この記事で分かること
- JDIとは:ソニー、東芝、日立製作所の液晶パネル事業を統合して2012年に設立された日本のディスプレイメーカーです。
- 液晶パネル事業を統合した理由:個別の投資による非効率を解消し、日本の技術を結集して、世界市場で戦える大規模な企業を官民ファンド主導で設立することが目的でした。
- 業績不振の理由:JDIの業績不振は、スマートフォン向けパネル市場の競争激化と、技術の潮流が液晶から有機ELへと移行したことが主な原因です。この変化に乗り遅れた結果、主力製品の需要が急減し、慢性的な赤字に陥りました。
ジャパンディスプレイの希望退職応募
ジャパンディスプレイ(JDI)は、経営合理化の一環として国内で募集した希望退職に1483人が応募したと発表しました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/a3e73f7c85d24d3ab553195c1f976028a3a2e70f
これは2025年3月末時点の国内従業員2639人の半数を超える規模であり、自己都合退職なども含めると、最終的な国内の人員は1000人程度になる見通しです。
JDIは、2012年に日立製作所、東芝、ソニーの中小型液晶パネル事業を統合して発足しましたが、近年はスマートフォン向けパネル市場で、より消費電力の少ない有機ELへの切り替えが進んだことなどにより、業績不振が続いていました。
JDIはどんな企業か
ジャパンディスプレイ(JDI)は、日本の液晶ディスプレイメーカーです。
設立と背景
2012年、経営再建中のソニー、東芝、日立製作所の3社の中小型液晶パネル事業を統合し、官民ファンドである産業革新機構(現:INCJ)の主導で設立されました。当時の日本の電機メーカーの技術を結集し、中小型液晶パネル市場で韓国や台湾のメーカーに対抗することを目指しました。
主な事業内容
設立当初はスマートフォン向けの中小型液晶パネルが主力でしたが、近年は市場の変化に対応するため、事業領域を拡大しています。
- 自動車向けディスプレイ: 車載用ディスプレイが主力製品の一つです。
- 産業・医療向けディスプレイ: 医療用モニターや産業機器向けのディスプレイも手掛けています。
- 新技術・新製品: メタバース(超高精細ディスプレイ)や透明インターフェイス、光学式薄型イメージセンサーなど、新たな技術開発にも取り組んでいます。
経営状況
設立当初は高い技術力を背景に一定の成果を上げましたが、スマートフォン市場でより薄く、消費電力が少ない有機ELパネルへの移行が進んだことで、業績不振が続いています。
- 継続的な赤字: 長年にわたって赤字が続いており、債務超過に陥ったこともあります。
- 構造改革: 経営再建のため、工場の売却や人員削減などの大規模な構造改革を繰り返しています。
- 主力製品の変化: スマートフォン向けパネル事業の縮小に伴い、車載用や産業用、さらには新しい技術分野へと事業の軸足を移すことで、経営の立て直しを図っています。
今回の希望退職者募集も、こうした経営合理化の一環として行われたものです。

ジャパンディスプレイ(JDI)は、ソニー、東芝、日立製作所の液晶パネル事業を統合して2012年に設立された日本のディスプレイメーカーです。スマートフォン向け液晶パネルを中心に事業を展開していましたが、現在は車載用や産業用など、新たな分野に軸足を移しています。しかし、長年の業績不振から大規模な人員削減などの構造改革を繰り返しています。
小型液晶パネル事業を統合した理由は何か
日立製作所、東芝、ソニーの中小型液晶パネル事業が統合された主な理由は、韓国・台湾企業に対抗するために、日本の技術を結集して国際競争力を高めることにありました。当時、各社が個別に事業を展開していたため、投資効率が悪く、競争力も低下しつつありました。
競争力強化
2000年代後半から、韓国のサムスンやLG、そして台湾のメーカーが中小型液晶パネル市場で急速に台頭し、日本のメーカーは価格競争で劣勢に立たされていました。そこで、日本の技術を結集し、大規模な投資と効率的な生産体制を構築することで、グローバルな競争力を取り戻すことが目的でした。
官民ファンドによる主導
この統合は、政府が設立した官民ファンドである産業革新機構(現:INCJ)が主導しました。同機構が日立、ソニー、東芝の液晶パネル事業を買い取り、一つの新会社として統合することで、日本のディスプレイ産業を再編し、次世代の国富を担う産業を育成する狙いがありました。統合後の新会社がジャパンディスプレイ(JDI)です。
投資効率の改善
各社が個別に研究開発や工場投資を行っていたため、リソースが分散し、非効率でした。事業を統合することで、重複投資を避け、効率的に巨額の投資を行い、技術開発を加速させることを目指しました。

