JOINT3でのAGCの役割 ガラスキャリアとは何か?要求される性能は?

この記事で分かること

  • AGCの役割:革新的なガラスキャリアをJOINT3に提供することで、次世代半導体パッケージング材料の開発に貢献します。
  • ガラスキャリアとは:薄く柔軟な有機材料を安定させるための一時的な支持基板です。これを使うことで、高温での歪みを防ぎ、大面積かつ高精度な回路形成を可能にします。
  • パネルレベル有機インターポーザーでのガラスキャリアに求められるもの:製造工程での歪みを防ぐための超高平坦性と、半導体チップに近い低い熱膨張係数(CTE)が不可欠です。これにより、高精度な回路形成と歩留まりの向上を実現します。

JOINT3でのAGCの役割

 レゾナックや東京エレクトロンなど国内外の27社が、AI半導体向け新基板開発を目的としたコンソーシアム「JOINT3」を設立しました。この取り組みは、AIや自動運転といった次世代半導体の性能向上に不可欠な、後工程の技術開発を加速させることを目指しています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC215BA0R20C25A8000000/

 AI半導体は、膨大なデータを高速で処理するため、複数のチップを一つのパッケージにまとめて実装する2.5Dパッケージチップレットと呼ばれる技術が主流になりつつあります。この技術において、チップ同士をつなぐ役割を果たすのがインターポーザーです。

 今回は参加企業の一つであるAGCに関する記事となります。

AGCはどんな企業か

 AGCは、ガラスを中核に、電子、化学品、ライフサイエンスなどの分野で事業を展開する、世界最大級の総合素材メーカーです。かつては「旭硝子」という社名でしたが、2018年に現在の「AGC」に変更しました。

 AGCは、創業以来培ってきた無機・有機材料の技術を活かし、革新的なガラスキャリアをJOINT3に提供することで、次世代半導体パッケージング材料の開発に貢献します。


主力事業

 AGCの事業は、主に以下の4つのセグメントで構成されています。

  • ガラス事業
    • 建築用ガラス: 窓ガラス、防火ガラス、断熱・遮熱ガラスなど。
    • 自動車用ガラス: 合わせガラス、強化ガラス、ディスプレイ用カバーガラスなど。
    • ディスプレイ用ガラス: テレビやPC、スマートフォンなどに使われる液晶・有機EL用ガラス基板など。
  • 電子事業
    • 半導体製造に不可欠なEUV露光用フォトマスクブランクスや、5G通信向けガラスアンテナなどのエレクトロニクス関連素材を扱っています。
  • 化学品事業
    • 苛性ソーダや塩化ビニル樹脂といった基礎化学品から、フッ素化学品まで幅広く手掛けています。
  • ライフサイエンス事業
    • バイオ医薬品や農薬原薬などの受託製造(CDMO)を行っています。

企業の特徴

  • 技術力と多様な事業ポートフォリオ: 創業以来培ってきたガラス技術に加え、化学品やライフサイエンスといった成長分野にも事業を拡大し、収益基盤を強化しています。
  • グローバル展開: 世界30以上の国と地域に拠点を持ち、連結売上高の約7割を海外が占めるグローバル企業です。
  • 素材メーカーとしての社会貢献: AGCは、建築物の省エネ化に貢献する高機能ガラスや、医薬品製造を支えるライフサイエンス事業など、独自の素材とソリューションで社会の課題解決に貢献しています。

AGCは、ガラスを中核に、電子、化学品、ライフサイエンスなどの分野で事業を展開する世界最大級の総合素材メーカーです。かつての旭硝子株式会社で、独自の素材技術で社会課題の解決に貢献しています。

ガラスキャリアとは何か

 パネルレベル有機インターポーザーにおけるガラスキャリアとは、薄く柔軟な有機インターポーザーを製造する際に、一時的な支持基板として使用される特殊なガラス板のことです。


ガラスキャリアの役割

パネルレベル有機インターポーザーは、その材料の特性上、大面積で製造する際に反りや歪みが発生しやすいという課題があります。そこで、以下の目的でガラスキャリアが使用されます。

