLOPS(Tera Floating-point Operations Per Second)」を基準としています。具体的には、単精度(FP32)や半精度(FP16)の演算能力が一定の基準を超えるチップが規制対象となります。
  • 「B200」「H100」の例: エヌビディアの主力製品である「H100」や「B200」は、この基準を大幅に上回るため、中国への輸出が規制されています。
  • 「H20」開発の背景: エヌビディアは、規制基準の範囲内に収まるように、「H100」の性能を意図的に引き下げた「H20」を中国市場向けに開発しました。これにより、H20の演算能力はH100の約6分の1程度(BF16/FP16のTFLOPS値で比較)に抑えられています。

2. 相互接続性(Interconnect)基準

  • チップ間通信速度: 複数のチップを接続して大規模なAIシステムを構築する際の、チップ間の通信速度も規制の対象です。この速度が一定の基準を超える場合、輸出が制限されます。
  • 「NVLink」の例: エヌビディアのGPU同士を高速で接続する独自の技術「NVLink」も、その帯域幅が規制基準に抵触する可能性があります。このため、中国向けチップでは、NVLinkの速度や接続ポート数が制限されている場合があります。

規制の狙いと影響

  • 中国のAI開発抑制: 米国は、単体チップの性能だけでなく、多数のチップを接続して大規模なAIスーパーコンピュータを構築する能力を制限することで、中国のAI技術の発展を多角的に抑制しようとしています。
  • 企業の対応: エヌビディアは、これらの厳しい規制に準拠しつつ、中国市場での事業を維持するために、性能を意図的に調整した専用チップを開発しています。
  • 「B30A」への注目: 報道されている「B30A」は、最新の「Blackwell」アーキテクチャを採用しつつ、これらの輸出規制基準の範囲内に収まるように設計されていると見られています。米国政府が最終的にこのチップの輸出を許可するかどうかが、今後の焦点となります。

 このように、高性能AIチップの対中輸出規制は、単純な性能だけでなく、チップのシステム全体での能力を包括的に評価する内容となっており、AIチップ開発企業に大きな影響を与えています。

高性能AIチップの対中輸出規制は、主にチップの演算能力と、複数チップを接続する際の通信速度を基準としています。これらの性能が一定の基準を超えるチップの輸出を制限することで、中国のAI開発能力を抑制することが目的です。

H20からどんな性能を向上させるのか

 エヌビディアが開発中の「B30A」は、既存の中国向けAI半導体「H20」に比べて、主に以下の点で性能向上が期待されます。

1. 最新アーキテクチャ「Blackwell」の採用

  • 世代交代: 「H20」が前世代の「Hopper」アーキテクチャに基づいているのに対し、「B30A」は最新の「Blackwell」アーキテクチャを採用しています。
  • 演算能力の向上: 「Blackwell」は、AI学習や推論における演算能力が大幅に向上しており、特に大規模言語モデル(LLM)のような最新のAIワークロードに最適化されています。そのため、「B30A」は「H20」よりも高速なAI処理が可能になると見込まれます。
  • 新しい機能の搭載: 「Blackwell」アーキテクチャは、第5世代のTensorコアや、トランスフォーマーモデルの計算を高速化する新たなTransformer Engine、NVLinkネットワーク帯域幅の向上など、多くの新機能を搭載しています。これらの機能が「B30A」にも部分的に組み込まれることで、性能向上が実現します。

2. シングルダイ設計と性能のバランス

  • 「H20」との比較: 「H20」は、米国の輸出規制に対応するため、性能を抑える設計が施されています。
  • 「B30A」の最適化: 「B30A」は、米国向けの主力製品がデュアルダイ構成であるのに対し、シングルダイ設計を採用することで、規制基準を満たしつつ、H20よりも高い性能を実現するバランスの取れた設計になっています。

3. 具体的な性能向上(推定)

  • 現時点で正確な性能比較データは公表されていませんが、報道によれば、「B30A」は「H20」よりも高速になる一方で、米国向けの主力製品「B300」の約半分程度の演算能力に抑えられているとされています。
  • これにより、中国の顧客は、「H20」では難しかった、より大規模で複雑なAIモデルの学習や推論を効率的に行えるようになると期待されます。

 「H20」から「B30A」への性能向上は、最新の「Blackwell」アーキテクチャへの移行によって、AI演算能力と効率が全体的に底上げされることによって実現します。

「B30A」は、H20が採用する「Hopper」よりも新しい「Blackwell」アーキテクチャに基づき、AIの学習や推論に必要な演算能力を大幅に高めます。特に、最新の大規模言語モデル(LLM)の処理性能が向上すると期待されています。

H20よりも性能が高いのに輸出規制の対象にならないの理由は

 B30AがH20よりも性能が高いにもかかわらず、輸出規制の対象にならないと期待される理由は、米国政府が定めた輸出規制の基準を「H20」とは異なる方法でクリアしているからです。

 これは、米国政府の輸出規制が、単にチップの絶対的な性能(TFLOPS)だけでなく、「Performance per Watt(ワットあたりの性能)」「インターコネクト(チップ間通信速度)」 など、複数の指標に基づいて複雑に設定されているためです。

1. 輸出規制の基準を「超えない」設計

 エヌビディアは、B30Aを設計するにあたり、以下の点を慎重に調整していると報じられています。

  • 演算能力のバランス: B30Aは最新のBlackwellアーキテクチャを採用していますが、米国向けの主力製品であるB300が2つのダイ(チップの核)を組み合わせるデュアルダイ設計であるのに対し、B30Aはシングルダイ設計を採用することで、全体の演算能力を意図的に抑えています。これにより、性能はH20より向上しつつも、規制基準の閾値内に収まるように設計されています。
  • インターコネクト(NVLink)の調整: 複数のチップを接続する際の通信速度も規制の対象です。H20はNVLinkの通信速度を制限することで規制をクリアしています。B30Aも、NVLinkの速度やポート数を調整することで、規制基準の範囲内に収まるように設計されていると考えられます。

2. 米国政府との「協力」

 エヌビディアは、輸出規制について米国政府と緊密に連携しながら製品開発を進めていると述べています。これは、単に技術的な基準を満たすだけでなく、政府の意向を汲み取った上で、製品の輸出許可を得るための戦略的な動きです。

 報道によると、米国政府は、中国へのAI技術流出を厳しく管理する一方で、完全に市場を遮断するのではなく、ある程度の性能を持つAIチップの輸出を容認する姿勢を示しているとされています。B30Aは、この「容認される範囲内」の性能を最大限に追求した結果生まれたチップと言えます。

B30Aが輸出規制の対象にならないと期待されるのは、単に性能がH20より高いからではなく、米国政府が定める複雑な輸出規制の基準を、最新のアーキテクチャを活用しつつ、巧妙にクリアするように設計されているためです。

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