韓国・台湾企業への対抗と国際競争力強化のため、日立、東芝、ソニーの液晶パネル事業が統合されました。個別の投資による非効率を解消し、日本の技術を結集して、世界市場で戦える大規模な企業を官民ファンド主導で設立することが目的でした。
有機ELパネルへ移行できなかった理由は何か
JDIが有機ELパネルへの本格的な移行に遅れた理由は、主に以下の3点に集約されます。
1. 巨額な投資資金の不足
有機ELパネルの量産には、液晶パネルとは異なる設備が必要であり、莫大な初期投資が求められます。JDIは設立以来、継続的な赤字に苦しみ、十分な投資資金を確保できませんでした。最大の顧客であるAppleがiPhoneのディスプレイを有機ELに切り替え始めた際、JDIは投資を断念せざるを得ず、市場の変化に追随できませんでした。
2. 技術開発の遅れと戦略の迷走
JDIは、当初は液晶技術の改良に注力し、有機ELへの本格的なシフトが遅れました。また、有機ELの量産技術についても、他社(特に韓国のサムスンやLG)が先行しており、技術的なキャッチアップが困難でした。
- JOLEDとの関係: JDIは、ソニーやパナソニックの有機EL部門と統合したJOLEDに一時出資していましたが、経営再建策の一環で関係を整理しました。これにより、グループとしての有機EL技術開発体制が弱まりました。
- 独自の有機EL技術「eLEAP」: JDIは独自の有機EL技術「eLEAP」を開発し、量産を目指していますが、これも計画通りには進んでいません。2024年12月には、量産開始時期を2025年3月に延期することが発表されました。
3. 主力顧客への依存と市場の変化
JDIは、長年にわたりAppleのiPhone向け液晶パネルに大きく依存していました。しかし、Appleが有機ELを採用する方針に転換したことで、JDIの主力事業は大きな打撃を受けました。この「Apple依存」からの脱却が遅れ、新しい技術への投資のタイミングを逸したことも、移行が遅れた大きな要因です。
これらの要因が複合的に絡み合い、JDIは有機ELパネル市場の主流に乗ることができず、現在の苦境に陥ることになりました。

JDIが有機ELへ移行できなかった主な理由は、巨額な投資資金の不足です。長年の赤字経営により、莫大な設備投資が求められる有機ELの量産ラインを構築できませんでした。また、主要顧客が有機ELに切り替える中で、技術開発の遅れも響きました。
JDIの今後の予測は
JDIの今後の見通しは、経営再建と新たな事業への転換が鍵となります。
1. 構造改革の推進
JDIは、継続的な赤字を脱却するため、大規模な構造改革を進めています。今回の希望退職者募集もその一環であり、人件費の大幅な削減を目指しています。
また、収益性の低いスマートフォン向け液晶事業を戦略的に縮小し、車載事業を子会社化するなど、事業ポートフォリオの再構築を急ピッチで進めています。
2. 新事業への転換
これまでのディスプレイ専業メーカーから脱却し、新たな収益の柱を確立することを目指しています。
- 独自有機EL技術「eLEAP」の量産: JDIは、従来の有機ELに比べて長寿命で高輝度な独自の技術「eLEAP」を開発しています。当初の計画より遅れは出ているものの、2025年3月からの量産開始を目指しており、これが成功すれば、新たな市場を開拓できる可能性があります。
- 半導体パッケージング事業: ディスプレイ製造で培った技術を応用し、先端半導体パッケージング市場への参入も計画しています。
- 非ディスプレイ事業の強化: センサーやヘルスケア、ロボティクスといった非ディスプレイ分野での事業も拡大し、収益源の多様化を図っています。
3. 財務基盤の改善
長年の赤字により財務状況は厳しく、債務超過に陥っています。しかし、保有する工場の売却や、主要株主からの資金調達など、財務健全性の回復に向けた取り組みも進められています。
今後の課題とリスク
- 「eLEAP」の量産化: 計画通りに量産が開始され、製品が市場で受け入れられるかが最大の焦点です。競合他社も有機EL技術の開発を進めており、市場での競争は激化しています。
- 新たな事業の収益化: 半導体パッケージングなどの新規事業が、どれだけ早く収益に貢献できるかが重要です。
- 人材の確保: 希望退職者募集によって人員が大幅に削減される中、新技術の開発や量産を担う人材をいかに確保・育成するかも課題となります。
JDIは、ディスプレイメーカーから「BEYOND DISPLAY(ディスプレイの先へ)」を掲げる企業への転換を図っており、この変革が成功するかどうかが、今後の予測を左右すると言えます。

JDIは、大規模な人員削減を含む構造改革を断行し、経営再建を図っています。今後は、独自開発した有機EL技術「eLEAP」の量産化を最大の目標とし、車載用や非ディスプレイ事業にも軸足を移し、収益源の多様化を進める見込みです。これが成功すれば、経営再建の道が開ける可能性があります。
どんな技術が先端半導体パッケージング市場に応用できるのか
JDIがディスプレイ製造で培った技術で先端半導体パッケージング市場に応用できるのは、主に高精細な配線技術とガラス基板やセラミック基板を扱う技術です。
1. 高精細な配線技術
JDIは、高精細な液晶ディスプレイの製造で培った微細加工技術を、半導体パッケージにおける「RDL(Re-Distribution Layer)」と呼ばれる高密度配線の形成に応用しています。
これにより、配線の幅や間隔を数ミクロンレベルまで微細化でき、半導体チップの高集積化や消費電力・発熱の問題を解決するのに役立ちます。
2. ガラス・セラミック基板の加工技術
ディスプレイ製造では、大型のガラス基板を高い精度で加工する技術が不可欠です。JDIは、この技術を活かし、ガラスやセラミックを半導体パッケージの基板として利用する技術を開発しています。
特に、熱膨張率がシリコンに近いセラミック基板を使うことで、半導体チップとの熱膨張差によるストレスを抑制し、信頼性の高いパッケージングを実現できます。
これらの技術は、生成AIやHPC(高性能コンピューティング)など、高集積化と高性能化が求められる分野で特に重要視されており、JDIは新たな事業の柱としてこの市場への参入を目指しています。

JDIは、ディスプレイ製造で培った微細配線技術を半導体パッケージングに応用します。液晶パネルで培った高精度なフォトリソグラフィ技術により、半導体チップを接続するRDL(再配線層)の微細化を実現。これにより、高集積なチップレットなどを組み合わせる先端半導体製造に対応できます。
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