  1. プロセスの安定化: 有機インターポーザーをガラスキャリアに貼り付けて加工することで、熱や圧力による変形を防ぎ、精密な回路形成を可能にします。
  2. 熱膨張の抑制: ガラスは熱膨張係数が非常に小さいため、製造プロセス中の高温でもインターポーザーの寸法変化を最小限に抑えます。これにより、半導体チップとインターポーザーの接続精度を高め、歩留まりを向上させます。
  3. 大面積製造(パネルレベル)の実現: 従来の円形ウェハーではなく、より大きなパネルサイズで効率的に製造することを可能にします。

 加工が完了した後、ガラスキャリアは有機インターポーザーから剥がされ、再利用されます。これにより、最終的な製品は薄く、かつ高精度な状態で完成します。

パネルレベル有機インターポーザー製造で、薄く柔軟な有機材料を安定させるための一時的な支持基板です。これを使うことで、高温での歪みを防ぎ、大面積かつ高精度な回路形成を可能にします。

ガラスキャリアはどのように製造されるのか

 ガラスキャリアの製造には、一般的なガラス製造技術に加え、半導体製造プロセスに不可欠な極めて高い精度が求められます。特に重要なのは、ガラスの組成、平坦度、厚み、そして表面処理です。

1. ガラス材料の選定

 ガラスキャリアの製造は、まず適切なガラス材料を選定することから始まります。半導体チップや有機インターポーザーと熱膨張係数(CTE)を合わせるため、ホウケイ酸ガラスやアルミノホウケイ酸ガラスといった特殊な組成のガラスが使用されます。

2. 溶融と成形

 選定したガラス原料を高温で溶融し、ガラス板を成形します。この段階で、不純物を徹底的に排除し、ガラスの均一性を確保することが品質の鍵となります。パネルレベルパッケージングでは、大面積のガラス板を均一に成形する技術が不可欠です。

3. 精密研磨と洗浄

 成形されたガラス板は、数十ナノメートルレベルの超高平坦度を実現するために、両面を精密に研磨されます。

 この工程では、微細な傷や欠陥も許容されず、高度な研磨技術と管理が必要です。その後、製造プロセスに影響を与える微小な粒子や汚れを除去するため、徹底的な洗浄が行われます。

4. 表面処理と特殊加工

 用途によっては、剥離性を高めるための特殊なコーティングが施されたり、ガラスインターポーザーとして使用するために、レーザーやウェットエッチングによって微細な貫通孔(Through Glass Vias: TGV)が形成されたりします。

 これらの高度な製造プロセスを通じて、AGCのような素材メーカーは、次世代半導体パッケージングに不可欠な高品質なガラスキャリアを供給しています。

ガラスキャリアは、まず特殊なガラスを溶かし、成形します。次に、半導体製造に不可欠な超高平坦度を実現するため、両面を精密に研磨・洗浄します。最後に、用途に応じて表面処理や微細な穴を開ける加工が施されます。

AGC以外のガラスキャリアの有力メーカーはどこか

 AGCはガラスキャリアの有力メーカーの一つですが、他にも複数の企業がこの分野で重要な役割を担っています。

主な企業は以下の通りです。

  • Corning (コーニング)
    • 世界最大手のガラスメーカーで、特にディスプレイ用ガラスや半導体関連の特殊ガラスで高い技術力を持っています。AGCと同様に、優れた平坦性と熱特性を持つガラスキャリアを供給しています。
  • 日本電気硝子 (NEG)
    • 特殊ガラス専業メーカーであり、ディスプレイ用ガラス基板で世界トップクラスのシェアを誇ります。半導体向けにも、高い寸法精度と熱特性を持つガラスキャリアを提供しています。
  • SCHOTT (ショット)
    • ドイツの特殊ガラスメーカーで、半導体だけでなく、光学、医薬品など幅広い分野に製品を供給しています。多様な熱膨張係数(CTE)を持つガラスキャリアを提供し、顧客の多様なニーズに対応しています。
  • 三井金属鉱業
    • 非鉄金属メーカーですが、次世代半導体チップ実装用特殊ガラスキャリア「HRDP®」を開発・量産しています。独自の技術で、剥離性に優れたキャリアを提供している点が特徴です。

 これらの企業は、それぞれ独自の技術や強みを生かし、高性能なガラスキャリアを供給することで、進化する半導体パッケージング市場を支えています。

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