この記事で分かること
- 消化の方法:水の浸透性が高め、水が燃焼物の内部まで素早く染み込み、効率的に熱を奪っています。これにより、表面だけでなく内部から冷却することで火の勢いを抑え、再燃を防いでいます。
- 浸透性を上げる方法:水の浸透性を高めるために、界面活性剤が使用されています。
日本ドライケミカルの水の4倍の消火性能を持つ薬剤
日本ドライケミカルは水の4倍の消火性能を持つ薬剤、「GreenWet(グリーンウェット)」の開発を行っています。
https://www.ndc-group.co.jp/greenwet/
焼物への浸透性と濡れ性を大幅に向上させ、水の4倍の消火能力を発揮し、消火に必要な水量を減らせるだけでなく、有機フッ素化合物を含まないなど環境にも配慮した製品となっています。
浸透性の増加で消火しやすくなる理由は
水の浸透性を高めると、消火効果が大幅に向上します。これは、水の主な消火作用である「冷却効果」と「窒息効果」を最大限に引き出すためです。
冷却効果の向上
火災は、物質が加熱されて燃焼ガスを放出し、それが発火点に達することで起こります。水をかけると、その熱を奪って温度を下げ、燃焼を止めることができます。これを冷却効果といいます。
- 表面張力の低下: 通常、水は表面張力が高いため、燃えている木材や布の表面で水滴になってしまい、内部まで浸み込みにくいです。
- 浸透性向上: 薬剤を混ぜて表面張力を下げると、水が燃焼物の奥深くへと素早く浸透します。これにより、火のついた物質の内部まで効率的に熱を奪い、燃焼を止めることができます。
- 再燃防止: 物質の奥深くの温度も下がるため、表面の火を消した後も再燃しにくくなります。
窒息効果の補助
火災には酸素が必要です。水が熱で蒸発すると、体積が約1700倍に膨張します。この水蒸気は燃焼している部分を覆い、空気(酸素)の供給を遮断する「窒息効果」も生み出します。
- 効率的な蒸発: 浸透性が高まると、水が火元の物質により広く接触し、熱を効率的に吸収します。その結果、水蒸気が大量に発生し、より高い窒息効果が期待できます。
つまり、浸透性が高まることで、水が「燃焼している物体全体」を素早く冷却し、同時に発生する大量の水蒸気で酸素を遮断するため、少ない水量で迅速かつ確実に消火できるようになるのです。

水の浸透性が高まると、水が燃焼物の内部まで素早く染み込み、効率的に熱を奪います。これにより、表面だけでなく内部から冷却することで火の勢いを抑え、再燃を防ぎます。
どのように浸透性をあげているのか
水の浸透性を高めるために、界面活性剤が使用されています。
界面活性剤の働き
水には、分子同士が強く引き合う「表面張力」という性質があります。この力によって水は玉になりやすく、木材や布のような燃焼物の表面で弾かれてしまい、内部に浸透しにくくなります。
界面活性剤は、この表面張力を著しく低下させる働きを持っています。界面活性剤の分子は、水になじむ「親水基」と、水になじまない「疎水基」を持っています。水に溶かすと、疎水基を空気側に向けて水の表面に並び、水分子同士の引き合う力を弱めます。
これにより、水滴が玉にならずに広がりやすくなり、燃焼物の繊維の隙間にまで水が素早く浸透するようになります。
有機フッ素化合物は消火剤でどんな役割を持つのか
有機フッ素化合物は、泡消火剤の界面活性剤として使われ、特に油火災に対して高い消火能力を発揮する役割を持っています。
主な役割:界面活性作用
有機フッ素化合物(PFAS)は、水と油のどちらにもなじみにくいという特殊な性質を持っています。これにより、水と泡が燃えている油の表面を覆う際に、油の上に薄い膜(水成膜)を形成する役割を果たします。
- 水成膜の形成: 水成膜は、油の上に広がり、油蒸気の発生を抑制するとともに、油面を冷却します。これにより、油火災に非常に効果的な消火作用を発揮します。
- 泡の安定性: また、泡消火剤として使用される際には、泡の表面張力を下げることで、泡をより安定させ、燃焼物全体を覆う能力を高めます。
これらの特性から、有機フッ素化合物は、石油コンビナートや航空機の格納庫など、特殊な油火災に対応する泡消火剤に広く使われてきました。しかし、難分解性で環境中に長く残留し、生体への蓄積性も指摘されているため、近年は使用が規制され、フッ素を含まない代替薬剤への切り替えが進んでいます。

有機フッ素化合物は、泡消火剤の界面活性剤として、特に油火災の消火に重要な役割を果たしてきました。燃焼している油の表面に広がり、熱や酸素を遮断する水成膜を形成することで、油火災を効果的に抑え込むことができます。
有機フッ素化合物はなぜ水にも油にもなじみにくいのか
有機フッ素化合物が水にも油にもなじみにくいのは、その特異な分子構造と結合の強さによるものです。
1. 炭素とフッ素の強固な結合
有機フッ素化合物は、炭素鎖に水素ではなくフッ素が結合しています。この炭素-フッ素(C-F)結合は、化学結合の中でも特に強く、安定しています。 フッ素原子はすべての元素の中で最も電気陰性度が高く、結合している炭素から電子を強く引き寄せます。
これにより、C-F結合は極めて安定し、分子全体が電気的に中性で、外部からの分子間相互作用を受けにくくなります。
2. 分子間相互作用の弱さ
水分子は強い極性を持つため、お互いに強く引き合います(水素結合)。一方、油の分子は極性が弱いですが、分子同士が弱い力で引き合います。
有機フッ素化合物は、C-F結合が強固で電気的にも安定しているため、分子自体の極性が非常に小さく、他の分子と引き合う力が弱いです。こ
の「分子同士が引き合う力の弱さ」こそが、撥水・撥油性の根本的な理由です。
- 水との関係: 表面張力の高い水は、分子同士が強く引き合うため、より丸い球体になろうとします。水が有機フッ素化合物の上に落ちると、水分子同士が引き合う力の方が、有機フッ素化合物と水が引き合う力よりもはるかに強いため、水は弾かれて球状になります(撥水性)。
- 油との関係: 同様に、有機フッ素化合物は油分子ともほとんど相互作用しないため、油もはじかれます(撥油性)。
つまり、有機フッ素化合物は、分子自体が非常に安定しているため、水や油を含む他の分子と積極的に「なじもう」としないのです。

有機フッ素化合物は、炭素とフッ素の強固な結合により、分子が非常に安定しており、他の分子との相互作用が弱いためです。これにより、水や油の分子と引き合う力が弱く、お互いをはじき合う性質(撥水・撥油性)を示します。
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